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二十四譚 「九ビビ」

 このまま下手に動けば凛は殺されるかも知れない。けど、このまま何も出来ないのではきっと雪女の時と同じ(わだち)を踏む。

「私、知っていますから。あなたが重要な秘密を持ってること」

 ナイフの先端が黒の方向を向く。

 今しかない。

 私は突撃していき、そのナイフをふっ飛ばそうと手を攻撃しようとした。彼女は彼女で反射的にナイフを振った。

 私の手のひらに突き刺さるナイフ。

 赤い血が滴り落ちる。痛くはなかった。

 私に続いて、椎奈と偉が近づいてきた。

 ビビはナイフを離し、すぐに私達から離れた。

「ねぇ、来て」

 澪だ。彼女は包帯を持って、手にグルグルと巻き始めた。その間に、二人が敵と対面した。

「使うしかないのね」

 彼女はリュックを手に取った。そこから取り出されるガスマスク。それを被っていく。

「毒……か。ラグナマフィアのボスが毒ガス使いと聞いたが、もしやこいつが──」

「残念ながら、私はボスではないのです」

 ボス、ではない。つまり、ラグナマフィアの一員である可能性がある。そうならば、きっと彼女は相当な実力者だ。

「とりあえず、取り押さえられて貰おうか」

 偉が器用に椅子を飛び移って進んでいった。

 一瞬にして彼女の目の前に瞬間移動していた。

 杖で突かれ、床へと落ちる。それでも痛みなど感じない振る舞いで取り押さえようと進むが、瞬間移動で彼女は天井付近に飛んでいた。さらに、瞬間移動で出入口付近に移動している。

「また、いつか滅茶苦茶にしてやるから。キミら許してないから。覚えておいてね」

 彼女は荷物を持って店から出ていった。

 圧倒的実力を前に一方的にやられる可能性があった。けれども、今回は無事に済んだ。

 いきなりのトラブルに頭が整理されない私達。

 ホーレは静寂だ。

 カランコロン。今頃、櫛渕がやってきた。

 騒然とした中で一人寛いでいく。「使えない部下だったな……」小さく呟いた独り言が聞こえた。その言葉はどこか刺々しいものだった。


 私は襲われる危険性があるからといって夕方前にも関わらず車で送られた。

 家でリモートワークをしていた父が玄関に行く。すぐに手の傷に気づかれた。白色の包帯が違和感を放っているのだ、気づかれるのも当然だ。

「おい。その傷、どうしたんだ。説明してくれるよな。そこのお前」

「お父さん。この傷は不審者に……」

 段々と怒りが混み上がっていくのが見て分かる。

「本日、ナイフを持ったお客が突然スタッフを人質に取りました。奈路さんは勇敢に立ち向かい人質になったスタッフを解放しました。ただ、その代償として手にナイフが刺さりました」

「そのお客とはどうせ裏社会の人間だろ。暴力団同士の抗争に巻き込まれたんだろうが!」

 勘違いが深い溝を生んでいるのだ。

「そのお客と言うのは裏社会の人間の可能性が非常に高い。前にも話したと思いますが私達は暴力団ではありません」

「何度でも言え。悪は嘘をつく! 奈路はそこを辞める。それを止めようとするなら、すぐにでも警察に通報するからな。誰か近づくことも同類だぞ」

 偉は冷静に言葉を選び反対する。

「さらなる危険性があるのは承知しています。ですが、奈路さんは狙われる身です。ホーレに籍を置き我々で護る方がよろしいかと思います」

「そんな言い分通ると思っているのか!」

 ますます燃えていく父と至極冷静な偉。玄関は二つの温度に分かれていた。(だんま)りと冷静な表情で視線を合わせていた。

「それに、奈路さんは今や我々にとって必要不可欠な存在です。巨悪の組織から日本を守るためにも奈路さんの協力がなければならない。貴方様も協力頂けませんか」

「何を言うと思ったら。何様のつもりだ? 単なる店員が日本を守る? 笑わせんなよ!」

 強烈な言霊の攻撃。私が受けてなら怖気付きそうだ。いや、隣で聞いてる私はもう怖さを感じている。

 父の猛攻を、一つの証明書で黙らせる。

 警察の帳だった。

「私は警察です。ただ、誰にも公言してはならない、表向きに存在してはならない所で働いていますのでこの事は他言無用でお願いします」

 たったこれだけで父の態度は変わっていった。

「本当だろうな。それは」

「本当ですよ。喫茶店を表向きに見せながら、マスクの所持者への監視やトラブル解決などを秘密裏に行ってきました。これが我々の仕事ですから」

 父と偉の隔たりは解決された。

 父は秘密を守ることを確約し協力することを約束した上で、偉から最低限教えられる情報を教えて貰っていた。


 二つ目の魔力石の破壊で、一時的にはマスクの異能は増えたが、マスクに異界のオーラを篭める機械が増え続けるオーラに耐えきれず壊れてしまったためもうマスクの異能は増えなくなった。

 つまり、これ以上異能力を使える者はいなくなった。

 マスクを持っている者は選ばれし者なのだ。

 個人ではマスクを狙う輩が増え、組織的な大きさとなるとマスク奪還後の死のリスクを鑑みて能力者を味方に引き入れようとするようになった。

 モンスターを倒す。モンスターによって廃れていく日本を乗っ取る。異能の力で悪事を働く。マスク所持者が全ての鍵となる。


 偉がその場から帰っていった。

 全てが丸くいった。

 良かった。もう引き離されることはなくなったんだ。安堵の息を吐いた。


 そういや、私はいつ偉に私の気持ちを打ち明けることができるのだろうか。

 ある日気づいた、偉のことが好きだと言う気持ちを。





「奇妙な能力だ。敵には回したくないね」


 春秋は頭の中に身元不明の存在を浮かべていた。

「それは褒め言葉でいいのかな」

 素性を隠したい犯罪者がよく使う音源だった。

 ラグナマフィアに現れる仮面の男(女?)はきっと不気味な笑みを浮かべているのだろう。

「異文化喫茶ホーレか。そいつら潰すのにも慎重だな。まあ、上の意見は聞いとかなければならないから、従うけど」

「叛逆さえしなければ思念や行動は自由だ。────はキミの裏で操る裏方。キミの上司であっても表にはでない存在さ。表向きにはキミがボス。顔なんだから、自由にやりなよ」

「そうさせて貰う」


 彼はその場から離れた。薄暗い廊下を歩きながら「ちっ、まんまと策略にはまったって訳だ」と溜まる怒りを忘れようと早歩きをしていった。

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