第33話 デミック・マジック
☆登場人物☆
『ロロ』
主人公。白いボブヘアの少女。瞳の色は水色。
殺し合いを娯楽としている趣味の悪い連中に捕まったため、施設からの脱出を試みる。
事故で左手を失ったが「半魔法少女化手術」によって再生。その後、両親によって売りに出される。
真実を知った後は、帰る場所が無くなり彷徨い歩いていたら、底辺『奈落』へたどり着く。
『ベルセルク』
奈落の住民。大きな帽子と眼帯が特徴な少女。
一人称は俺。道端で死んだように生きているロロに対してしつこく話しかけている。
ベルセルク。
彼女は元軍人の脱走兵。
ベルセルクという名前は軍でのコードネームみたいなもの。
十数年前からこの奈落で生活している。
「という訳なんだ……」
「と言われても……」
ロロはベルセルクの話に嫌々突き合わされてうんざりしていた。
ベルセルクはロロと初めて会った日以来、毎日やって来る。
「ロロの話を聞かせて!」
そして、ロロに絡みつく。
「嫌……」
ロロは断ったが、ベルセルクはあきらめずに何度も頼み込む。
悪質なセールスマンのように。
ロロはあまりにもしつこく聞かれるので、ベルセルクを殴り飛ばそうと考えていた。
ロロはデミであり、魔法少女の力を持っている。
その力は常軌を逸しており、鉄の壁を粉々にできるほどだ。
無我夢中で放った一撃はエリスを戦闘不能にした。
もしかしたら、ベルセルクは死ぬかもしれない。
しかし、ロロにとって人の生死などもはやどうでもいいことだったのだ。
「頼むよー。」
ベルセルクはロロに抱き着こうとした。
ロロはその瞬間、ベルセルクの顔をめがけて拳を振るった。
衝撃により、ロロの周りに砂埃が舞った。
「……!」
ロロの拳はベルセルクに片手で止められていた。
ベルセルクはロロの拳を掴みながら、にやりと笑った。
「へぇ、怖いねぇ……」
ベルセルクは余裕の表情を見せた。
ロロは慌ててベルセルクから腕を振りほどいた。
「あなた、本当は何者なの……」
ロロはベルセルクに聞いた。
ベルセルクはその場で飛び上がった。
そして近くにあった電灯の上に腰を下ろした。
「あぁ……!」
ベルセルクのボロボロの服は、キラキラの装飾が施された衣装に変わっていた。
ロロはベルセルクに男らしいという印象を持っていたが、その印象は覆った。
星々に照らされるその少女はとても可憐だった。
「俺はベルセルク。魔法少女さ。」
ベルセルクは空中で回転し、ロロの目の前に着地した。
「なんてね。」
ベルセルクは元のボロボロの衣装に戻った。
魔法少女の姿に見とれていたロロは我に返った。
ベルセルクはロロに詰め寄って聞いた。
「お前も魔法少女なんだろ?」
「違う……」
ロロは否定した。
ベルセルクはにやにやと笑う。
ロロも分かっていた。ベルセルクにはもうバレていると。
しかし、魔法少女であるベルセルクに対して、ロロは半魔法少女だ。
ロロは、自分から勇気を持って言うことが出来なかった。
「証拠はあるぜ。」
ベルセルクは語りだした。
「まず、お前はここへ来てから一回も食事をしていない。魔法少女は食べ物を食べなくても生きていけるからね。そして、俺に対しての攻撃。魔法少女のパワーを感じ……」
「黙って!どっか行って!」
ロロは激昂した。
奈落に落ちてから初めての怒りの感情。
それはベルセルクに向けられたものだったが、ベルセルクに対して嫌悪感は全くなかった。
ただの自己防衛。
「私はデミだ。まがい物だ。あなたのように美しくはない……!」
ロロは震えた声で言った。
「ロロ……」
ベルセルクはロロを慰めようとしたが、ロロは走ってその場から逃げだした。
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「どこだろう、ここ……」
ロロは後ろを振り返る。
ベルセルクは追ってきていない。
ロロは安心したが、同時に不安も感じた。
辺りはより一層暗く、腐敗した臭いが充満している。
エリアCの大部分を占める奈落は、場所によって環境も変化する。
ロロがたどり着いた場所。
言うまでもなく、最悪の地だ。
ロロは何かに躓き、その場で転んだ。
「ひっ……」
それは人間の死体だった。
ロロは喉の奥からこみ上げる吐き気に耐え、その場から去った。
道の脇には人間がいくつも転がっていた。
生きているのか死んでいるのかロロには分からなかった。
ロロの頭はおかしくなりそうだった。
「何でもいい……誰でもいい……。私をここから出して……。」
ロロはその場で膝をついた。
そして今まで我慢していた感情を全て解き放った。
ロロの涙はいくら流しても止まらなかった。
「こんな場所に生きた人間がいるとはな……」
ロロは後方からの声に振り向いた。
「え……」
ロロは振り向く間もなく、首を掴まれ持ち上げられた。
「ぐぁ……ぁ……」
ロロの身長の1.5倍ほどの大男。
