第6話 心の仮面
☆登場人物☆
『衛堂ミコト』
主人公。17歳。
黒のショートボブヘアで赤い瞳の少女。
至って普通の女子高生。頭は良くない。
育ての親を失い喪失感に駆られていた所、人外の化け物「マジン」に襲われる。
「死にたくない」という願いを抱き魔法少女として覚醒する。
魔法少女形態【???の魔法少女】
まるで医者の白衣のような衣装。グローブとブーツは白色だが、白衣の下は黒いタイツ。
頭には二本の丸っこい角が生えている。
白衣の裏から尻尾が伸びており、尻尾の先は注射器のようなデザインになっている。
白衣には緑色の線がデザインされている。それはサイリウムのように発光しており、ミコトの心臓の鼓動に合わせて心電図のように波を流す。
使用武器は「ミコトカリバー」
ミコトの身長ぐらいの大きさの剣であり、両手に持って戦う。
剣のグリップ真横には緑色の液体が入ったタンクがあり、タンクから伸びた管はミコトのグローブの中へと繋がっている。
『奏美音』
もう一人の主人公。17歳。
地面擦れ擦れの長さの青いポニーテールと青い瞳の少女。
ミコトより色々とひと回り大きい。
ミコトの学校に転校してきたが、実は世界各地でコンサートを行う超有名ピアニスト。
「自分の両親に再び会いたい」という願いを抱き魔法少女として覚醒。
その後、同じく魔法少女であるミコトと意気投合する。
魔法少女形態【音の魔法少女】
黒の燕尾服のような衣装。ひらひらしておらず、すらっとしており男性的なデザイン。
ピアニストがモチーフにもかかわらず、黒色の手袋をしている。
使用武器は「メゾフォルテ」
右手に強弱記号のフォルテを模した剣、左手に「m」の形をした盾を持っている。鈍器。
『レン』
黄色い髪と金色の瞳の少女。
次の日。
学校から連絡が来た。月曜日に登校が再開になるそうだ。
今、土曜日だから、休みは残り二日だ。
校舎の方はまだ復旧作業が行われているが、
一部のクラスをまとめて倒壊していない教室で授業をするらしい。
短い休みだったな。
「ミッコ……」
美音が私を呼ぶ。
風邪は二人のおかげで治った。
だが、寒いので、私はベッドから出ることを拒んだ。
耳元の近くで金属がたたかれる音がした。
フライパン?いや、二段ベッドの柱をはじいた音のようだ。
すると空中にシャボン玉のようなものが現れた。
「!?」
その球体はゆっくりと私の方へ近づく。
私がそれに手を伸ばすと、球体は大きな音を立ててはじけた。
「うわっ……」
私は驚いてベッドから飛び起きた。
「ふふーん。」
美音が自信満々に立っていた。
「どういうことなの……」
「魔法少女はマジンを倒すこと望みを叶えられるっていってたでしょ?あれね、魔法少女としても成長しているってことなんだ。つまり、これは私の新能力、魔法少女としてのね。」
ファンタジックな新能力だな。
美音は部屋のそこら中に球体を出現させている。
球体はそこそこ威力があるようで、はじけるとプラスチック製の小物は衝撃で吹き飛ばされる。
楽しそうだな。
私も欲しい、新能力。
「というか、そんなに使って大丈夫?魔力切れにならない?」
「自分のことは自分がよくわかっているよ。この程度だったら、大した魔力は使わないわ。」
ふーん、そうなんだ。
確かに、これは不可思議な力だが、人知を超越した力とは言い難い。
シャボン玉程度だったら、100均で買える。
私は朝食の支度をするため、冷蔵庫を開けた。
からっぽ。そういえば最近忙しくて、買い物をする暇がなかったな。
仕方ない。インスタント麺でも食べるか。
「ミッコ、見て。」
美音がまた私のことを呼んだ。
しかし、今度は声のトーンが低かった。
美音は真顔のままテレビを指さした。
片手鍋を片手に、テレビの近くまで歩いていく。
テレビには何やら、派手な衣装を身に着けた少女が映っていた。
アイドル?いや、そんな雰囲気ではない。
その答えは左上のテロップに示されていた。
私はその言葉を口にする。
「魔法、少女。」
美音と会った時からある程度は察しがついていた。
魔法少女は何人もいると。
しかし、魔法少女の存在は世間に知れ渡ることはないと思っていたのだ。
それが、あろうことかオカルトを否定し続けたメディアで公表されるとは。
それだけ、マジンの被害は深刻になっているのだろうか。
テレビの魔法少女はまるでヒーローのようにもてはやされていた。
影でこそこそ悪者を倒している私が馬鹿みたいに思えた。
羨ましかったのだ。
ぼんやりテレビを眺めている私に美音が言った。
「行くよ、ミッコ。」
美音はハンドバッグを片手に外出の準備をしていた。
不思議に思った私は美音に聞いた。
「行くって、どこに?」
美音は私に着替えを投げた。
私はそれを片手鍋でキャッチした。
「テレビ局。会いに行くのよ、この魔法少女に。」
