第77話 門出
楽しい時間が過ぎるのは一瞬だ。
あっという間に4日が過ぎ、式典は今日で終わる。
それはグローリアにとって、新たな旅立ちであり、別れである。
グローリアとトレイは、後片付けがされている屋台を歩いた。
「……」
言葉は出ない。
出しても悲しい思いがこみ上げてくるだけだということは分かっていた。
二人は無言のまま歩き、テュポーンの前までたどり着いた。
そこにはハルシオンが立っていた。
ハルシオンは二人に気づくと手を振りながら言った。
「おー、グローリアか。出発まで1時間ぐらいあるから、もう少しゆっくりしてていいぞ」
「……大丈夫です。もう十分一緒に過ごしたもんね?」
「……うん」
そう言い、グローリアとトレイは繋いでいた手を離した。
「トレイ……」
「じゃあね、グローリア。元気でね」
トレイはそう言うと、足早にその場を去って行った。
「本当にいいのか?」
ハルシオンはグローリアに聞いた。
「トレイもきっと、わかっているんだと思う。一緒にいると寂しくなるって」
「そうか」
ハルシオンはグローリアを要塞の中に案内した。
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「ここが、君たちの暮らす場所だよ」
ハルシオンが最初に案内したのは、いくつもの部屋がある通路だった。
まるで高級ホテルのような雰囲気、見学では紹介されなかった場所だ。
「そして、ここが君の部屋」
部屋の中はそこそこ広く、二段ベッドが二つ。
どうやら4人部屋のようだった。
「私以外もいるんですか?」
「うん?一人部屋希望かい?」
「いやそういう訳じゃないんですけど……」
「ならよかった。作戦はフォーマンセルで行動する予定だから、4人部屋で親交を深めてもらうつもり。あ、でも今は仮配属だからメンバーは気にしなくていいよ」
「どんな人がいるんだろ……」
グローリアは期待と不安でいっぱいだった。
「ん?」
グローリアは部屋の中に、何かの気配を感じだ。
部屋の右奥、ベッドの中に誰かが隠れている。
グローリアは膨らんでいる毛布を引っ張った。
「ひぃっ……!」
中では小柄な少女が怯えた様子で頭を隠していた。
「ヤマトイブキ。君と同じエリア7からの志願兵だ」
ハルシオンがその少女について説明した。
「私、何かしましたかね……」
「彼女は極度の怖がりでな」
「えぇ、なんで志願したの?」
「まあ……わかるだろ?」
ハルシオンは邪悪な笑みを浮かべた。
「うぅ、私、急に辞めたくなってきました。」
「冗談だよ」
ハルシオンはケラケラと笑った。
グローリアはハルシオンを冷ややかな目で見ながら、イブキに話しかけた。
「初めまして、私はグローリア。」
「わ、私は……イ、イブキです……よろしくお願いします!」
「よろしくね、イブキちゃん!」
「……!」
イブキは顔を押さえながら部屋を出てどこかへ走り去ってしまった。
「怖がりっていうより、恥ずかしがり屋じゃないか?」
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続いてハルシオンに案内されたのは、居住区のような場所だった。
グローリアが見学で見た居住区とはまた違っていた。
生活に必要な雑貨や、娯楽、魔法少女のエネルギー源である魔法水も売っている。
「ここは魔法少女専用の居住区。普通の居住区とは別にしてあるの。差別じゃないよ、区別さ。」
「魔法少女は恐怖の象徴。仕方ないと思います」
「うん、わかっているじゃないか」
「軍隊なのに自由時間がある感じですか?」
「軍隊って……DUSKはそんなにお堅いものじゃないから安心しな。自由時間はたっぷりあるよ。この施設じゃ飽きるぐらいにね」
一呼吸おいてハルシオンが時計を見て言った。
「さて、そろそろ時間だ。」
「え?」
「展望台へ行こうか」
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テュポーンの最も高い場所、展望台。
グローリア自身の物語の始まり。
綺麗な夕焼け、一週間前と同じ景色だ。
「……祝福すべき門出にふさわしい景色だろ?グローリア」
グローリアはそんな景色には目もくれず遥か彼方の地面を眺めた。
「トレイは、あの中にいるのかな……」
多くの人がいるのはわかる。光で彩られ自分たちを祝ってくれていることもわかる。
しかし、いくら視力が良くても、この高さじゃ見分けはつかないだろう。
それでも、グローリアはトレイを探した。
「大事なのは信じることだ、向こうもそれを信じてくれている」
「そうですね……。じゃあね、トレイ。元気でね……」
テュポーンは大きな汽笛を鳴らし、ゆっくりと歩き始めた。
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暗い部屋。
「さようなら、私の、グローリア」
少女は一人、そうつぶやいた。
そして、式典の屋台で買った、綺麗な黒い宝石を握りしめた。




