第82話 強者
トーナメント準決勝が始まる。
ハルシオンが予想した通り、第4シードまでがベスト4に進出した。
グローリアは第3シードの魔法少女の詳細は分かっていないが、今はとりあえず目の前の敵に集中することにした。
例の魔法少女ザーナが運ばれてくる。
彼女を拘束した黒い服の少女も一緒だ。
ザーナの拘束が解かれ、リングに上がる。
グローリアも同時にリングに上がった。
「さあ、私を殺してみろ?」
「言われなくても、やってやるよ」
グローリアとザーナ、二人の魔法少女の戦いが始まった。
カウンター狙いのザーナは動かない。
グローリアはザーナの周囲をゆっくりと歩いた。
(イブキの攻撃は全く通用しなかった。あれだけの質量を完全に無効にすると考えると、私が時を止めてから攻撃しても果たして通用するのか)
「やらなきゃ、始まらないか」
先に仕掛けたのは、やはりグローリア。
時を止めて、ザーナの背後に回り込む。
そして後頭部を思いっきり殴った。
時は動き出し、ザーナの頭からグローリアに向かって光の爆発が起きた。
「うっ……やっぱり……!」
グローリアは爆発に巻き込まれ、右腕の骨が折れた。
「通用しないのか……」
しかし、予想外のことはもう一つ起きた。
爆発の煙が晴れたとき、ザーナは地面に倒れていた。
「???」
ザーナは後頭部を押さえながら、ふらふらと立ち上がる。
自分が何をされたか理解していないようだった。
(効いてる、私の攻撃も)
だが、ダメージレースではグローリアは圧倒的不利。
(次の作戦だ)
幸い、ザーナは自分からは攻撃しない。
グローリアは一呼吸おいて、再び時を止めた。
次の瞬間、ザーナの前に現れたのは石の弾丸。
「くっ……!」
グローリアはリングの地面をえぐり、ザーナに遠距離攻撃を仕掛けていた。
「どうだ!」
ザーナの体で爆発が起き、その爆発は全てグローリアに向かってきた。
「遠距離攻撃も効かねぇのかよ!」
グローリアは再び時を止め、爆発を回避した。
グローリアは苦戦していた。
初めての経験、勝てないかもしれない相手。
だが、それはザーナも同じだった。
未知数の相手。勝つのは相手をより上回った方。
(どうする……)
ザーナはグローリアの躊躇を見逃さなかった。
「守るだけが私の戦いじゃない!」
ザーナはグローリアの目の前で自分の体を叩いた。
発生した爆発は目の前のグローリアを襲う。
「!」
グローリアはザーナの背後にまわりそれを回避した。
「私、頭良くないから、やっぱこれしかねぇわ」
グローリアは空気を深く吸い。呼吸を整えた。
「行くぞ、どっちが先にくたばるか!勝負!」
グローリアの作戦はシンプル。
時を止めて、ザーナを攻撃。
ザーナのカウンターを時を止め回避し、再び攻撃。
ザーナの攻撃は当たらず、自分の攻撃は当たる
理論上、グローリアは負けることはない。
とんでもない魔力消費をするという点を考えなければ。
つまりこれは、グローリアの魔力が先に尽きるか、ザーナが戦闘不能になるかの勝負。
この状況を理解できるのはグローリア本人のみ。
ザーナは何をされているのかすら理解できない。
ひたすらに時止めを繰り返す。
「うっ……」
グローリアの意識が途切れかけた。
「しまっ……」
ザーナの爆発がグローリアを襲う。
「うあああああっっ!!」
全身が燃えるほど熱さ、重機に潰されるような風圧。
それでもグローリアは倒れなかった。
ゆっくりと目を開ける。
目の前の敵、ザーナは地面に倒れていた。
「勝った……勝てた……」
グローリアは右手を挙げた。
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グローリアは控室で魔法水を飲みながら待機していた。
「本当に、こんな水で回復するんだな、魔法少女って」
隣にいたハルシオンが言った。
「魔力はエネルギーだ。魔力さえあれば、魔法少女は死なない。そういう意味では、さっきの戦い方は愚策だな。魔力を消費しすぎてる。頭をぶち抜けば殺せただろ?なぜしなかった」
「ここで殺したら、あのザーナって子と一緒になると思って……、私は狂人じゃないから……」
「とにかく……その魔法の連続使用はできるだけ控えた方がいい」
しばらくして、控室に試合を終えたバレットが帰ってきた。
血だらけで、体中、いろいろなところを切り刻まれていた。
そして息を切らしながら言った。
「ハルシオン、やるぞ、決勝戦だ」
「馬鹿が増えたな。決勝戦は1時間の休憩の後行う。まずは傷を癒せ」
ハルシオンはそう言うと、控室から立ち去った。
バレットは地面に倒れ、置いてあった魔法水を浴びた。
「バレット、大丈夫?」
グローリアはバレットに聞く。
「心配するな、次ですべてが決まる」
「ああ、そうだね」
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トーナメント決勝戦。
決勝だけは見届けようと、棄権した魔法少女たちが観客席に集まってきた。
ハルシオンはモニター室で、イブキは医務室で彼女たちの試合を眺めた。
審判はザーナを止めた少女が務めるようだ。
「バレット、グローリア、準備はいい?」
「問題ない」
「こちらも」
「では、時間無制限、はじめ!」
先に仕掛けたのはバレット。
合図と共に腕を大砲に変え、グローリアに向かって発射した。
「おま、銃だけじゃなかったのかよ!」
グローリアは時を止め大砲を回避した。
そして、バレットに追撃に向かう。
しかし、そこにバレットは居なかった。
(何……!?)
