十六譚 結成救出チームHoLE
「次は奈路の技名も考えなきゃな」
「私はパス。必要となったらルーティーンの型でも考えとくから大丈夫」
私達は家に向かう道を歩いていた。
その時に怪しい人とすれ違う。
フードをつけて頭を下げてるから分かりづらかったが、顔には仮面をつけていた。
振り向くと、その人はいなくなっていた。
すぐ近くに曲がり道がある。すぐにその人はそこを曲がったのだと気づいた。翔を置き去りにして私は追うように走った。
曲がった道の遠くに目的の人はいた。しかし、すぐに曲がり道を曲がる。追ったもののすぐに見失った。
あの仮面の人が頭から離れない。
ベッドの中。夢の中で現れる仮面の存在。
「ボクの仕掛ける罠をよく潜り抜けてきたね。感心するよ。けど、次の罠はどうかな。キミは生き残れるかな」
不吉な予兆。
それは幻影で、虚影で、全て私の想像でしかない。それでも、予知夢のように思えてくる。
思わず目を開けた。
時刻は五時半を示している。二度寝する気分じゃない。私は学校までの時間をダラダラと過ごした。
その日の午後。私はいつものようにホーレでバイトをしていた。
カランコロン。
お客だ。私達は「いらっしゃいませ」と奏でる。
「ええ、お邪魔させて貰いますわ。わたくし、ある人に用がありまして来ましたの」
お淑やかな印象だ。氷の結晶の模様が美しい。さらに、彼女の持つ扇子がどこか昔の様相を思い出させる。
「お客さん。誰かの知り合いさんですか。もし良ければサービスしますよ。それと、用があるのは誰でしょう」
「いいえ。知り合いではありませんの。わたくし、上からの使命を受けて会いにきただけですので。それで用がありますのはあなたですわ。黒崎黒さん」
扇子が振られる。
それに合わせて床から幾つかの氷柱が飛び出してきた。机や壁、器具が破壊された。
思わぬ死の感覚に頭が混乱する客。彼らは逃げ惑う。
「お客さん。はやく逃げろ。俺も分からねぇが、ここにいちゃ危険そうだ」
ここにいるのは黒、偉、レイ、そして私。何とか彼女を倒すことは出来そうだが、彼女が黒を人質に取り身動きが取れない。
「おいおい。俺に何のようだ。それに、俺にしか用がないなら他人を巻き込んで貰いたくないのだがな」
「あなた、魔力石の在り処を知っているのでしょう? 教えてくれません」
扇子が首元に当てられる。少しでも動かされれば一溜りもなさそうだ。
「すまないな。俺はしがない喫茶店の店長だ。魔力石? 知らねぇな」
「つまらない嘘ですわね。あなた公安でしょう。調べはついているのですのよ」
黒が何かの合図を取った。
偉が動く。氷柱を蹴り空中を跳んでいく。炎をまとった蹴りがを行うが襲う氷柱によって吹き飛ばされた。
「流石ですわね。露呈よりも死。きちんと訓練されてますわね。まあ、実力差が足りてませんですけど」
黒はその場で気を失った。
「安心してください。急激に体温を奪って一時的に意識を失わせただけですので。まだ拷問が残ってますもの」
店の中を襲う猛吹雪。その吹雪に隠れ、その女と黒はその場から消えてしまった。
偉が彼女を追って出ていった。
虚無感のみが残った店内。壊れた机などを一つの箇所に移動させていく。床から飛び出た氷柱がとても邪魔だ。
チナポブラナと言うらしいメキシコの衣装が氷柱に引っかかり、所々切り裂かれる。その度にイライラが湧いてくる。いや、これは黒が人質に取られた時に何もできなかった時の苛立ちだ。きっとチャンスがあっても私は何もできなかった。
偉が帰ってきた。
悔しい感情が伝わってくる。
飛び出る氷柱を強く殴りヒビを入れた。
「すまねぇ。見つけきれなかった……」
一粒の涙が見えたような気がした。それは彼の持つ炎の異能によってすぐに消えるため、気の所為のようにも感じられた。
「『火魔・御神火』この氷柱を溶かして、一度店をリセットする」
店外から店内に現れるマグマを眺めていた。
氷柱は溶けて消えていったが、残ってた机や器具の残骸も巻き込まれていった。
その後、マグマはひき、私達は店の中へと入る。
店内に残ったのは広い瓦礫のような残骸のみだった。
偉は窓にもたれかかり、外の景色を見ながら口を動かしていった。
「マスターの黒さんに代わって俺が連絡する。すまないが、明日から一時的にホーレは休業する。黒さんの件は俺に任せてくれ」
また、一人で背負うつもりだ。今度はきっと命を落としそうな気がする。
「ねー、任せてって、どこに行ったか分からないのに大丈夫?」
「警察に連絡して捜索して貰う。海外にさえ逃亡していなければ、数の力で見つけ出す。見つかったら俺が乗り込めばいい」
覚悟を決めた目。それを見るとどこか虚しくなる。私達のことも頼って欲しいと心の底で思っている。
「おい、大丈夫か。何が起きたんだよ。これ」
翔だった。
