第70話 とある少女の過去
ある日災厄が起き、世界は20のエリアに分かれた。
人々はその日、永遠の平和を約束したはずだった。
しかし、いつしかどこかで不和が生まれ、世界に拡散し、大きな戦争となった。
この世界の歴史の教科書に記されている一番昔の戦争だ。
時は約300年前、エリア3とエリア4の大きな戦争『エヴォルマキア』。
その周りのエリアも巻き込まれ、計8つのエリアが地図から消滅した。
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ベルセルク。本名はクオーリア・ヴェスパー。
彼女はエヴォルマキアの戦火の中で生まれた戦争孤児である。
同じような境遇の仲間を集めて、金品や食べ物を盗んで暮らしていた。
たまに、銃弾が飛び交う戦場に赴き、死体を漁ったりもした。
なぜそのようなことをするのか。
そうしないと生きていけないからである。
大人たちは自分や自分の子供で精一杯であり、とても里親をしている余裕なんてないのである。
しかし、ベルセルクたちは別に不満ではなかった。
それが当たり前の生活であったからだ。
ある日のことだ。
ベルセルクの仲間が捕まった。
盗みの現行犯だ。
しばらく店の手伝いを無償でさせられ解放される。
かわいそうではあるが、リスクはつきもの。これもよくあることだった。
ところが今日は様子が違った。
店主は銃を取り出し、盗みを働いた子供の眉間を打ち抜いた。
「え……」
ベルセルクたちは知る由もない。
自分たちの行いが彼を追い詰めていたことを。
その店主も限界だったのだ。その不平不満が、狂気となって爆発したのだ。
店主は逃げまどう子供たちを笑いながら撃ち殺した。
周りの大人たちは店主を止めようとしない。
盗みをはたらく小悪党にはちょうど良い制裁だと思っているのだろうか。
「や、やめて……!」
ベルセルクは勇気を振り絞り店主を説得しようとした。
しかし、当然ながらその銃口はベルセルクに向けられ、考える間もなく発砲された。
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不幸か幸いか、ベルセルクは一命を取り留めた。
もっとも、周りの人からは死んだと思われていたらしく、ベルセルクは死体の山で目を覚ました。
周りにあるのはまだ死んで間もない死体の数々。
全部、かつての仲間だ。
ベルセルクは吐き気を催した。
銃で撃ちぬかれた肩の痛みさえ感じないほどの恐怖がそこにあった。
「う…うぇぁがぁぁぇぁ……」
もう胃や肺はからっぽだった。
それなのに、喉の奥から何かがこみ上げてくる。
ベルセルクは無限の苦痛を感じた。
もがきながら死体の山から遠ざかる。
必死に
必死に
ひたすらに
死体置き場を抜け出したベルセルクは路上に腰を下ろした。
周りには、物乞いを行う浮浪者であふれていた。
道を右に行くものは武装した兵士。とてもやる気にあふれている。
道を左に行くものは武装を解除した兵士。ケガ、欠損、そして棺桶。
「この世界に……希望は……ないのか……」
ベルセルクは胸に手を当てた。
自分は今何をするべきか。
それは仲間を殺した者たちへの復讐。
「そうだ、この世界は生きるか死ぬか。殺して奪うしかないんだ……」
ベルセルクはうつむきながらそうつぶやいた。
「そんなことないよ」
「え」
ベルセルクが顔を上げると、目の前に一人の少女が立っていた。
その姿は美しく、可憐で、まるで魔法少女のようだった。
「私が、あなたを救ってあげる」
「あなたは?」
ベルセルクは少女に聞いた。
「私はロロ、よろしくね」
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光は収まり、元の空間にロロとベルセルクが姿を現した。
ベルセルクが握っていた二本の剣は光となって消滅した。
「魔法が……使えなくなっている……」
ベルセルクは何度も魔法少女に変身しようとしたが、魔法が発動することはなかった。
「……」
ベルセルクはロロに聞いた。
「私の過去に、あなたの姿が見えた。まさか過去を改変したというの?」
「うん、無理やりだけど、そうするしかないって……」
ロロの進化した魔法『ウツロ・トリップ』、それは他人の過去に自由に出入りする能力。
それにより、他人の経歴に自分を介入させることができる。
今回、ロロはその能力を使い、絶望の淵に落ちているベルセルクに救済の声を届けた。
そして、親友となることでベルセルクが修羅の道に落ちることはなくなった。
つまりベルセルクが魔法少女になることもなくなったのだ。
「清々しい気分だよ。妄執に取り付かれていた自分が嘘のように気持ちがいい。解放された気分だ。」
「よかった、ベル……」
「ありがとなロロ」
ベルセルクはそう言うと地面に寝そべった。
そして使い果たした魔力を補充しているロロを見つめて思った。
(いったいどれだけの魔力を使えば、あれだけの魔法が使えるんだ……)
ベルセルクは自分の手を眺めた。
うっすらと透けていて天井が見える。
(でも……完璧な魔法なんて、存在しない、か)
(まあいいか、ロロ。お前は私を救った。お前は知らなくていい。この魔法の致命的な欠点を。)
ベルセルクは立ち上がり、ロロに言った。
「そうだ、この部屋についてまだ話してなかったな」
「あ、そうそう、気になってたんだ」
「実はこの部屋はな……」




