第36話 スレイヴフィールド占領作戦
☆登場人物☆
『ロロ』
主人公。白いボブヘアの少女。瞳の色は水色。
殺し合いを娯楽としている趣味の悪い連中に捕まったため、施設からの脱出を試みる。
事故で左手を失ったが「半魔法少女化手術」によって再生。その後、両親によって売りに出される。
真実を知った後は、帰る場所が無くなり彷徨い歩いていたら、底辺『奈落』へたどり着く。
「希望がなくても前に進む」と決心し、本物の魔法少女として覚醒。
『ベルセルク』
奈落の住民。大きな帽子と眼帯が特徴な魔法少女。
一人称は俺。道端で死んだように生きているロロを魔法少女に覚醒させた。
目的は、ロロの「魔法少女病」を利用し、奈落の住民を魔法少女として覚醒させること。
目論見は見事成功し、エリアCに対してクーデターを開始した。
『ユイ』
奈落に住む少女。レンの妹。
黄色い髪に金色の瞳。姉とよく似ているが、髪は長くない。
魔法少女形態【電気の魔法少女】
長めの黒タンクトップ一枚だけで非常に動きやすい衣装、所々青色に発光している。
『エリス』
赤いボサボサ髪の女性。体中に傷の後がある。
友好的なロロに対して優しく接するが、価値観の違いにより拒絶される。
聴衆にはその後、作戦の指示が飛ばされた。
奴隷市に攻撃を仕掛ける先発組。
奈落中を車で走り回り魔法少女を増やす後発組。
戦略なんてものは一切ない。ただ、好きに暴れ回るだけ。
奴隷市を制圧するにはそれで十分だった。
奴隷市はエリアCの中でも一番奈落に近い場所。
武装した兵隊はいても、エリアCのほとんどの一般市民はそれより上の都市部に住んでいる。
ベルセルクは魔法少女たちに負けることはないと語った。
そして、今。
魔法少女たちが詰まったトラックが奴隷市に向かっていた。
奴隷市と奈落を繋ぐ道路は基本的に使われることはなく、静かであった。
この道が使われるのは奈落から奴隷を拉致してくる時だけ。
ベルセルクはそう語った。
「それで、話ってなんだ?」
ベルセルクはトラックを運転しながら隣に座っているロロに話しかけた。
「単刀直入に言うね。ベルの目的ってなんなの?」
ロロがそう言うとベルセルクは少し考えてから答えた。
「目的が無きゃ、クーデターしてはダメか?」
「ダメに決まっているでしょう……」
ロロはベルセルクが真面目に答えてくれないことを察すると、不貞腐れたように窓の外を眺めた。
「あれ、聞きたくないの?」
「いいよ、もう。どうせ言わないのは分かっているから。」
「よくわかってるじゃないか。嬉しいね。」
ベルセルクはロロをからかって言った。
ロロはムッとしたが、ベルセルクを怒る気にはならなかった。
今から戦争に行くのだ。
確実に勝てる戦いとはいえ、ロロは緊張していた。
「怖いのか?」
ベルセルクが聞いた。
ロロは自分の手を見ながら答えた。
「私はもう何人も殺した。今更、人を殺すことに抵抗はない。それでも、やっぱり殺人は気分がいいものじゃない……」
「積極的に殺せとは言っていない。魔法は自己防衛と考えればいい。それに奴隷市には直接地上に繋がる道は無い。今暴れても疲れるだけだ。」
「うん、ありがとう。」
ロロは少し気が楽になった。
しばらくの後、奴隷市の郊外にたどり着いた。
ベルセルクはそこにトラックを止めた。
後ろに続くトラックも次々と到着した。
「よし、みんな聞け。」
ロロはトラックの無線を使い、他の魔法少女たちに指示を出した。
「いいか?奴隷は保護。武装した兵士は殺せ。一般人は逃がしても構わない。だけど、そう言ってもお前らは殺すよな?まあいい、自由に暴れろ。これは祭りだ。」
魔法少女たちの士気が高まった。
「さあ、行け!」
ベルセルクがそう言うと、トラックの中の魔法少女たちは一斉に飛び出した。
血眼になり、奴隷市へ駆けて行った。
「あんなに殺意むき出さなくても……」
ロロはゆっくりとトラックを降りた。
「先陣切ったやつらは、奴隷市に娘や息子を奪われた人だろう。凶器を手にした弱者ってのは恐ろしいぞ?」
ベルセルクもトラックを降りつつ答えた。
ロロは周りを見た。
トラックにはもう一人も魔法少女は残っていない。
日和った者はいない。
そうでなければ魔法少女になれない。
「ま、俺らは焦っても仕方がないし、ゆっくり奴隷たちを救出するか。」
「そうだね。」
ロロとベルセルクは奴隷市に歩いて行った。
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そこはまるで地獄だった。
あらゆる場所に火が付けられ、逃げそびれたものは皆惨殺されていた。
あまりの悲惨さに、ある程度予想してたロロも目を瞑った。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。少し悲しいだけ。」
「さっきも言ったが、ロロは殺さなくていい。」
ロロは炎や死体を直接見ないように、ガラスに映った地獄を見つめながら言った。
「戦争は、絶対起きてはならないもの。傍観者だった私は戦争自体を悪とみなしていた。だけど、彼らの正義を聞いたら、戦争を否定できなくなった。」
「今は哲学を語っている時間ではない。」
「そうだね、ごめん、ベル。」
「自分の信じる正義だけは必ず貫け。それだけだ。」
ベルセルクはそう呟いた。
ロロはその言葉の意味を理解できなかった。
実際、ベルセルクは勢いで物を言う癖があるので、ロロは深く考えなかった。
二人はまだ炎が上がっていない建物の前に来た。