もう一度テレビの画面を見た。
テレビには華麗に戦う魔法少女の映像が流れていた。
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最寄り駅近くにテレビ局はある。
スマホの普及でテレビ業界は衰退。
何年か前に、ほとんどのテレビ局が統合して一つの局となった。
しかし、それでもテレビを見るものは減り、10年後にはテレビは完全に無くなるだろうといわれている。
私は部屋がにぎやかになるのでテレビは好きだ。
でも、美音がそばにいるならいらないかもしれない。
果たして、目的の魔法少女に会えるのだろうか。
そもそも、映像が撮られたのは一週間ほど前の話だ。
現在テレビ局にいる可能性は極めて低い。
「ミッコ!アポとれたよ」
いるんかい。
先に受付に行ってた美音が戻ってきた。
美音はテレビにも多数出演しており、多少のコネは持っているのだという。
ますます、美音と不釣り合いな私の存在に嫌気がさした。
エレベーターで移動すると、ある部屋の前に報道陣が押し寄せている。
「あそこだね、彼女の楽屋。」
今日の報道を見て、早速取材を取ろうとしている。
まったく、迷惑な連中だ。
私たちも大差ないが……
美音と私は彼らを押しのけ部屋に入る。
「お待ちしておりました。奏美音さん。」
部屋の中はどう見ても楽屋ではない。
まるでお嬢様の部屋のようにいたるところに装飾が施されており
ただならぬ存在感を放つ少女が豪華な椅子に座っていた。
彼女が、テレビに映っていた魔法少女。レン。
テレビの中ではアニメの主人公のような元気いっぱいな少女だった。
しかし実際は冷静、というよりは冷酷な印象。
正直、苦手なタイプ。
「そちらの方は?」
金色の髪の隙間から赤い瞳が私を覗いた。こわ。
「その前にだれもいない場所に移動しましょ。彼らに聞こえると、めんどくさいことになるから。」
レンは何も言わず立ち上がり、本棚の本を取り出した。
すると、その本棚が動き出し、奥に通路が現れた。
アニメや漫画でよく見るやつだ。
「こちらへ。」
レンは奥の扉へ歩いて行った。
私たちも彼女に続いて暗い通路を歩いた。
扉を開けると、庭園が現れた。
天窓から光が降り注ぎ、鳥たちは歌い、川のせせらぎが聞こえる。
どういう構造しているんだ、このテレビ局。
川のほとりに白いガーデンテーブルが置いてある。
レンはそこに私たちに座るように言った。
全員が円卓の席に着く。
レンは置いてあったカップを手に取り、一口飲んでカップを置いた。
私も紅茶らしき液体を取り、それを飲んだ。
リンゴジュースだった。
レンは私が飲み終わるのを待たず話を始めた。
「それで、話というのは。」
「単刀直入に言おう。私たちも魔法少女だ。協力してマジンを倒そう。」
美音は机に手をつき、レンの方に身を乗り出して言った。
レンは頬杖をつき、川の方を見ながら、まるで話に興味がないかのような表情で言った。
「くだらない。」
ただそれだけ言うと、席を立った。
そして元の部屋に戻ろうとした。
私はジュースを皿に置き、レンの肩をつかんで言った。
「待って、一人でマジンの相手をするのは危険すぎる。」
私と美音、二人だからこそ倒せたマジンもたくさんいる。
魔法少女だからといって単独で行動するのは命取りになる。
レンは私の手を振り払った。
「仲間なんて、いらない。」
レンは振り返り、歩いて行ってしまった。
あの表情は、どこかで見たことがあった。
「無駄足だったな。」
美音はそうつぶやいた。
そして、立ち上がり、出口に向かった。
「ミッコ、ついでに買い物に行きましょ。」
私は彼女のことだけを考えていた。
レンは何かを隠している。
私には無駄足とは思えない。
そう、あの表情は。
美音と会う前の私に似ている。
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夜、私は目を覚ました。
二段ベッドの上にいる美音はいつものようにだらしない恰好で寝ている。
玄関のカギを持ち、部屋の窓を開け飛び出した。
魔法少女としての力を使い、夜の街を飛び回る。
目的の建物に来る。テレビ局だ。
本来、寝泊まりするわけがない。
だが、あの部屋にはベッドがあった。
その可能性は十分にある。
鍵を開けておいた天窓から侵入する。
庭や川にはライトが仕掛けており、夜の庭園は神々しい雰囲気に包まれていた。
しかし、弱弱しい光は遠くへは届かない。庭園の壁は暗闇でよく見えない。
私は変身を解除した。
記憶を頼りに、あの無駄に豪華な部屋を目指す。
完全に真っ暗になった細い通路を手で伝って歩く。
光が差し込んでいるのが見える。
力いっぱい壁をを押す。
カチと音が鳴ったので、横にずらすと隠し扉は開いた。
昼に見た、あの部屋だ。
予想通り、レンがいた。
