第31話 デミ
☆登場人物☆
『ロロ』
主人公。白いボブヘアの少女。瞳の色は水色。
殺し合いを娯楽としている趣味の悪い連中に捕まったため、施設からの脱出を試みる。
剣で真っぷたつにされ死亡し、霊安室に送られた。
『エリス』
赤いボサボサ髪の女性。体中に傷の後がある。
施設での生活が日常なため、殺し合いを拒絶するロロに対して疑問を持っている。
ロロは目を覚ました。
「……?」
辺りを見渡す。
そこは暗闇、人が一人だけ入ることが出来そうな狭い閉鎖空間。
そして……
「寒い………」
まるで冷凍庫の中のような寒さにロロは凍えた。
ロロはこの場から出ようと必死で壁を調べた。
ロロの手は突起に当たり、何らかの装置が動き出した。
閉鎖空間に光が差し込んだ。
ロロはその光に向かって這いずりだした。
閉鎖空間から抜け出したロロは地面に頭をぶつけた。
「いてて……」
そこはロロの部屋より少し広い空間だった。
ロロはここがどこか検討がついた。
「死体安置所……」
ロロは以前エリスから話を聞いていた。
施設で死んだ人間はトラックで運び出されるまでの間、腐敗しないように安置所で冷凍保存される。
ロロは違和感を持った。
言うまでもなく、ロロは死んだ。
ズタボロにされて、両腕も切断された。
だが、ロロの身体の傷はなく、腕もぴったりくっついていた。
ロロが着ていた鎧は脱がされ、代わりに白い布のような服を着せられていた。
考えがまとまる前に、ロロは部屋に近づいてくる足音を聞いた。
ロロは急いで、元に居た箱に戻った。
「寒い……!」
ロロは意識がはっきりしない先ほどと違い、冷凍室の寒さを直に感じた。
そして、その寒さから夢ではないという確証を得た。
とはいえこの極寒は耐え難いものだとロロは思った。
不幸か幸いか、ロロの入った冷凍庫はこの部屋を訪れた者によって開けられた。
今、ロロは死んだことになっている。
もし、生きていることがバレたらどうなるか。
ロクなことにはならないのは分かっていたため、ロロは息を止め、目を閉じた。
ロロを冷凍庫から出した者は何も言わなかった。
暫く経った後だった。
冷凍庫で冷えたロロの頬に暖かな雫が落ちた。
ロロは気づかれないように、微かに瞼を開いた。
「エリス……」
ロロは声を漏らした。
エリスは泣いていた。
ロロはエリスの涙を拭きとろうと、手を伸ばす。
すると、エリスの目の色が変わった。
エリスは伸ばされた手を弾いて、ロロの胸ぐらを掴み持ち上げた。
「何で生きてるんだ……ロロ。」
疑問、そして怒り。
ロロはエリスからそういった感情を読み取った。
感動の再会とはいかないようだと悟った。
「離して……エリスさん。」
足をブンブン動かして抵抗するロロに対し、エリスは冷静に考察していた。
「あなたは確かに死んだはず。いや、実際には見ていないから分からないが。こんな前例はない……」
エリスはロロを下ろして、無線機を取り出した。
「とりあえず、オーナーに確認するから……」
エリスはそう言った。
ロロは思った。
ここは死体安置所だ。出口は近いはず。
脱出の一世一代の大チャンスだ。
「待って……」
ロロはエリスを静止した。
ロロの真剣な瞳がエリスに向けられた。
「私はここから逃げ出す……」
ロロはエリスに宣言した。
「なんで……?」
エリスは疑問を口にした。
「確かに、一度負けたからあなたの選手生命は危ういかもしれない。だけど、ここなら、あなただって幸せのはず……!」
エリスはロロの肩に手を置いた。
真剣な瞳はエリスもロロも変わらない。
ロロはエリスのやさしさを理解していた。
しかし、自分とはあいまみえないということも理解していた。
エリスのやさしさを無下にはできないと、口にすることを躊躇った。
「どうして、ここが……一番幸せなのに……」
幸せ。
ここでの生活はエリスにとっての幸せ。
だけど……
家族の元へ帰る。
それがロロにとって幸せだったのだ。
「ごめん、エリスさん……」
ロロはエリスを裏切った。
これ以上騙し続けることはできなかったのだ。
