第65話 呪いと魔法少女
「私の名前はハルシオン。政府直属の研究所の所長だ」
白衣の科学者はそう名乗った。
ロロは相手の正体を確認すると、近くに転がっていた空き瓶を拾った。
相手を殴る持ち方だ。
「まてまて、おちつけ。君と戦う気はない」
ロロは持っていた空き瓶を投げ捨てた。
空き瓶は地面にぶつかり大きな音を立てて割れた。
「すみません、イライラしているんです」
「君の気持ちは分かる」
「で、なんの用ですか」
ハルシオンは時計を確認し、ロロに聞いた。
「テレビは見たか?ちょうど例の会見が終わった頃だ」
「ああ、たった今見たよ」
「じゃあ魔消兵のことは?」
「それもさっき知った」
「なるほど、ならば都合が早い」
ハルシオンは持っていた大きな紙を広げた。
そこにはテレビにも映し出されていた魔消兵のデータが載っていた。
「これは……」
正確な重量、高さ、武装などやけに詳しく記されている。
まるで機密情報。
「どうしてこんなものを……」
「魔消兵は私が開発したからだ」
「やっぱりあんたは殺す」
ロロはハルシオンの胸ぐらをつかんだ。
しかし、ハルシオンは落ち着いていた。
「落ち着けって」
「あんたがこんなものを開発しなければリオンは死ななかったんだ」
「あいつは死んで当然だ。何も知らない多くの市民を殺した。復讐者の末路とでも言うべきか。私はそういった魔法少女を何人か知っている」
「……」
ロロは何も言わず歯を食いしばった。
そんなロロにハルシオンは言った。
「だが、テレビでは放送されていなかったが、あいつの戦いは勇敢だったよ……」
ロロはハルシオンを離した。
ハルシオンは襟元を正し話をつづけた。
「この魔消兵は私が開発したが、ほとんどはリンネ博士の技術の応用だ」
「リンネ……」
「こいつ最大の特徴は魔法少女の力を無力化すること、背部オプションの上部で下部タンクに蓄積された魔消粉末SAKURAの高度錬成を行い、魔消効果を持った電磁パルスを周囲に放出する。代わりにガスを排出し同時に背部オプション冷却もおこな……」
「もっと簡単に言って」
早口で話していたハルシオンは嫌な顔をした。
そしてしぶしぶ、わざとらしく説明を始めた。
「……この後ろについているやつがー、魔法少女の能力を消す力を持っていてー、こいつを破壊すれば無力化できるのー、わかった?」
「……」
ロロはハルシオンにも聞こえるぐらい大きな舌打ちをした。
ハルシオンは咳ばらいをし、口調をもとに戻して説明をつづけた。
「あとは機関銃。こいつも特殊な鉱石を使っているらしい、名前は確か『ディスぺライト』。こいつは当たると魔法少女の能力が無効化される。逆に言えば躱せば脅威にはならない。普通の魔法少女なら銃弾を躱すことぐらいはできるだろ?」
「そんなこと、敵である私に言っていいんですか?」
「いいと思うか?いいわけないだろ。全部レイス博士の頼みだ」
「え?」
「馬鹿だよな。あまりに敵が強大すぎるのに、それでも君たちのことを信じているみたいだ」
「レイス博士……」
「伝えることは以上だ。映像でも見た通りこいつは周囲15mのあらゆる魔法を打ち消す。背部オプションをどう破壊するかは自分たちで考えな……」
ハルシオンは周りを見渡した。
教会には寂れた小道具と綺麗なステンドグラスしかない。
加えて、エフィが割れた瓶の掃除をしていた。
「ところで、アルカはいないのか」
「彼女はもう、ここにはいません」
「そうか……」
ハルシオンは手を振りながら教会を去っていった。
そのあと、ロロは魔消兵のデータを眺めた。
「膨大なエネルギーの変換。それによって発生する熱。冷却……」
ロロはその場に倒れた。
「まったくわからん。どうすればいいの……」
背部オプションを破壊するには、少なくとも鉄を貫通するレベルの破壊力が必要。
しかし、魔法は直前で打ち消されるため通じない。
「ロケットランチャーを使えばいいのでは?」
「へ?」
そう言ったのはエフィだった。
ロロの後ろから魔消兵のデータを覗き見ていた。
「二足歩行するロボットは軽量化が必須です。そのため装甲はあまり厚く作られないものです」
「いやいや、そんなロケットランチャーなんて手に入らないでしょ……」
「地下にありますよ。ミコトさんが凶悪犯から押収した武器がたくさん」
「……」
わざわざこんな場面で嘘をつく必要はない。
どうやらエフィの言っていることは本当のようだ。
とロロは思った。
「しかし、なんでわざわざ二足歩行に……」
「……ロマン、ですね」
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ロロはユイの部屋に向かっていた。
「おーい、ユイ?今後の計画についてなんだけどー」
ロロは扉をノックしたが返事はない。
「開けるねー?」
と言いながらロロはユイの部屋に入った。
「……!」
部屋は随分と荒れていた。
壁や床には稲妻のような焦げ目がついており、部屋中煙のにおいがする。
所々魔法水の空き瓶が転がっている。
ロロが奥へ進むと、部屋の真ん中にユイが倒れていた。
「ユイ!?」
ユイはゆっくりと体を起こした。
「ごめん、心配させて。私は大丈夫だから……」
魔法少女は歳をとらず、見た目も変化しない。
しかし、ロロはユイが随分とやつれているように見えた。
それは魔力の過剰消耗。
魔法水があれば魔力切れになる心配はない。
しかし、魔法水は本来はマジンとの戦闘の代わりに使うものであり、
休息に魔力のリソースを割くべきなのだ。
ユイはミコトの暴走以来、ずっと一人で特訓を続けている。
「計画……だったよね?」
ユイはふらふらと立ち上がり会議室に向かうため部屋を出ようとした。
すれ違いざま、ロロはユイに聞いた。
「どうして、そんなに強くなろうとするの?」
「アルカも同じようなことを言っていたよ。でも、アルカもどこかに行っちゃった。私が弱かったから」
「それはちが……」
「違わない!!」
ロロの言葉を遮り、ユイは叫んだ。
ユイはロロが思ったよりも多くの物を失ってきた。
アルカ、ベルセルク、そして自身の姉であるレン。
全部、失った。
守れなかった。
「ロロは強いから分からないんだ!」
「私だって……」
ロロは言葉を途中で止めた。
ついカッとなって強い言葉を言おうとしたが、こんなところで不幸自慢をしても意味がないと理解した。
「ごめん」
「私が、必ずみんなを守るんだ……」
ユイはそう言うと部屋を後にした。
ロロもユイの後に続いて部屋を出ると、廊下にガブリエラが立っていた。
「ロロちゃん。あの子を、ユイをよろしくお願いします。」
「ガブ?」
ロロはいつもと違い大人びた口調のガブリエラに違和感を覚えた。
「ユイは呪いにかかっている。決して解けない呪い。あの子は破滅に向かっている。それでもあの子を止めないであげて。」
「呪い、破滅、どういうこと?」
「きっと自分の存在する理由を見つけられるから」
「ガブ、さっきから言っていることがわからない」
「じゃあ、ゲームしてくるねー」
そう言うと、ガブリエラは自分の部屋に戻っていった。
「もとにもどった……?、いったい何を伝えようとしていたの、ガブ」
だが、その言葉の意味をロロは知ることはなかった。
決戦の日は刻一刻と近づいていた。




