第5話 発病
☆登場人物☆
『衛堂ミコト』
主人公。17歳。
黒のショートボブヘアで赤い瞳の少女。
至って普通の女子高生。頭は良くない。
育ての親を失い喪失感に駆られていた所、人外の化け物「マジン」に襲われる。
「死にたくない」という願いを抱き魔法少女として覚醒する。
魔法少女形態【???の魔法少女】
まるで医者の白衣のような衣装。グローブとブーツは白色だが、白衣の下は黒いタイツ。
頭には二本の丸っこい角が生えている。
白衣の裏から尻尾が伸びており、尻尾の先は注射器のようなデザインになっている。
白衣には緑色の線がデザインされている。それはサイリウムのように発光しており、ミコトの心臓の鼓動に合わせて心電図のように波を流す。
使用武器は「ミコトカリバー」
ミコトの身長ぐらいの大きさの剣であり、両手に持って戦う。
剣のグリップ真横には緑色の液体が入ったタンクがあり、タンクから伸びた管はミコトのグローブの中へと繋がっている。
『奏美音』
もう一人の主人公。17歳。
地面擦れ擦れの長さの青いポニーテールと青い瞳の少女。
ミコトより色々とひと回り大きい。
ミコトの学校に転校してきたが、実は世界各地でコンサートを行う超有名ピアニスト。
数か月前から魔法少女に覚醒しており、学校にやってきた「マジン」を倒すためにミコトと意気投合。
以降はミコトの親友となる。
魔法少女形態【音の魔法少女】
黒の燕尾服のような衣装。ひらひらしておらず、すらっとしており男性的なデザイン。
ピアニストがモチーフにもかかわらず、黒色の手袋をしている。
使用武器は「メゾフォルテ」
右手に強弱記号のフォルテを模した剣、左手に「m」の形をした盾を持っている。鈍器。
『ゆずりは』
ミコトの親友。茶色の髪で茶色の瞳。
ミコトとほぼ同じ体格。
次の日。
今日は気持ちよく起きることができた。
歯を磨き、朝食の準備をする。テレビをつける。
予想通り、昨日のあの事件ニュースがやっていた。
マジンの説は否定され、美音の部屋に暴漢が忍び込んだとされている。
美音は外出していたと報道された。
ずいぶん適当なニュースだな。
玄関のベルが鳴る。
私は玄関までダッシュし、すぐに扉を開けた。
「いらっしゃい、ミオ!」
そこにはスーツケースを携えた、美音が立っていた。
美音は昨日の事件で住む場所を失ってしまった。
新たな住居を探すのも良いが、一人だとまた危険な目に合うかもしれないので、私の部屋で同居することになったのだ。
私の提案だ。
「おじゃまします。」
美音は自分の脱いだ靴を揃えると、私に続くように部屋に入ってきた。
「ごめんね、狭い部屋で。」
私の住む部屋はそんなに狭くない。むしろ一人暮らしにしては広い方だ。
しかし、美音の部屋に比べると見劣りしてしまう。
いわゆる社交辞令だ。
「そんなことないよ、いい部屋だね。」
これも社交辞令。
私は、美音に私がいつも座っているソファを差し出した。
美音は遠慮しつつもそれに座った。
「一人暮らし?高校生なのに大変だね。家族はどこに……」
美音が何気なく聞く。
美音に悪気がないのは分かる。
しかし家族のことを聞かれると思い出したくないのか、顔に出てしまうらしい。
私の家族はもうこの世にいない。
10歳の時だ。
夜、物音で目が覚め、リビングへ行くと二人とも血を流して死んでいた。
警察の調べによると、金が目的の強盗殺人と言われている。
あの夜のことは忘れようとしても、忘れられない。
記憶の片隅にはっきりと残っている。
美音は何かを察してくれた。
「あぁ、ごめんね。」
これから二人の共同生活が始まるというのに、
初っ端からこんな調子じゃだめだ。
気持ちを切り替えていこう。
「美音、コーヒーいる?」
私は自分が朝食用に飲む予定だったコーヒーを差し出した。
これぞ大人の会話だ。
美音はそれを受け取った。
「ところでさ、昨日のこと……」
美音はコーヒーを自分の息で冷ましながら、私に言った。
「あのマジン、破壊が目的じゃなかった。少し不思議だよね。」
そうだ。
今までのマジンはとにかく乱暴に暴れていただけだった。
しかし、今回は違う。明らかに美音や私に対し殺意を向けていた。
建物の被害も美音の部屋とその周辺にしか及んでいない。
マジンは何らかの目的を持って行動している。
犠牲者が少なくなるから、向こうからやってくるなんて好都合だけど。
私は新しいコーヒーを淹れながら美音の話を聞いていた。
ピンポーン
ベルが鳴ったが、私は無視をした。
……
「ゆずじゃない?出なくていいの?」
美音が聞いた。
ゆずの場合は何回も鳴らしてくる。
「違うね。セールスか宗教。」
この辺りは宗教の勧誘が多い。
二度と来るなと言っても、何回も来る。
救いを求める人が増えたのか、最近勢力を増している。
もちろん、まともな宗教などない。
すべて信者から金と労力を搾り取るためのいわゆるカルトだ。
玄関の扉を開けると長い話に付き合うことになるので、無視することにしている。
美音は冷ましていたコーヒーに口をつけた。
チーン
パンが焼けたようだ。
