第8話 悪夢
☆登場人物☆
『衛堂ミコト』
主人公。17歳。
黒のショートボブヘアで赤い瞳の少女。
至って普通の女子高生。頭は良くない。
育ての親を失い喪失感に駆られていた所、人外の化け物「マジン」に襲われる。
「死にたくない」という願いを抱き魔法少女として覚醒する。
魔法少女形態【命の魔法少女】
まるで医者の白衣のような衣装。グローブとブーツは白色だが、白衣の下は黒いタイツ。
頭には二本の丸っこい角が生えている。
白衣の裏から尻尾が伸びており、尻尾の先は注射器のようなデザインになっている。
白衣には緑色の線がデザインされている。それはサイリウムのように発光しており、ミコトの心臓の鼓動に合わせて心電図のように波を流す。
使用武器は「ミコトカリバー」
ミコトの身長ぐらいの大きさの剣であり、両手に持って戦う。
剣のグリップ真横には緑色の液体が入ったタンクがあり、タンクから伸びた管はミコトのグローブの中へと繋がっている。
使用魔法は「???」
黄金の光を纏い、対象の人物を蘇生させる。
また、自分に使うことで戦闘能力を大幅に上げることが出来る。が、それなりのリスクもあるらしい。
『奏美音』
もう一人の主人公。17歳。
地面擦れ擦れの長さの青いポニーテールと青い瞳の少女。
ミコトより色々とひと回り大きい。
ミコトの学校に転校してきたが、実は世界各地でコンサートを行う超有名ピアニスト。
「自分の両親に再び会いたい」という願いを抱き魔法少女として覚醒。
その後、同じく魔法少女であるミコトと意気投合する。
魔法少女形態【音の魔法少女】
黒の燕尾服のような衣装。ひらひらしておらず、すらっとしており男性的なデザイン。
ピアニストがモチーフにもかかわらず、黒色の手袋をしている。
使用武器は「メゾフォルテ」
右手に強弱記号のフォルテを模した剣、左手に「m」の形をした盾を持っている。鈍器。
使用魔法は「メロディボム」
音を爆弾に変える魔法。大きい音程威力も高くなる。
『ゆずりは』
ミコトの親友。茶色の髪で茶色の瞳。
ミコトとほぼ同じ体格。
最近、ミコトと仲良くしている美音に嫉妬気味。
『カミラ』
完璧主義の同級生。一番であることに執着している。
ぐいっと背を伸ばす。
体が宙に浮いたみたいに軽い。
ベッドから降り、目覚まし時計を止める。
今何時だろう。
7時。
部屋の外は明るい。秋の夜がこんなに明るいはずがない。
ということは朝だ。
丸一日寝ていたようだ。
せっかくの休みだったが、まあ休息できたならよしとするか。
「あら、起きたのね。死んでるのかと思ったわ。」
洗面所から歯磨きをし終えた美音が出てきた。
パジャマ姿ではあったが髪が整えてあり、準備は万端のようだ。
「ごめんね。幸せそうな顔してたからそのままにしておいたの。」
どんな顔で寝ていたんだ、私は。
私は朝食のトーストをセットして風呂場へ向かった。
私は冷たいシャワーに打たれて物思いに耽った。
この一週間で本当にたくさんのことが起こった。
美音やレンと出会った。
ゆずと同じように、かけがえのない親友になった。
今日からはまた、学校が始まる。
いつも通りの日常に戻る。
いつも通り?
