第57話 潜入!
「アルカ……アルカ……!」
誰かの声。
アルカはその声に目を覚ました。
「よかった、無事みたいね。」
アルカは寝ながら周りを確認した。
冷たい鉄の床。
格子のドア。
「……あ!」
アルカは何が起こったのか思い出し、飛び起きた。
「いてて……」
腹部の痛みはまだ残っている。
それで確証がついた。
少女を助けるために暴れて、その少女に刺された。
それだけだ。
ただ特異な点を挙げれば、そのナイフに刺されてから魔法少女の力が使えなくなった。
今、現在も症状は継続しており、周りのものを見ても神の眼は発動できず。
体の再生もできない。
アルカは自分の腹を確認した。
包帯が何重にもまいてあり、それでも血が滲んでいて見ているだけでも痛々しかった。
刺されて気を失ってからはなんだかんだあって牢屋にぶち込まれたのだろう。
あれだけの騒ぎを起こしたのだ。無理はない。
「どう?自分が何をしたのか思い出した?」
アルカに声をかけていた人物。
その人は以前アルカと会ったことのある人物だった。
「君は確か、メイちゃん?」
「まったく、私の名前なんて覚えている必要なんてないのに……」
彼女の名前はメイ・クリフォート。
ミコトの教会に仕えるシスターの一人だ。
アルカはよく指名していたので覚えている。
「でも、メイは……」
アルカは物語で確認していた。
メイはリンネのアジトを攻めたあの夜。
瓦礫に巻き込まれて死んだ。
「死体の確認はしなかったでしょ、確認が甘いのよ。私は生きていた、それが事実。」
「そうか……それはよかった……。いや!よくない!!」
アルカは自分で安堵し、自分でツッコミを入れた。
牢屋に入れられたという現状。決してよくはない。
「魔法も使えないとなると……」
アルカは脱出の手がかりがないかあちらこちらを探し回った。
「無駄よ。この部屋には何も手がかりはない。」
メイはアルカに言った。
それでもアルカは念入りに調べた。
と、その時。牢屋前の廊下に響く足音。
銃を持った兵士が牢屋の前にやってきた。
「出ろ。」
兵士はそう言うと扉を開けた。
アルカはその様子から、ただの牢屋ではないことを感じ取った。
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兵士に連れられたアルカとメイは長い通路を歩かされた。
途中、通路の壁がガラスになっており、外の様子を見ることができた。
巨大なタンクから噴き出す蒸気。
コンベアを流れる液体は毒々しいネオン色の光を放っていた。
「ここは、工場か?」
かなり巨大な施設のようだ。
そして何よりも、
「空が……」
両側にそり立つ崖。
星空が見えるのはその崖に挟まれた小さな隙間だけ。
「崖下にそびえる、巨大な工場……なにやら怪しいわね。」
「黙って歩け。」
兵士がアルカの頭に銃を突きつけた。
「はい……」
アルカはおとなしく兵士に従った。
しかし、次の瞬間衝撃的な光景が目に映りこんだ。
「なっ……」
アルカは思わず足を止めた。
透明なタンクの中。
透明な液体の中に浸かっているのは紛れもなく人間だ。
見間違えるはずがない。
「あれは……人?」
「違うな、あれは魔法少女だ。」
兵士はアルカの疑問に答えた。
「なんて、ひどいこと……」
メイはその惨状から目を背けた。
「お前らも、じきにああなる。」
兵士は笑いながら歩き始めた。
アルカは何も言わず兵士をにらんだ。
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数分ほど歩いて、とある部屋の前にたどり着いた。
「ここで待て。」
兵士はそう言うと、どこかへ歩いていった。
「今のうちに逃げ出せそう?」
「やめた方がいいよ、アルカ。監視カメラもある。」
「でもさ……実は……」
アルカが何かを言おうとしたその時、扉が開いた。
「入りたまえ。」
扉の奥から男の声。
アルカとメイは言われるがまま部屋に入った。
部屋は豪華な照明と装飾で彩られていた。
男が椅子を回転させアルカたちを見つめた。
「私は工場長だ。」
「どうも。」
アルカとメイは適当に挨拶をした。
「あれは、一体何?」
アルカは工場長が何かを言いだす前に聞いた。
「あれ、というのは。ここへ来る前に見たタンクのことか?」
「そう、魔法少女を閉じ込めて何をしているの?」
