幕間 命の教会 前編
私はアルカ、探偵をしている。
だけど普通の探偵ではない。
私は探偵であると同時に魔法少女でもある。
どういうこと?
簡単に説明してあげよう。
私の魔法少女としての能力「神の眼」は対象の「物語を見る」ことができる。
人に使えば、その人の記憶を辿るように鮮明に見ることができるし、
物体に使えば、それがどこで作られ、どのように使われてきたか、全て判明する。
凶器を見れば、事件の犯人の特定なんて一瞬だ。
複雑なトリックなんて一瞬で解体。
どう、素晴らしいの能力だろ?
だけど、デメリットもある。
私の能力は、生物に対して使用すると、対象は大抵逃げ出す。
どうやら対象は「私が記憶を見ている」ということを察知できるらしい。
人間相手ならまだしも、魔法少女やマジン相手に使うと、大きな隙を晒してしまうことは言うまでもない。
それに、よっぽど印象に残る出来事でなければ、遡って見ることのできる人の記憶はせいぜい一年ぐらいだ。
それ以前の記憶はやたらノイズが多くなる。
まあ、当然だろう。
一年前の朝食なんてメモでもしてない限り覚えているはずがないからな。
とにかく私はこの能力を使い、様々な難事件を解決してきた。
私はこれからもこの町の平和を守り続けていくだろう……
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「アルカ、誰に向かって話しているの……」
助手がアルカに言った。
「ひ、独り言だ、気にしないでくれ」
事務所前の掃除をしていた助手がいつの間にか戻っていた。
アルカは恥ずかしくて涙が出そうになった。
温泉宿の事件から約3年が過ぎた。
当時は、その存在に疑問を抱いている者も多かったが、リンネのレポートにより魔法少女の存在は一般認識されるようになった。
それから人類は急速に成長し、魔法を生活に応用するようになった。
安いし、環境にいいし、尽きることのない無限のエネルギー、それが魔法。
今、アルカが飲んでいる魔法少女用の魔力補給食「魔法水」の開発。
致命傷を治療することのできるデミ化手術。
空中を走る車や、街の電灯、コンロから出る炎。全て魔法に置き換わった。
一方で、強力な力を持った魔法を悪用する者もいる。
アルカが調査してきた事件でも数十件は魔法少女絡みの事件だ。
「だけど、世界は少なからずいい方に向かっている。はず」
アルカは黒色のナイフを見つめながらつぶやいた。
「なにそれ?」
助手はアルカに聞いた。
「これは、あの温泉宿で凶器に使われたナイフだよ」
「うわぁ、あの時の……」
「このナイフは私の能力を使っても、何も見ることができないんだ」
真っ黒。深淵。そう表現できるだろう。
リンネのレポートによれば、魔法少女は死ぬとき姿かたちを残さない。
しかし、あの温泉宿で殺害されたミノルの死体は残っていた。
これらの証拠が示す真相は……
「このナイフには、魔法少女の力を打ち消す能力が備わっている」
そこで問題は新たに発生する。
ベンジャミンはどこでこのナイフを手に入れたのか。
心当たりがあるのは、温泉宿に行く前にベンジャミンが受け取った手紙。
アルファベットの「A」が横に二つ重なったようなマーク。
元はと言えば、温泉宿の事件解決の手がかりとなったのだが、ミノルの日記にも同じマークが記されていた。"やつらが殺しに来る"と。
つまり、魔法少女に対して異常なまでの復讐心を持った組織がどこかに存在している。
アルカは温泉宿の事件の後、事務所を調べたが、その組織に関する手がかりは全て無くなっていた。
ベンジャミンか、その仲間が処分したのだろうか。
「いつか必ず見つけてやる。私に解けない謎はない……」
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アルカと助手はエリアBにある廃墟に来ていた。
依頼ではないが、事件の調査だ。
「これは……酷い……」
見るも無残な死体の山。
数にして15人。
手には銃やナイフ。様々な武器が握られている。
いわゆる反社会的な人々だ、エリアBでは珍しくない。
アルカは死体に向かって能力を使用した。
目の前に立つ一人の人物。
仲間たちはその人物に一斉に襲い掛かった。
しかし次の瞬間、一瞬にして数人の首が飛んだ。
物語はここで途切れる。
「やはり、Xか……」
最近になって、エリアBでこういった反社会的な人々が襲われる事件が多発している。
犯人は黒い服を纏った魔法少女。アルカはその魔法少女を「X」と呼び、調査している。
「正義を振りかざしているつもりなんだろうな……」
しかし、アルカの能力を使っても、その魔法少女は仮面で顔を隠しているため、毎回有力な手掛かりが得られない。
「もういちど一から調べなおす必要がありそうだ……」
結局今回も犯人につながる手掛かりを見つけることはできなかった。
