第79話 竜化
魔法少女同士のトーナメント開催。
実力を図るための練習試合にも関わらず、空気は重く苦しかった。
昨日の歓迎会の会場とは一転。
金網で区切られた4つのリングが物々しい雰囲気を醸し出していた。
心配事もなくなりぐっすりと眠れたグローリアたちは寝坊せず早めに会場に到着していた。
「そうだ、グローリア。トーナメント表は見た?」
イブキはグローリアに話しかけた。
「あ、忘れてた。昨日のうちに張り出されてるんだっけ?見に行こう」
二人はトーナメント表を後ろから眺めた。
「あれ……私の名前……ないな」
「グローリア……あそこ!」
イブキが指し示すのはトーナメント表の左上。
「だ、第1シード?」
「グローリア、すごい……」
「いやいや、たまたまくじ引きとかでしょ……」
グローリアが焦っていると、後ろから声が聞こえた。
「いや、第4シードまでは実力で決められたとハルシオン殿は言っていた」
グローリアが振り返ると、周りの魔法少女より一回り長身の女性が立っていた。
「あなたは?」
「私はバレット。トーナメント表では第2シードになっている」
「へぇ、よろしく」
グローリアはバレットに握手を求めた。
しかしバレットはその手を弾いた。
「だがこれはハルシオンによる個人的な判断による順位だ。このトーナメントで私の実力の方が勝っていると明らかになるだろう」
「なるほど、燃えるね」
高圧的なバレットに対し、グローリアは挑発をした。
二人の様子を間から眺めていたイブキはおろおろしていた。
「決勝で、待っているぞ」
そう言うとバレットは高笑いしながら去って行った。
「あの人、言葉だけじゃなさそうです」
と、イブキはグローリアに言った。
「ああ、体格でかいし多分強い」
「体格は関係ないと思いますけど……」
「そう言えばイブキはトーナメントどこなの?」
「私はBブロックですね。順当にいけばグローリアと戦うのは準決勝です」
「そうだな、その時はお互い悔いの残らない試合にしような」
「はは……手加減してほしいです」
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「……」
トーナメントは始まった。
しかし、モニター室で試合を見ているハルシオンは退屈していた。
攻撃を当てたら、「ごめんなさい」と謝る者。
そもそも攻撃しない者。
じゃんけんで勝敗を決める者。
過度な殺し合いは想定していなかったものの、実際に行われているのはまるでお遊戯会。
「はぁ~、こっから戦闘のプロを育てるのは骨が折れるぞ……。あのジジイはどうやって魔法少女軍を作り上げたんだよ、まったく……」
ハルシオンの隣で黒い服を纏った少女が言った。
「本当の目的は軍隊を作り上げること、じゃないでしょ?」
「まあそうだけど」
「ふふ……やっぱり暗躍は楽しいものね」
少女はそう言うとモニター室から出て行った。
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トーナメントは滞りなく進み、イブキの一回戦が始まろうとしていた。
「イブキ―!がんばれー!」
金網の外からグローリアはイブキを応援した。
「はは……グローリア、私よりやる気あるじゃん……」
しばらくしてイブキの対戦相手が入場した。
「よろしくお願いします!正々堂々戦いましょう」
イブキの相手の魔法少女は右手を差し出した。
「あ……こちらこそ……」
イブキは相手の握手に応じた。
その後、審判の合図により試合が始まった。
「あの子は君の親友だったな」
グローリアの後ろからバレットが話しかけた。
「何か用?」
「ただの偵察さ。君の親友の実力を確かめたくてね。でも無駄足だったな」
「どういう意味だ?」
「大した事ないって意味だよ」
グローリアは立ち上がりバレットの胸倉をつかんだ。
「イブキを馬鹿にするんじゃない!私にはわかる!あいつは強いんだ!」
「別に弱いとは言っていないさ。お人よしだと言っているのさ。だから敵の罠に簡単に引っかかる」
「罠……だと?」
「正々堂々だ?そんな戯言、魔法少女同士の戦いには存在しないんだよ、今に見てろ」
「まさか……!」
グローリアはバレットを離し、イブキの試合に視線を戻した。
イブキの顔面に拳が炸裂し、地面に倒れる。
「イブキ……!」
「相手の魔法少女。毒の使い手みたいでね。試合前の握手で一発仕込まれたね」
リングの中ではイブキが奮闘していた。
(おかしい……試合が始まってから……頭が……)
イブキはふらふらと立ち上がる。
(目が……見えない……)
相手の攻撃が続く。
イブキは身を守ることしかできずにいた。
(痛い……、私……負けるの……?)
