三十譚 出陣
二月十七日。
退屈な授業。黒板に書かれた文字をノートに写しこんでいく。
ようやく授業も終わった。
放課の時間、翔が速やかに近づいてきた。
「奈路。これを見てくれ」
そう言って、スマホを取り出してきた。それは愛溜から送られてきたラインだった。何故、彼は愛溜のラインを知っているのだろうか。よくやく見ると友達になるかどうかのバーが上に見えた。一方的に彼女が彼のラインに送ったのだろう。
『これ、見て』
それとともに送られてきたたある建物へと攻めいく警察を捉えた写真。続いて、ホーレの面々の写真。
『ホーレは悪の組織と戦うことになったみたい』
その下には、
『奈路にも伝えてね』と添えられていた。
学校のある私達を置いて、彼らだけで行ってしまったみたいだ。
休み時間も少ない。急いで二組に向かった。
人混みのある教室の中、ちまちま調べる暇もないので大きな声で「愛溜さん、いますか」と尋ねていった。すぐに近くにいた子が「愛溜さんは今日は休みだよ」と伝えてくれた。感謝を告げて廊下へと出た。
あの写真を送っていたということは、もしかしたら彼女も一緒にいるのだろう。
私達も行かなければ。けど、なんで私達は呼ばれなかったのだろう。足でまといになるからだろうか。それでも一緒に戦いたい。
「よしっ。僕らも参戦しに行くぞ」
「けど、学校もあるし……。どう言い訳すればいいか分かんないよ」
葛藤が私を挟んできた。
このまま時間は過ぎていく。
「奈路。学校の方を優先したいのか。本当に優先したいのは何。自分の一番優先したいのを優先すべきだよ」
翔に言われてハッと気づく。
いつも敷かれた線路を歩いてきた。それから外れると、いつも家族や先生、色んな人から反対されたり、その行為に否定的な反応を示されたりしてきた。いつしか、線路の外側には高い壁ができていて、自分のやりたいことを控えてきた。
きっと壁の向こう側は、叱られるだろうとか、悪口などが飛び交っているのだろうとか、知られたくないとか、私は壁を壊せずにいた。
「私は……みんなと一緒に戦いたい!」
「決定だね。先生達は僕が何とかするから安心して」
えっ──。
私の手を取り走り出していく。バランスを取るために彼の走りに合わせていく。
階段を降りて昇降口へときた。早く早くと催促され速やかに上履きから外靴に履き替えるとすぐさま手を取ってきた。やはり、そのまま駆け出していってしまった。私も同じ歩幅で駆ける。
授業の始まりを知らせるチャイムをBGMに運動場をかけていく。
窓から興味本位で覗く学生達。恋の予感を感じた彼らは勘違いしていることも知らずに興奮していた。
私達は学校を出て、ひとまずホーレへと向かっていった。
ナイフを手に取り、愛溜のナビゲートを頼りに目的地へと向かっていった。
◆
警備隊の列を前にラグナが本拠地としていた一軒家が覆い尽くされた。現れるチンピラ共は警察を前に容易く捕まっていく。
その家から地下へと繋がる通路があった。警察達はその通路を通り広い部屋へと出ていく。
そこに待ち伏せるラグナのもの達。彼らは殺気を放っていた。
そんな彼らを前にして、代表して前に出ていく一人の男。櫛渕だった。
「十一時〇五分。十分まで残り五分。君達に忠告しよう。五分後に銃弾の嵐となる。死にたくなければ武器を置いて投降するか、今すぐ逃げるといい」
真に受けて逃げ出すもの達は少なかった。
一分。二分。三分。沈黙は続く。
四分。待ちきれない輩が攻めにくる。それを遠くから警察が銃で応戦する。
五分。タイムリミットオーバー。
櫛渕のすぐ前から突如として現れる無数の銃弾。マシンガンなんて持っていない。何もしていない。それなのにマシンガンのような攻撃が前方へと放たれた。不可解な銃弾の嵐が彼らの命を奪っていった。
何分か放たれ続けた。彼らの戦意がなくなっても攻撃は止むことはなく、死人となってもそこに向かって銃が放たれる。
