第60話 脱出!
再び工場に戻ってきたアルカとディアナ。
騒音と煙に阻まれ、辺りを彷徨っていた。
「ったく、出口はどこなんだよ……」
楽園から逃げ出した少女たちによって。工場は大きな騒ぎが起こっていた。
銃声と爆発音が鳴り響く。
不思議なことに少女たちは工場の兵士と戦っていた。
家畜同然だった少女たちは本能が目覚めさせたのか、記憶が戻ったのかは不明だ。
しかし、彼女らは魔法少女。本気を出せば兵士など相手ではない。
楽園で発生した戦火は工場の中枢へ引火した。
大きなタンクが爆発する。
「こっちだ、アルカ!」
その時、アルカを呼ぶメイの声。
「メイ!?」
メイはアルカに向かって紐のようなものを伸ばした。
アルカはメイを信じ、ディアナを抱えてその紐に掴まった。
アルカたちは最下層から引き上げられた。
薄暗い通路に入り、騒音はやや小さくなった。
「ありがとうメイ。だけど、私は……」
「いや、もうそのことはいいんだ。」
「え?」
「私の目的はミコトを殺すこと。協力が得られればなんでもいい。だから今だけは脱出に協力してあげる。」
「助かるよ、メイ。」
メイは出口に向かって走り出し、アルカとディアナもメイの後に続いた。
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階段を駆け上がり、より上へ。
ひと際大きな通路に差し掛かった。
地下街のようにいくつもの店舗が立ち並ぶ。
どうやらここの兵士や従業員が利用している購買施設のようだ。
シャッターは下ろされておらず、商品が並んでいるが、店員の姿は見えない。
そして、通路の奥にようやく朝日の光が見えた。
「出口だ……」
「おいおい、待てよ。このまま帰すと思ったか?」
出口の前に誰かいる。
「そんな……死んだはずじゃ……」
魔法少女軍の制服を着た黒い箱を持った少女が立っていた。
エニグマ。数分前アルカが直接焼き殺した相手だ。
「そんな簡単に死ぬようじゃ、魔法少女軍の兵士は務まらねぇよ。」
「でも……」
エニグマはやれやれといった表情を見せて言った。
「冥土の土産に教えてやる。私の魔法『BlackBox』は相手の魔法少女としての能力をコピーする能力。火炎魔法を扱う魔法少女をコピーすれば焼け死ぬなんてことはまずない。」
アルカは一歩下がった。
絶体絶命というほどではない。
エニグマはアルカの真の能力「神の眼」に気づいていない。
直接見たものしかコピーできないのであろう。
だとすれば、不完全なコピーに負ける筋合いはない。
しかし、アルカは連戦に次ぐ連戦。
体力や魔力の消耗は激しく、とても戦えるような状態ではない。
「先に行って、アルカ。」
メイがアルカにつぶやいた。
「え?」
「私たちは生き延びて、真実を伝えなければならない。必ず追いつく……」
メイはアルカを真剣な瞳で見つめた。
アルカはメイの顔を見て頷くと、ディアナを連れて出口に向かって走り出した。
「逃がすかよ!」
エニグマの火炎攻撃。ディアナを守る形でアルカが全てを受け止めた。
しかし、アルカにはまるで効いていない。
「バカめ、炎の魔法少女に炎の攻撃が効くかよ。」
「クソ……ならば……」
エニグマはBlackBoxに手をかざした。
その瞬間。
メイがエニグマに切りかかる。
「行け!アルカ!」
エニグマはメイの攻撃を間一髪で防いだ。
その隙をつき、アルカたちはエニグマの横を抜けた。
「裏切ったか!クリフォート!」
「ま、あんたは前々からムカついてたからね。」
「このことが本部に知られたら、お前は生きてはいけないぞ……」
「あんたを殺せばいいだけ……」
メイの衣装から無数の糸がエニグマに向かって伸び始めた。
数本がエニグマの体に突き刺さる。
「お前の魔法は……糸か!」
エニグマはメイと一旦距離を取ったが、腕にはメイの衣装から出た糸が突き刺さっていた。
「一度本気を出して戦ってみたかったんだ。」
「上等だよ……上等だよぉぉぉ!!!」
エニグマの発生させた炎によって、メイの糸は焼け落ちた。
二人の魔法少女が再度激突する。
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アルカたちはとにかく走った。
幸いなことに追手は来ていない。
「……」
ディアナがアルカの袖を引っ張った。
どうやらしばらく走り続けたことで疲れているようだった。
いくらデミとはいえ、普通の魔法少女であるアルカとは回復速度に差がある。
アルカたちは近くの木陰で休むことにした。
そして、これからのことについて考えた。
まず、ミコトの暴虐を止めなければならない。
ミコトはディアナを殺し、アルカの記憶を奪った張本人。
本来ならば殺すべき存在だが、アルカには心の迷いがあった。
それは普段のミコトを見ている期間の方が長いからだ。
ロロたちと協力するミコトは決して悪い人には見えなかった。
そして、アンチマギカと政府。
工場は壊滅状態になったが、無限のエネルギーを得られる施設を易々と見捨てるはずがない。
いずれどこかで再建されるだろう。
アンチマギカの謎も解けたわけではない。魔法少女を殺すためのナイフ。その正体も未だに掴めない。
加えて、魔法少女を超える兵器。レイスとアビスもいずれ助け出さなければならない。
「休む暇もないな。」
休憩を経て、二人は再び歩き出した。
その時だった。
「アルカ……」
アルカを呼ぶ声。
「あ……」
あまりにも偶然のことだ。
アルカは言葉を失った。
「大丈夫?何があったの?」
やさしく、アルカに手を伸ばした人物。
それはミコトだった。
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炎上する工場。
そんな中、谷底のヘリポートに向かう工場長。
彼はたった一つのカバンを抱えていた。
「ちぃ……やっぱりあの魔法少女。即刻排除しておくべきだった。」
工場長が合図を送ると、崖上からヘリコプターが降りてきた。
その間、工場長はカバンを開け、中身を確認した。
中には魔結晶がぎっしりと詰まっている。
「しかし、もう大丈夫だ。これだけの魔結晶があれば、生涯金に困ることはない。安息な暮らしが待っている。」
ヘリコプターが着地する。工場長はそれに乗り込もうとした。
そのとき、ヘリコプターから降りてきた男が銃を放った。
「な……」
工場長は心臓を貫かれ地面に倒れる。
「なんですかこれは。」
男が工場長に言った。
「ま、まさか、おまえは……」
「魔法少女を捕らえてエネルギーを生成。教祖に黙ってこんなことしていたのですね。」
「い、いや。しっかり、魔法少女は殺してい……」
工場長が言い訳を言い終わる前に何発もの銃弾が放たれた。
男は地面に散らばった魔結晶を踏みつけた。
魔結晶は飴のように砕けた。
「魔法少女は、この世の中に存在してはいけないのですよ。ほんの一かけらも、ね。」
男は再びヘリコプターに乗り込み、その場を去って行った。