バレットがいるのは遥か上方。
両腕を飛行機の翼に変化させ空を舞っていた。
(あれじゃ……届かない)
グローリアの時止めの解除条件は二つ、魔法生成物に触れること、そして呼吸をすることだ。
バレットの所まで、泳いでいくのに時間がかかり、とても呼吸せずにたどり着くのは不可能。
グローリアはそのまま時止めを解除した。
「どうした?瞬間移動してこないのか?」
バレットはさらに上に逃げる。
「あいつ……まさか、私の魔法の正体に気づいているのか……」
グローリアは焦りだした。
「まあな、私の魔法も見せた。これでお互い様だろ?私は自分の体を兵器に変化させることが出来る、例えばこんな風に……」
バレットは自分の髪の毛を数本ちぎり、空にばらまいた。
それらは全て手榴弾となり、地上にいるグローリアに降り注いだ。
グローリアは時を止め、地面をえぐることでドームを作り、爆発を防いだ。
「そうやって逃げまどうといい!空にいる私にはお前の攻撃は届かないだろうがなぁ!」
余裕をかましているバレットの右翼に攻撃が命中した。
ザーナと戦った時に見せた土による遠距離攻撃だ。
「ちっ……だが、そんな豆鉄砲いくら撃とうが意味はない……!空を飛べるのは私だけだ!」
グローリアはそのセリフで確信した。
バレットはグローリアの魔法が時を止めることだと分かっている。
しかし、時の止まった世界でグローリアがどのように移動しているかまでは分かっていない。
(バレットは私が空間を泳げることを知らない……!)
グローリアにとってその情報はあまりにも重要だった。
チャンスは1回、だが攻撃を当てれば、バレットを地上に落とせる。
「これで、おしまいだ!」
バレットは両腕をガトリング砲に変形させた。
そして地上に向かって乱射した。
(今だ!)
一回目の時間停止、銃弾の雨をすり抜け、とにかく上に泳ぐ。
停止解除。
「なっ」
バレットがグローリアの接近に気づく、
しかし、すぐさま二回目の時間停止、グローリアはバレットの後ろに回り込む。
(たどり着いた!ようやく!)
攻撃の直前で時間停止の解除。そして、グローリアはバレットの片翼を破壊した。
「やった!」
「く……」
グローリアが喜んだのも束の間、バレットは落下しながらガトリングの照準を空中のグローリアに合わせた。
「……飛んで火にいるってやつさ」
「そんな攻撃!」
グローリアは再び時間停止をし、バレットの攻撃を回避した。
「どうだ……って、あれ」
ザーナの時と同じ感覚。意識が途切れるような。
つまり魔力切れ、グローリアの魔法はあまりにも消費が大きすぎた。
一時間程度では完全に補給などできていなかったのだ。
「クソ……」
二人の魔法少女が地面に着地する。
(まずい……これ以上は回避できない)
バレットはため息をつき、両手を挙げ言った。
「降参だ、この状況で勝てるかよ、こんなバケモンに」
「わ、私の勝ち……」
魔力切れのグローリアに勝ち目はなかった。
しかし、それを知る術をバレットは持っていない。
決勝戦はあまりにもあっさりと幕を下ろした。




