第27話 復讐の果てに
☆登場人物☆
『シロ』
その名の通り、髪も目も肌も真っ白な少女。原因はリンネの薬品。
本名はコハク。リンネに渡された毒薬を飲ませ、愛する家族を自らの手で殺してしまい絶望する。
そして「リンネに対する復讐心」のみで魔法少女に覚醒する。
目標を達成し生きる意味を失った所、クロと出会う。
魔法少女形態【血の魔法少女】
容姿に変化は見られない。薄汚れた白色のTシャツと短パンに黒のコート。
自身の血を自由に操ることができ、体積や硬度などをある程度変化させられる。
自身の血を相手に飲ませることで洗脳する等、かなり応用ができるが、自分の血の残量には注意が必要。
『クロ』
シロの前に現れ殺害予告をした殺人ロボット、本名はクロエ・マキナ。
名前の通り真っ黒な衣装を着ている。腕はピンク色の粒子が入った瓶のような形状になっている。
敵であるシロに情を持ってしまい、なかなか殺せない。
その正体は、願いを叶え空っぽになってしまったシロの心を埋めるため、リンネが開発した友達ロボット。
しかし、事情を知らない研究所の所長によって戦闘用に改造された。
『レイス・アタラクシア』
リンネの助手。黒のポニーテールに黒い瞳。
リンネをことを信頼しているが、非人道的な研究態度に対しては懐疑的。
贖罪のため自ら殺されに行くリンネを止めようとしたが、間に合わなかった。
鳥の鳴き声とさわやかな風。
窓の隙間から差し込む太陽の光。
クロは廃墟の廊下に立っていた。
毎回だ。
目を覚ますと、シロの廃墟に着く。
ここまで移動してきた記憶は持っていない。
それは友達プログラムのせいか殺害プログラムのせいかもはや分からない。
だが、クロは自分のすべきことを心の中でしっかり理解していた。
前に進む。
部屋に入る。
「あ、クロ。おはよう!どこ行ってたの?」
シロはクロの接近に気付くと、すぐに駆け寄った。
クロは浮かない顔をしていた。
「クロ?」
シロはそんなクロの様子が気になり、心配した。
次の瞬間、クロはシロを突き飛ばした。
「え……」
シロはその場でしりもちをついた。
クロの予想外の行動にシロは驚いた。
クロは背中から剣を取り出した。
そしてそれをシロに向けて言った。
「あなたを殺す。」
いつもの台詞。
そして、クロはいつもの返しを期待していた。
シロは死を望んでいる。
そう言ってくれたら、躊躇なくシロを殺すことができる。
クロはそう思った。
だが、シロは泣いていた。
そして言った。
「嫌だ……クロに殺されるなんていやだよ……」
シロはクロに殺されることを拒んだ。
「どうして……」
クロは膝をついた。
剣を落とし、シロの前に跪いた。
シロはクロに手を伸ばした。
クロはそれを弾いた。
「近寄らないで!」
クロはすぐに立ち上がり、後ずさりをした。
シロの悲しい表情を視界に入れないように目を瞑った。
「私は、私は……」
必死に言い訳を探す。
クロの脳裏を過るのはレイスの言葉だけだった。
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「もう一つだけ言わなければならないことがあるの。」
レイスはクロを呼び止めた。
クロは立ち止まって、話を聞いた。
「あなたの腕について。」
クロはそう言われ、自分の腕を見た。
全身不随になっていたのだ、義手でもおかしくはない。
手首の下あたりに透明な容器が取り付けられていた。
自分の腕をまじまじと観察したことのないクロだったが、それを見て初めて違和感を感じた。
容器の中にはピンク色の液体が入っていた。
「それはリンネ博士が開発した魔法少女病の特効薬SAKURA。魔法少女を普通の人に戻す効果を期待されていた。だけど、本当の効果は『魔法少女の魔力を弱め衰弱させる』というものだった。」
そんな失敗作がクロの腕に備わっている理由。
クロは嫌でも想像がついた。
「そんな、嘘だ……」
クロは耳をふさいだ。
「あなたはいろいろな武装を持っているけど、本命はコレ。奴らの目的はシロを衰弱死させることだ。」
「ああああぁぁぁあぁぁああああ!!!」
クロは叫びを上げた。
自分がシロを守るどころか、シロの命を徐々に削ってたのだ。
クロは自分の腕を何度も地面に叩きつけた。
しかし、容器が割れる様子は一切ない。
「クロ……!」
クロはレイスにしがみついた。
そして懇願した。
「取り除いてよ!レイス!」
レイスは唇を噛みしめて言った。
「あなたの疑似的な心臓はSAKURAとリンクされている。取り除くことはできない。」
クロは力を無くしたかのようにその場にへばった。
