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四十譚 四天王戦 雷

 学校での恐怖の鬼ごっこが始まった。

 愛溜は囮となってオメメ=デンゲキの気を引き付けていた。二人から離しながら、視界が途切れる所ですぐさま教室の中に入り隠れていた。

 教卓の下で敵をやり過ごそうとする。

 廊下から足音がしていく。

 息を殺してやり過ごそうとする。心臓の音が教室中に響いていった。

 気づかれないようにやり過ごして、気づかれないように背後へた行き首をかっ切り殺す。敵がどこにいるのか確認しようと顔を出そうとした瞬間教卓に触れてしまう。

 一瞬のゴトッという音も聞き逃さず雷撃が窓のガラスを全て破壊した。何とか彼女には攻撃が当たらなかった。教卓から出て窓側へとジワジワと追い詰められていく。

「「〇走中」ならもうハンターに捕まってるね。けど、これは「〇走中」じゃないんだよねー」

 窓から外へと飛び出していく。

 すぐに彼女に蔓が巻かれ持ち上げられていく。

 そのまま上の教室に移動した。

「ありがとう。とりあえず近づくことすら無理そうだった」

 下から上に突き上げる雷撃を加えたアッパー。オメメが下から突き上げてきた。

「うわっ、マジかよ。常識が通じねぇ」

 蔓を教室一面に張り巡らされる。

 蔓が教室の物を見境なく掴み始める。机。黒板、椅子。黒板。そして、持ち上げられる。

十五(フィフティーン) : 混沌(こんとん)(ラスト)色彩(コントラスト)

 幾つもの蔓が彼女に物を打ち付ける。

 滅多打ちの中、彼女の周りから広がっていく雷撃が蔓を消し去り、物を木っ端微塵にしていく。

 蔓は床を切り離して壁となった。

三十(サーティーン) : 巨壁(ウォール)直堅(ストレート)

 壁が電気を防いだ。その間に彼らは逃げていく。

 オメメは両腕を真っ直ぐ伸ばし、壁を撃ち抜く程の衝撃波が放たれた。その超電磁砲による攻撃は幾つかの教室を貫通した。既に逃げていたため当たることはないが、もしそこに居続ければ彼らは死んでいた。

 逃げている姿が確認され再び追われていく。

 鋭い閃光が真っ直ぐ飛びゆき、それを避けながら階段へと向かった。階段の上を登っていく。雷もまた登っていく。

 階段を進んだ先は鍵が閉まっていて行き止まりだったが、蔓の力でこじ開ける。先行していた小林とも合流し、三人は屋上へとやってきていた。

 ジリジリと追い詰められ、下を除けば地面が見える。

 黒い雲の下、不気味な風が吹き荒れる。

「………………………………終わり」

 雷撃が放たれる。それから守るように蔓が壁となるが簡単に粉々になっていく。

 蔓による中距離攻撃。

 雷撃をまとうバリアが全てを粉々にする。

「バリアか。これは近寄れないね」

「僕に任せて。これならどうだ」

 床から飛び出した蔓がオメメに直撃した。するとバリアも消えた。

 その隙を狙ってナイフで切り裂かれる。が、彼女の肉の壁が硬く上手く切れなかった。すぐに撤収し距離を置いた。

「あの体に刃物通らないみたい」

 愛溜には彼女を斃すことはできなかった。小林も何もできない。この勝負、全ては翔にかかっている。そのことを感じた彼は責任を強く感じていく。

「全ては僕次第なんだ」

 蔓を体に絡ませていく。鋭い蔓のグローブで彼女を殴りにいった。

互角(ドゥース) : 植物(しょく)戦闘(せん)騎士()

「弱い」

 攻撃は効かず、逆に雷撃を纏う衝撃に吹き飛ばされていく。

 超電磁砲が放たれた。精一杯の蔓で守られたがその衝撃は翔に強く響いていった。

 飛ばされた先は屋上の隅っこ。立ち上がるがフラフラしている。足を踏み外せば真っ逆さまだ。何とか歯を食いしばるが、もう限界を迎えていた。

 マスクの力で人間以上の生命力を持ってももう命の灯火は消え始めていた。

「やばい。僕が最後、こいつを足止めするから今のうちに逃げて。遺言伝えるのお願いしてもいいかな。家族にさ、今までありがとうって、そして奈路のことが好きだよって」

 動かない足を無理やり動かして前へと移動していく。

 血反吐を吐きながらも根性で立ち敵を見定めている。

 死を前に、彼の決意が周囲に広がっていく。

「これで終わり」

 雷撃を纏う腕。オメメは翔に向かっていき、その雷撃で胸を穿つことを考えていた。

 翔は死を覚悟し目を瞑った。

 ベタなシチュエーションだが翔は横から突き飛ばされた。代わりに、小林ヤコが彼のいた場所に立った。

 胸から少し外れてはいるものの、腕が体を貫通していた。

 血が滴り落ちていく。

「何言ってんの。死なせないよ。私も遺言お願いね。アンタと同じく家族と奈路に、今までありがとうって」

 彼女は太い腕をきっちりとホールドし掴み続けている。

「遺言で告白なんて残酷だよ。考えてみてよ。絶対に実らない恋を抱かされる姿をさ。生きて伝えなきゃ、生きて告白しなきゃ」

 そのまま後ろに重心をかけて落下しにいく。それに連れて、オメメも落ちていく。

「応援してるよ。付き合えるといいね」

 二人は屋上から真っ逆さまに落ちていった。



 彼女は落ちていく中で誰にも聞こえない念じで独り言を呟いていく。

「実は私、翔のことが好きだったんだ。はやく告白してれば良かったなー。けど、翔が奈路のことを好きだってこと薄々分かってたし、きっとふられてたんだって勝手に思ってた。諦めて他の人を好きになってもやっぱり未練がましくて上手くいかなくて、やっぱり翔しか好きになれないことが分かった。もっと早くに告れば、あの時諦めずに好きでい続ければ良かったな」

 そして、落ちゆく中で未練の渦が襲いかかる。

「遺言で告白されてもさ、告白された側がその人を愛そうとしてももうこの世にはその人はいないんだよ。だから、残された人は生きている間ずっと死んだその人のことを抱えさせられる。こんな無責任なことないよね」

 落下のスピードははやいはずなのに彼女には遅く感じていた。

「でも、無責任でもいいから、私も最後の最後に告白したかったなー。私は翔のことが好きって。けど無理だった。だから、私は翔の幸せを一番に願うことにするよ。翔と奈路が幸せに結ばれるように」

 蝋燭の灯火が二つ。床へと落ちた瞬間にふっと消えた。

 赤く揺らめく火は液体となって地面に広がっていった。



 哀しみを前に打ちひしがれる翔。

 彼の近くに愛溜は来ていた。

「ウチは他の仲間達の助っ人に行く。君は……大切な友達を優しく弔ってあげて」

 蠢く黒雲の音だけが響く。

 怪しい(つむじ)風が吹き荒れていった。

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