終わった後には地面に銃弾がゴロゴロと転がっていた。
静かになったその場所を金の弾丸を蹴り飛ばしながら進んでいく。
「進みにくそうじゃな。儂が掃除でもしてやろうか」
血が一つの場所に集まっていき血の塊となる。そして、その塊は爆発し、その爆風が屍も弾丸も全てを端に吹き飛ばした。
「この先は通さんよ。警察だからと土足で入られても困るんでなー」
「通すか通さないかは聞いてない。警察の権力で無理やりでも通して貰うまでだ」
血が独りでに動いていく。そして、赤い鎧のように血は彼の体の周りで固まった。
「儂ぁ、血洗島アトラス。ラグナの幹部をやっとるもんだ。命懸けでここは死守するぜ」
「私は巡査部長土岐櫛渕。マスク所持者との戦闘では逮捕が難しいとされている。だからこそ、一律してマスク所持者相手ならば殺してしまっても仕方ないという風潮がある。私はそれを躊躇いなく利用して君を殺すぞ。準備はいいか」
「面白い警察じゃ。本気で命取るぞ」
殺伐とした空気の中、他のもの達はその中に近寄ることはできなかった。入れば死のイメージが湧くのだ。後ろに控える組織員、反対側の警察、彼らは後ろから二人の勝負の結末を見届けるしかなくなっていった。
警察が攻めいく中、ホーレはそこから離れた場所から敵のもう一つの拠点に攻め入っていた。
実は外見から見ると二つの拠点は全く違うが、地下では繋がっている。
黒は外で警察と連携を取っていた。
凛も外にいて、警察とともに戦略を練る。
偉は持ち前の能力で敵を気絶させながら進んでいく。その後に、椎奈、レイが続いていった。
広い部屋を出ると、迷路のような細い道が続いていく。
いつしか偉と椎奈、レイははぐれてしまった。
三人は別々の方向に向かって進んでいった。
薄暗い拷問部屋。何もない辺り一面壁の部屋だが、異能の力によってどこからともなく棘が現れ針の拷問器具が作り上げられる。
「スパイのためにここに入ったんだな。後で牙狼会の方も処分しなくてはな」
両腕に針が刺さり、リスタは身動きができない。
マスクを取られた彼は本当の強さを引き出せなかった。
じわじわと棘を出して痛めつけていくのは千棘迅。彼は裏切り者から情報を聞き出そうとしていた。
そこへとやってくる一人の女。
「まだ拷問やってたんだ。趣味が悪いね」
ビビは薄く笑っていた。
「全くだ」
「それより聞いた? 警察がここに攻め来てるみたいですよ。今ね」
「なっ。予定日は二十三日じゃないのか」
「一つ噛まされたのですよ、遠くの日程で伝えて敢えて早く行動に移す。例え、スパイに計画を流されてもいいように」
死にかけのリスタを他所に二人は会話する。
彼女は迅を退かしてリスタの前に来ていた。
「私、スパイなの。あなたがスパイって密告してすみませんね」
リスタにマスクを被せる。取られていたマスクだった。
「おい。何すんだよ。てめぇ!」
「知ってますか。私、スパイでも単なるスパイではなく二重スパイなのですよ」
野獣の力を取り戻した彼は強靭なパワーで壁から突き刺す棘を破壊した。
「ちっ。この野郎。俺様を拷問ったこと後悔させてやるよ」
野獣の攻撃。突然現れる地面から出てくる棘の壁で防いでいく。
「どういうことだ。ビビ。裏切ったな」
ビビはガスマスクを装着した。戦闘態勢だ。
「裏切ってませんよ。最初から敵ですから」
一瞬にして壁に瞬間移動する。後ろから蹴りつける。迅は後ろから攻撃された、さらに前から野獣の横行を受けた。
「知ってます? 私が一番嫌いな一族を」
無数の棘も何でも喰らう牙が食らっていく。
棘の攻撃が無効にされ逃げるしかなくなった彼は、その場から離れていった。
しかし、彼は瞬間移動しビビの前に現れた。
彼女の持つ鋭い包丁が体を貫いている。
「それは獅子神一族。そいつらを大切に囲い込むラグナもホーレも両方敵だから」