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二十一譚 「土岐櫛渕」

【キャラ言葉紹介】

〇奈路

「決めた。私、戦ってみる!」

〇偉

「罪の償いについては人それぞれだ。人を殺した罪は一生つきまとうということを忘れなければ、アンタで償い方を決めればいい。」

〇翔

「今から僕はお荷物の僕じゃない。深く傷の根を残す僕だ。」

〇リスタ

「俺は女子供に手を出す趣味はねぇ。だが、仲間を傷つけたことは許さねぇ。」

〇凛

「凛のね、趣味は人間観察なの。だから教えて欲しいな……。感想を。」

「ホーレの裏では、マスク保持者の観察と社会被害及び社会的な問題を未然に防ぐことを目的とした組織であった、と」

 メモを開きながらペンを動かしていく櫛渕。営業時間外のホーレは静かさが漂っていた。ペンがノートの上を滑る音が木霊していく。

「何か壮大な目論見を持ち日本を滅ぼす謎の集団がいて、主にその集団を主に観察していた。……だが。前回の抗争事件から目的が変わった。その集団を潰し、今まで通りマスク保持者による被害や問題を防ぎ、さらには最近現れた怪物(モンスター)の被害も食い止めること。警察では荷が重い事をここに任された、と。なるほど」

「ああ。俺が公安だとバレては、今までみたいな裏工作はできないからな。こうなれば真っ向から当たるしかないって訳だ。まあ、代わりの協力者はもういる。安心しなさい」

 眼帯をつけ、ひしゃげた服の奥底に見える生々しい傷。どこかの海賊にいそうな風貌だった。ゆっくりと低く話す言葉は、重く、思いやりの言葉でさえ一つ一つが威圧感を放っていた。

「お前さんは強力な助っ人だ。そのために()()()したんだろ。人脈の広さでな。期待してるぞ。お前の人脈の広さと異能の力をね」

「任せてください。期待に添えられるよう尽力致します」

 真っ暗に落ちた夜中は静かに月夜を輝かせようと一歩退いていた。

 私は夜が深まる前に家へと帰宅した。


 一方、彼はお開きとなった後、すぐに帰宅しなかったようだ。時間を潰し深夜まで待つ。闇に隠れた彼は誰もいない店前へときていた。下ろされたシャッターが寂しさを引き立たせる。シャッターの冷たさが静けさを感じさせる。

 それを叩きはじめる。

 向こう側から叩き返された。

「…………………………………………約束」

 言葉が闇の中へと消えていく。

「失敗は許されない世界です。君だからこそ、全てを打ち明け協力を煽った。それを理解して下さい。君にかかっているのですからね。この命──」

 脅しのように冷たいような、懸命さを混ぜこまれて強いような言霊。それが夜の中に溶けていった。



 この町にも現れている未確認生物、いわゆる怪物(モンスター)。その存在が無作為に周りを(けだ)し、最悪人間を殺害する。

 人間に向けて放てば容易く人を殺せる恐怖の兵器も、モンスターを前にすれば互角に戦うための通常武器に成り下がる。


 翼が生えたスライム型のモンスター。

 赤く丸いゼリー型の液体。その液体が零れ落ち地面に触れると周りに炎を吹き散らかしていく。

 そのモンスターは何かに触れると炎を出す存在であった。

 手榴弾の爆風や銃の銃弾なども効かないどころか、逆にそれが原因で死人を出していく。

 サイレンとともにやってきた消防車。

 水の放射が周りに燃え移った炎を消していく。

「そこの消防。ターゲットへの放水お願いします」

 自衛隊の作戦で水がモンスターに当てられた。水圧でゼリー型モンスターは消え伏せていく。物理に強いが水には滅法弱いモンスターであった。

 終わったとゆっくり休めそうな感じとなりかけたが、そんなことはなかった。

 続いて現れる鳥型のモンスター。同じような見たことない翼を持っている。人間を見つけると否や口を開く。そこから放たれる斬撃のようなものが人間の命の蝋燭を軽々しく消し去っていった。

