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四十三譚 HoLE

 殴られた彼は水の中に倒れ込む。

 偉は真剣な目で彼を見ていた。

「すまないな。柄にもなく熱くなってしまった」

 天井から落ちる雨粒が音を鳴らして落ちてゆく。

「大義名分があるから許されるとは思わないし、俺はその考えは良くないとも思っている。アンタにも表の仕事─喫茶店─やらせれば良かったな。そうすればきっと己の間違いに気づけれたかもな」

 彼は木漏れ日のさす森の中のように変わり果てた静かな建物の中で一人物思いに耽る。それはホーレが出来上がる頃の話。



 彼は自分が公安になるなど想像もしていなかった。

 全ての始まりは黒の誘いから始まった。

「警察学校で一目置いてたんだ。この仕事は君が適任だと思っている。やってくれないか」

 黒崎黒は公安であり、公安は公安でもその長であった。いわゆる裏理事官である。彼は職務上、魔力石のこともマスクのことも耳にしていた。そして、これからマスクのことで日本を揺るがす危機が訪れると予感していた。

 彼は長を終えた。そして、警視総監への道が開かれていたはずだった。が、彼はその道へとは進まなかった。自らの提案で公安の道を選んだのだ。

 マスクの所持者に対する観察などを実行するために動き、その際に偉も誘われた。

 当時、マスクは海外から溢れ出ていった。そこで二人は海外の人も来やすい喫茶店を開くことにし、海外の情報を掴むことにした。そこでできたのが異文化喫茶ホーレである。

 店員として黒は中卒である椎奈を働かせ何とか店を回していく。警察とは思えない商才で経営は非常に良好。かつ、マスクの情報も良く入ってきた。

 イギリスでマスクが発生している。イギリスで密かにマスクの噂が広まっていた。それが日本に普及するのははやいと勘が働いた。

「それは秘密裏に入手したものだ。お前さんがつけるといい」

 偉は火炎の異能を手に入れた。

 マスクによるトラブルが起きていく。炎の力で被害を最小限に抑えていった。

 一年が経ちレイと澪の二つの顔を持つ二人三脚の男が入ってきた。

 四人で店を経営している中で、仮面の存在に気づいていく。どことない悪意に気づいていたが、彼らの尻尾を掴むことはできなかった。

 ある日ある街でゲリラ豪雨が頻発する災害に見舞われた。その災害で死んだ人もいる。それ止まりのニュース。だが、彼らはその災害の理由に気づき、その災害を止めるべく動いた。

 雨を降らせた正体と全力で戦う。殺す気で行くが殺す訳では無い。そんな絶妙な(さじ)加減で攻めていくが偉は負けてしまった。初めての敗北であった。

 あの日から仮面の彼奴は本格的に動き出す。彼の悪意に巻き込まれ、本格的にホーレは精々なる戦いを強いられていく。一方で、増えていく仲間。雨を降らす奈路を皮切りにホーレは賑やかになっていった。



 幾つもの事件を乗り越えてきた。

 ホーレは裏では様々な思い出を刻んでいた。


「ホーレは裏の仕事それだけではない。表の仕事にも意義がある。海外からの情報収集に適するために異文化喫茶にしたが、それ以外にもいいことがある。だけど、アンタは触れることはなかった」


 そして、表でも数々の思い出と幸せを刻んでいた。


「異文化喫茶では国も文化も違う人が多くやってくる。考え方なんてそれぞれだ。日本の常識すら通用しないこともある。日本にいたら気づかないだろうけど、それが当たり前だった」

 異文化喫茶。それは違う文化が混ざり合うところ。

「何が正しくて何が悪いのか。正義と悪も国や文化が違えば百八十度違ってくる。いいや、正義と悪の違いは当然国や文化に関わらず、個人個人に違っていたことを見落としていただけだと気づかせてくれる」

 正義。

「正義とは何だ。ここでは日本の正義、つまり憲法や法律などに反していないか、学校で教えられる一律とした道徳(モラル)にそぐなうか、それとも周りの集団の掲げるルールか。人は生まれた環境や育った環境で正義も出来上がる。みんな少しは正しいと思うものや悪いと思うことに誤差、違いがあるんだ。だが、社会を成り立たせるために正義を押し付けて社会を回している」

 悪。

「さらには、人は愚かにも集団の中で正義の多数決を取る。そうやって自分は正しいんだと知らず知らずのうちに正当化していく。こうして勘違いした人間はその正義を振りかざし悪を成敗しようとする。まさにアンタのようにな」

「私は警察です。勘違いじゃない芯のある正義を持ってます」

「正義なんて人それぞれだ。押し付けがましい正義でヒーローにでもなったと勘違いする。だがな、本当に成敗したのは悪なのか。当人にはそやつは悪でも他の人には悪じゃなかったらどうする。俺は今のアンタをこう見てる。悪だと思われる犯人を身勝手な正義で……悪に似つかわしい方法で断罪する」

 正義と悪。

「正義が自分を正当化させ悪に変わっていたとしても気づかせない。それが傍から見て悪と見えていたとしても勘違い正義でヒーローごっこをする。俺にはな、アンタのことがヒーローごっこをしてる悪人にしか見えないな」

「私が悪だと言うのか」

「ああ。アンタは悪だと思うよ。それに気づけなければアンタはさらに(どぶ)(はま)る。いい加減もう気づけよ」

 怒りなどは入っていない単なる冷たさ。

 偉は視線を戻し、別のところに向けた。

「だから正義と悪は好きになれないんだ。その価値観だと勘違いヒーローごっこになりかねない。アンタには異文化喫茶で正義の違いを知って、勘違いに気づいて欲しかったんだがな……」

 冷たい視線を残して彼は去りゆく。

 最後に言葉を残した。


「俺は(つくづく)思う。正義や悪で物事を考える奴よりも何か大切なものを守る奴の方が余っ程正義だってな。この言葉、アンタにも理解できると良いな」


 彼はその場を後にした。

 正義や悪のためにではない。愛する人を大切な人を最愛の日本を守るために。彼は他の仲間達の元へと向かうためホーレへと向かった。

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