レイスはクロの肩に手を置き、言った。
「シロにこのことを話してきなさい。そのあとどうするかは自分で考えるの。いい?」
クロは何も言わず立ち上がり、ふらふらとしながら、階段へ向かった。
レイスはクロを見送ると、安全柵にもたれかかった。
ビルの谷間の朝焼けを見ながら煙草をふかした。
自分の無力さを痛感していたのは他の誰でもない、レイスだった。
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「私がシロの傍にいると、シロは死んでしまうの!」
クロはシロに真実を伝えた。
それは決別の意を示している。
シロはそれでもクロの元に近寄った。
「聞いてたの?あなたは衰弱していく!私の毒によって……」
クロは必死で叫んだ。
シロと別れるのは辛い、だけどそれ以上に自分のせいでシロが苦しむのが辛かった。
クロは胸が苦しくなるほど、出したくもない罵倒をシロに浴びせた。
シロは嫌な顔一つしなかった。
そして、クロをやさしく抱きしめた。
「どうして、シロ……」
「クロはね。私のお母さんに似ているの。『どうして』って言葉を聞いたら、ぴったり重なっちゃった。だから、今度は、絶対に失いたくないって思った。それだけだよ。」
シロの顔は血で汚れていた。SAKURAによる影響だ。
だけど、シロはそんなこと気にする様子もなく、クロに笑顔を見せた。
クロは涙を流した。
嬉しさと悲しさ、どちらの涙なのか、クロには分からなかった。
突如、クロの身体が発光した。
その色は警告を示すかのように赤色に点滅した。
「何これ?」
クロは今までにない現象に戸惑う。
シロは冷静に周りを見渡した。
「誰か、来る……!」
シロは部屋に近づく足音に耳を澄ました。
次の瞬間、シロの部屋に手榴弾が投げ込まれた。
部屋は爆発の衝撃と炎に包まれた。
廃墟は倒壊し、二人は落下した。
シロはクロに手を伸ばした。
クロはその手をしっかりとつかんだ。
粉塵が晴れた。
周りには武装した兵隊が十数人。
二人は囲まれていた。
「殺しに来たんだ。私たちを。昨日脱走したから……必要ないと判断されたんだ。」
クロは盾となるようにシロの前に立った。
「今から人を殺す。これが最後ののわがままね。」
シロはそう言い、瓦礫で自分の腕を切り落とした。
血だまりは禍禍しくも神々しい、血の剣と形を変えた。
シロはにやりと笑った。
それは殺人鬼の狂気的な笑顔ではない。
正義の味方の不敵な笑みだ。
クロはもう一本の刀を取り出し、言った。
「ありがとう、シロ……あなたのおかげで、私は生まれてきたことに意味を持つことができた。」
二人は敵に向かって駆け出した。
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魔法少女とそれを殺す武装をした少女に一般人が勝てるはずもなく、無惨な死体がいくつも転がった。
地獄絵図を背景に二人の少女は互いに顔を合わせて微笑んだ。
シロがよろけると、クロはそれを受け止めた。
SAKURAの影響か、戦闘によってできた傷か。
シロの身体から血はドロドロとあふれ出した。
シロの目は徐々に虚ろになっていった。
クロはシロをやさしくその場に寝かせた。
ボロボロのシロに対し、クロの装甲は銃で撃たれたにも関わらず、ほぼダメージは無かった。
しかし、クロの赤色の発光は止まらない。不穏な電子音が流れ始めた。
「シロ、これは自爆信号だ、直感がそう言っている。」
クロはそうつぶやいた。
レイスの言い分ではクロの心臓部は腕の毒ガスと連結している。
クロは自分が死ぬとどうなるか、想像がついていた。
クロはシロから少し離れようとしたが、シロはクロの服の袖を掴んだ。
クロは諦めて、その場に座った。
「本当に、一緒にいてくれるの?」
クロが聞いた。
「私は一人ぼっちにはなりたくない。あなたも一人ぼっちにはさせない。」
シロはそう答えた。
二人は抱き合って目を閉じた。
「また、遊ぼうね。」
大きな爆発音の後、桜のような霧が辺り一面に舞った。
それは巨大な雲を形成し、雨を降らした。
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雨がやみ、雲が晴れ、太陽の光が差し込んだ。
崩れ落ちた廃墟にレイスは一人で来ていた。
死体を避けて不安定な足場を進む。
レイスはクロの残骸を見下ろした。
シロは消滅してしまったのだろうか、どこにもいなかった。
だけど、クロは幸せそうに笑っていた。
「これでよかったのかも……」
レイスは何もせず、その場を立ち去った。