私は冷蔵庫から卵を二つ取り出すと
一つをフライパンの上で割った。
「ミオは朝ごはん食べた?」
私は美音に何気なく聞いた。
「食べたよー。」
美音はテレビを見ながら適当に答えた。
「おっけ!」
私はもう片方の卵を冷蔵庫にしまった。
焼き終わった目玉焼きをパンの上に乗せ、その上からさらにパンをかぶせた。
そしてそれを包丁で半分に切る。
完成、ミコトサンド。
実際はただの目玉焼きサンドである。
しかし、私にとっては特別な朝食だ。
学校がある日はこんな悠長な食事をしている暇はない。
食パン焼かずに一枚だけである。
だから、私はこうして落ち着いて朝食ができる休日の朝が好きだ。
美音の隣に座る。
「後でベッド買いに行こっか。」
私はミコトサンドを頬張りながら美音に言った。
当然だが、私の部屋にはベッドは一つしかない。
突然の来客用の布団も用意してない。
同居するとなったら、ベッドは二つ必要になる。
「そうだね。私、お金出すよ。けっこう余裕あるし、同居させてもらっている立場だしね。」
美音が言った。
全額美音に出させるのは申し訳なかったが、見栄を張れるぐらいのお金を持っていなかったので、美音に頼ることにした。
「二段ベッドにする?それともダブルベッドにする?」
私は冗談半分で美音に聞いた。
美音は目を丸くして、私の顔を見た。
私は美音の驚いた顔を見てにやりと笑った。
美音は顔を赤らめ、私とは反対の方向を向いて言った。
「別に、どっちでも……」
私も急に気まずくなって、それ以上何か言うことはなかった。
テレビの音だけが部屋に響く。
結局、私たちは二段ベッドを買った。
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夜、一人の少女が目を覚ました。
青い髪の少女は二段ベッドの階段を降りる。
「やけに寒いな……」
美音は月明りの方を見る。
「窓が、開いている。」
冬の訪れを表すかの如く、肌寒い風が吹き込んでくる。
「うぅ……さむ……」
美音は二段ベットの下の布団の中に全身を隠し、蹲っているミコトを見た。
そして一言、ミコトを起こさないように小声でつぶやく。
「風邪ひくよ、ミッコ…」
美音は半開きになっている窓を閉じ、鍵をかけた。
そして、二段ベッドの階段を登り、再び眠りについた。
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体が震える。
頭が痛い。
視界が揺れる。
喉を枯らすほどの咳。
「くしゅんっ!」
くしゃみをした。
きっと風邪をひいたのだ。急に寒くなったからだと思う。
「昨日、窓開けっぱなしだったからでしょ。まったく、女の子が窓を開けっぱなしにして寝るなんて、不用心にもほどがあるわ。」
と言いつつも、美音は看病してくれている。
「魔法少女も風邪になるんだね。」
熱は39度、もともと体温が高い方なので、深刻な状況ではない。
が、できるだけしんどそうな顔をして、息を切らしながら言った。
美音が心配してくれるのが嬉しかったからだ。
「あぁ、体の構造は人間と変わりないからな。」
私はふと、あることに気が付いた。
「あ、そうだ。確か魔法少女は体の再生速度がめちゃくちゃ速いんだよね?それで治せないかな?」
美音は先日の戦闘で重症を受けた。
しかし、ものの数時間ですべての傷を完治したのだ。
おなじ魔法少女だから、私にもその能力がある。
「魔法少女の再生能力は致命的な重症を負った箇所だけを素早く回復させる。あなたの喉や肺を傷つければ再生は可能かもしれないけど……」
可愛い顔で恐ろしいことを言う。
当然、私は拒否した。全力で。
「じゃあ、私、風邪薬買ってくるから、ベッドで静かに寝ててね。一番の風邪薬は睡眠なんだから。」
そう言い、美音は買い物に行ってしまった。
しっかりと、玄関のカギをかけた。
「しっかりしすぎなんだよなぁ。」
とはいえ私は、だらしない。
一人で反省していた。
時計の音だけが聞こえる。
何もない静寂な時間。
テレビでも見ようかと思ったが、ベッドから出たくない。
それに、寝てなかったら、きっと美音に叱られるだろう。
まあ、日ごろの疲れを癒すいい機会だ。
私は目を閉じた。
ピンポーン
嫌な予感がした。
ピンポーンピンポーンピンポーン……
この鳴らし方はゆずだ。
出ないわけにもいかない。
私は立ち上がり、玄関へ向かった。
玄関を開けるとやはりゆずがいた。
「やっほ!みこちゃん元気?……じゃなさそうだね。」
私の様子を見て、察しがついたらしい。
できれば、帰ってほしい。風邪をゆずにうつしたくないし、寝ていたい。
休学期間はまだある。またいつでも会えるだろう。
「じゃ、お邪魔しまーす!」
予想通り、ゆずが侵入してきた。
私は玄関の扉を閉じ、ゆずの後についていった。
ゆずは昨日買った二段ベッドを登ったり降りたりして遊んでいる。
まるで、動物園にいる猿のようだ。
「なにこれ?なにこれ?」
私は二段ベッドの下に潜り込み、毛布を被った。
「美音のマンションが倒壊したでしょ?