「まだ中に奴隷が残っているかもしれない。行くぞ。」
魔法で壁を壊すと、とある通路が現れた。
極端に長いまっすぐ伸びた薄暗い通路。
等間隔で置かれる電球が不気味に揺れていた。
「あ、ここ……」
ロロはその通路に見覚えがあった。
「来たことあるのか?」
「嫌になるほど覚えている。」
ここはかつでロロが捕らえられていた施設だ。
ロロは起床と就寝時に毎回この通路を通っていた。
ロロは急に走り出した。
「あ、おい!」
ベルセルクも急いでロロの後を追った。
ロロは大広間。所謂ロビーにたどり着いた。
混乱に乗じてどこかへ逃げたのか、施設内には誰一人として残っていなかった。
「やっぱり、ここだ。」
ロロは確信した。
毎朝の食事処、スポーツジム、図書館。
全てがロロの過去と重なった。
「なかなかいい所じゃん。ロロはここで生活していたんだね。」
追いついたベルセルクがロロに言った。
ロロはため息をついて答えた。
「確かにいい所、今となっては本当にそう思う。あのままここに居れば幸せになれたのかもしれない。」
ロロは本気でそう思った。
エリスは自分のことを理解していた。
殺し合いをせずともこの施設内で永遠に暮らせただろう。
「後悔はしてないんだろう。」
「うん。」
「ユイにも言ったことあるけど、代わり映えしない人生なんてつまんないからな。」
ユイ。
彼女はベルセルクに支えられ不自由のない暮らしをしていた。
しかし、発電所の狭い部屋から出ることはできない。
ガラスケースの中のハムスターのようなもの。
ロロはユイに親近感を覚え、彼女のことが気になった。
「ねぇ、ベル。あなたとユイのこと教えてくれない?」
「今は戦争中だ。」
「暇でしょ?もうほとんど終わってるんだし。」
辺りは閑散としている。
近くで銃声すら聞こえない。
奴隷市の制圧はほぼ完了していた。
「しかたねぇな……」
ベルセルクはめんどくさそうに話し始めた。
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ユイには妹思いの姉がいた。名前はレン。
ユイもまたレンのことが好きだった。
友達が少なかったユイの遊び相手になってくれる。
多少のわがままも許してくれる。
そして、両親のいない姉妹にとって、互いが唯一の家族だった。
二年前のある日、姉であるレンが失踪した。
突然のことに、ユイは頭が真っ白になった。
友人に里親を紹介されたが、言うことを聞かないユイは里親に嫌われ、売人に売り渡された。
その後、ユイは奴隷としてエリアCに送られる。
エリアCでは虐待や暴行などを受け、いかにも奴隷らしい生活をしていた。
しばらく時が過ぎ、ユイはついに魔法少女になった。
姉を探し出す。それがユイの魔法少女としての希望だった。
しかし、その希望はすぐに打ち砕かれた。
レンもまた魔法少女であった。
ユイがふとそう考えると辻褄が合ってしまったのだ。
レンは失踪した日、別の魔法少女によって殺された、と。
絶望したユイは崖から身を投げた。
そして、ユイは奈落でベルセルクと会った。
「よう、元気か?」
「何で……私、生きて……」
「崖から落ちたぐらいで魔法少女は死なねぇよ。」
ユイは自分の身体を観察した。
傷一つなく再生している。
ユイはベルセルクに聞いた。
「あなたも魔法少女なの?」
「ああ、そうだが?」
ユイはベルセルクの服のすそを掴んで懇願した。
「だったら、私を殺して……」
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「へぇ、あんなに元気だったのに……そんなこと言ってたんだ。」
「お前も大概だったぞ。ビデオでも撮っとけば良かったな。」
ベルセルクはあきれながらそう言った。
「止めてください……」
ロロは奈落に落ちてからの自分を思い出し、恥ずかしくなった。
ベルセルクはおもむろに左腕をロロの前に出す。
「私の左腕を千切って食べればいい……」
ベルセルクは声色をロロに寄せて言った。
「そ、それで、その後どうなったの?」
ロロは慌てて話題を変えた。
「ん?あぁ、そうか。あの後か……俺はユイに条件を出したんだ。」
「条件?」
聞き返したロロだったが、これまでの状況からある程度その条件の内容を察することが出来た。
それはベルセルクのクーデター計画の協力だ。
発電所を利用した民衆の誘導はユイの協力が必要不可欠だった。
ベルセルクはそれを条件に、ユイを殺すと約束した。
ロロはそう推測した。
ベルセルクはロロの様子を見て何も言わなかった。
「ユイは、今も殺されたがっているの?」
ロロがそのことを聞いた時、後方で爆発が起きた。
二人は身構える。
「よう、久しぶりだな……、ロロ。」
ソレは煙の中から姿を現した。
「エリス……」
エリスはロロの姿を確認すると、にやりと笑った。
その笑顔はかつてロロが施設から脱出しようとした時に見せたものと同じ。
臨戦態勢。
殺気を感じ取ったベルセルクがロロの前に立った。
「ベル。手を出さないで。」
ベルセルクが振り返ると、ロロはベルセルクの目を真剣に見つめていた。
「わかった。」
ベルセルクはそう言うと、近くの壁にもたれかかり、観戦を始めた。
ロロは拳を構えてエリスの方を向いた。
そして、一歩づつ距離を詰める。
エリスもまた、ロロの方へ、一歩、また一歩と近づいた。
そして二人は互いの拳が届く距離まで接近した。
エリスが拳を振りかぶった。それに合わせてロロも拳を振りかぶる。
二人の拳は交差し、互いの顔に直撃した。




