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二十三譚 裏の進撃

「まさに嵐の前の静けさだ。今は静かで平和されど直にどてかい嵐がくるぞ」

 モンスターの襲撃に追われ、徒党の暴動の対応に追われ、閉めることが多くなったホーレもようやく開店できる日が多くなった。それは徒党の暴動の減少が要因だった。

 組織を吸収していき、他の悪を潰していく。さらに、組織で管理し悪の行為を止めさせる。

 しかし、それが全ていいこととは限らない。

 反社の徒党は一つの組織に結集した、それが意味することとは。

「ちと、面倒なことになってきた。牙狼会はホーレに味方するが、それで勝てる相手じゃねぇ。ありゃあ、戦力が国の規模だ」

 リスタはその組織ラグナの脅威を知っていた。だからこそ、ホーレに危機感を煽っているのだ。

 今は組織に吸収されていき国に対する野郎共は少なくなっているかも知れない。だが、その組織がいつ牙を向けるのかは分からない。きっと国を乗っ取る機会を窺っているに違いない。

「知っていますか。包丁は便利だと」

 突然話し出した櫛渕。彼の意図が理解できない。どういう意味でそんなことを言っているのだろうか。

「包丁は食べ物を細かく切り食べやすいようにしてくれる。だけど、人を殺すのにも便利ですよね。よく言われるのは毒ですね。人を殺す用途に使われる毒も、使い方次第では薬にもなりますから」

「組織化は便利だ。襲う徒党を減らしてくれる。しかし、強大な敵として立ちはだかる可能性もある。そういうことでいいか?」

「そうですね。そのラグナマフィア。こちらで上手く操作すればいいと思いませんか」

「そう、上手くはいかない気はしないがな……」


 会話は終わり、店を開店することになった。

 黒がある事に気づく。牛乳がない。そこで私達は買い出しへといくことになった。

 曇り空の下、小さな急ぎ足で目的地へと向かった。

 ホーレから徒歩でいけるコンビニ。そこで在庫がなくなった牛乳を買うことになった。緊急補給だから、とりあえずどれでもいいらしい。

 適当に牛乳を手に取り購入した。

 隣では凛がいた。彼女がついてきている理由は私にも分からない。

 コンビニから出た。

 そこで悪そうなヤンキーらに絡まれてしまった。

「おい。お前ら能力者だろ。マスク置いてけよ」

 マスク狙いの悪い奴らだった。三人は私達を山羊のように見下し、獅子のように睨みつけている。下手に逆らったら何されるか分からない。けれども、マスクを渡す訳には行かない。

 私は恐怖で足がすくみそうなのに凛は全く違った。

「いいよ。このマスクあげるよ。死んだら返してね。あ、そうそう、あげる代わりに、つけたらすぐに聞かせてね。マスクの感想をさ」

 彼女はあっさりとマスクを外し彼に渡した。

 そのマスクをつけた瞬間。

 身体爆散。

 肉の破片が服や皮膚にくっつく。ひんやりと気持ち悪い肉と血の塊が吐き気を催していく。

「あーあ、感想聞く前に死んじゃったー。聞きたかったな。感想をさー。とりまね、返して貰うから。このマスク」

 どこか愉しそうな彼女はどこか感性がおかしい気がする。

 私と絡んできたヤンキーらはたじろいでいた。

 そこに降り注ぐ小雨。決して私が降らした訳ではない。今日の天気は曇。雨が降るかのうせいも高い。

 雨が降り始めたのにも関わらず傘もささず立ち尽くすことしかできない。もちろん、彼らも同様だ。さらにはそれを見ていた人々も。

 雨が強くなっていく。

 ビニールの中に雨が入りこみ、牛乳パックを濡らしていった。

「楽しいね。こんな場面、書いてみたいなー。肉片の雨。赤く濁る血液が体を穢す。無の感情で見上げる空。そこは一面汚れた灰色で染まっていた。雲から降ちゆく神聖な青い雫。赤と青の二つの雨粒が体を濡らしていた」

 彼女の笑みはどこか狂気を孕んでいた。

「場所移しませんか? もっと人のいない場所にいった方がいいと思うんです」

 彼らは頷いた。そして、彼女に従って動き始めた。

 彼らを包み込む水のベール。全ては彼女が無理やり操っているだけだった。

「ここなら誰もこないね。じゃあ、次に凛のマスクつけたい人いる? 確かね、九十五パーセントの確率で体が吹き飛ぶんだって。それでもやってみたいよね? だって、凛達にマスクを求めてきたのはあなた達だから、当然つけてみたいよね」

