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三十九譚 四天王戦 岩

【人物紹介・敵】


()ウォン  岩化

……覆面の男。無敵のような頑丈な硬さを持つ。

〇オメメ=デンゲキ  雷撃

……鋭かったり感電したりする雷撃を操る。

郡山(こおりやま)望良(のら)  氷結

……猛吹雪や氷柱を出す。金持ちの家柄。

毒島(ぶすじま)春秋(しゅんじゅう)  毒霧

……毒霧を繰り出す。悪の組織ラグナマフィアの元ボス。

 廃工場が蜜になっていく。

 覆面の男に向かって落とされる鉄パイプ。しかし、体に触れるや否やパイプは折れる。彼が軽く殴ると輩は吹き飛ばされる壁に叩きつけられる。

 彼は「どんな攻撃を受けても壊れない頑丈な岩」の体を持つ男である。全ての攻撃は彼には通らず返り討ちにあう。



 李ウォンの父は朝鮮人だった。苦痛の人生から逃げるため命ガラガラ泳ぎ韓国へと逃げてきた。韓国で一人の女性と結婚した。その二人の元で生まれた子がウォンだった。父は朝鮮のことを伝えるユーチューバーとして稼ぎながら、支援団体からの生活補助を受けていた。ある日、父と母は殺された。不審死だった。全ては朝鮮の工作員の仕業ということを知る由もないまだ物心のつくかつかないかの年頃だった。

 ウォンは親戚に引き取られる。そこは序列の厳しい家であり、上の者の言うことは絶対という家系であり、さらにウォンはそこの家族ではないとして相対的に序列は低く過ごしてきた。そんな生活の中で、彼は超人的な体力と筋肉と根性で上からの命令を全てこなしていった。

 どんな境遇にも何も言わずただ上に言われたことを遂行していく。

 彼は持ち合わせた体格でプロレスの道にトントン拍子で入った。これもまた学校の先輩に敷かれたレールの上であった。その時に手に入れた異能を使えるようになる覆面マスク。それを狙って現れた仮面の奴は彼の上に立つ上司よりも偉い存在だった。そこから彼は彼(彼女?)の言うことを忠実に実行していく。

 全てが忠実に実行されるはずだった。

 彼は硬岩組の棟梁となり、作戦を遂行しようとしたが、失敗に終えた。そこで仮面や上司に迷惑をかけ、遠巻きに任務を遠ざけられる。そのことはウォンにとっては大失態であり、巻き返したいことである。そしてそれは、この任務で巻き返そうと考えられていた。



 渾身の一撃を込めたパンチがリスタに直撃する。

 野獣の腕で簡易的な守りはするもののその勢いにやられ吹き飛ばされる。そのまま壁を突き抜けて海へと落下した。

「ボスッ。くそっ、ボスがやられた」

 一瞬にしてビビが岩男の目の前にきては、すぐさまその場から離れていった。

「うわっ。逆にこっちが引っ張られるのね」

 彼の足腰があまりにも確りしているため引き寄せることができずに逆に引き寄せられたのだ。

「ボスの仇討ちじゃあ」

 鈍器で殴られてもビクともしない。

 彼は回転しながら殴ることでまとわりつく全方向の敵を吹き飛ばした。圧倒的な防御力と、圧倒的なパワーから放たれるカウンターを前に為す術もなくやられるだけ。

「くそっ。どうすりゃいいんだ。まさに最強の盾みたいだ」

「おい。忘れてんじゃねぇよ。こっちには最強の矛がいるってことをなぁ」

 地面から牙を露わにして現れる。

 鋭い牙が岩男の腕に噛み付いた。岩にヒビが入るように軽くひび割れた腕。

 負けじと彼ごと地面に叩きつけると床に穴が空いた。

 穴から高く飛び出してくるウォン。さらに軽やかで颯爽なステップで空を翔けるリスタ。

矛盾(むじゅん)って知ってっか? 全ての盾を穿つ最強の矛と全ての攻撃を防ぐ最強の盾。そこにズレが生じんだよ。どっちかは嘘なんだよ」

 野獣の爪を壁に刺して壁を駆けていく。

 縦横無尽に駆け巡り隙を狙って攻撃する。小蠅の攻撃を払うが如く薙ぎ払っても当たらない。

「なんで矛盾が生じるのか。それは無知だからだ。突き詰めりゃ答えは出る。そこに矛盾なんか生じねぇ」

 天井高くから体を捻り回転を加えた攻撃。それに対する岩の攻撃。攻撃が衝突し合う。リスタは天井に打ち付けられ、さらに地面に打ち付けられる。彼は野獣の体で無事だった。一方でウォンは軽く飛ばされただけだった。

