第23話 空っぽの心
☆登場人物☆
『シロ』
その名の通り、髪も目も肌も真っ白な少女。原因はリンネの薬品。
本名はコハク。リンネに渡された毒薬を飲ませ、愛する家族を自らの手で殺してしまい絶望する。
そして「リンネに対する復讐心」のみで魔法少女に覚醒する。
目標を達成し、生きる意味を失った。
魔法少女形態【血の魔法少女】
容姿に変化は見られない。薄汚れた白色のTシャツと短パンに黒のコート。
自身の血を自由に操ることができ、体積や硬度などをある程度変化させられる。
自身の血を相手に飲ませることで洗脳する等、かなり応用ができるが、自分の血の残量には注意が必要。
『クロ』
シロの前に現れ殺害予告をした謎の人物、性別不明。
名前の通り真っ黒な衣装を着ている。
腕はピンク色の粒子が入った瓶のような形状になっており、サイボーグのようにも見える。
『天道リンネ』
赤色のショートヘアで赤い瞳。
世界的に有名な研究者であり、魔法少女になってしまう病気「魔法少女病」の研究をしている。
「魔法少女病」の特効薬を開発するため、被験体として送られてきた魔法少女に対して、あらゆる実験を行っている。
周りの人々に貧困層であるシロと付き合うことを許されず、いじめをしシロとの距離を置いた。
最後の贖罪の機会も父に奪われたため、シロの復讐を真正面から受け取り、惨殺された。
シロは混乱した。
突然、人の住処に押しよせて、殺害予告されたのだ。
だがしかし、すぐに理解した。
シロ自身が今までしてきたことと同じ。
すなわち復讐である。
復讐は新たな復讐を生むという言葉は強ち間違いではない。
「はぁ……」
シロはどう対応しようかしばらく考えたが、面倒くさそうに、ベッドに倒れこんだ。
シロは思考を放棄した。
自分自身を大切に思う人はこの世には存在しない。
怨嗟の連鎖はここで断ち切られる。
シロはそう思うと気が楽になった。
殺されてもいいと思っていた。
「覚悟は決まったかい?」
クロが戦闘態勢に入る。
体に取り付けられた機械が発光する。
その隙間からは大きな音を立て、電撃があふれ出した。
そして背中から一本の剣を取り出す。
剣からは蒸気が漏れ、辺りの埃を巻き上げた。
「うん、いいよ。」
シロは無気力に答えた。
クロが地面を蹴った。
その衝撃で床が崩れ落ちる。
クロは敵を見据える。
シロに抵抗する様子は見られない。
ベッドの上で両手を広げ、殺してくれと言わんばかりに隙だらけだった。
「……」
クロは剣を振り下ろさず、そのままシロの上に落下した。
衝撃を抑えるために一旦空中で静止して、それからシロの上に馬乗りになった。
「どうして……」
クロがシロに聞いた。
シロは何も言わなかった。
ただ、クロの瞳をじっと見つめていた。
「殺されるのが、怖くないの……?」
クロはそんなシロに質問した。
「うん、私は空っぽだから。」
理由になってないのはともかく、シロはそうとだけ答えた。
クロは暫く様子を見て、それから剣をしまった。
そして、シロの上から立ち上がった。
「私を殺さないの?」
今度はシロがクロに聞いた。
「今はなんか、そういった気分じゃない。」
クロは適当にごまかした。
クロの身体の発行と放電が止まる。
シロはその様子を物珍しそうに見ていた。
「次に会った時は殺すから、覚悟しておいてね。」
そう言うとクロは部屋の窓から飛び降りた。
シロは心配になって窓の外を見たが、クロの姿は既になかった。
「なんだったんだろう……」
シロは不思議に思った。
初めて会った人なのに、何故か、親近感を覚えたからだ。
それは自分自身と同じ復讐者だからではない。
もっとより深い絆のような感覚だ。
クロはまた殺しに来ると言っていたが、シロはそれが少し楽しみだった。
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「……」
三日後、再びクロはシロの根城に侵入した。
目的は、当然シロを殺すことだ。
しかし、クロは部屋に入るやいなや茫然としていた。
「なんなの、これ?」
殺風景だったシロの部屋は、デコレーションされていた。
デコレーションといっても、ガラクタだらけで、とてもきれいな部屋とは言えないが。
それでも、前よりはにぎやかであった。
「あ、クロ!久しぶり、待ってたよ。」
ボロボロの家具の影から、シロが姿を現した。
シロを殺すつもりでやってきたクロであったが、剣を抜こうとはしなかった。
