第66話 魔法少女は巡り合う
魔法結社によるエリアA襲撃から1週間が経とうとしている。
トワの宣言通り、政府の工場では魔消兵の量産化が進んでおり、エリアAの町を歩けばその機械は必ず目に入るようになった。
魔消兵の魔力妨害装置によってエリアAに潜伏していた魔法少女は、まるで冷蔵庫の下に潜んでいた虫のようにあぶり出され、衰弱しているところを捕縛された。
魔法少女たちに残された生き残る手段は自らの意志で政府に保護されること。
しかし、彼女たちはそれすらも罠であることを知る由もなかった。
エリアAで頻発していた魔法少女によるテロは一気に減少し、町は再び活気に満ち溢れ、住民たちは歓喜した。
魔消兵による進軍はエリアAだけにはとどまらず、エリアBにも及んだ。
「ロロ、ついにこの近くまで魔消兵が進軍してきた」
教会付近の町の様子を見てきたエフィが帰ってきて、ロロに報告した。
「そうか、ありがとう」
ロロは教壇の下に座りながら、何やら作業をしていた。
「ロロ、何それ?」
ロロは手に魔法水の瓶と丁度同じぐらいの大きさのカプセルを握っていた。
「ああ、これはね……」
ロロはそのカプセルに魔法水の中身を全て注ぎ、蓋を閉じた。
そして、反対側の蓋を開いて見せた。
すると鉛筆ぐらいの太さの針が見えた。
「針?」
「私の魔法はね、他の魔法少女と比べて魔力の消費が大きいんだ。だから連続して戦闘するには魔法水の補給が必須なんだけどね……」
ロロはおもむろにその針を自分の右腕に刺した。
「な、何しているの……!?」
「飲むより、こっちの方が効率よく魔力を補給できるんだ」
「体は……大丈夫なの……?」
「ああ、1日ぐらいは問題ない」
ロロの周りには空き瓶とカプセルがたくさん転がっていた。
エフィはその様子を見て急に不安になった。
「ねぇ、本当に戦うの……」
エフィはロロに聞いた。
「ああ」
「止めはしない。でも、もうロロは十分頑張った。逃げていいんだよ?」
「ユイだけを無理させるわけにはいかない。私もそれに答えないとな」
「一番無理をしているのはあなたでしょ、ロロ」
エフィの気持ちも
ロロはエフィを優しく抱きしめた。
「こういう時、私はなんて答えるかずっと迷っていた。でももう迷いはない。
私は他の人に見放されるのが怖かったんだ。だから"いい人"であり続けた。他の人の言うことは何でも聞いたし、困っている人を助けたりもした。
でも、そんな心配は杞憂だって気づいた。ありがとね、エフィ。」
「ロロ……」
「それでも私が戦う理由はある。やっぱり私は魔法少女だから、これしか思いつかないや」
ロロはエフィを心配させないよう、笑顔を見せてあげた。
「おお、これすげーな。一本ちょうだい!」
いつの間にか来ていたユイはロロの作った魔法水のカプセルに興味津々だ。
「いいよ、でも持ちすぎたらユイのスピードを活かせなくなるよ」
「ありがと!」
強大な敵と戦うことに慣れていたロロにとって戦闘に関して不安は一切ない。
唯一の不安がユイだ。
ここ一週間で連日の特訓の消耗を回復できたが、ガブリエラが言っていた"呪い"と"破滅"。
ロロはどうしてもその言葉が頭から離れなかった。
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同時刻、政府複合施設軍事演習場。
トワの私兵である魔法少女軍。
そのほとんどがリンネの研究の際に引き抜かれた優秀な魔法少女である。
今やその半数が戦闘によって死亡した。
先日の反乱では勝利したものの、多くの同志と二番隊隊長のジャッジメントを失ったことで、戦意はかなり消失していた。
さらに、自分たちは用済みで処分されるのではないかという噂も立ち始めた。
トワがそんな魔法少女たちを眺めながら壇上へ上がる。
そして整列した魔法少女たちに向かって言った。
「魔消兵の誕生により君たちの役割は終わった!」
「しかし、私は君たちを見捨てたりはしない!」
「魔消兵と魔法少女で二重の防衛網を築く!」
「君たちの役目は政府に侵入してきた曲者を捕らえることだ!」
「君たちの活躍、大いに期待している!」
一転、落ち込んだ雰囲気が逆転。
とまでは行かなかったものの、魔法少女たちの不安はある程度解消された。
「各隊、隊長以外は解散せよ」
トワの号令と共に、魔法少女たちは一斉に散らばった。
残された魔法少女は二人。
シルビアとフードを被った魔法少女だ。
「君たち二人にはこれを渡そう」
そう言い、トワは二人に綺麗な石を渡した。
「これは?」
「それはいずれ役に立つ。持っていなさい」
トワはそう言うと自分の部屋に帰っていった。
「……」
二人は疑問に思ったが、とりあえずその石をポケットにしまった。
「お前はどうする?このままあいつを信じるのか?」
フードの魔法少女がシルビアに聞いた。
シルビアは答えた。
「あの人は変わってしまった。でも、まだ可能性は残されている。あなたは?」
「うーん、"俺"はどっちでもいいかなー」
「相変わらず適当ね」
シルビアは苦笑いをした。
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シルビアが一人で廊下を歩いていると、自分の後ろから何者かが接近してくるのに気づいた。
「誰だ?」
シルビアが後ろを振り返ると、影からその正体を現した。
「よう、久しぶりだな」
その少女の名はドラグーン。
元魔法少女軍の隊長であり、エリアCで発生した戦争で死亡したと思われていた。
制服はボロボロで泥にまみれていた。
「……」
その横暴な性格は、シルビアとそりが合わないことで有名だ。
「私を魔法少女軍に戻せ」
ドラグーンは自身の巨大な腕と爪を見せ、シルビアを挑発した。
シルビアはそれに全く動じず言った。
「無理だ。今、情勢は緊張状態。お前のような不安要素は許容できない」
「今ここで暴れてやってもいいんだぜ?」
「別に構わないが、結果は見えているぞ?」
「……チッ。だったら、私は好きにやらせてもらうぜ?」
ドラグーンは自身の爪をしまい、シルビアの横を通過した。
すれ違いざまドラグーンはつぶやいた。
「あいつには借りがあるんでな……」
「……」
シルビアはドラグーンを見向きもせず歩き出した。
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とある場所。
薄暗い部屋にテレビがチカチカと点滅する。
"元"魔法結社のアジトだ。
残されたメンバーはたった数人。
『政府は同じ過ちを犯す者が現れないよう、反乱軍に所属していた魔法少女の公開処刑を行う予定です』
テレビに映されていたのは巨大な十字架。
それと、勢いよく燃え上がる炎。
「やつらは油断する、必ずな……」
リオンが死に、リーダー代理に就いた紅島という男。
彼はテレビの電源を切り、暗闇の中でにやりと笑った。
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それぞれの想いが一つの場所に交差する。
その日はついにやってきた。




