幕間 魔法少女になった日 解決編
ベンジャミンといっしょに旅行に行くといつもこうだ。誰かが死ぬ。
でも、そのたびにベンジャミンは名推理を見せ、事件を解決して見せた。
だけど今回は、事件を解決しても晴れないようなもやもやがアルカにはあった。
ベンジャミンとオリーブ刑事を除いた客と従業員はロビーで待たされることになった。
少女とその友人たちはミノルの突然の死と、死体を見たショックで冷静さを保てていない。
しばらくして、ベンジャミンたちが戻ってきた。
アルカはベンジャミンに駆け寄り、話を聞こうとした。
「先生、何か分かりましたか?」
「……」
ベンジャミンは何も言わなかった。
すぐ隣を歩いていたオリーブ刑事はアルカの横を通り過ぎると、少女の方へ歩いて行った。
そして、少女に手錠をかけた。
「あなたを殺人の容疑で逮捕します」
「え……」
当然、少女は困惑した。
友人が何者かに殺されたかと思えば、今度は友人を殺した犯人として疑われた。
流石に、おかしいと思ったアルカはオリーブ刑事に突っかかる。
「ちょっと待ってください!いくら何でも横暴です!」
「アルカ!」
ベンジャミンがアルカを制止する。
「先生!いつものようにしっかり推理してください!」
アルカは涙目になりながらベンジャミンに訴えた。
そんなアルカにベンジャミンは冷酷に言い放った。
「今回は推理するまでもない、決定的な証拠が現場にあったんだ。」
「証拠……?」
「これだ」
そう言い、オリーブ刑事が取り出した袋。
その中には緑色の髪留めが入っていた。
「あっ……私の、髪留め」
少女は信じられないような物を見る目でそれを見た。
「そんな……ありえない……だってそれは……」
アルカに光明が差した。
アルカは知っている。少女の髪留めはミノルが殺される以前に紛失していたことを。
事件現場に落とすはずがないのだ。
だとしたらなぜ、現場に落ちているのか。
「誰かが……彼女に罪を着せようとした……?」
この宿の中にいる人物は限られている。
「いったい誰が……」
アルカは周囲の人々を見渡した。
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「アルカ、頭を冷やせ」
「だって、あの髪留めは……」
アルカはベンジャミンに何度も説明した。
しかし、ベンジャミンは聞く耳を持たない。
「それに、髪留め以外にも証拠はある」
警察が宿に来るまで一時間ほど。
それまで、全員ロビーで待つように命令されている。
「もういいです!私が調査します!」
「アルカ!」
アルカはベンジャミンを無視してロビーを抜け出した。
追ってくるベンジャミンを振り切り、アルカは事件現場まで戻ってきた。
扉を開けようとしたが、鍵がかかっている。
「まあ、当然封鎖されているよね」
アルカは鍵を取り出し、中に入った。
「あれ、なんで私この部屋の鍵を持ってるんだ……」
アルカはちょっとした疑問を抱いた。
手の中を確認したが、鍵の姿はなかった。
「……」
一体何が起きたのか、考える間もなく後を追ってくるベンジャミンを足音が聞こえた。
アルカはとっさに部屋の中に入った。
鍵をかけた。
アルカは聞き耳を立てた。
足音はだんだんと遠ざかっていく。
「危なかった」
アルカは一息ついて部屋の中を調べ始めた。
ミノルの死体は回収されておらず、さきほど見た時と同じ状態だった。
「やっぱりおかしい……」
部屋を見てアルカが初めに感じた違和感。
その部屋は一切調べられていないかのようにきれいな状態だった。
「今回の事件、調査から推理まで何もかも雑すぎる。先生がいながらこんなこと、ありえない……」
アルカは部屋を隈なく探した。
そして、手がかりになりそうなものを片っ端からかき集めた。
机の上に日記が置いてあった。
「ミノルの日記だろうか……」
アルカは躊躇せずその日記を開いた。
その時だった。
アルカの後方から銃声が響いた。
「え……」
歪む視界。
真っ赤に染まる手。
苦しみに悶えながらアルカはその場に倒れた。
「まったく、手間をかけさせてくれる。やはりあのとき殺しておくべきだったな」
「……!」
その声は聞き覚えがあった。
「オリーブ……刑事……」
アルカはその名前を呼んだ。
「おや、まだ息があったか。なかなかしぶとい奴だ」
オリーブは銃口をアルカの額に向けた。
極端に少ない宿泊客。
適当な調査。
髪留め。
日記の内容。
ベンジャミンとゆく先々で事件が起きる理由。
全部つながった。
「オリーブ刑事、あなたが……あなたたちが……ミノルを殺したのか……!!」
「そうだよ、でも惜しかったね。君もここで死ぬんだ」
オリーブ刑事が引き金を引く。
と、同時にアルカの体が燃え上がった。
突然のことにオリーブ刑事は驚き、銃を落とした。
銃は炎に包まれ、みるみるうちに溶け出した。
「なぞはすべて、解けた、かも」
アルカは炎を振り払い、立ち上がった。
先ほど背中から打たれた銃弾の傷は癒え、衣装も変わった。
「くっ……やっぱりお前も……魔法少女か!」
オリーブ刑事はミノルに刺さっていたナイフを抜き取り、アルカへ突き刺した。
アルカは持っていた剣の鞘でオリーブ刑事の腕を殴打し、ナイフをはじき落とした。
そして崩れ落ちたオリーブ刑事に剣先を向ける。
「ひぃっ……」
アルカが剣を振り上げた。
オリーブは気絶し、その場に倒れた。
アルカはとどめを刺さずに剣をおさめ、その場を後にした。
「全部、わかった……だけど」
アルカにはどうしても知りたいことがあった。