 きっと彼らは拒否している。こちらまで震えている姿が分かる。それでも、首を横に振ることはできない。なぜなら、雨のベールが横ではなく縦に振らせるから。

 もう凛のペースだ。

 ()()()キネシスを受け、操られている彼らにはもう人形のように振る舞い、そして死ぬしか道は残っていなかった。私は恐怖で口を開けることなんてできなかった。

 青い雨の中に赤い雨が混じった。

 きっと彼女はこの雨を幸せの雨とでも思っているのだろう。

「後一人だね。凛の働くホーレでね、植物使いの子がいるの。彼ね、たった五パーセントの賭けに勝って能力者になったんだって。あなたはどうかな?」

()()()()()ェ」

「駄目だよー。喋ったら肺に水が入って、死んじゃ……ったー。あーあ」

 私には分からない感性。理解したくもない感性。

 そこに取り残された死骸を無視しして戻ることになった。

「さあ、戻りましょう」

 袋は赤が混じり、中は海となっていたため、牛乳だけ手に持って戻ることになった。

 ホーレに戻り、牛乳を届け終えた。罪悪感がその中に詰まっている。きっとまずいんだろうな。

 濡れた体を乾かして天井を見た。

 何も起こらない。

 更衣室で着替える。今日の服装はアオザイというものだった。どこかの民族衣装だろう。純白の民族衣装。こんなもの私が着ても良いのだろうか。隣で愉快な気分で人を殺している仲間を止められない。それを見て見ぬフリをする、こんな汚れている私がこんなものを着ていいのか。胸が痛くなる。

 雑念を考えながら足を動かす。

 注文を取り、それを伝え、マスターと席の間の橋渡しをする。

 ベルの音だ。番号は三番。

 そこに座っていたのは美しくスタイリッシュな女性だった。女の私でも見()れてしまう。

「すみません。ベトナムコーヒーを一つ。それと……」

 ベトナムコーヒーとは、特性の豆を深く煎り、そこに先程市販の牛乳で作られたコンデンスミルクを入れたコーヒーである。

 美しく透き通る声。

 私のネームプレートを見ながら喋ってきた。

「あなたは……NARO、奈路ね。上の名前は鵜久森じゃないかしら」

 私のことを知っているのだろうか。私は彼女のことに覚えはないはずだった。どこかで出会ったのだろうか。

「え、ええと、どこかでお会いしましたか?」

「いいえ。一方的に知っているだけです。ねぇ、キミ、能力者でしょ」

 突然、声質が変わったせいで恐い口調に変わった気がした。何か私がやらかしたのだろうか。

「そうですけど」

「どのような能力」

「雨を降らすだけの能力ですけど……」

 それを聞いた彼女はすぐに元通りの口調に戻った。

「なるほどね。ありがとう。あなたを知れて嬉しいわ」

 私はそそくさとカウンターへと戻った。

 いつも通り商品を運んでいく。


 事件は思わぬ瞬間に起きる。

 凛の喉元にナイフが近づけられている。後ろで彼女を拘束しているのはベトナムコーヒーを頼んでいた女性だった。

 客席から悲鳴が上がっていく。

 この状況はどうしようもない。

「うーん、あなたはだーれ。凛には見覚えがないんだなー。これが。だからさー、教えてくれない? あなたが誰なのか。それと、何を望んでいるのかも教えて」

「私は(ここのつ)ビビ。表向きは風俗嬢。裏向きは秘密。もしかしたら、これだけで目的が分かるかも知れませんわね。キミのいる店を滅茶苦茶にしたい。それだけなのよ」

 店内は騒然としていた。

 私達は人質を取られ何もできなかった。

「この店を滅茶苦茶にする方法。それは簡単。人質を殺されたくなければ、今すぐ魔力石の在り処をSNSで暴露しなさい」

 ずっと守り続けていたその情報。簡単に渡せる訳はない。しかし、人質がいる。

 そもそも、何故この女はホーレが、黒が、魔力石の在り処を知っていると知っているのだろうか。

 騒然とした中で私達は唾を飲んだ。

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