十一譚 高校生
「なろろん。昨日はごめんね」
日付が変わった途端、昨日のことなど忘れたかのように心配する和名田。変に偽善者ぶるこの女に愛想を尽かしている。彼女自身で絶交と言ってきたが、今では私が絶交したい気分だ。
「昨日のこと許してないから」
「ごめんってば。友達でしょ。友達ならもう水に流そうよ」
どの口が言っているのだろうか。
高校生の交友関係。私はどこかで失敗したのだろうか、こんな友達関係になるなんて思っていなかった。
彼女は用事があるからと言って、どこかへと行ってしまった。
ため息を吐きながら机に頭を被せる。
「なろろん、大丈夫?」
友達の小林だ。私の雨の力で彼氏ができてからあまり遊ばなくなっていたが、大切な友達には変わりない。中学生からの仲だった。彼女になら今の複雑な気持ちも打ち明けられると感じた。
休み時間に、かくかくしかじか打ち明けていく。
彼女はそっと優しく手を置いた。
「縁切っちゃえばいいじゃん。そんな奴、友達とは言わないよ」
その言葉に勇気を貰った。悩みの靄は少しづつ消えていった。
「なろろん。彼氏できるといいね。彼氏、いいよ。悩み抱えても一緒に悩んでくれるし。心の支えにもなると思う」
彼氏か……。今まで彼氏なんていなかった。そのせいで、私に彼氏なんてできるのか不安だ。自信は全くない。
掃除の時間となり、黙々と清掃する。幼なじみの翔は退屈そうに箒を振っていた。無言の時間。その無言を私は打ち砕く。
「私に、彼氏ってできるのかな」
「できるよ、きっと。すぐ近くに奈路のことを理解してくれてるかっこいい男もいるんだしさ」
彼が例えている男は誰かは敢えて分からない。
かっこいい男。その言葉を聞いて、一人の男が思い浮かぶ。
私がホーレを辞めさせられる時に強く頭を下げた偉の姿。もし彼が彼氏になったら。なんて考えている間に掃除の時間の終わりを報せるチャイムがなり始めた。
「なぁ、奈路の雨を降らす能力って魔力石のお陰なのか?」
掃除道具を片付けている時に、彼はそんなことを言った。
魔力石……初めて聞いたワードだ。すぐさま「何それ」と聞き返した。そうすると、さっきスマホで見た情報だと言った。
「学校でスマホ触ってたんだ。ふーん」
「いやっ、その。いやー、気のせい」
学校でのスマホの使用は禁止。校門前で電源を切らないといけない校則がある。彼は容易くそれを破っていて、そのことを指摘したらシラをきっていた。その様子はとても滑稽だ。
私は真面目にその校則を守っていたため、その情報はまだ入ってきていない。スマホの電源をつけ、トップニュースでも見ればすぐにでも分かるだろう。ただ、今ははやく知りたいという気持ちが勝っている。
「それで、魔力石って何?」
「世界に四つあるらしい不思議な石らしいんだ。で、それを壊すと超常能力を与えるモノが現れるらしくて、もしかしたら雨を降らせるのはその力なんかじゃないかと思うんだよ」
魔力石。もしかしたら、私の雨雲の能力はそれが原因なのではないのか。私は家に帰ったらすぐさま調べることにした。また、明日のバイトでホーレの人にも聞くことにした。
魔力石と呼ばれる不思議な塊が四つ存在する。
それは地球の中に存在する異界とを結ぶ次元の穴を閉じ込める不思議な石であったが、人間の科学力により我々の手に渡った。
それらを壊すと異界に通じる穴が開き、不思議な力を与える源が散文する。それを野放しにすれば大災害が絶え間なく発現する。天才に値する人間が、その源を吸収する器を作ったため災害は起こらずにいる。その器こそマスクであった。
現在、魔力石が一つ壊されている。それによる結果、森羅万象、超常の力を持つ人間が現れた。これ以上壊されると、さらなる災害が起きる可能性がある。
「だからこそ、魔力石は守らなければならない」
偉は何故か魔力石に詳しかった。
その説明を一回聞いただけではなんの事かさっぱり分からない。が、前座としてスマホで調べていたので何となくは受け入れられる。
異界なんて信じられない、と思ったが、私の受けた非日常を考えていくと、すんなりと受け入れられた。
仮面をつけた謎の存在がツイートであげていた情報。
そこには、魔力石わ壊すと、考えられない有り得ない能力が手に入る、と書いてあった。その詳しい例が載る。
次に、魔力石を壊さなければ、上層部だけがその能力を保持し、格差が固定、広がるだけと書いてあった。
最後に、魔力石の一つの詳しい場所について書いてあった。全てが中国語であまり分からないが、コメントを見るに具体的な場所を示しているようだった。
◆
覆面男はすぐに釈放されることになった。
そして、釈放後、彼は姿を晦ました。裏で何かが働いていたのだと、勘のいい人間は疑いはじめていた。
「………………………ム」
土下座をしている李ウォン。彼は覆面男と呼ばれていた男である。その時に放っていた威厳はなく、今はただ彼(彼女?)の椅子となっていて威厳の欠片もない。
ゴツゴツした背中の椅子に座りながらスマホをいじっている。
仮面によって感情は見えない。
男(女?)の声はマスクにつけられた機械によって声を変えられていた。機械の声がそこに響く。
「ツイートした。上手く行けば中国の魔力石は破壊できるよ」
「流石です。────様」
薄水色のドレスを着ている女性は微笑む。どこか現代とはかけ離れた衣装。彼女はどこかの貴族のような格好をし、氷の色の扇子を扇いでいた。
「アメリカの方も無事上手く行きそうですわ」
「後は、日本が問題だね。こいつが失敗したからね、手間なのは仕方ないよね」
仮面の人は長いマントの下で足を組んだ。
右指を仮面の口元に当てる。
「今度は、オメメに任せよう。やり方は任せるから、必ず見つけ出して壊してきて。魔力石……」
ガタイのいい女の人。傍から見れば男に見えるだろう。
その女は片膝をつき丁寧に頭を下げた。
「………………pleasure」
暗く深い闇の中。仮面の存在は暗闇の中へと消えていった。光もつけず、どこへ行ったのかは分からない。
イウォンも光をつけずただそこから出る。彼もまた暗闇に消えた。
オメメもその場から消えようとした時、貴族風の女が止める。
「オメメ・デンゲキさん。わたくしにのみ、教えて下さらない? どのように魔力石を見つけ出すのか」
「警視庁を狙う」
怪気味な笑みを浮かべている。
「それならあの方の協力を得ないといけませんね。それと、わたくしも協力致しますわよ。世界の支配なんて、あまりにも突飛すぎますもの。まずは日本を支配致したいですの」
その場所は一瞬にして吹雪が吹き始め、雪の中に彼女らは消えていった。