だから、二人で暮らすことになったの。」
「二人……で?」
珍しくゆずが黙り込んだ。
そして、私のソファに座りテレビをつける。
「そうなんだ……」
ゆずは適当にチャンネルを選んで、つぶやいた。
まぶしくて目がチカチカするので、私はテレビとは逆の方向を向いた。
「でも、美音って家族いるんでしょ?いいのかな、こんな勝手なことをして……」
ゆずが言った。
考えてもいなかった。
あの時、美音は一人だったので勢いで誘ったが、美音はすんなりOKと言ってくれた。
どうしてだろう、家族がいたら、普通断るのに……
もしかして……
しかし、それ以上は考える気力がなかった。
「あとで、美音に聞いてみよう、何か事情があるはずだ。」
私はそう言った。
ゆずは気に入った番組がなかったのか、ゲームを取り出して遊び始めた。
楽しそうなゆずを見て、なんだかこっちが申し訳なくなってきた。
風邪、うつるだろうなぁ……
元気そうに見えて、ゆずは風邪をよくひく。
小学生からの付き合いだ。私が体調不良で学校を休んだ日は、学校の配布物を届けてくれるついでに見舞いに来てくれた。
おかげで、私の風邪はすぐ治った。
が、次の日学校へ行くと、今度はゆずが風邪をひいて休んでいた。
そんなことが何回もあった。
玄関から足音が聞こえた。
どたどたとあわてて近づいてくる音がする。
「ミッコ!」
美音だ、薬局まではそう遠くない。
そろそろ帰ってくる頃だと思っていた。
どうしたんだろう、そんなに慌てて。
「ゆずちゃん?あっ、なんだ、ゆずちゃんか……」
美音はゆずを見て落ち着きを取り戻した。
「おじゃましてまーす。」
ゆずは美音の姿も見ずに、テレビ画面に集中している。
「おかえり、ミオ。どうしたの?そんなに慌てて。」
私は二段ベッドの中から顔を出し、美音に言った
「玄関の鍵が開いていたから。あやしい人が部屋に入っていると思って。」
美音は私のそばまで来て言った。
まあ、ある意味正しいけどね。
美音は袋の中から、風邪薬を取り出し、私に渡した。
「風邪薬とか、買ったことないからよくわからないけど、一番よさそうなもの買ってきたから。」
そういい笑顔を見せた。
風邪薬だけ渡されても、どうしようもないのだが……。
パッケージを見る。
のど飴だ。
美音のやさしさを無碍にするわけにもいかないので、一応、感謝した。
「美音、ここで暮らしているって本当?家族とかは大丈夫なの?」
ゆずはゲームを中断して、美音に聞いた。
私の予想が正しければ、私と同様に美音の家族はもう居ない。
ゆずはそんなことも気にせず、あるいは気づかずに美音に質問した。
よほど気になったのだろうか。
美音は少し考えたようなそぶりを見せて、言った。
「いるよ。」
いるのか。
なんとなく、私と同じような雰囲気だったが、違うようだ。
「じゃあ、どうしてみこの部屋に住んでいるのさ、家族は心配していないの?」
ゆずはさらに聞く。
「大丈夫、家族はいるけど、一緒に暮らしてないだけ。パパとママは私が中学生の時にどっかに行っちゃったの、きっと私が悪い子だったから……」
美音が静かに言った。
「あっ……」
流石のゆずも美音の声のトーンから楽しい話ではないことを察すると、黙った。
「でもね、そろそろ帰ってくるんじゃないかな。私が、世界一のピアニストになったら、ね?」
美音の家庭は写真で見た通り貧相だった。
この話を聞く限り、美音の家族はピアノを弾きたいという美音のわがままに耐えられなかった。
そして、美音を捨てた。
私は美音の心の中は読めない。
今も家族を信じているのか、半ばあきらめているのかわからない。
だけど、美音の心は深い傷を負っていた。
それだけは理解できた。
「なんか、ごめんね。」
美音は誰かに謝った。
そして、無理矢理笑顔を作って見せた。
ゆずも小さくごめんと言い、美音に謝った。




