十二譚 公安警察官 ケー
ナイロンの市販マスク。そこには黄色で描かれた模様がある。そのマスクから放たれる雷撃が一瞬でその場所を襲う。焦げた床や壁から煙があがった。
鳴り響く非常ベルの音。
逃げ惑う人々。
今しがた襲われた警視庁は混乱に陥っていた。最大級の武力も、マスク所持者を前に無力。銃はオメメを囲う稲妻のバリアに邪魔され届かない。
オメメは誰もいない所を殴った。空間が歪み、空間が壊れ、強い衝撃波が生まれる。そこに電撃が加わり警備する者達を一網打尽にした。
あまりの脅威にたじろぐ人々。
畏怖が伝播していく。
「そこの馬鹿。警察の本拠地を襲撃するなんて馬鹿にも程があるだろ」
威風堂々、それを具現化したような男が立ち向かう。
立体型のマスクを着けていく。そのマスクは蔓の模様が描かれていた。
「……………………precious」
世界にひと握りはか存在しないマスク所持者。そして、滅多にないマスク所持者同士の戦いが始まった。
彼は腕から無数の蔓を伸ばし、対岸の凸凹となる壁を掴む。蔓を引き戻していくと、彼自身が壁へと引き寄せられていった。勢いよく向こう側へと移動した彼はそのまま回転する。爆発的なスピードから生まれる力を回転することで上手く落とし込む。
長く伸ばされた蔓。鞭のようにしなり彼女を狙う。スピードから生まれるパワーが上乗せされ、強烈な威力の鞭が進む。
「……………………………………oz」
太い腕に雷撃を絡ませ床を殴る。その時に出来た衝撃波に雷撃が重なり、さらに硬いバリアを作り出した。
蔓がバリアに当たり、木っ端微塵となった。
両腕を真っ直ぐ伸ばし敵に向ける。
「うわっ。これはヤバいね」
超電磁砲が放たれる。強力な一撃が周りの塵や屑を吹きあがらせ、その場所全体に広がった。砂煙が舞う。
「自分で言うのもなんだが、俺は警察の中でも最強の存在。それと互角なんて、こりゃ恐いね」
蔓が地面に張り巡らされ、彼を守るように蔓の壁が作られている。無数に絡まる蔓が大砲を防いだのだ。その蔓は彼から切り離され、その瞬間萎み枯れていった。
蔓がオメメを掴む。そして、その蔓を引き戻していった。
彼はオメメの方へと引き寄せられていく。
「足腰確りしすぎだろ。人間なのか」
「…………………………………uhg」
タイミングよく腹パンを当てる。その攻撃に雷撃が混ざりあって彼の体に風穴を空けていた。
「くそっ。俺はここまでなのか」
血を吐き出しながらその場で蹲っている。
動けない彼の元へといき、マスクを奪い去った。
「それで能力を奪ったと言えるのか。適応者は易々とは現れないぜ。まあ、奪われる気もないけどな」
オメメに向けられた四十五口径のクリミナルガン。その引き金が弾かれる前に彼の体には、地面から生える巨大な氷柱に貫かれていた。
「気長に待てばいいじゃないかしら。もう聞こえてはおられないでしょうけど」
目のみを隠す仮面。それを着た謎の存在がやってきていた。
印象的な扇子を開き扇ぎ始める。
「単純馬鹿ですわね。注目を集めて欲しいとは言いましたけど、まさか後々厄介事になりそうな暴動に出るとは思いませんでした。それは元より、一筋縄では行かないようですよ」
二人でその場から離れていく。
広がっていく雷撃が人々を寄せ付けない。
彼女らが外へと出ると突然と強烈な猛吹雪が吹き始めた。吹く雪の嵐が視界を奪う。忽然と彼女らは姿を晦ました。
一度の出来事で荒れ果てた建物の中でケータイを開く男。
緊急事態を目の前にしても、焦りを上手く隠していた。
『どうした?』
「つい先程、警視庁が狙われた。すぐにテレビでも放送されるだろう。それよりも大変なことになった」
『警視庁が狙われた時点で大変だろうに、さらに何かあるのか』
「ああ。それもこれも全ては奴らの仕業だ。目的は魔力石だろう」
『奴らか。最近、奴らの主犯格と思われる人物によって魔力石の件が表沙汰となった。これからまずい展開を迎えていきそうだ』
「ああ。そして、魔力石の直接な情報は自己犠牲により防げたが、ケーに繋がる情報は流出した。何をしたか分からないが、奴ら奇妙な方法で情報を集めている気をつけろ」
『任せろ。これ程とは思わなかったが油断ならない事が起きると踏み、わざわざ危険を承知でこの任務を進んで受けたんだ。ヘマはない。何があれば……抹消すれば良いからな』
そこでケーは通話を閉じた。ケータイは何も音を出さなくなった。
ケータイが折りたたまれた。
彼はこの瞬間、そこで健闘を祈ることしかできなかった。
◆
『自己責任の精神はやはり侮れませんね』
通話の中で放たれる機械音の存在。怪しい女は侍女に持ってもらっている携帯を通して会話をしていた。
「そうですわね。それでも、公安の"ケー"が魔力石に深く関わっていることは大きな収穫でしたわ」
『大きな収穫とは思えないね。キミ達がケーを見つけ出し魔力石の在処を絞り出せれば、キミ達の働きを認めてあげるよ。このままで終われば、キミも役立たずと同じだよ』
「ご安心を。わたくしはヘマは致しませんので」