出鼻をくじかれ、完全にやる気が失せていた。
「へへ、またあの部屋じゃ寂しいから、ちょっとリフォームしてみた!」
シロが笑顔でそう言う。
クロもつられて苦笑いした。
「そこに座って待ってて!」
シロはソファを指さして言った。
クロは言われるがままそのソファに座った。
ソファの正面には時代に合わない古っぽいテレビが置いてあった。
リモコンも置いてあったため、クロはもしやと思い、電源を入れようとした。
が、やはりテレビはつかなかった。
クロはため息を吐いた。
森の中の廃墟に電気や電波が通っているわけがないのだ。
ところでシロは何をしているのだろう、とクロは思った。
部屋の奥でばたばたした足音が聞こえてくるので、
クロはシロの傍まで近づいた。
シロは料理をしていた。
よくわからない食材を、切れ味の悪そうな包丁で切りつぶして、鍋に入れていた。
「?」
流石に、ここまでくるとクロも理解ができなかった。
シロは自分を殺そうとする相手をもてなして、料理を振舞おうとしている。
カセットコンロだけは新品だった。
電気もなければガスもない。
この環境で火を得るための必須の道具だ。
「買ったの?お金は?」
クロはシロに寄り添って聞いてみた。
本当は、シロの謎の行動にツッコミを入れたかったが、我慢した。
「日雇いのバイトして稼いだ。」
シロはそう答えた。
「えらいな、シロ。でも怪しい業者もいるかもしれないから気を付けてね。」
クロはそう言うと、元のソファまで戻った。
そして、頭を抱えてじたばたした。
どうして、シロの心配をしなければならないのか。
と、クロは思った。
クロが自分の発言を恥じている内にシロの料理は出来上がっていた。
「大丈夫?」
シロが心配そうに言った。
クロは慌てて、ソファに座りなおした。
「うん、大丈夫……」
クロの前に皿が置かれた。
それはもはや食べ物と呼べるのかすらわからないほど、混沌で満ちていた。
しかし、クロは躊躇いなくそれを口に運んだ。
「どう?」
シロが感想を求める。
クロは浮かない顔をした。
それを見たシロは、自分の作ったクロの口に合わなかったと思い、悲しそうな表情を見せた。
「いや、違うんだシロ。まずいとかそういうことじゃないんだ。味がしないんだ。まるで、身体が食事を必要としていないみたいに。思えば、私は料理を食べていた記憶がない。」
クロは、それでも食べ方を知っていた自分自身に矛盾を感じていた。
そして、シロを悲しませまいと、料理を口いっぱいに入れた。
「でも、きっとおいしいと思う。シロが一生懸命作ってくれたんだもん。」
クロはシロを励まそうとして、言った。
シロはちょっぴりうれしくなって、赤面した顔を隠した。
「あれ……、何か忘れているような……」
クロは本来の目的を忘れていたが、それに気づいたのは家に帰った後だった。
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「今日こそ、あなたを殺す。」
クロはいつものようにシロに剣を向けた。
シロはいつものようにベッドでだらだらしていた。
「あ、いらっしゃい!」
シロはベッドから降り、クロに言った。
相変わらず部屋はボロボロだ。
だがしかし、シロはクロと会うたび、元気になっていた。
クロはシロの姿を見て呆れたように剣をしまった。
「今日も殺さないの?」
シロはクロに聞いた。
「私には戦闘能力がある。あなたと戦うためのね。あなたが無抵抗だと、戦う気が失せるの。」
クロは部屋の窓から外を眺めながら言った。
「じゃあ質問を変えて、クロはどうして私を殺そうとするの?」
シロはクロの隣の机の上に座り聞いた。
クロは少し考えた。
だが、答えはでなかった。
次第に、空を飛ぶ小鳥の方へ目が行き、考えるのをやめた。
シロはそんなクロの様子を暫く観察した。
そして、何か思いついたように机から飛び降りた。
「街に遊びに行くか!」
シロはポケットから札束を取り出し、クロにチラつかせた。
札束といっても十数枚。一日遊べば使い果たせる値段だ。
クロは首を傾げた。
シロの意図がよく分からなかったからだ。
クロはシロに腕を引っ張られてそのままどこかへ連れていかれた。
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二人が街に着くころには既に夕暮れだった。
