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十八譚 "操使"

「鳥かごの中の鳥は幽閉されていることを知る由もなくそれが当然とし一生を終える。あの世でその人生を幸せと勘違いし、神に再び奴隷(ペット)としての輪廻転生を望む」


 死体を囲んでいく水のベール。そのベールは勝手に動いていく。

 大男は何が起きているか分からずたちろぐ。


「死を踏み(にじ)るように生きる屍として使役しようともあの世にゆく者は知る由もなく幸せを味わう」


 死んだ人間が水によって操られていく。まさにゾンビのようだ。

 ゾンビが大男を襲う。

 大男は構わずゾンビを殴り飛ばしていった。


「死せば何も感じない。例えゾンビになろうとも。ならば、人間の死した後は何をしても許されるのでは無いのだろうか」


 ゾンビが何度も何度も襲い、何度も何度も蹴散らされていく。

 人間の尊厳は何度も何度も踏み躙られていく。


「死した人間の尊厳はその人間を慕う者の想像次第。残された者は記憶と想像で、死した者がこの世から完全に消えないように残す。死した誰彼を慕う生きし者が尊厳を作り守る」


 大男の前に出ていく凛。ゴム靴が水溜まりに入りパシャリと鳴っていた。彼女は美しい(ことば)を放ちながら敵と対面する。

 満身創痍になっている敵。

 スタンガンが地面に向かって放たれた。全体に広がる水溜まりを通って電気が蔓延した。

 ドシンでも、パシャンでもなく重く水を弾く音。

 水が動き彼を包み込んだ。

 動けない敵のすぐ近くに行くと体を触った。すぐに水を使って仰向けにさせ、すぐに解除した。

「心臓が止まっているけど、きっと脳は生きてるかもね。すぐに応急措置を取れば脳のみなら生き続けていけるよ。けど、それが本当に良いことなのかは分からない」

 山奥にやってくる潮風がとても心地よい。


「正解か不正解か。それは答えのない永遠の道。善と悪の狭間で迷い続けるしかない苦悩の問いである」


 私達は勝利の味を噛み締めれる時間を得た。

 だが、私はその味を味わっていいのか分からなかった。優柔不断な私は何も味わうことなく、悲惨な跡地を眺めることしかできなかった。



 建物の二階、人気ない廊下では暗殺者対決が終わろうとしていた。

 短刀をすり抜け刺さる錐、切り裂かれるナイフ。

「あなた、暗殺者としてまだまだね」

「これでも暗殺者ミケナの元で学び、その者に負けない実力をつけた暗殺者(アサシン)だ……」

「誰それ」

「師匠はかの伝説の暗殺者"獅子神"の門下生。その下で修行を得た我は選ばれし暗殺者(アサシン)

「つまり、弟子の弟子の弟子ってことね」

 血飛沫が舞う。

 ナイフが首を引っ掻き切っていた。

「動くと死ぬわよ。あなたじゃ、私に敵わないわ。弟子の弟子の弟子じゃ、実力不足だもの」

 短刀が床に転げ落ちていった。

 カランコロンとの音だけが響いた。

「誰からこんな暗殺術を教えて貰ったんだ」

「"獅子神"よ」

「はっ、伝説の暗殺者直々の弟子か。光栄だ。そんな奴に暗殺されるなんてな。いいな、我もその者に教えて貰いたかた。"獅子神"は女じゃないと受け入れてくれないもんな。いいな、女は」

「ほんとにそう思う? まあ、いいけど」

 死にゆく彼は目をつぶり、今までの人生を回想していく。

「我は、ずっと孤独だった。友達もいなくて、彼女もいなくて、いつしかネットしか居場所がなくなっていた。いつしか日の目を見るのが、人前に出るのが怖くなって……。一生、誰にも知られず生きていきたいの願った。そうして暗殺者として生き、こうやって死ぬ時も誰にも知られずに死せる。我まさに幸運なり」

 孤独の廊下で幸せな顔を浮かばせる死に顔。

 椎奈は先を急ぐが、行き止まりということを知り、非常階段へと戻っていった。



 一方、レオの方は変わらず鬼ごっこが続いていた。

 教室のように廊下側の壁が半分上だけガラスの部屋。執事は物陰を見つけマシンガンを放つ。ガラスは破壊されまくり、床や壁に銃弾が飛ぶ。

 立板に隠れていたレイは銃弾を拾う。

 打ち続けられていく銃弾。レイは堪らずその場から離れた。

 そこを狙う銃弾。

 何かに引っ張られるように動く動きを捉えきれずに、銃弾は未だに当たらない。

 部屋に隠れては銃弾が放たれ、廊下に出て、部屋に隠れてを繰り返し、ついに一周しようとしていた。レイは非常階段の扉を開けて、その中へと入っていった。

「非常階段ですか。階を変えるのですね。ですが、鬼ごっこは終わらしませんよ。出てきなさい。わたくしめが殺して差し上げます」

 執事が非常階段の中へと入っていった。

 下の階から金属がぶつかる音がする。執事は銃弾が落ちた音と察した。

「下の階ですね」

 彼は階段を降りていく。

 それがレイの罠だとも気づかずに。

 執事の持つ銃に上向きの力が加わる。彼は思わず離してしまいそのまま銃は重力に逆らって上に飛んだ。

 何故か天井に逆さまに立っているレイ。その手には彼が手放した銃を持っていた。

「今度は僕が鬼の番だねー」

「不可思議ですね。なぜ貴方様は天井に立っているのでしょうか?」

 マシンガンの銃口が執事に向かう。

「簡単なことだよ。天井に糸を通して輪っかを作ったんだ。そこに足を引っ掛けているだけだよ」

「糸……。なるほど、全ての種が解けました。糸を投げて引き寄せることで不可思議な動きをした、今先程銃が奪われた件においても糸を絡ませられたのでしょう」

「正解だよー」

 諦めたように、ふっ、と笑う執事。彼の目は死を覚悟した目だった。

「最後に質問よろしいでしょうか」

「いいけど、はやくしてね。今頭に血が上ってるからさー」

「貴方様は何者なのでしょうか」

「僕は獅子神……レイ。単なるホーレのアルバイターだよ」

 何故か納得したように頷いた執事。獅子神。その名前が全てを理解させた。

「なるほど。獅子神ですか。確か伝説の暗殺者一家でしたね。まだ表しか知らぬ無知な頃のわたくしは女のみの獅子神家とその周りを女の園と思っておりまして、一度出会ってみたい集団と思っていました。あの頃が懐かしゅうございます」

「僕は……あの時のことを思い出したくもない」

 銃弾の嵐が舞う。雨音に変わる金属同士がぶつかる音が非常階段の中に響き渡っていた。

 赤い雨の痕。

 レイはその上に降り立った。

「嫌なことを思い出してしまった。最悪……」

 金属を踏みつける音が虚しく響いていった。

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