「な、何を謝っているの?ロロちゃん……」
エリスが珍しく動揺する。
「ここに私の幸せは……ない。」
ロロはそう言い残し、安置所から出て行った。
エリスはその場で膝をついた。
エリスにとってロロは生まれて初めてできた友達だった。
そんな友達に裏切られたのだ。
裏切られたというのは少し違う。
元から友達ではなかった。
期待しすぎたのだ。
エリスは自分自身を恥じた。
「結局、私は、一人か。」
エリスはゆっくりと立ち上がり、ロロの元へ向かった。
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「くそっ……」
ロロは駐車場までたどり着いていた。
だが、シャッターは鍵がかかっていた。
「ここまで来たのに……」
ロロはシャッターを無理やり持ち上げようとしていた。
その時。
「人の出入り口はこっちだ、ロロちゃん。」
エリスが駐車場の隅でロロを呼んだ。
「エリスさん……」
ロロは疑問に思った。
どうして、エリスが出口の場所を押してくれるのか。
ロロは1つの答えにたどり着いた。
「エリスさん、理解してくれたんですね……」
ロロはそう言い、笑顔でエリスに駆け寄った。
「止まりな。」
エリスはロロを静止した。
「エリスさん……?」
エリスは扉にもたれ掛かり、言った。
「ごめん、ロロちゃん。私、あなたの気持ちに気付きなかった。本当は戦うのが嫌いだって。それでも我慢して、私に付き合っていたって。」
「違うよ、エリスさん。あなたのことは嫌いじゃなかった……」
ロロは言った。
ロロはできればエリスのことを裏切りたくないと思っていた。
だから、ロロはエリスに脱出計画のことを内緒にしていた。
エリスの見ていない所で逃げ出そうと考えていた。
エリスはロロに嫌いじゃないと言われ少しだけ笑った。
そして言った。
「だからね、オーナーに話し合って、あなたのことを……」
「違う……!!」
ロロは叫んだ。
エリスは根本的なことを理解していない。
それは、この施設の外で生活したことがないという価値観。
そして、その価値観の違いから生じた齟齬。
ロロは出口に歩き出した。
「止まって……!」
エリスも叫んだ。そして続けて言った。
「それ以上、前に踏み出したら、もう戻れなくなる。」
それでもロロは止まらない。
「お願い……、戻って……」
エリスの望みは叶わず、
ロロはエリスの前まで来た。
「そこをどいてください、エリスさん。」
ロロはエリスの瞳を見つめて言った。
エリスは目をそらした。
そして、ロロを両手で突き飛ばした。
ロロはバランスを崩し、倒れた。
「……」
ロロは表情一つ変えず、立ち上がった。
エリスの性格を理解していたからだ。
ただで通してくれるはずがないと思っていた。
ロロは拳を構えた。
「最後に、もう一度だけ聞くね……」
エリスはロロに尋ねた。
「ここに残る気は……もうないの?」
「ああ、ないさ。ここから出て家に帰る。必ず……!」
ロロはエリスを睨みながら言った。
エリスはその言葉を聞き、にやりと笑った。
次の瞬間、ロロの腹に強烈な右ストレートが刺さった。
「ぐぁ……」
ロロの視界に一瞬だけ、エリスが楽しそうに笑っているのが見えた。
腹を抑えてよろけたロロの顔面に蹴りが炸裂する。
ロロは気を失い倒れた。
「立てよ、ここから出たいんだろ?だったら立てよ。ロロ……!」
エリスは倒れたロロの首を掴み持ち上げた。
「このまま、私に殺されるか……!」
ロロは意識を取り戻し、必死でもがいた。
「ああああああああああ!!」
ロロは適当に拳を振り回した。
それはエリスに当たった。
普通ならば、宙づりの状態で出した拳など取るに足らない威力であるが、ロロの拳は違った。
完全に油断していたエリスの顔面を捉えた。
エリスはまるでトラックにでも轢かれたかのように数メートル吹き飛んだ。
ロロは自分の拳を見つめた。特に変化はない。
次に、エリスが飛ばされた方を見た。
しかし、瓦礫による砂埃でよく見えない。