シロが以前来た時と全く変わらない。
人々は皆、幸せそうだった。
シロはかつてその平和を脅かす側だった。
しかし、今は違う。
シロもまた、幸せそうにアイスクリームを食べていた。
「クロもいる?」
シロは食べかけのアイスクリームをクロに渡した。
クロはそれを拒否して言った。
「私は、食べても何も感じないから…」
「そっか、ごめんね。」
シロはアイスを美味しそうに頬張った。
クロは周りを見渡した。
クロと同じ年齢ぐらいの男女が手をつなぎながら歩いている。
クロも隣のシロと手をつなごうとした。
しかし、やめた。
クロ自身の手は冷たく硬い機械の腕、そして身長差もあり上手く掴めなかった。
みすぼらしい恰好でもあり、手を掴んで歩くのが少し恥ずかしかったからでもある。
二人はしばらく並列して歩いた。
「そうだ、服買おうよ!」
シロは服屋の前で立ち止まった。
「え、でも……」
クロはシロを止めようとした。
明らかに高級な服を売っている店だ。
シロはお金を持っていたが、こんな店で服を買えば、あっという間になくなる。
「大丈夫、私が買ってきてあげる!」
しかし、シロは堂々と店の中に入っていった。
クロは近くのベンチに腰を下ろした。
無意識に上を向く。
ふいにシロの言葉を思い出した。
『どうして私を殺そうとするの』
「どうしてだろう……」
クロは分からなかった。
自分にはシロを殺す理由がないのにも関わらず、シロを殺さなければならないという使命感があった。
矛盾した二つの感情はある一つの答えにたどり着いた。
「私は……」
「おまたせ!」
シロに話しかけられ、クロは我に返った。
シロは大きな袋を抱えていた。
そして、愛想笑いをした。
「ははは、ごめんね。売れ残りしか買えなかった。」
シロは中身を取り出した。
何やらいろいろ入っている。
「クロ、着替えてみて……」
クロは言われるがまま、着替えようとしたが
流石にその場で服を脱ぐのは恥ずかしかったので、裏路地に移動した。
暫くして、クロが裏路地から出てきた。
白色のコートをはじめとして、全体的に清潔感のあるコーディネート。
シロは自分で選んだものを満足そうに見つめていた。
「完璧ね。やっぱり黒髪には白色が映えるわ。」
クロは店の窓ガラスに映った自分を見て、どこか申し訳なさそうにしていた。
シロは不安そうな黒の手を握り、別の場所へ連れて行こうとした。
「まって、シロ。お金は……」
クロは不安に思って聞いた。
このお金はシロが一生懸命働いて貯めたお金だ。
しかし、シロはそんなこと気にしていなかった。
「大丈夫、映画ぐらいなら見れるから!」
「そうじゃなくて……!」
クロはシロの腕に引っ張られながら歩いた。
街の人々はそんな二人を不思議そうに眺めた。
クロは自然とシロと手を繋いでいることに気付いた。
シロの手から暖かさを感じ、微笑みがこぼれた。
「あれはなんだろう?」
シロが遠くの方を指さして言った。
クロは指のさす方を見た。
それは巨大な影。
魔法少女に成れなかった者の怨念の魂。
マジンだ。
シロとクロはマジンを見るのは初めてだったが、それが自分たちの敵であることは理解できた。
マジンが二人の方を向いて、口を開いた。
次の瞬間、マジンの口から巨大な光線が発射された。
「危ない!」
クロはシロを突き飛ばした。
「クロ!」
シロは態勢を立て直し、クロの名前を叫んだ。
しかし、クロはマジンの放ったレーザーに飲まれてしまった。
シロは怒りの形相でマジンを睨んだ。
それはかつて殺人鬼だった時の目だった。
シロはクロに突き飛ばされたときにできた腕の擦り傷をさらに深く引っ掻いた。
血がドロドロとあふれ出す。空中に巨大な剣を形成した。
「まって……」
シロは声のした方を振り返る。
そこにはクロがいた。
「あれ、生きてたの?」
クロは生きているどころか、ピンピンしている。
かすり傷一つない。
「私は、大丈夫だから、落ち着いて、ね?」
クロはシロにやさしく微笑んだ。
「うん……」
シロはクロに微笑み返しながら頷くと、地を蹴ってマジンへ向かって行った。
直後、マジンの身体はバラバラに崩れ落ちた。
クロはシロの中に殺人鬼を見た。
おぞましい憎悪。
クロはシロを殺すという使命を与えられたが、ようやくその意味を理解した。
確かにシロは殺さなくてはならない存在のようだ。
しかし、それでも、クロはシロを殺すことができなかった。