ロロは息をすることができず、もがいた。
「こいつはなかなかの上玉だな。」
男はロロの身体をじろじろと眺めた。
「クズがぁ……!」
ロロは男に蹴りを入れた。
魔法少女の力込みで。
男は勢いよく吹き飛び、建物に衝突して倒れた。
解放されたロロは呼吸を整え立ち上がった。
ロロはいつの間にか複数人に囲まれていた。
「こいつ……デミか」
「デミが何でこんなところに……」
「このデミは高く売れるぞ。」
男たちは騒ぎ出した。
ロロは自分の髪をぐしゃぐしゃにかきわけ、言った。
「デミデミうるさいんだよ……!」
ロロは怒りに身を任せ 敵の集団に突撃した。
デミだろうが関係ない。魔法少女は普通の人間とは格が違う。
たとえ相手が格闘技のプロでも、一方的に蹂躙できる。
ロロは確実な勝機と明確な殺意を持って相手に殴り掛かった。
アリを踏みつぶすように。
「死ね、死ね!あはは……!」
ロロは笑いながら敵を吹き飛ばした。
なんで、人を殺しているのか。
なんで、笑っているのか。
ロロにはそんなこと考える余裕は無かった。
パンッ
「……?」
突然の銃声にロロは動きを止めた。
そして、銃声の方を見る。
男がロロに銃を向けていた。
ロロの腹部からドロドロと血があふれ出した。
「ああああ!!!」
ロロは痛みに悶えた。
「今だ……、やれ!」
一人が号令すると、周りの男たちが一斉にロロに襲い掛かった。
「お前らなんかに……、お前らなんかに……!」
ロロは反撃しようとしたが、体の自由が効かず、その場に倒れた。
そして、あっという間に取り押さえられた。
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ロロは暗い部屋で目を覚ました。
「……」
腹部の銃撃によるダメージは完治していた。
しかし、ロロは椅子に縛り付けられ、身動きができない状態だった。
「よぉ。」
ロロの目の前に男が現れた。
「何これ……ほどいて……!」
ロロは男を睨み、強気な姿勢をとった。
男は銃を構え、躊躇なくロロの右足を撃ち抜いた。
「ひぎっ……!」
ロロは悲痛な声を漏らした。
男はロロの顎を持ち上げロロの口に銃口を向けた。
「お前、自分がデミだからって、死なないと思っているのか?」
ロロは急に怖くなり、涙を流した。
「安心しな、お前は売り物だ。殺しはしないよ。」
男は近くの机に置いてあった釘とハンマーを取り出した。
ロロはそれで何をするか察しがついた。
「や……やめ……」
男は邪悪な笑みを浮かべた。
「お前が殺した俺の部下は10人。丁度、指が10本あるな。」
ロロは縛り付けられたロープを解こうと力を入れた。
しかし、ビクともしなかった。
魔法少女の力は使えない。
というより作用しなかった。
「助けて……ください……」
ロロは懇願した。
男は笑いながら、釘をロロの指の上に置いた。
「口も聞けないぐらいに、調教しないとな。」
そして、ハンマーが振り下ろされた。
ロロは目を閉じた。
デミは身体の再生が早い。
それが仇となった。
きっと、相手が満足するまで痛めつけられるのだろう。
そして、それは永遠に終わらない。
ロロはそう思った。
随分と長い間、目を閉じている。
もう、痛みも感じなくなるほど、感情を失ってしまったのか。
ロロは恐る恐る目を開けた。
ロロの目の前に男は居なかった。
代わりに、魔法少女が立っていた。
「……ベル。」
ロロはその少女の名前を口に出した。
「半魔法少女だろうが、魔法少女だろうが関係ない。自分の信じる正義のために戦う者が魔法少女だ。」
ベルセルクは左手に持っていた剣を振るい、ロロの拘束を断ち切った。
そして、剣先をロロに向けて言った。
「お前の信じる正義は、力なき者を殺すことで優越感に浸ることか?」
「違う!」
ロロは叫んだ。
「じゃあなんだ、お前は何がしたい。」
ベルセルクの問いに、ロロは少し考えた。
もともとは、家族の元へ帰ることがロロの希望だった。
その希望は失われた。
ロロは奈落で暮らす内に新たな決意を見出していた。
「ここから出る。この地獄から……」
「そこに幸せは無いかもしれないぞ…」
「それでもいい。幸せは自分で創る。」
ベルセルクは剣をしまった。
そして、笑いながら言った。
「やっぱりな。俺が言った通りだったじゃないか……」
ロロは光に包まれていた。
その光はロロの身体に張り付き、魔法少女の衣服へと変容した。
「お前はまがい物なんかじゃない。本物の魔法少女だ。」
魔法少女の衣装は再び光に戻り、ロロは元の服に戻った。
だがしかし、一瞬の幻想ではないことはロロが一番よく理解していた。
「私は……」
デミはロロの人生をめちゃくちゃにした。
家族に裏切られ、殺し合いをさせられ、地獄のような生活を強いられた。
だが、ロロは魔法少女になった。
それは過去の自分との決別。
人生を初めからやり直す覚悟。
即ち希望である。