「か……勝った?」
ロロはハッとした。
「そうだ、今はそれどころじゃない……」
ロロは急いで出口へ向かった。
「この扉を開ければ、外に……!」
ロロは扉を開けた。
しかし、外はロロの想像していた景色ではなかった。
施設に続く一本の道路、それは直線で果てしなく先に進んでいた。
道路の十数メートル下には大きな町が広がっていた。
地震が起きたら倒壊しそうなボロボロの建物がずらり並んでいる。
そして、空。
綺麗な青空は存在しなかった。
外の世界にも天井が存在したのだ。
「驚いた顔をしているな……」
後方からの声にロロは振り返った。
「エリスさん……?」
エリスはふらふらとした足取りでゆっくりと近づいてきた。
右手で顔を抑えている。指の隙間からは血があふれ出した。
「ここはエリアCだ。」
「エリアC?」
ロロは聞きなれない単語をエリスに聞き返した。
エリスは壁を背もたれにして、その場で座った。
そして一息ついてから言った。
「あなたや私が暮らしているのはエリア1。そこから、さらに3つのエリアに分類することができる。富裕層のエリアA、一般層のエリアB、そして、その二つのエリアの地下に存在する無法地帯。それがエリアCだ。」
「でも、ここが地下でも……私はここに連れてこられた。帰る道だって……」
ロロは必死で自分を納得させようと試みた。
エリスはそんなロロを憐れむような目で見てつかぬ事を聞いた。
「そして、もう一つ……『デミ』って言葉、聞いたことあるでしょ?」
「デミ……?」
ロロはその言葉に聞き覚えがあった。
デミとは魔法少女になる手術を受けたものの事を指す。
「デミ……そうだ!思い出した!私、事故で左手を失っちゃって、それでデミ化手術したんだ!」
ロロは自分の左腕をぐいぐいと動かした。
エリスはロロの様子を暫く見てから言った。
「私もついさっき気が付いたんだ。致命傷からの回復、それにさっきの謎のパワー。」
「私のパパとママが手術台を払ってくれたんだ。早く帰らないと……!」
嬉しそうにはしゃぐロロにエリスは言った。
「デミは高く売れるんだ。法外な手術費用より、高くな……」
ロロの動きが止まる。
「……どういうこと?」
そのことを理解するのに十分な時間はかからなかった。
デミ化手術は莫大な手術費用がかかる。
富裕層ならともかく一般層がまともに払える額ではない。
それでもロロの両親はその費用を払ってくれた。
ロロはそう思っていた。
しかし、現実は違った。
デミの身体はデミ化手術の費用よりも高く売れるのだ。
ロロの両親は千載一遇のチャンスと言わんばかりに、ロロをデミ化させ、そして売ったのだ。
金を得るために、役に立つか分からない少女を捨てたのだ。
「そんな、嘘……」
ロロはエリスの顔を見た。
エリスは真剣な表情をして言った。
「嘘じゃないさ。でなければこんな場所にいるはずがない。」
ロロはエリスから目を逸らした。
エリスの表情から1%の悪意も感じなかったからだ。
エリスは嘘をついていない。
「わた……私は……、帰るんだ……」
ロロは頭を抱えながら言った。
目に涙を浮かべながら。それを零さないように必死でこらえた。
現実を認めることができないロロにエリスは言い放った。
「あなたに帰る場所はない……!」
「あああああああああぁああぁあああぁあああ!!!!」
ロロは叫んだ。そして大量の涙を流した。
暫くして、ロロは施設とは反対方向にふらふらと歩き出した。
「待って、この先は危険だ。ここが一番安全なんだ!どこへ行く……!」
エリスはロロに語り掛けた。
ロロはエリスの方を振り返って言った。
「どこだろうね……」
エリスは見た。
それはロロが最初の殺しを終えた後の瞳。
それは絶望の中にも希望を感じている瞳。
そうではない。
今のロロの瞳の中には
一切の希望は無かった。
まるで死体。
「ロロちゃ……」
エリスはロロを止めようと立ち上がった。
しかし、ロロから受けたダメージと出血が予想以上に大きく、意識を失いその場に倒れた。




