友達と言う名の戦友が出来ました 3
「って、ちょっと待ったあぁぁぁぁ!!」
「えぇ!?ど、どういたしましたか」
「主ってなんだ、主って!」
「え、契約しましたよね?というか、そのために呼び出したんじゃないんですか?」
「え...?」
「え...?」
「もしかして...興味本位で呼び出したんじゃ...」
「...」
な、何も言えない。図星だからなにも言えないじゃない。
ほら、メルが呆れた顔してる。
そ、そんな顔しなくても。
美形が台無しだゾっ!
「ごめんなさい...」
私は素直に謝った。
すると目の前の精霊メルが、長い長い溜息を吐いた。
「あの...取り消しなんてことは」
「出来ません、というかしません」
えぇ...?なんでよ。
「僕は、貴方に命を救われたんです、だから出来ることなら、貴方の力になりたい...恩返しをしたい...しいて言えばずっとお傍に居たいです!」
「えぇっ...!?」
「だからお願いします、契約破棄なんて、そんな酷いこと言わないでください...!」
そう言いながら、メルは頭を下げた。
心なしか声も震えていて、少々涙声である。
別に、メルが嫌いとか、そういう事じゃない。
それに、いくら攻略対象とは関わらない!といってもこんな必死なメルの誠意を無碍になんてできるはずがない。
ただ...。
「ねぇメル...もしも主人が死んだ場合、精霊はどうなるの?それだけは教えて頂戴」
「死んだ、場合、ですか...?」
メルがポカンとした顔でこちらを見る。
無理もない、契約を渋る私が急にこんな脈絡のないことを言ったら困惑もするだろう。
ただ、これは本当に大事な事なのよ。
だって、8年後...私はどうなっているのか分からないじゃない。
もし本当に余命通りに死んだとして、メルはどうなるの?
もし私の死が原因でメルに危害が加わるなら、私はメルとの契約は解除する。
だいたい、メルはまだヒロインとすら会っていない、これからヒロインと恋に落ちるとして、悪役令嬢と言う意味でも私の存在は邪魔でしかない。
「どうなの?」
真剣な表情で問えば、メルは難しい顔をしながら呟いた。
「どうなんでしょう...」
「消滅した、とか、そんな事例はない?」
「ないですないです!!なんですかその物騒な考えは!」
「そう...ならいいのだけど」
ということは、そんな物騒なことが起こった事例はないということね?
なら良かった。
としたら後は、これだけは言っておかなくちゃね。
「契約は破棄しなくてもいいわ、でも、そのかわり、私のもとを離れたくなったら好きに破棄でも何でもしてどっか行っちゃないなさい」
「えぇっ!?どういうことですか絶対離れませんよ僕は!!」
「ううん、あなたは絶対離れる時が来るから...だから、その時が来るまでよろしくね、メル」
「っ...」
一方的に言った私はそのままよろしくね!と言ってメルの手を取って握手をした。
「ところでメル、あなたはどれだけ戦えるの?」
「え?僕戦わなくちゃいけないんですか...?」
私がメルから手を放しながらそんな事を聞けば、名残惜しそうに私の手を見た後、ポカンとした表情で問い返してきた。
「うん、まあ、戦うことになるかもしれないわね...」
「え、あの、主様は貴族ですよね?どう見ても...お嬢様が戦うなんてこと許されるんですか?というか戦えるんですか?」
「しっつれいね!戦えるわよ!」
と言いながら、私はまだ発育途中でぺったんこの胸を腫らしてふんすとのけ反った。
「そ、そうなんですか...意外ですね...」
「意外って何よ意外って...あなたさっきからひと言多いのよ!」
「す、すみませんっ...!」
メルはすかさず涙目で謝ってきた。
かと思えばがばっと顔を上げ、何を疑問に思ったのか再び口を開いた。
「あの...主様はなぜそんなにも焦っておられるのですか...?」
は...?私が、焦ってる...?
え...どういう事?
「主様の様子からすると分かっていなかったんですね、何となくわかってました。あのですね、精霊は契約者と深いつながりが結ばれるんです。まぁ、相性によりますが。なので主様の考えてることが何となく分かるというか、流れて混んでくるというか...つまりはですね、先ほどから何度か主様からそのような感情が流れ込んできたもので...だから、何故そんなにも苦しんでおられるのか良ければ教えてくださいませんか?」
「...」
し、知らなかった...。
というか、驚きよりも恥ずかしさがすごい。
え、ということはさっきから私の気持ちが駄々洩れだったって事?
何それ恥ずかしいっ...!
え、えっ?どうしようメルの顔まともに見れないわ!!
うわーうわーうわーどーしよーーーー!
「乙女の心を勝手にのぞくなんてあなた最低ね...!」
恥ずかしさもあってついメルを罵るとメルは慌てたように言い返してきた。
「え!?ちょっと理不尽じゃないですか!?だいたい主様こそ僕の心だって読めるんだしお互い様じゃないですか!!」
「あ、そっか...」
ならいいや。
私だけ恥かくわけじゃないなら別にいいわ。
はいもうこの話は終わり終わり。
「最初の話に戻るけど...」
「...主様さらっと話逸らしましたね」
「だまらっしゃいっ!...実はねメル、私には目的があるの」
「目的、ですか...?」
眉根を寄せたメルに、私は大雑把に説明した。勿論前世云々の話は省いて。
私がある人を助けるために力を付けていること。
そのある人を助けるためにメルに協力してほしいこと。
近々開かれる夜会でそのある人を助けること。
などを大雑把に話した。因みに、私は予知の能力が使えると嘘をついてメルに怪しまれないように話を進めた。
「ざっとこんな感じだから...取りあえずは三か月後に行われる殿下の誕生日パーティーまでに力をつけるわよ」
「ちょ、ちょと待ってください!」
「え、何か問題あった?」
「問題っちゃ問題ですけど、あの、僕混精だから弱いですよ?」
「え...?」
弱い...?メルが...?そんな馬鹿な。
いや、確かゲームの設定ではそんな感じのことを言っていた気がする。
「僕は混精だから弱いんだ...」とか「こんな僕じゃ君を守れない...っ!」とかなんとかゲームで言っていた気がする。
でもなぁ、なんか違和感があるんだよな。
感なのか何なのかは分からないけど、メルはどうしても弱くは感じられないのよね...。
うん、こうなったら解析しちゃおう。
「解析」
「...!!」
驚き表情で見つめるメルを尻目に、私はメルを解析する。
顔、肩、腕と細かく解析していく。
するとメルの手に、正確にはメルの手首に嵌められている腕輪に違和感があった。
私はその腕輪に終点を置いて解析を続ける。
二回ほど解析が無効化されたが、三回目で解析が成功する。
どれどれ...。
「...!!」
「ど、どうしたんですか...?」
今まで私が何をしていたのか分からなかったのだろう。
メルが慌てた様子で聞いてくる。
私は震える唇を引き結び、自分のチートさにただただ感謝しながら口を開いた。
「メル...あなたの強さは異常だわ」
補足として、今回の話の中でメルはずっと跪いた状態でマリージュアと喋ってました。
次回は一応エピローグですが、2章に入る前に番外編を挟みたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。