「まだくるぞ。続くターゲットは斬撃を放つ。気をつけろ」

 それからもモンスターと彼らとの戦いは続いた。

 多くの被害を出してもそれは倒せないどころか、数少ない兵力も手薄となっていた。

 各地で現れるモンスター。それぞれに対処するためには人手が足りなさすぎる。休日返上、休憩皆無で命懸けで敵と戦っても、それでも人手が足りない。ましてや戦う事に戦える人間の数は減っている。

 地面に降りたモンスターは動くものを見つけるとそこへ向かって斬撃を放った。

「くそっ。このままではさらに人が殺される。傷を負って何もできなくなった私が情けない」

「よくやった。後は俺らに任せろ」

 私達はその場へとやって来ていた。私は負傷者の移動や応急措置など与えられた任務をこなせるように見ることになっていた。初めての仕事。やり方も何も分からない。見ることしかできない。

 私は偉に教えられながら人々の命を少しでも救っていった。

 モンスターと対峙するのは櫛渕だった。彼はなぜか金色に光る底の高い下駄を履いている。

「君の相手は私だよ。この私が相手になるからもう被害を出さないで下さい。お願いします」

 底が高いせいか歩きがゆっくりだ。

 徐々にモンスターに近づいていく。モンスターは容赦なく斬撃を放った。それなのに、彼は避ける素振りを微塵も見せなかった。

 もう斬撃が彼に当たってしまう。

 浮かびたくない想像が浮かんでくる。斬撃を受けた櫛渕が肢体がバラバラとなり生肉が地面に転がり落ちる。色を失い黒に染まった瞳と無念さを秘めた顔が何とも悲しくさせていく。そんな想像をしてしまった。

 斬撃が当たる──

 と思ったが、斬撃は彼に当たることはなかった。

 目を疑う光景だった。彼を透け抜いたのか、それとも彼の周りで消えたのか、斬撃は当たることなく終わった。

 何度も何度も放たれる斬撃。しかし、それは全て当たることはない。

「残念だけど、私には攻撃は当たりませんので、その点、ご理解賜りますようお願い申し上げます」

 獲物を狙う恐ろしい表情で、武器である刺股(さすまた)を手に取り、モンスターを地面に押し付けた。

 その刺股は特別製である。そこについていたボタンを押すと、先端から強い衝撃波が放たれた。その威力にモンスターは命を消した。

 モンスターは風に吹かれて消えていく。それがこの世に存在しないはずのモンスターの死に様である。


 全ての攻撃が無に還す。もしくはすり抜ける。

 まさに最強の能力だと思った。攻撃が当たらなければ、やられることもない。まさに無敵。

「十一時十分から四十分ぐらいか。退屈な三十分になりそうだ」

 金の下駄が地面に当たるとコツコツと音を鳴らす。

 私が緊急処置に忙しく動いている間に、救急車のサイレンが周りを赤く照らしていた。

 今回のモンスターの脅威を何とか退けた。

 が、まだこれはモンスターの内の一つでしかない。

 次の日もモンスターは現れた。日曜の伸びきった空気に穏やかな心でいた人々が恐怖で震えるようになった。それは午前中のこと。私は現場にきていたが、櫛渕が午前中に現場に来ることはなかった。

 人手不足の中、偉がモンスターと戦い、私と凛とで緊急処置を行っていった。

 傷ついた人を見ると胸が痛む。

 ドミノ倒しのように次々に押し寄せる死の恐怖と死にゆく人間。それが私の心に強く強く穿ち、風穴を開けていく。今やってることも段々と恐くなっている。

 少しでも誰かのためになりたい。終わらない罪償いを名目にして、心の底から助けになりたい。そう思ってやっていくけど、もう心は限界を迎え始めてきていた。

 考え事はまさに邪念だった。凛の「危ない」という声が聞こえていなかった。

 振り向くと、そこにはモンスターが襲いかかってきた。

 炎が飛ぶ。

 偉のお陰で無事に済んだ。

「大丈夫か……」

 大丈夫だ。いや、もしかしたら大丈夫じゃないかも知れない。私の心に空いた風穴は、自力ではとても治せる気がしなかった。

 真っ赤に燃える炎がどこか温かい。

 メラメラと燃える炎が私を包み込んでいった。

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