疑問に思った。
「日常なんて、とっくに崩壊しているんだった。」
一年ぐらい前から、不審死が増えた。
最初の頃は、厄災だとか言われてたけど、もはや、人が死ぬことを誰も珍しがらなくなった。
他人の死を悲しまなくなった。
私自身もそう。
悲しんだのは義父の死だけ。
クラスメイトが一人二人減ったところで、涙は流れない。
それだけ、多くの人が死んだのだ。
おそらく、その原因はマジンだろう。
私は魔法少女として、それらと戦う。
マジンの正体については未だによくわからない。
戦いの果てに希望があるのかすらわからない。
だけど、美音やレンとなら乗り越えられるはずだ。
きっと……
チーン
トーストの焼ける音がしたので、直ぐにシャワーを切って風呂場を出た。
「じゃーん!」
風呂場を出ると、美音が目の前に待っていた。
手には皿を持っている。
「ミオンサンドだよ!」
皿の上には豪華なサンドがあった。
私がいつも作るサンドウィッチとはくらべものにならないほど豪華だ。
卵だけではない。ハム、レタス、トマトも挟んである。色とりどり。
「作ってくれたの?」
「まあね、これからも一緒に暮らすことになるんだし、料理ぐらいは任せてよ!」
美音は自信満々に答えた。
私は、美音から皿を受け取り、サンドウィッチを頬張った。
おいしい……
こんなにおいしいものを食べたのは、人生で初めてかもしれない。
ファストフードやコンビニ飯とは違ったおいしさ。
暖かくてやさしい味……
自然に涙がぽろぽろとがあふれ出た。
「うそ……」
私は目元を隠した。
「えっ、もしかして、おいしくなかった?」
美音は心配そうに私を見つめた。
おいしくないわけがない。
私はサンドウィッチを皿に置き、美音に抱き着いた。
美音は驚いている。
「ミオ、おいしい。」
私は率直に感想を述べた。
美音は若干困惑しながらも、嬉しそうに笑った。
「ふふ、ありがと。」
私は再びサンドウィッチを食べ始めた。
「幼い時、ママが家に居ないことが多かったから、自分で料理することが多かったの。だから、料理は割と自身がある方なんだ。あの日からしばらく料理していなかったけど、感覚は鈍ってないみたいだね。」
美音は私を見ながら、自分のことについて語った。
幼い時から料理をしていたのは私も同じだ。
経験の差もあるだろうが、やはり美音にはあらゆる分野で天才的な才能がある。
ふと疑問に思った。
美音の両親は何故、美音を捨てたのか。
ひどい話だが、お金が無かったとしても、美音の才能があれば十分に稼げたはずだ。
美音に対する嫌悪でもあったのだろうか。
さすがにそんなひどいことは聞けないので考えるのをやめた。
朝食を食べ終わった私達は学生服に着替えた。
ここ一週間で随分と寒くなったから衣替えで冬服だ。
シンプルな黒いセーラー服。嫌いじゃない。
美音はとてもよく似合っている。
青い髪と合わさって、何というか昔の不良みたいだ。
もちろんそんなことは口にはしない。
「おーい、みこー?みおんー?」
自宅の前の道でゆずが呼んでいる。
いつものことなのに、一週間もあくと懐かしく感じる。
「ごめんごめん、待った?」
靴を整えながら、急ぎ気味にゆずの前まで行った。
「今日はさすがに起きれたみたいね。美音のおかげ?」
「自分で起きれたし!」
嘘だ。
美音が居なかったら、目覚ましセットするの忘れて確実に寝坊していた。
少し遅れて美音が出てきた。
「それじゃあ、行きましょ!」
ゆずを先頭に、私たちは学校に向かって歩き出した。
----------
登校中その話題を最初に口にしたのはゆずだった。
「学園祭?」
美音はゆずに聞いた。
学園祭は私たちの高校で伝統的に行われる行事みたいなものだ。
大体、10月の終わりぐらいに開催される。
各クラスで出し物をしたり、体育館の舞台で劇をしたりする。
私とゆずは二年目だから要領はわかっているが、美音はついこの間転校してきたばかりだ。
ゆずは美音にいろいろ説明した。
「へぇ、楽しそうね。」
実際楽しい。
卒業生も何人か来て、おいしい食べ物を売る屋台がたくさん並ぶ。
今年は人数不足で開催されないと思っていたけど、どうやら問題なく行うようだ。
なんだかんだ話しているうちに学校に着いた。
ゆずは教室に入るや否や黒板に"学園祭案"と書いた。
クラスの端にいる男子たちは一瞬こちらを向いたものの、「なんだゆずか」言わんばかりに、それぞれの会話に戻った。
ゆずは男子たちの中心に割り込み、みんなで見ていた一枚の紙を取り上げた。
「ふーん、なるほどね。」
ゆずは男子たちの攻撃をかわし、その紙をこちらに持ってきた。
「これ!学園祭の劇の題材とかにいいんじゃない?」
私と美音はその紙に描かれた人物に見覚えがあった。
「この子は……」
金色のロングヘア―に赤い瞳。見間違えるはずがない。この子はレンだ。
「魔法少女……」
そういえばそうだ。魔法少女がいるという、つい先日のニュースは衝撃的だった。
休み明けに話題にならないはずがなかったのだ。
この写真に写るレンはやけに目がキラキラしている。
私は本当のレンの姿を知っているので、そのギャップに少し笑った。
「決定よ!学園祭の出し物は魔法少女の劇よ!」
ゆずってこんなキャラだっけ、無理してない?