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アルカから引火した炎で温泉宿はたちまち燃え上がった。
ロビーにいた人々は外へ避難していた。
燃える建物の奥からアルカが姿を現した。
「アルカ!」
ベンジャミンはアルカの名前を呼んで駆け寄った。
しかし、いつもと違う様子のアルカを見て足を止めた。
「先生……」
アルカはベンジャミンの顔を見つめて言った。
「どうして、あの子を殺したのですか……」
「……」
ベンジャミンは何も答えなかった。
「どうして……」
突如、アルカの脳裏に映像が流れ込んできた。
それは誰かの記憶。
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私の家族は魔法少女に殺された。
そいつは特に意味もなく殺戮を楽しむやつだった。
妻や娘の死体を見せつけ、泣き崩れる私の姿を見て嘲笑った。
その時、心の中で誓った
「魔法少女は全て殺す」
と
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現実時間にしておよそ一分。
アルカはベンジャミンの記憶を覗き見た。
アルカと出会う前。出会ってから今日までの日々。すべてを。
ロビーは炎の海と化していた。
天井から瓦礫が焼け落ちる。
「復讐ですか」
アルカはベンジャミンに聞いた。
「アルカ……まさか、私の記憶を見たのか……」
アルカは頷いた。
アルカの魔法少女としての能力にベンジャミンは驚いていた。
アルカもまた自分の能力に戸惑いを隠せない様子だった。
自分が見つめた相手の記憶が、まるで物語ように映し出されたのだ。
そしてすべてを知ってしまった。
アルカの予想通り、ベンジャミンの探偵としての功績は全て、魔法少女を殺すためだけの嘘だったということ。
刑事のオリーブと協力して、その殺害を隠ぺいしていたのだ。
「失望したか?アルカ」
「しない……!あなたは私を救ってくれた。命の恩人だ……」
「あれは政府の魔法少女育成施設だった。本当は皆殺しにするつもりだった。魔法少女として覚醒していないお前は敢えて見逃したんだ」
「それでも……私は……」
アルカはベンジャミンに対し抱いていた感情を打ち明けようとした。
しかし、ベンジャミンの功績全て偽りだったため、アルカは言葉が出なかった。
「アルカ、もういいんだ。私はただの復讐鬼だ」
アルカはそう言うベンジャミンに抱き着いて言った。
「私は知らなかったんだ。家族を失うことがどれだけ辛いことか……!」
「アルカ……」
「私は……あなたの支えに、本当の家族になることが……出来なかったんだ……」
アルカは涙を流した。
その涙はアルカ自身の炎で即座に蒸発し、流れ落ちることはなかった。
「つらい思いをさせてすまなかった。アルカ」
ベンジャミンもまた、アルカを本当の家族として迎えることができず、復讐のためにひたすら魔法少女を殺した。
そんな自分をひたすら悔いた。
「本当に……先生のばか……」
アルカはベンジャミンに対し精一杯の罵倒を絞り出した。
ベンジャミンの体に火がつき燃え始めた。
それは瞬く間に灰となり、炎によって巻き上げられ、空に消えた。
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炎上する建物の外では消防が消火活動に勤しんでいた。
建物から真っ黒になったアルカが姿を現す。
「アルカちゃん……無事だったのね!」
少女がアルカに駆け寄る。
少女にかけてあった手錠は外されている。
アルカはオリーブ刑事と対峙したとき、ボイスレコーダーで録音していた音声データを予めオリーブ刑事の携帯から同僚に送信していた。
きっと本人はあの炎の中だろうけど、先生と仲良くやってるだろう……
アルカは自分についた灰を振り落とし、少女にハグをした。
「アルカちゃん、なんか印象変わった?」
少女はアルカに聞いた。
「全然、いつも通りさ」
涙は燃やした。もう流れなくなるほどに。
喪失と向き合う覚悟をしてきたのだ。
そして……
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数日後。
アルカは梯子を使い、建物の二階と三階の間に設置されている事務所の看板を書き換えていた。
「魔法少女探偵アルカ……どんな事件でも解決して見せます……か」
アルカは声がした方を見下ろす。
大きな荷物を背負った少女がいた。
温泉宿の事件の後、自分を救ってくれたアルカに恩返しがしたいと言い出したのだ。
アルカは事務所を一人で経営していかなければならないため、少女を助手に任命した。
「おっすー、見栄えどう?」
「なんていうか、胡散臭さがあっていいと思います」
「そっかそっかー」
アルカは笑顔で看板を見つめなおした。
罵倒されていることには気づいていない。
「探偵とは何たるか、たとえ偽りでも教えてくれたのはあなたです。先生。」
アルカは心の中でそうつぶやいた。
「さて……」
アルカは梯子から降りようとした、そのとき。
「あ」
アルカは足を滑らせた。
「アルカちゃん……!?」
慌てて梯子に掴まる。
しかし、そんな安定感は梯子にはない。
アルカを連れて梯子はゆっくりと倒れ始めた。
「……死」
重力に潰され魔法少女はミンチになった。
魔法少女はそう簡単には死なない。
しかし、探偵事務所の前で死体が発見されたと、少しの間話題になった。