私の姿を見て目を丸くして、固まっている。
両手に赤いカバーをした本を持っていた。
「レンさん、どうも。」
私は一礼した。そして、レンの隣に座る。
「な、な、な、なんなのよ!あなた!」
レンはやっと口を開いた。私の隣から離れ、壁まで逃げた。
冷静さのかけらもない。
「思い出した!、昼に来た、美音さんの隣にいた……」
おびえた目をして、私を指さす。
私は座ったまま言った。
「私はミコト。」
ただそれだけ言って、レンの次の言葉を待った。
「ミコト、昼にも言ったわ。あなた達に協力するつもりはない。早く帰って、警備員に通報するわよ。」
昼来た時はよく見てなかったので、部屋の様子を見る。
高級感のある家具がいくつも並んでいる。
大きな窓からは駅近くの建物の光が差し込む。
そばに、一人用のでっかいベッド。
美音の部屋にすらなかった、ピアノ。
仕掛け本棚。テレビは無い。
私は彼女に言った。
「理由、聞いてなかったね。」
「それも言った、仲間なんてくだらない。」
レンはゆっくり立ち上がり、言った。
「その理由だよ、どうして、そう思うんだ。」
レンは目をそらした。
理由があるなら、はっきりと言えるはずだ。
一人の方が楽しいとか、仲間なんてすぐ裏切るだろうとか。
でも、その言葉すら出てこなかった。
何かを隠している。人には言えない何かを。
そして、レンは今、嘘を考えて言おうとしている。
「だめだよ、レン。付け焼刃の嘘なんてあなたにはつけない。」
レンは私を怒りの形相で睨むと私に詰め寄ってきた。
胸ぐらをつかまれ、ソファから引きはがされた。
「お前に、私の何がわかる!」
私はレンを突き飛ばし、地面に転がり落ちる。
レンもまたバランスを崩し、倒れる。
「分かるよ、全部。あなたは私に似ている。あなたは望んで一人になっているのではない。」
私は適当なことを言った。
適当とは言ったが、核心には近い。
確かに、レンは私に似ているのだ。
「いいえ、私は望んで……」
私はレンの言葉を途中で切るように言った。
「大切な妹がいるんだろ?」
レンは驚いた顔をして私の顔を見た。
「どうして、それを……」
私は何か確信があって、その言葉を発した訳ではない。
レンが見ていた本。その間に挟まっていた写真。
それはレンとよく似た幼い女の子の写真。
そんな写真を見ていたなんて、何かあるに違いないと思ったからだ。
「ごめんね。あなたが大切そうに見ていたから……」
私は写真を手に取ってレンに見せた。
レンはそれを見ると激昂し、魔法少女の姿に変身した。
「返せよ……」
テレビで見たあの魔法少女。
派手な黄色のドレス。
まさに、アニメのような魔法少女だ。
だが、その表情は怒り。
決して魔法少女がしてはならない、恐ろしいほど深い怒りだ。
その怒りの矛先は私。
私は写真を机の上に置いた。
レンはどこからともなく、弓を取り出した。
そして、虚空を引いた。
すると、光の矢が出現した。
いや、光なんてものではない。
殺気立ってるのかバチバチと音を立てている。
これは、光じゃなくて、雷……!
「消えろ…」
レンはそうつぶやくと、雷の矢を放った。
魔法少女に変身する間もなく、矢は私の腹部を貫いた。
一瞬何が起きたか分からなかった。
痛みも感じなかったし、撃たれた感覚もなかった。
しかし、目を下に向けると、自分の右の脇腹がないことに気付いた。
徐々に痛みが湧き上がる。じわじわと血があふれ出る。
「あ゛ぁっ……!」
私は痛みにを我慢して、レンに詰め寄った。
レンは一歩引き、もう一度弓を引いた。
それが放たれる瞬間、私はレンに飛びついた。
レンの放った矢は、狙いを外し、私の左耳を吹き飛ばした。
轟音で聴覚が失われたが、私はレンの上に馬乗りになった。
そして、レンの弓を持っている右手を抑える。
魔法少女の身体は人間であり、運動能力は魔法の力によるものだ。
魔法同士で相殺したのか、そもそも怪力に魔法の力が作用していなかったかはわからない。
レンは必死に抵抗したが、私の拘束からは逃げられなかった。
「あなたに私は殺せない、あなたは私に似ているから。」
「適当なこといいやがって!!殺す!殺してやる……!」
レンにとって私は邪魔者ではあるが、殺す理由はない。
私はレンの瞳を見て言った。
「あなたは本当は助けを求めている。私が助けになる。」
レンの表情は怒りから悲しみに変わった。
そして子供のように泣き出し、抵抗をやめた。
私がレンから離れると、レンは変身を解除した。
レンは私に似ている。
偽りの自分を演じて、本当の自分を押し隠す。
でも、そんなことしてもつらいのは自分。
昼に感じた嫌悪感は自己嫌悪に似たようなものだった。
たった今レンの仮面はバラバラに崩れ落ちた。
私はレンに手を伸ばした。
崩しただけでは終わらない。
救ってみせる。最初からそのつもりだ。