アルカは死体を焼いて、その場を後にした。
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「あれ、帰り道こっちじゃない?」
違和感に気づいた助手がアルカに聞いた。
「ああ、そうだな」
アルカはそう答えたが、足を止めようとはしなかった。
アスファルトすら引いていない、深い森の中に進もうとしていた。
「ちょっと、アルカちゃん!?」
ひたすら前に進むアルカに仕方なく助手もついていく。
しばらく道なりに進むと、そこには立派な教会があった。
「懺悔でもするつもり?」
「まさか、何を?」
アルカは教会の扉を開けた。
静かな森に響く騒音。
異常なまでのネオンの光が差した。
まるでパーティでも行われているかのような雰囲気だ。
助手は茫然とした。
「ほら、ミコト!来たぞ、客だ!」
カウボーイハットを被った時代遅れの男が来客に歓喜している。
対して、隣にいる修道服を着たまじめそうな少女は不満げな表情だ。
「むふふ、いいねぇ。」
アルカが周囲を見渡す。
周りにはシスターの格好をした少女がたくさんいる。
「あ、アルカぁぁぁぁ!!!」
助手はこの教会の正体とアルカの目的に気づいた。
「今月はもう行かないって言ったじゃない!」
「オープン当日だし、記念に、ね?」
どういうわけか、アルカは女好きだ。
依頼で得た報酬金の半分ほどをいかがわしい目的のため使っている。
「ちょうどいい、今ここで懺悔しろ!アルカぁ!」
「ごめんごめん、明日構ってあげるから!」
「そ、そういうことじゃない!!」
喧嘩している二人に、カウボーイハットの男が割り込む。
「はい、じゃあ一番の席にお二人様ご案内~」
シスターたちに引っ張られて、アルカと助手は席に連れていかれた。
「やったぁ、一番のりぃ!」
「ちょ、ちょっとぉ……」
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雰囲気についていけなかった助手はベンチで休憩していた。
教会の外見をしたガールズバー。
オープン当日だからか、どんどん客が入ってきて大盛況だ。
「罰当たりだなぁ……」
「ほんとにな」
そう答えたのはシスターの一人だ。
さきほどカウボーイハットの横で不満そうな顔をしていた少女だ。
「あなたは行かなくていいの?」
「だれが行くかよ、あんな下品な遊びに」
口が悪い、のはともかく、ようやくまともに話せそうな人物なので、助手はその少女に事情を聴くことにした。
少女の名前はミコト。
世界の平和を願って教会を建てたが、エリアBの町から外れた場所に建てたため、人が寄り付かず閑散としていた。
そんなとき、カウボーイハットの男カイザーが機転を利かせて、シスターたちを利用したガールズバーに改装する計画を企む。
当然、ミコトは猛反対。
カイザーはミコトの商才がないことを煽り挑発。
ミコトはカイザーの挑発に乗り、一日だけ経営し来客の人数で勝負を挑んだ。
結果、ミコトは賭けに敗北した。
ミコトはそう語りながら、店に飾ってある高そうな瓶をあけ、豪快に口に流し込んだ。
ヤケ酒というやつだ。
「お酒、飲んでいいんですか……?」
「いいんだよ、私はこう見えて19歳なんだから」
「だめじゃないですか……」
助手の忠告も聞かず、ミコトは新しいお酒を取り出し、自分語りを始めた。
「ま、別に怒ってないしぃ、あの子たちが楽しければそれでいいんじゃないかなぁ」
ミコトは空になった瓶を振りながらゆっくりと話した。
「酔ってませんか?」
「酔ってないよぉ~」
ミコトは既に酔っていた。
ふらふらとバランスを崩して地面に倒れる。
仕方なく、助手はミコトを担ぎ店の奥で電卓を打っているカイザーの元へ向かった。
カイザーはミコトの姿を見ると爆笑し、ミコトのだらしない姿の写真を何枚か撮った。
その後、ミコトの部屋まで案内され、助手はベッドの上にミコトを下ろした。
「さて、と」
そこはどこにでもありそうな普通の部屋。
机に本棚、テレビにつながったゲームのコントローラ。
「これは……」
勝手に物色するつもりはないものの、三人の少女が写っている写真が助手の目に入った。
注目したのは真ん中に写る青い髪の人物。
「奏美音、エリア1で演奏後失踪した伝説のピアニストじゃないか……」
美音の写真は他にもたくさん飾ってあった。
「ミコトさん。けっこうすごい人かも……」
助手はミコトを見つめて言った。
ミコトは抱きまくらを抱えながら寝言を言っている。
幸せそうな睡眠を邪魔するのも悪かったので、助手は部屋から出て行こうとした。
その時、ミコトの方を見ながら歩いたせいか、助手は棚に足をぶつけた。
「痛っ~……」
偶然か、その引き出しは突然開いた。
助手は痛みを我慢しつつも、その開いた引き出しの中身を見てしまった。
「……!」
ミコトの部屋にある本棚の下の引き出し、その中には黒く光るナイフが入っていた。