『期待してるよ』
通話が終わった。
彼女は立ち上がり近くの机の前にきた。
パリン。彼女は怒りのまま蹴り、その机を木っ端微塵にした。
「イラつきますわね。そう思いませんか。オメメ・デンゲキさん」
与えられた情報は、ケーと呼ばれる人物は公安警察であり、魔力石の在処を知っている。現在、とある町にいるという噂がある。それだけだった。
八つ当たりで物を壊しても何も起きない。
彼女はオメメを連れて、その町へと向かうことにしたのだった。
彼女は召使いを使い探偵の業務をやらせた。
そして、ケーという人物を特定した。
ガチャガチャが陳列する「ガチャカプ」との看板が目立つ店。その中へズカズカと入っていく。
店奥のカウンターで立っている男性。ガタイのいいブラジル系の男だった。
「いらっしゃい、ませー」
そんな言葉はどうでもよかったようだ。
「貴方がケーかしら? 魔力石はどこにあるのか教えてくれませんか」
「私、ケー。魔力石、が、何?」
扇子が喉付近につけられる。
首に軽い擦り傷がつけられ、そこが凍る。
「惚けても無駄ですわ。教えてくれませんと拷問することになりますわよ。もちろん、自殺はさせませんし、楽には死ねませんのでご安心を」
にこやかな笑みを浮かべながら彼を急き立てる。
突然なる出来事に冷や汗が止まらないゼット。
「ま、魔力石、わ、は、中国、の……」
「中国のことではありません。どこまで惚けるつもりですの?」
彼女は右手を挙げた。
それを合図にオメメがゼットに近づく。
「長話をするのは疲れることでしょうから場所を移しましょう」
スタンガンが当てられるみたいにゼットを襲う電気。それが彼を気絶させた。そして、誰もいない廃工場の中へと運ばれたのだった。
誰もいない廃工場。屑鉄と化した機器が転がっている。
目を覚ましたゼットは縄で縛られていた。
「吐きなさい。そうすれば楽になるわよ」
彼女が拷問開始しようとした時、その場に居合わせたウォンが止める。
「…………………………………ムムウ」
「彼、言ってるわ、拷問したい」
彼女は身を引いた。
ウォンは怒りを見に任せゼットを痛みつけていった。
「殺してはいけませんわよ。彼から情報を聞き出さなければいけませんもの」
拷問は長く続いた。
ゼットの言う言葉は「分からない」のみ。その答えに満足をしなかったため拷問は未だに続行している。
終わる気配がない。
時間だけが過ぎていく。
「電話きた」
静かな工場に響く機械音。
『その人は狙ってるケーとはまた別人だよ。名はケー・ロ・ゼット。しがない店の店長で、公安とは関わりはないようだ。無駄足だったみたいだね』
無意味な時間を過ごしていた。
雷鳴が鳴り、吹雪が舞う。彼を殺さんと天変地異が起きかけていた。
『それと、殺すならはやく殺した方がいいよ。邪魔者がくるかも知れないね』
そこで機械音は消えた。
「ごめんあそばせ。手違いだったみたいですわ。口封じを兼ねて、わたくしが楽に殺してあげますわ」
扇子がゼットに向けられ振られそうになった。
月夜の下、誰もいないと考えられたその場所に来客者がやってきた。それによって、ゼットを殺す攻撃は一旦止められた。
「おい、てめぇら、何モンだ?」
宇垣リスタ。この町のヤクザだった。
「って、てめぇは硬岩組のボスじゃねぇか。まぁいいや。ここは俺ら牙狼会のシマだ。勝手なことしてんじゃねぇよ」
極道は人々から疎まれる存在である。薬物、銃刀法違反、暴力、様々な違法をすると警察からの目が光り、さらに酷しい立場に置かれる。それが、牙狼会の人物ではなくても、だ。だからこそ、ある程度の秩序が必要なのである。
彼らのせいで牙狼会が不利な立場に置かれる。
元々、牙狼会は違法なことを認めていない。その秩序の中で生きている。郷に入っては郷に従え。彼らに求めているものはそれだった。
「殺しなんざ、つまらねぇことすんな。俺様が直々に殺さない喧嘩ってもんを教えてやってもいいぜ。ついでに俺様の下についてもいいぜ」
容赦なく雷撃が放たれる。しかし、その雷は野獣によって喰われ消えた。
「おいおい、誰だと思ってる。リスタ様だぞ。喧嘩うる相手間違えてねぇか」
リスタの後ろから続々と現れる牙狼会の人間。
オメメらは敵意を彼等に向け始める。
その時を待っていた、と言わんばかりに、ゼットはその場から逃げ出した。器用にも彼らの持っていた特殊なマスクを奪い、その場から離れていく。
逃さまいと繰り出される巨大な氷柱もリスタの繰り出す野獣のパワーで相殺される。
その間に、ゼットは暗闇に消えた。
その場に残るのはリスタら牙狼会と相対する謎の集団。
「あら。これは面倒なことになりそうですわね」
「…………………………………ムムム」
敵意が向かい合う。
「死んでもお悔やみなく」
「ふん。勝つ気でいんのかよ。ありがてぇ頭だな。いいぜ、俺様直々に現実ってもんを教えてやんよ」
二つのグループによる抗争が起きた。
超常現象のぶつかり合いが工場の原型を崩していった。