工場長は机の下から何かを取り出した。
それはきれいな宝石のように見えた。
「こいつは魔結晶。美しいだろう?魔法少女から得られるエネルギー。火も水も電気もこれ一つで解決さ。あのタンクはこれを抽出しているんだよ。」
「タンクに入れられた魔法少女はどうなる?」
工場長は邪悪な笑みを浮かべて言った。
「消えてなくなる。それがどうかしたのかい?」
「ひどい……」
メイは目に涙を浮かべた。
「誰かが生きるためには誰かを犠牲にする。当然のことだろう?魔法少女のエネルギー源である魔法水もこの結晶からできているんだぞ?」
工場長は結晶をしまい、机の上の資料を読み始めた。
「さて、君たちは罪人として連れてこられた。ここでしばらく働いてもらう。」
「冗談じゃない。ごめんだね。」
アルカがそう言うと、工場長は大きな笑い声をあげて言った。
「安心したまえ。君たちみたいに見た目がいい人材は殺しはしない。」
「……。なんか知らないけど、褒められてるみたいだ。悪い気はしない。」
アルカはちょっと照れながら笑った。
「ちょっとアルカ!?」
「まあ、いい。とにかく広報とかで働いてもらうぞ。」
「嫌だと言ったら?」
アルカは工場長に聞いた。
「ふふふ……君たちに拒否権はない。」
アルカは魔法少女としての力を封じ込まれている。
それ故、工場長は余裕の笑みを浮かべた。
工場長に対して、アルカも余裕の素振りを見せた。
「ま、そんなことより……」
アルカは工場長の少し上を指さして言った。
「それ。見たことあるんだよなぁ、どこかで……」
アルカが指し示す先。
それは壁に飾られている紋章。
アルファベットのAが横に二つ並べられたマーク。
「思い出したよ。どうして忘れていたのか不思議なぐらいだ。私を刺したナイフ。あれもあんたらのもんだろ?」
「ふふふ……」
工場長は笑いながらデスクの引き出しを開けた。
そして、その中から黒いナイフを取り出した。
「これか?」
「お前らは一体。なんなんだ?」
アルカは工場長に聞いた。
「反魔法少女団体。A.MA.……」
男は静かにそうつぶやいた。
アルカは顔を押さえて笑い始めた。
「くく……たどり着いた。瓢箪から牡丹餅とはこのことだな……」
「アルカ……」
「私の宿命の相手。そうか、アンチマギカ……!」
「聞いて、満足したか?何度でも言うが、君たちに労働を拒否する権利はない。」
工場長が指を鳴らすと、どこからともなく一人の少女が現れた。
「……!」
それはアルカをナイフで刺した少女だった。
政府の魔法少女軍の制服を着ている。
「魔法少女軍直属のエリートだ。この工場の警備をしてもらっている。」
「魔法少女撲滅を願う団体が、どうして政府の魔法少女軍と協力している?どうして魔法のエネルギーを作り出す?矛盾しているなぁ……」
アルカは工場長に言った。
工場長は手を大きく広げて高らかに語った。
「いいや、馬鹿正直に魔法少女を殺しまくる奴らもいるさ。このナイフを使ってな。でも、ただ殺すなんてもったいないだろ。アンチマギカは一枚岩ではない。いわば私たちはアンチマギカの裏の顔。我々は魔法少女を殺してエネルギーを得る。そして、そのエネルギーを政府に売って資金を得る。合理的だろ?」
アルカは工場長を睨みつけ、
「クズめ……」
とだけ言った。
「その反抗的な目。実にいい。調教しがいがありそうだ。連れていけ、エニグマ。」
「了解しました。」
エニグマと呼ばれた少女はアルカの腕をつかんで引っ張った。
しかし、アルカは全く動こうとしなかった。
「反抗しないほうが痛い目見なくて済みますよ?」
エニグマはアルカに言った。
アルカはエニグマに笑って見せた。
「!?」
突然、エニグマの手が燃え始めた。
「な、なんで魔法が……!」
アルカは剣を出現させエニグマを切り裂いた。
「がぁ…」
そして、アルカはポケットから針のようなものを取り出して見せた。
「その黒いナイフの刃を針状に加工したものかな?おなかがズキズキして痛かったから抜いてやったぜ。包帯がぐるぐる巻いてあったから取りづらかったけどな!」
アルカは針を捨て、剣を振るった。
部屋はたちまち炎上した。
「ちぃ……」
工場長は消火器を持ち出し、鎮火した。
しかし、アルカたちの姿は既になかった。
「エニグマ。奴を追え!決して逃がすな!」
「はい!」
エニグマは自身の傷を癒し、アルカたちの後を追った。




