第68話 X-DAY
ロロの予想では魔消兵は処刑場の方に集中すると考えていた。
しかし、その予想ははずれた。
魔消兵の数は決して少なくなった。
そして対魔消兵戦術で圧倒的優位に立っていたエフィたちだったが、やがてついに綻びが生じる。
「アリア……!」
エフィはシスターの一人であるアリアに声をかける。
アリアは魔消兵の機関銃によって全身穴だらけになり、その瞳はもはやエフィの顔を見ていなかった。
魔消兵の放つ機関銃は特殊な弾を使っている。
その効果は魔法少女の能力を封じるため、一般人には全く効果がない。
それでも弾は弾だ。当たれば致命傷は免れないだろう。
むしろ、運動神経が超越的な魔法少女と違い、銃弾を躱すことなどできない。
「エフィ……さん、先に行ってください……」
アリアは最後の力を振り絞り、エフィに言った。
「ミコトさんの……所で、待って……ま……」
アリアは力尽きた。
エフィは泣きたい気持ちをこらえ、立ち上がった。
「行こう、ユイ。敵の本拠点はすぐそこだ」
「……」
ユイは葛藤していた。
またしても、守るべきものが守れなかったからだ。
この場で魔消兵の機関銃に反応できたのは自分だけだ。
それなのに、アリアは死んだ。
アリアを突き飛ばすことで彼女を守ることが出来たのかもしれない。
しかし、魔消兵の有効範囲内に入ったら犠牲になるのは自分だ。
結局、ユイは死ぬことを恐れていたのだ。
「クソ……」
ユイはエフィの後に続いた。
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ロケット弾で政府複合施設の壁を破壊し内部に侵入する。
警報がけたたましく鳴り響く。
「よし……」
犠牲は出たものの作戦は順調だった。
エフィたちはロケットランチャーを捨て消音器のついたハンドガンに持ち替えた。
「魔消兵たちの気配が消えた。おそらく本陣は魔法少女部隊で固めているんだろう。できる限り魔法少女との戦闘は避けて、散開」
エフィがそう言うと、他のシスターたちは別々の方向へ走り出した。
ユイが聞く。
「お、おい。聞いてないぞ。大丈夫なのか?」
「今回のメンバーはミコトさんが直接戦闘指導したエリートです。魔法少女と直接戦闘にならない限り大丈夫でしょう。今はとにかくトワをいち早く見つけることが重要です。そうすれば私たちの勝ちですから。」
「……そうか」
「私たちはこっちの道から行きましょうか」
そう言いエフィは薄暗い道へ進んでいった。
「やっぱり、私が頼りないから……」
ユイは物憂げな表情をしながらエフィについていった。
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ユイとエフィは通路を進みながら話を始めた。
「ねぇ、エフィ」
「どうしたの?」
「さっきの、アリアのこと……ごめん……」
「……?どうしてユイが謝るの?」
「私が居ながら、彼女を守ることができなかった……」
「ユイのせいじゃないよ」
「でも……!」
「ユイは何のために戦っているの?」
「……その手の質問はもういいよ。何度も聞いた」
「戦う理由は誰にでもある。魔法結社は復讐のため。ロロはいい人を演じるため。ミコトさんの魔法で誕生した私たちも例外じゃない。みんな自分の意志で戦っている。でも、ユイは違う。ユイは誰かになろうとしている」
「え?」
「みんなを守った英雄ロロ。ミコトさんの暴走を止めるきっかけを作ったアルカ。それとも別の誰か?」
「私は……」
「かく言う私も、ミコトさんになろうとしているのかねぇ。ああ、もちろん殺人は許容できないけど……と、とにかく。そんなに悩むことなんてない、急いで考える必要もない。いつか必ず自分の戦う理由を見つけられるさ」
「私の戦う理由……」
会話が終わったところで、二人は開けた空間に出た。
そこはまるで神殿。
豪華な装飾がされた大きな柱が数本立っている。
政府複合施設に存在することに違和感がないほど荘厳な部屋全体に太陽の光が差し込む。
通路の真ん中に一人の少女が正座をして座っていた。
白い髪が光に反射して美しく輝く。
その少女は目を開け、二人を見た。
そして、目の前においてあった刀を取り、立ち上がる。
「なるほど、混乱に乗じて政府転覆を狙ったか。トワが私をここに置いた理由がわかったよ」
「……」
政府の魔法少女で最強と称されるその少女の名前はシルビア。
ユイは直接彼女を見るのは初めてであったが、これまで出会ってきた何よりも強いということを一瞬で感じ取った。
シルビアはその様子を見て鞘から抜き出そうとした刀を再びおさめた。
そしてため息を吐いて言った。
「トワからの命令は、誰一人ここを通すな、だ。私に弱者を斬り伏せる刀はない。失せろ」
「つまり、この先にトワは居るんだな」
ユイはそう言い一歩前に出た。
次の瞬間、ユイは後方に大きく吹き飛んだ。
「ユイ!」
エフィはユイに駆け寄った。
シルビアは二人の様子を見ていた。追撃する気配はない。
「ああクソ。どうしていつもこうなんだ……私を馬鹿にしやがって……!」
「ユイ、落ち着いて。別の道を探そう」
ユイはエフィの手をはねのけ、立ち上がる。
「やってやるよ……」
ユイは手元でバチバチと電気を散らせた。
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そのころ、ロロはようやく施設内部に侵入していた。
「……ユイたちは問題なく侵入できたみたいだな」
壁には大きな穴が開いており、警報が鳴り続いている。
ロロがどの方向へ進むか考えていたとき、後ろから声が聞こえた。
「あれ、ロロ?」
この上なく最悪なタイミングで最悪の登場だった。
ロロの顔が緊張で引きつる。
「久しぶりね。ロロ、私のこと覚えてる?メルメルだよ~」
忘れるわけがない。
ロロが見たことある魔法少女の中で最も残虐であり、トップクラスに強い。
「なんでこんなところに……」
生きていたことに驚きはしなかった。
メルメルはクローンで何度でも蘇る。
そしてその製造装置がもう動いていないことをロロは知らない。
「私はリンリンの成しえなかったことを果たすだけ。騒ぎを聞いて駆けつけたら侵入できそうな穴を見つけてさ」
「そうか、忙しいからまたな」
ロロは早急にその場所から立ち去ろうとした。
メルメルは依然と比べて顔つきが変わっていた。
少し大人になり、多少は物事の判断ができるのでは、と考えたロロだったが……
「だめ!行かないで!殺しあおうよ?今度は負けないよ」
メルメルはロロの腕を掴み引き留めた。
「相変わらずなのね……」
メルメルの残虐性が失われていないことにロロは呆れ果てた。
丁度その時だった。
「いたぞ!侵入者だ!」
魔法少女軍の兵士たちが警報の音を聞き、ぞろぞろと集まってきた。
十数名の魔法少女がロロたちを囲む。
「あーメルメル?どうやら殺し合いどころではないようだなー」
ロロはわざとらしく言った。
「めんどくさいなぁ、お前ら雑魚に用はないんだよ……」
メルメルはポケットからスマホを取り出した。
「さっさと片づけて、殺し合いをする!いいね?」
「今のうちに逃げるかぁ……」
ロロとメルメルは停戦協定を結び襲い掛かる魔法少女の群れと戦いを始めた。