相手のブローが腹に刺さり、イブキは膝から崩れ落ちた。
(やっぱり私……弱かったんだ……)
「イブキ!!」
イブキの頭の中にグローリアの声が響く。
「負けたく……ない!」
イブキは必死で堪えた。
「無駄だよ、お前はもう私の術中に堕ちた!これで終わりだ!」
「嫌だ!」
次の瞬間、イブキの姿が変容した。
腕や足が肥大化し、制服はびりびりに破けた。
そしてイブキはリングと同じぐらいの巨大な竜となった。
「……!」
「すごい、これが……」
イブキの髪色と同じ、蒼く高貴な竜の姿に周りの魔法少女たちは言葉を失った。
「まだ、ふらふらする……あ、ごめんっ」
イブキが片足を上げると、対戦相手の魔法少女がペラペラになっていた。
「試合続行不可です。勝者イブキ」
「しゃあ!どうだイブキは強いだろ!」
グローリアはバレットに向かって言った。
「だから弱いとは言ってないさ。無駄足ではなかったがな」
そう言い、バレットはまた別の魔法少女の観戦へ向かっていった。
「やったよグローリア!」
「すごいじゃないかイブキ!まさかドラゴンだったなんて」
「いやこの姿は、魔法の力によるものだよ」
「そっか、どっちにしろすごいじゃないか!」
グローリアとイブキは笑いあった。
「……変身、解除しないの?」
竜に変身した状態では金網の外に出ることはできない。
グローリアはイブキに聞いた。
「あの……、せめて……、観客がいなくなったら……」
イブキはびりびりになった自分の制服を眺めた。
「あ……今全裸なのね……」
「言わないでよ!」
イブキは竜になったままその場で丸くなった。
「なああのリングで魔法少女が竜に変身したらしいぞ!」
「すげぇ本物だ!」
観客はどんどん集まってくる。
「ああ、こりゃダメだな……」
「助けてよーグローリア!!」
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トーナメント1日目が終了した。
特に目立った試合はなく、一番注目を集めたのはイブキの試合だった。
グローリアたちは居住区のカフェに来ていた。
「イブキの勝利を祝って、かんぱーい!」
「もう大袈裟だよ、まだ一回戦じゃん……」
イブキは照れながら笑っていた。
「しかし、イブキの実力は確かなものだった。次も問題なく勝てるだろう」
バレットがイブキの肩をたたきながら褒めたたえた。
「……なんであんたがいるんだよ」
「良いではないか、群れる方が楽しいだろ?」
「友達いないの?」
「そんなことより、君は本当に強いのか?グローリア」
バチバチに燃える二人の間にイブキが割り込んだ。
「仲良くしようよ~」
「ふん……!」
「まあいい、明日お互いの実力は明らかになるだろう」
バレットはミルクコーヒーを一口飲み、話題を切り替えイブキに聞いた。
「そうだ、イブキ、例の魔法少女のことは聞いたか?」
「例の魔法少女?」
「昨日暴れて取り押さえられた奴だ」
「あっ……」
イブキは思いだし、震えた。
昨日、部屋の前を通過した血まみれの魔法少女のことだ。
あの魔法少女は雰囲気が違った。
グローリアやバレットのような友好的な様子は全く見られない。
まるで獣。目を見たとき殺されるような感覚が背筋を伝った。
「知っていたか。あいつは第4シード、君と同じBブロックだ」
「……」
「凶暴さイコール強さとは限らないが、あの魔法少女は警戒しておくに越したことない、だからよく観察したほうがいい」
「……」
イブキは震えて何も言えなくなっている。
「おいバレット、あまり怖がらせるなよ」
「イブキ、恐れをなしていては、勝てる相手も勝てなくなる」
バレットはグローリアの言葉を無視してイブキを激励した。
「君は強い、勇気を持つことは」
「ありがとうございます、がんばってみます、バレットさん……!」
「ちぇ、いいように言いやがって」
グローリアはクリームソーダを飲みながら、そっぽを向いた。
バレットはグローリアの肩に手をまわし、顔を近づけて言った。
「嫉妬かい?」
「ここで死ぬか?バレット」
再び二人はバチバチと燃え上がった。
「はは……仲いいなぁ」
イブキは呆れながら笑った。