急いで来たようで汗がひっきりなしに流れ落ちていた。
「これは、まあ、見事にやられてるね」
続いて、椎奈がやってきた。
さらに、凛も来た。
私達には何故彼らが急にやってきたのかは分からなかった。訪ねると、凛が呼び出したのこと。
「幾つかの盗聴器が壊れたから何事かと思って、ホーレに仕掛けた監視カメラみたら大変なことになってたから、急いで呼び出したの」
少し聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がする。
静まり返っているホーレに似合わないトーンで提案されていく。
「それでね、皆さんでマスターさんを助けにいきませんか」
「駄目だ。椎奈や奈路達はまだまだ子どもだ。そんな危険なことはさせられねぇ」
親心のようなそんな優しさが心を痛ませる。優しさによる棘。分かってるからこそ、痛いものがある。
「大丈夫ですよー。雷を操る女から無事逃げられたのでしょう。それに、私が拉致られた時にも争いに勝ったし。数々の修羅場を経験してるあなた達ならきっと無事ですよね」
「そーだよ。ここにいるのは元暗殺者かマスク所持者だからね。それに、電車の線路だってみんなで歩けば恐くない、の精神大切にしよーよ」
いや、例えが悪すぎる。
そんな突っ込みもでない程にこの場は既に凍りついていた。
偉はまだ納得いかないような顔をしているが、表面上では認めないとは言いきれなくなっていた。
「では、明日の朝からでも敵の陣地に攻め込みましょう。早い方が敵に準備をさせないと思いますので」
「いや、明日って、居場所が分からないのにどう攻め込むの?」
「あら、言い忘れてたわ。マスターさんね、プレゼントした財布を使ってくれているんです。財布の中にはバレないようにGPSと盗聴器が埋め込まれてるから敵の場所が分かるんですよ。まあ、盗聴器は先程の襲撃で壊れてしまいましたけど」
私にプレゼントしてくれた熊のぬいぐるみ。その中にはGPSと盗聴器が仕込まれていた。怖くてそれは土の中に埋めたが、黒はそんなこと露知らず持ち続けていたのだろう。
「ちょっと、待て。なぜそれが埋め込まれているんだ」
「私、小説家なんですよ。職業病のせいか人間観察が趣味というか生活の一部で、思わずそのためにそれを仕掛けちゃう癖があるんです」
「すまん。それ犯罪なんだが」
その突っ込みは凍りついていたこの雰囲気の中に飲まれ言われなかったことになっていた。
意志は攻める方へと傾倒していく。
「そうだ。澪ちゃんはどうする? 呼ぶ?」
「澪は来ないよ。攻めるの明日っしょ。明日は金曜日、つまり平日だからさー、澪は来れないよ」
レイは澪が来ないということを知っていて、澪が来ないことを伝えてくれた。
ここにいるメンバーで明日攻めることになった。
そこに現れる一人の男。
「おい。俺様も連れてけ」
リスタだった。半分以上のメンバーが「誰?」と首を捻った。
「宇垣リスタ様だ。牙狼会のボスだ。覚えておけ」
何故、彼がここに来たのだろうか。
「俺らのシマを荒らしてた奴らの元へいったが返り討ちにされ牙狼会の子分らが殺られちまった。で、世話になった分を取り戻そうと奴らを追ってたらここに来ていたって訳だ」
「つまり、負けたから復讐したいという訳だ」
「はぁ? 侮辱してんのか、てめぇ。俺様は協力してあげようとして来てやってんだ。なんなら、奴らをぶちのめす前に今てめぇらをぶちのめしてもいいんだぜ」
「止めとけ。一人じゃアイツらには勝てないし、そもそも俺らにも勝てない」
「なっ。調子に乗りやがって。ぶちのめしてやる」
偉とリスタの喧嘩を収めるのに必死になってその日は無駄に疲れてしまった。
この日は解散となり、それぞれのホームへと戻っていった。
そして、必ず地球に明日は来る。
私は学校に行くフリをして家を出た。高校生のいつもの日常を装いながら、私は学校をサボってホーレへと向かった。
「制服? 私服で良かったのに」
翔に至っては親と協力し、学校には風邪を装ってやってきていた。彼曰く、私に風邪をうつされたという設定らしい。勝手に巻き込むなとは思うが、怪しまれなくなるならまあいいか。
他のメンバーもぞろぞろと集まってきた。
そして、最後に凛が来て、黒崎黒救出チームが出揃った。
「行きましょうか。敵の麓へ。静凪の中、獰猛な逆鱗に触れる。その気分は如何に。はやく感想を聞きたいな。楽しそうだよね。俄然楽しくなってきちゃった。はやく潰しましょう、愚者共を──」
マスクを持つ五人。
炎を操る偉。蔓を操る翔。雨を降らす私、奈路。水を使って人をあやつる凛。全てを喰らう牙を持つリスタ。
そして、ホーレでバイトしている元暗殺者二人。
錐やナイフを扱う椎奈。戦闘方法はまだ分からないレイ。
この七人が彼らから黒を奪い返しに敵陣へ向かっていった。