三十八譚 絶望の始まり
今日は友達と遊ぶ日だった。
電車を乗り継ぎやってきた都会。新作スイーツをスマホの中に収めてSNSに共有する。楽しい時間が過ごしていく。天気が雨なのが残念だ。
次の遊び場に向かって水溜まりを避けて歩く。湧き出る水を踏みつけて水の木霊が響いた。
雨の音がスマホの音をかき消していた。
友達との楽しいお喋りがスマホの存在を忘れさせた。
雨宿りのできる場所にきて私はスマホを取り出した。そこで着信があったことに気づいた。誰だろうか。その番号を調べると、警察からだった。悪い予感が私を襲う。
「ごめん。なんか警察から連絡があったみたい……」
心当たりはある。まず雨女として無我夢中に雨を降らせてしまったことで川を増させて罪のない人を殺した。次に、凛の殺害のサポートをした。
恐る恐る折り返しの電話をかけた。
重い声が耳の中へと入ってくる。私は覚悟を決めた。
『鵜久森奈路さん。先程未確認生物の暴走により鵜久森伊造氏と紫織氏がお亡くなりになりました。お二人方はあなたのご両親でお間違いないでしょうか』
とても信じられない事実だった。
父と母が死んだ。理由も頷けるものでもある。けれども、この事実を受け止められずにいた。
『ご冥福をお祈りします。奈路さんには──』
信じられない出来事を受け止められずに何もできなくなっていた。楽しいことも全てが無に還す。
「大丈夫だった? なろろん……」
「親が……死んだって」
雨音だけがその場に響いていた。
帰る家もなくなった。モンスターによって半壊した家。きっと死ぬ時は一瞬だったのだろうと思う。
虚ろな心で今後の人生について考えていく。
家族を失って何もかもを失った気持ちとなった。このままじゃ塞ぎ込んで一人で篭もりそうな自分に発破をかけて残されているものを数えてみる。
友達。クラスメイト。先生。バイト仲間。今まで出会ってきた人々。沢山残っている。
その残っているものを大切にしよう。前を向こう。きっとそうしないと私の心は死んでしまうから。
家を失った私は黒の所有する椎奈や澪の住んでいる家に住むことになった。新しい毎日に慣れない日々。それでも先輩達の優しさが失った心を埋め合わせてくれた。
家の中をうろちょろと回りに回るスライムのライム。
ペットの無垢さが私の心を優しく包み込んでくれた。
魔力石の破壊は災害をさらに増やした。モンスターの数も増えた。新たな時代を前に、私は弱いままではいけないと思う。今日もまた手に傷を作りライムによって回復させる。
門限などもない。親による縛りもない。私は修行を重ねまくった。
そのお陰か負け続けだった愛溜と互角となった。さらには、師である椎奈にも勝てる希望が見いだせるようになった。
「素晴らしいよ。ほんとに。奈路は修行すればする程強くなってるし、愛溜は持ち合わせた才能で張り合ってくるし。弟子に恵まれて嬉しいわ」
新たな生活が私を無理やりにでも変えさせていく。
戦う闘志が強くなる。
◆
チート=ヲ=カコウは悪魔の器として操られていた。
恐怖を与える力で天変地異を起こし、軽々と一つの国を更地にし消滅させる。
三月二日。アメリカ消滅。
五日に渡り北アメリカが悪魔の支配下と変わり果てた。
三月九日。イギリス消滅。
ヨーロッパと義勇軍による連合軍との激しい戦争が起き悪魔は負傷するものの僅か三日でヨーロッパのほとんどを支配下に置いた。十四日には抗う国を全て更地に変えてしまった。
三月十五日。来日。魔力石を破壊しにやってきた。
日本は魔力石を差し出したが……
「これは偽物だ。本物はどこにある」
偽物だった。それを打ち砕き彼らに問い質すも誰も口を開かない。根負けしその場の者を一人限らず殺害してしまった。
「偽物だった。日本……ひとまず更地にしよう」
『待ちなよ。君は負傷している。一人で無茶しても負けるかも知れないよ。だからさ、ここは一つ遊びでもしようよ』
ケータイ越しでも機械音である。
「ショーとは何だ……」
『日本での能力者は「HoLE」に集まっているんだ。どれも曲者揃い。だからこそ、彼らと四天王との戦いを行うんだよ。勝っても負けても負傷は必須。これなら負傷中の君でも勝てるようになるよ』
仮面の彼(彼女?)が提案したショー。
その提案がすんなりと通り、速やかに準備されていく。いや、元々準備されていた。
こうなる事を見越して先に撮っていた映像が世の中に後悔される。
仮面の映像をテレビ曲が映し出していく。
『今から遊びを行うよ。その名もホーレ対四天王。四天王は見境なく殺しにいく。ホーレに働くみんなは暴れる四天王を全員倒せるかな。もし彼らを倒せたら世の崩壊の元凶である悪魔と戦わせてあげる』
