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三十七譚 別れは何時だって唐突に

 二月も末となった。

 大都市の代表がこれからの世界を決めるために一つの場に集まる。大統領、首相。有名国の一つとして日本もそこへと参加する。

 護衛の数もそのポテンシャルも相当なものであり、イギリス、アメリカのマスク所持者が多く集められ会場を守りゆく。孤島の場所であり、敵の攻撃を受けにくく能力者も山ほどある。まさに鉄壁であった。

 その会議に参加することとなっていた一人の男チート=ヲ=カコウ。彼はそこへと行く前に世界の金持ち達と豪華なディナーを楽しんでいた。

 名だたる経済界の巨匠タカラ・L・エルレイ。通過貨幣の頂点ミータ・アルフィリルーダ。海外に幾つもの会社を構える郡山(こおりやま)天元(てんげん)。彼らはともに口にワインを注ぎ込み楽しい時を与えていた。

「資本主義が蔓延るこの世で世界を変えるとなると、その頂点にいる資本家が邪魔な存在となる。だからこそ、この世から抹消しなければ何も変わらないんだ」

 耳障りな音響。

 それを繰り出すのは仮面をつけた人間だった。

 右手に持った弾丸をお手玉のようにして遊ぶ。

「銃なんて武器……いらなかったね」

 カコウのいた建物が黒い炎に包まれた。触れれば炎が燃え移り、体と心を炎で溶かしていく。死の恐怖の紛叫が黒い炎とともに盛っていった。

 カコウは翼を生やして空を飛び、彼の繰り出す不思議な竜巻が仮面の人を宙に浮かせていた。

 真夜中の海辺を飛んでいく。

 真っ黒に燃え盛る背景をバックに二人はサミットへと向かった。


 目的の島とは違う島に着陸。そこで時間を潰し、やってきたヘリコプターに乗ってサミットへと向かう。

 チート=ヲ=カコウ、仮面の男(女?)、李ウォン、オメメ=デンゲキ、郡山望良、毒島春秋。彼らの乗り入れるヘリが目的地に着陸した。カコウの名で怪しまれることなくヘリから降りれる。

 不思議な不思議なマスクの力で怪しまれることなく彼らはその土地を踏みしめていった。カコウとそれ以外で別れる。

 これからの時代、モンスターが現れたりマスク所持者が猛威を奮ったりとする中、国として世界としてどのようなことをするべきなのか、まずは魔力石に詳しいカコウにご教授頂こうと首脳達は待っていた。

 しかし、一向に彼は現れない。

 雲行きは怪しい。

 強い衝撃の音。海に何かが起きた音が響く。ここから北北西に向かって一部分だけおぞましい黒雲となり、雷がひっきりなしに落ちていく。そこでは、海は真っ二つに割れて、地面に向かって炎の衝撃波が放たれていた。

 その場所付近の空に人影がある。

 カメラがズームインしていくとその人影の正体はチート=ヲ=カコウであった。

 両腕に溜める漆黒の氷。その氷が落とされた瞬間、辺り一面は北極のように凍った。さらに、その辺に何故か木が生い茂げ、森が形成された。その森の中に彼は身を投じた。

 護衛達がその場所へと集まっていく。

 その後ろをキャスター達が付きまとっていく。

 騒然とした状況に誰一人としてこの状況を飲み込めていなかった。生放送で回される映像はとても現実のものとは考えられずアニメーションのように思わせる程だった。

 再び森から出て姿を現した彼は両手で魔力石を持っていた。

 魔力石が破壊される。その時に出てくるオーラが世界中へと伝播していった。

「これで、三つ目の魔力石が破壊されたね。残るは日本のみだ」

 薄ら笑い。

 攻撃は理不尽に襲っていく。

 護衛らが束となってカコウを殺しにかかるが、殺すことはできなかった。全てを相殺する理不尽な技の数々。

 黒く燃える炎は人々を焼き付くし、真っ黒な水は攻撃を全て受け止めその攻撃ごと押し返し、黒い森から伸びてくる植物は人の生命を奪い、黒い雷は人の心を消し去り廃人にし、黒く衒う毒が死にたくても死ねない苦痛を味合わせ、黒く染まった氷の中に閉じ込められればすぐに氷は砕け体ごと艶細かな結晶となり風に飛ばされる。

 そこにいたマスク所持者では彼に勝つことはできなかった。

 全滅する戦闘員。戦闘ではなく要人の護衛についた者以外は死んだ。

「ここかな。日本の取材班は。少し伝えたいことがあるんだ。少しいいかな」

 今この瞬間、仮面の奴は取材班の上司になった。理屈はそこには何一つない。

 呼び出されるのは皆逃げていない戦地。

 そこに降り立つカコウ。そこに向かって仮面の奴はカメラを向けた。その横に翻訳者を立たせる。翻訳者の声を強くそこに落し入れる。

「こんにちは。この世界の諸君。私は悪魔。チート=ヲ=カコウという男の体を乗っ取った悪魔です。この世はこれから私悪魔のものとなります。その時を楽しみにして下さい。別れは何時(いつ)だって唐突に……。いい言葉ですね。明日死ぬと思って今を楽しんで下さい」

 黒い翼の生えた人間。いや、それは悪魔という存在。

 未知なる存在が画面越しの人々に恐怖を与えていく。

「こんにちは。我々悪の組織です。名前は……まだないんだ。それよりも、日本にも魔力石あることは知っていますか。そこで我々もその石を破壊しようと思います」

 カメラから消えた。そして、カメラの向きが動かされる。今度は四人の男女が映し出された。

「わたくし達は日本の魔力石を破壊したいのですわ。期限は三月十五日。その日までに魔力石を破壊すれば日本を滅ばさなくてもよろしくてよ」

「……………………………ムム」

「俺らは単に魔力石を破壊し、世界の支配者になりたいだけだ。別に誰かの命を奪いたいと思っている訳ではない。どうするかは貴様ら次第だ」

「………………………………そうよ」

 彼ら謎の組織の四天王。

 彼らの宣戦布告が日本の国民を(おのの)かせた。最大級の悪意が津波のように押し寄せていった。






 二月ももう終わりかけていても尚、澪はレイの復活を望んでいた。しかし、休日だけでなく平日も毎日が澪の人格であり、意識が途切れることはなかった。

 もう諦めなければいけないと思っていても希望の可能性を捨てきれられていなかった。

 三月にまで生き返らなかったら諦めよう。

 彼女はそこを基準に踏ん切りをつけることにした。

 そして三月。新たな世の中に変わっていく最中(さなか)。澪はレイの墓を立てた。土の上に木の板をつけた簡易なものだが、そこには彼を想う募りが詰め込まれている。

「レイは蘇らなかった。またいつか蘇ったらその時また……」

「そうね。踏ん切りをつけなきゃね。彼の魂が消えても彼のことを忘れなければ、レイは報われるのかな」

 ラグナマフィアとの抗争の時にレイは死んだ。

 ある日を境に二重人格として生まれた澪の存在。苦痛から耐え心の死を遠のかせるために生まれた存在。そして、あの日に元の人格が消えてしまった。途中で作られた偽物の人格が唯一の人格に昇格した。決して喜ばしいことではない。

 何かのせいにしても自分自身を責めても何にもならない。結局受け入れるしかない。その事実を澪は受け止めた。

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