「何でも喰らう牙か絶対に壊れない岩か。やろうぜ矛盾(ほこたて)対決。まあ、勝つのは俺様だけどなぁ」

 野獣が牙を剥く。

 スピードで敵を撹乱させ隙をついてがぶりつく。

 すぐにカウンターを受けて遠くへと飛ばされる。再び海へと落ちそうになった。だが、瞬間移動でビビの元へと飛ばされた。

「落ちそうになったから助けてあげたわ」

「ちっ。んなことしなくても、海もコンクリも地面も何でも喰らって戻れるから良いのに」

 ウォンは相変わらず場所を移動していなかった。

 まさに不動である。

「いいこと考えたぜ。一撃でのしてやる。おい、耳かせ」

 ビビにコソコソと作戦を話していく。

 彼女は怪訝そうな顔でリスタを横目で見た。

「その作戦、アタシの負担大きくないか。危険性高いし力量も全て私次第だし。ここまで私頼りな作戦、少しデリカシーないんじゃない」

「んな、細けぇことはいいんだよ」

「全く。人遣いの荒い人間め」

 野獣の呻き声。

 全身獣のパワーがウォンを襲うが、容易くカウンターされた。斜め方向空に向かって天井を打ち抜き空を舞う。黒雲の下で、空でバランスを取りながら敵を睨みつけていた。

「こうなることは知ってたぜ。単純だからよー。ここに吹き飛ばされるのは百も承知だ」

 彼が吹き飛ばされるや否やビビが吸収を使ってウォンの懐へと入った。

「ここで殺されるかも知れないのに。よく受け入れたわよね、私」

 持ち前のバランスで男の後ろに入り込む。目線の先にリスタがいた。

「これが合体技『物凄く速ぇ攻撃』だぜ。くらいやがれ」

 リスタの体が引き寄せられる。それと同時に体を捻る。不可抗力で回転はさらに増し、スピードも速くなり、一瞬にしてウォンの前にいる。

 回転を力に上乗せ。さらに目で追えないスピードを力に上乗せした攻撃。その攻撃がウォンの身体の半分を砕け散らせた。

「牙か岩か。強ぇのは牙だったようだな」

「おい。私にも当たりそうだったぞ。今の攻撃」

 周りの生きている牙狼会の輩が子どものようにはしゃいで喜んでいる。

「流石ボスっす」

「満更でもねぇな」

「ねぇキミ。アタシのこと忘れるなよ」


 半分砕けた身体。ウォンは負けを認め色のない天井を眺めていた。情けない自分に対して涙を流している。

 上の人から与えられた任務を全てを完璧に遂行してきた自分の転落している現状への不甲斐なさ。打ち砕かれた心で人生を振り返る。

 物心つく頃から序列重視であった。命令を受けてひたすらに実行する。彼にとって、命令されて動くことが、一番だったのだ。自分で考えて実行することは苦手で、全てに置いて言われないとできない。負けた彼は上の者のいないそこで一人呟いた。

 韓国語で「私に命令を下さい」と。

 しかし誰も命令しなかった。無言の時間が続いた。

 そんな時、横から聞こえる命令。

 死んだはずの親戚の家族がいた。

「これからお前は我々と来い。地獄でたっぷりと苦痛を味わいに行くぞ」

 彼はその場で頷き、その幻影の後ろを着いていった。

 例え地獄に堕ちてことも、彼にとっては嫌という気持ちはなく、ただただ無の感情で堕ちていった。それが彼にとっての幸せでもあった。



 昼間なのに真っ暗闇の外と荒れ狂う荒波。

 黒雲が騒々しく唸っていった。

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