耳をツンずく音が日本中に流れていく。
東京のビルについてる巨大なテレビが仮面の映像を映し出し、下にそびえる人々がその様子を覗いている。
『勿論、悪魔に勝てば日本、のみならず世界の崩壊は防げる。ただ、それだけじゃ君達が不利だから、四天王に勝ったらとっておきを用意するよ。それは何かは勝ってからのお楽しみ』
そこで途切れる映像。人々は見知らぬホーレに働く人々を応援していく。日本の運命がホーレに委ねられていった。
その映像をカコウも見ていた。
それを見終えた彼は再び仮面の奴に電話をかける。
「とっておきとは何だ。それに、ホーレと戦うとあるが、────もホーレの一人ではないのだ?」
『うん。ホーレの一人として戦わせて貰うよ。そっちの方が面白いでしょ』
一方的に通話が切られた。
悪魔は暇を持て余すように雲を真っ黒にさせた。雨は降らない単なる真っ黒な雲。その雲が国民を不安にさせていった。
その時、ホーレのメンバーは皆バラバラの所にいた。
黒崎黒、裏山椎奈、獅子神澪は異文化喫茶ホーレの所にいた。そこから仲間達の無事を祈っている。
港の廃工場では李ウォンが今か今かと出番を待ち合わせていた。そこにやってくる牙狼会の人達。
「ここは牙狼会のシマじゃい、コラァ」
「…………………………ムルゥ」
そこに親玉のリスタもやってきた。
「映像見たぜ。ホーレに挑発したってなぁ。っんと飽きねぇわ。牙狼会なぁ、ホーレと同盟組んでんだわ。ってな訳でテメェはここでぶちかましてやる」
ビビがコンテナの上から笑っていた。
「アタシも助太刀するわ。……だって、楽しそうですから」
誰もいない港の廃工場で、宇垣リスタと九ビビ、さらに複数の牙狼会、対するは李ウォンとの戦闘が始まろうとしていた。
その日は卒業式だった。
早く終わって喜びを分かちあっている中で例の映像が流されていた。喜びを分かち合う時間が恐怖を分かち合う時間と変わっていた。
私は凛に呼び出されて学校からそそくさと出ていった。
その間に学校に襲いかかる人影。私はその影に気づくことなく学校から離れていった。
学校を襲う雷撃。簡単に廊下の床は破壊される。
体育館の壁が軽々と破壊された。
外で動画を見ていた生徒達ば悲鳴を出ししどろもどろに逃げ惑う。雷をまとう攻撃が人々の命を軽く奪っていく。雷撃に討たれ和名田ミエルと水地茉莉花は虚しくあの世へといった。
さらに死者が出ていく。
「鬼さん、こっちー」
そう言って、彼女を誘い込むのは愛溜。さらに、小林と翔も着いていく。
「みんなと離して死人を減らしてから倒そう。それと、なろろんの友達さんは危ないから逃げて」
「私も戦います。きっとなろろんも戦ってる。翔だって、あなただって戦ってる。友達が命張って戦ってるのに逃げてられないから」
雷撃をまとう鬼が学校の中を進んでいく。
人々の逃げた学校の中で、小森翔と立花愛溜、さらに小林ヤコ、対するはオメメ=デンゲキとの戦闘が始まろうとしていた。
私は凛に呼ばれて静けさの残る住宅街の中を走っていた。
そして、凛と合流する。
「見た? 映像。凄かったね。遊び、凄く楽しみだよね」
「分からない。なんでそんなに楽しんでいるのか分からないです」
私達の元に一人の男がやってきた。
私はその男の顔を覚えている。ラグナマフィアとの抗争の時に居合わせた顔だった。
「まずは二人。早速だけど死んでくれ」
「楽しませてね。出来れば後で感想頂けると嬉しいな」
住宅街で、鵜久森奈路と根室凛、対するは毒島春秋との戦闘が始まろうとしていた。
警視庁の建物の中に突如として吹く猛吹雪。さらに地面から出てくる巨大な氷柱。それらが人の命を奪っていく。
突然、吹雪が熱によって溶かされていった。
「俺の元にきたのか。こうなると仲間達が心配だな」
「自分の心配はしなくてもよろしくってよ?」
「ああ。勝つからな。心配することでもない」
「わたくしの別荘では決着はつきませんでしたわよね。今日、ここで決着をつけませんか」
「ああ。そうだな」
炎と氷がぶつかり合う。
警視庁内で、塩谷偉、対するは郡山望良の戦闘が始まろうとしていた。
櫛渕は密かに戦況を確認していた。
隣では蛙の被り物をした男が突っ立っている。
「おい。ゼット。今から、私の言う場所へ行け」
彼は櫛渕の命令である場所へと向かった。
ケー・ロ・ゼットもこの戦闘に参加することになる。
彼もまた腰を上げ、彼とは違う方向に向かって歩き出した。土岐櫛渕もまたこの戦闘に参加することにした。
主な戦場は廃工場、学校、住宅街、警視庁。
この奇譚の終幕へのカウントダウンが切られた。