紙を取り返そうと必死だった男子たちは次第にゆずの案に賛同し始めた。
私は自分のクラスの出し物より、他のクラスの出し物を見る方が好きなのでどうでもよかった。
「じゃあ、主役は美音さんだな。」
ある一人の男子がそう言った。
賛同の声が次々と集まった。
美音は困惑していたが、周りに流されて嫌とは言えなかった。
「反対、主役は私よ。」
教室が静まり返った。
でた。このクラスを仕切っているやつ。神羅さん。通称魔女。
見た目が悪くないから男子からの人気はあるが、自己中心的な性格に反感を持つ者も多い。
私は当然嫌い。
「だーめ、主役は私だから。」
美音の口から予想外の言葉がでた。
まるで子供を挑発するかのような口調だ。
美音もカミラのことが嫌いなのか、主役をやりたいだけなのか分からなかったが、確実に言えることがある。
めんどくさい状況になった。
「あんたみたいな素人に主役が務まるのかしら?」
カミラは美音のやっすい挑発に見事に乗ってきた。
「舞台に立ったことはありますけど、何か?」
見苦しい美音の姿は見たくなかったので、止めに入った。
「美音、落ち着いて。」
私が言うと美音は一歩だけ引いた。
カミラは美音を指さして言った。
「こうなったら、どっちが主役にふさわしいか勝負よ!」
あぁ、めんどくさい。
事の発端であるゆずは主役の抗争に興味がないのか、他の脇役を決め始めている。
私もそちらに混ざりたかったが、美音たちの勝負を見届けることにした。
----------
「なんだこれ…」
勝負の内容は腕相撲。三本勝負。二本先取。
演劇と全く関係ない勝負だった。
当の本人たちはやる気満々で、ギャラリーもそこそこ集まっていた。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はあああああああああああああ!!!」
二人の叫びからは相応の本気度が伺える。
「よし!」
先に一本取ったのはカミラだ。
「ミオ、大丈夫?」
半ば呆れながらも私は美音の心配をした。
「問題ない。」
腕相撲って力関係はっきりするから、逆転とか可能なのかな。
「今の勝負で、彼女の力量を測った。一般人相手だと、ケガさせてしまうかもしれないからな。」
あ、美音、魔法少女の力使う気だ。
そこまでして勝ちたいのか。
「さぁ、早く始めましょ。」
何も知らないカミラが台に腕を置き、催促してきた。
「わかった。早く終わらせよう。」
……
言うまでもないが、結果は美音の圧勝。瞬殺だった。
カミラは何をされたのか分からず茫然としていた。
しかし、すぐに意識を取り戻し、美音に突っかかった。
「ちょっと、何したのあんた!」
「何って、力を温存していただけだけど?」
美音は余裕の表情で答えた。
「嘘ね、腕に何か仕込んでいるんでしょ?」
カミラはそれでも突っかかってくる。
そして美音の右腕をつかんだ。
「ほら……!やっぱり何か……」
美音は腕をつかまれると、カミラを睨んだ。
そして、カミラの腹に蹴りを入れて突き飛ばした。
「う゛っ……」
カミラはそのまま倒れ近くにあった机に衝突した。
私はその様子に唖然した。
美音の表情は見たことないほど怒りに満ちていた。
まるで別人だ。
私は怖くて何も言えなかった。
だがその後すぐ、美音は自分のしたことを理解した。
そして今までに見たことないほど悲しい顔をした。
「あ゛あ゛あ゛!」
突然カミラが起き上がり、美音の顔を殴った。
美音は抵抗していなかった。
殴られた勢いで窓にぶつかった。
窓ガラスは割れ、クラスメイトの女子は悲鳴を上げた。
カミラはそのまま美音の胸ぐらをつかみ、窓とは別の壁にたたきつけた。
「よくも、こんな真似を!」
美音は何も言わず、割れた窓を眺めた。
そして再びカミラの腹に蹴りを入れた。
「がぁっ……」
カミラは自分の腹を抑えながら美音から距離をとった。
美音そんなカミラの様子を見てスタスタと距離を詰めた。
「美音、あなた少しおかしい……」
私は勇気を振り絞って、美音の前に立った。
美音は私を見ると足を止めた。
「いつもの美音に戻って、お願い……」
美音は黙ったまま私の目を見つめていた。
そして、小さく「ごめん」と呟いた。
「コラァ!何をやっているんだぁ!」
ちょうどよいタイミングで担任がやってきた。
二人は保健室に連れていかれた。
当事者がいなくなった教室は閑散としていた。
----------
「ねぇ美音?」
「何?」
「あれが、本当の美音なの?」
「……」
「あんな怖い美音初めてみた。」
「違う…あれは本当の私じゃ…」
「腕を触られるのがそんなに嫌なの?」
「……!私の腕に触らないで!!」
「ほら、やっぱり……」
「ちが……これは……」
「本当のあなたは……」
----------
「違う!!」
夜、美音は悪夢にうなされ目を覚ました。
「……」
美音は音を立てないようにベッドの下のミコトを覗き込んだ。
ミコトは寒いのか、毛布をかぶり蹲っていた。
美音はその様子を見て安心した。
美音はゆっくりとベッドを降り、冷蔵庫の中を漁った。
一杯のオレンジジュースを飲み干すと再びベッドに戻った。
「皆に愛される私にならないと……」
美音は何度も自分に言い聞かせた。




