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十四譚 対決 女漢

 遠慮なく攻撃してくるオメメ。

 無数に伸びていく蔓が私達の位置を動かし安全な場所に移動させる。さらに、その蔓を使ってオメメと一定の距離を取っていった。

 無数の蔓が鞭のようにしなり襲う。

 雷撃の波動が蔓を斬り裂いていき、攻撃を防いだ。

「必殺『十五(フィフティーン):食虫(インセクト)植蔓(しょくまん)色彩(コントラス……)……』……やっぱり恥ずかしくなってきた。今の聞かなかったことにして」

 蔓が棚を抉りとり、その棚をぶつける技だった。それだけ見れば非常にカッコイイが、翔の台詞が台無しにさせた。

 雷撃の衝撃波。

 棚は砕かれて蔓は切られた。

「死になさい」

 両腕が真っ直ぐ伸ばされる。その腕に帯電し始める雷撃。

 放たれた超電磁砲は棚やレジを破壊し、奥側に見える結晶をも打ち砕いていた。焼け焦げた床がそのおぞましい威力を教えていく。

「危なかったー。サンキューな。えーっと」

「椎奈と澪よ」

「椎奈さんと澪さん」

 糸に括り付けられた翔は二人の手繰り寄せによってその場から回避することができていた。

 無数の蔓が襲い始めるが悉くオメメの放つ雷撃に消されていった。

 遠くから糸で操られる錐やナイフがオメメに当たるが、硬い筋肉が刃を通さない。

「………………………………Shit」

 体から放たれる衝撃波が私達を吹き飛ばす。間髪入れずに放たれる小さな雷の連撃が私達を襲った。

 命に関わるような攻撃ではなかったが、体が動かない。

 みんな体が麻痺したように動けずその場で倒れているしかない。

 そんな私達に向け、オメメは両腕を真っ直ぐ伸ばした。また、あの超電磁砲が放たれる。これを受ければ終わりだ。

「死になさい!」

 ついに放たれた超電磁砲。眩くなっていく光を前に目をつぶった。

 瞼の中で暗いはずの場所に場違いな光が差し込み、それが赤くなっていく。いつしか普通の黒色になった。

 死んだ、とタカをくくってはいるものの死んだ気がしない。

「『三十(サーティーン):とりあえず高い壁』」

 床に張り巡らされた蔓。その蔓が床を切り離し、それを立てることで壁にした。床の壁が攻撃を防いでいた。

 私達は翔の機転によって死なずに済んだのだ。

 壁が敵の様子を遮る。

「畳み掛けるよ。『四十(フォーティーン):まだ技名はない』」

 壁が前へと倒れる。

 床の壁がオメメを潰しかけた。彼女は周りにバリアを張り巡らし潰されずに済んでいる。

「この技は潰すだけじゃ終わらないよ」

 蔓が床を崩していき、オメメを巻き込んで床を落下させた。

 落ちていく床が地下の床にぶつかった。

 穴の空いた床を見下ろす。

 壁の狭間で抵抗する音が聞こえる。それを見て、彼女はすぐにはここへと辿り着けないことを悟った。

「今のうちに行きましょう!」


 レジを通り過ぎると再び吹雪が襲う。

 ほんの数歩で出入口へと来たが、そこは巨大な氷柱が道を防いでいた。

「そう簡単には行かしてくれないよね」

「私、の、攻撃。きっと、壊す」

 四次元から取り出されたハンマー。しかし、氷柱はいっこうに砕ける気配がない。

「僕に任せて」

 翔は吹雪の降らない場所へと戻ると、蔓を出して壁を貫通させていった。そのまま壁は切り離され外へと通じる道がこじ開けられた。


「やっと、脱出だー!」


 明るい日差しの下にきた。

 喜びを分かち合い、希望という温かさを感じていった。

 近くにいた警備隊が重ね重ね現れるが、私達は事情を説明することですんなりと通してくれた。

 そして、青い制服を着た彼らに連れられ署にて事情聴取されることになる。そこで全てを赤裸々に伝えた。


 暖かいモーフに包まれながら、ストーブでさらに暖まる。

 吹雪の寒さで下がった体温が徐々に元通りになっていった。

「大丈夫か。奈路」

「翔。良かった。無事で」

 私、翔、小林の親だ。

 駆けつけた父は私に抱きつき泣いていた。

「死んだかと思った。まさかテロに巻き込まれてたなんて。良かった。良かった……」

 そこに黒が辿り着いた。

 青い制服のもの達は敬礼をし畏まる。


「俺にも聞かせてくれないか。何が起きたのか──」


 椎名と澪の保護者として現れた黒はどこか謎めいている。

 二人は内容を忠実に伝えていった。


「氷系異能。電気系異能。異能が二人とは流石に厄介だな。よく無事に逃げきれたもんだ」


 彼が頷いている時に、ふとゼットが手を挙げた。


「私、も、情報、ある。私、人違い、された。口封じ、の、ため、殺されかけた。店、に、逃げた、も、追ってきた」

「すまん。片言で分からない。もっと詳しい情報が欲しいな」

「私、その集団、に、拉致、された。集団、ケー、探してる。ケー、から、魔力石、の、場所、聞きたがってる。私、公安、違う。それで、人違い、気付かれた」

「つまり、ケーと呼ばれる公安から魔力石を聞きたがっているってことか。それで、名前が同じケーだから間違えられ拉致られた。それで、脱出してショッピングモールに逃げ込んだんだろ?」

「そう。口封じ、の、ため。ショッピングモール、全て、破壊、してきた」


 黒はポケットから煙草とライターを取り出し、その場で蒸かしはじめた。


「なんちゅう極悪集団なんだろうな。それよりも、なぜそのケーって奴が公安なんて分かったんだ?」

「私、知らない。ボカロ声、の、人間。そう、言ってた」

「まあ、何にせよ、お前らが無事で良かった。疲れたろ。場所を移そう。俺の店で振る舞うぜ」


 警察署から解放された。そのまま黒に連れられ、ホーレへと移動した。

 それぞれの机に、温かい紅茶やコーヒーが出される。

 さらに、軽いお菓子が用意された。


「まあ、ゆっくりしていけ。それと親御さん、代賃は要らないので遠慮なく貰って下さい」

 私達も親達も一緒に温かいそれを飲んだり食べたりしていった。

 結局、死にかけて買った商品も全て消え損をした一日だった。

 翔だけは新たに得たマスクがあり得をしたと言えよう。

「その蔓能力は知人が持ってた奴だ。だから、よーく知ってる。が、よくつけようと思ったな。まあ、そのお陰で助かったとも言えるがな」

 黒曰く、マスクは基本一人一マスクのようだ。

 誰もつけていないマスクはまだ異界のオーラ的なものの排出が少ないと言う。この排出によって、異能の力を使えるようになる。マスクをつけると、徐々にそのオーラが注ぎ込まれ人間はその能力を使う。時間が経てば経つほどオーラの排出量も増える。

 オーラの排出量が増えたマスクを他人がつけると、その他人は排出されるオーラに耐えきれず死んでしまうらしい。オーラに耐えきれる可能性は五パーセントと呼ばれ、基本的には他人がつければ死ぬということだ。ただし、被検体の数も少なく、今後この情報は変わっていく可能性があるようだ。


「これからも異文化喫茶ホーレをよろしく頼みますよ」


 今日とてもイレギュラーなことが起きたのに、今はとても心が落ち着いている。ホーレ独特の雰囲気が私を優しく包み込んでいる。

 きっと明日も変わらず営業するだろう。

 ホーレ。私はここに愛着を感じていた。

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