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二十五譚 昨日の敵は今日の友

 ホーレに思わぬ来客がやってきた。

 私達にはパートとして就職したいと申し込みにやってくるとのみ聞かされている。だが、やってきたのは九ビビ。昨日に騒ぎを起こし、私の手にナイフを刺した張本人だ。

「おはようございます。昨日、私の身勝手な行動で多くの人を傷つけたことの謝罪と、その罪滅ぼしとして少しでもこちらの役に立ちたいとやって参りました」

 謝罪の品を渡された。

 何故あんな行動を取ったのか聞かれると、

「あの人と鵜久森奈路さんとに私怨がありまして、それで気が狂ってしまいました」と申し訳なく視線を下げた。

 凛と私に何の私怨があるのだろうか。

「私はある場所で風俗嬢をしていま……す。ある日、そこで働いていた四人が不審死したのです。路上での溺死、目を疑いました。その犯人はすぐに鵜久森奈路とその知人の仕業と聞かされましたが、あまりにも信じられず疑心暗鬼でした」

 心当たりがあり過ぎる。

 私が雨を降らして凛が殺した。やってはいけないことを私は見て見ぬふりをしていた。

「しかし、つい最近、コンビニの裏で二人によって殺される場面に出会しました。それで犯人だと確信し、犯行に及びました」

「それは本当なのか。奈路」

 強く太い槍が心を突き刺す。勢いよく「はい」とは言えない。できればなかったことにしたい。それでも真実を伝えなければならない。

 頭を縦にして肯定した。

「ごめんなさい……。悪気があった訳じゃなくて」

 私は涙目になり、言葉も水に沈んだような弱々しいものとなっていた。

「安心してー、正当防衛だから。奈路さんも泣くことじゃないよ。仕方ないじゃん。割り切ろうよ」

 分からない。その感性が分からない。

 ここの空気は忌々しく歪んでいく気がした。

「まあいい。じゃあ、何故俺が魔力石の在り処を知ってると思ったんだ? 俺には意味が分からなかったが」

「それはどうしてでしょうね。例えば、裏に精通してるとか。強いて言うならば、最近裏で躍進している組織……」

 怪しさ満点だ。

「なるほどな。余計に雇えなくなったな」

「それは表向きにはですよね。裏向きの仕事なら雇えますよね」

「的を射ている」

 ギスギスとした部屋の空気がとても居心地が悪く感じさせる。二人の交渉はさらに空気を汚していく。

「それで、裏向きのホーレで何ができるんだ」

「スパイ。必要ですよね。私なら与えられますよ。内部情報」

「なるほどな。面白い。私怨の件もある。こちらとしても謝罪を含め、裏専任で雇うことにしよう。書類を渡すから書いてくれ、仕事は追追(おいおい)説明する。よろしく頼むよ」

 ビビは雇われることになった。

 私達の疑心暗鬼は残ったままだ。それでも私には意義を申し立てる権利を持っていなかった。この気持ちは心の底にぐっとしまい込み、なかったことにすることにした。





 日本屈指の指定暴力団体の中でも有名な組の一つ愛詩苑音(あいうえお)。トップに君臨していた他の四つのグループは、二つは新生のラグナマフィアに合併された。残る一つは雪女の住む山荘での警察との抗争によって組長が殺られ縄にかかったことで、組織内で揉め事が起きて自然消滅した。異能を前に無力であることと、そのマスクを手にできなかったことが消滅に拍車をかけたとされる。

 そして、日本屈指の暴力団の最後の一つもまた終わりを迎えようとしていた。

 愛詩苑音は常に中立を保っていた。

 もちろんラグナマフィアの誘いを蹴り中立を保つことを決定した。ラグナはそこで愛詩苑音を攻めにきたのだ。


 ラグナ六匈(ろく)と呼ばれる六人の幹部。

 彼らを迎え撃つ暴力団の先鋭達。

 その勝敗はもう決まりきっていた。


 バットなど鈍器を持った輩に向かって丸腰で向かっていく一人の男。高身長で口元にはネックウォーマーをしている。そこからチラリとマスクが覗かせていた。

「ロウトの若頭か」

「違う。それは元。現ラグナマフィア幹部」

 地面から棘が生え輩を下から上へと突き刺していく。

「世渡り術が下手だから。こうなる」

 鋭い棘が背中を突き刺し殺す。赤い血がその棘の地面の周りに広がっていた。

『針千本伸ばした』

 冷静沈着。その中に若さを感じさせる勢いがある男。彼の名前は千棘(ちとけ)(じん)。棘を操る異能の使い手。ラグナ六匈の一人である。


 沸き立つ敵の数々。

 棘の山にやられた屍を踏み台にし進んでいく。

「流石は屈指の組織、人員が多い。儂もこれぐらい人頭が欲しかった。鉄砲玉が多いとはいい事じゃ」

 地面を覆う赤い血が(うごめ)いていく。

苑怒儽剃(エンドレス)紅龍亞(クリア)

 血液が一人でに動き凝縮し龍の形をした。

 棘のように荒々しい鱗に触れた人間が次々と血を出していく。その血も操られ、槍や剣と変わり、敵に向かって無作為に降り始めた。

 攻撃を受けて、血を出して、それが武器に変わって、さらに血を出させる。無限に続く攻撃が彼らを苦しめた。

 幹部の面の中で唯一の年老。銀色の髪と鋭い眼光。小さく謙虚に佇みながらも底知れぬ威厳を放つ彼の名は血洗島(ちあらいじま)アトラス。


 和風の家内へと入り込み迎え撃つ敵を蹴散らすラグナ。

 怪物のぶっ太い舌で薙ぎ払っていく男。

「女はいねーんか。この舌で愉しいことでもしてぇのになー」

「任務中に余計なことを考えるな。鉄砲玉だったからといって今は幹部。しっかりして貰わなければ困る」

 蛙のような格好で、変態な彼はシタナメ・角川(かどかわ)。元々、三下だったがマスク所持者ということで幹部へと昇進した男である。


 目の前にあるものは壁でも床でもなんでも壊し、敵を食い散らかしていく男。鋭い牙で敵を穿つ。彼の名は宇垣リスタ。最近、正式に組織をラグナに吸収された。そして、異能使いということもあって幹部にまで昇進した。

 それを遠くから眺める一人の女。

 彼女は九ビビ。彼女が手を出すまでもなかった。彼女もまた幹部の一人であった。


「私~、もう戦えなーい。だってー、私、か弱い女だもーん」

 その場で倒れ込み色目で周りの男を見る。

 チャンス到来と見た敵はそこに攻め入るが、仕掛けられた糸の罠が作動し瞬く間に死んでいった。

「キャー、怖ぁーい」

「勝手に演じてろ。二十七歳」

「ひ、酷ぉい。迅ちゃん、ひどぉい!」

 彼女は獅子神(ししがみ)夢奈(むうな)。いつも白色の可愛い服を着て、白色のぬいぐるみを常に持っている女だ。そして、任務が終わると白の服は赤く染まる。

 彼女もまた幹部。圧倒的暗殺術で幹部に上りつめた女だ。


 以上、六名のラグナマフィア幹部。

 ラグナ六匈の活躍により、愛詩苑音はこの日を持って消滅した。

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