第19話 白の記憶
『天道リンネ』
赤色のショートヘアで赤い瞳。
世界的に有名な研究者であり、魔法少女になってしまう病気「魔法少女病」の研究をしている。
「魔法少女病」の特効薬を開発するため、被験体として送られてきた魔法少女に対して、あらゆる実験を行っている。
『レイス・アタラクシア』
リンネの助手。黒のポニーテールに黒い瞳。
リンネをことを信頼しているが、非人道的な研究態度に対しては懐疑的。
『シロ』
謎の少女。
10年ぐらい前、シロは普通の小学生だった。
成績はとても優秀で、特別に富裕層の通う小学校に転入できることになった。
シロには一つだけ不安があった。
それは家に病気の母がいることだ。
金銭面は学校側が負担してくれるそうなので心配ではなかったが、遠い学校に行けばそれだけ通学時間が増えるということ。
シロは母を看病できる時間が減ってしまうと心配していた。
シロの母の病はそれほど重くなく、寝たきりではあるが、急に死ぬようなものではなかった。
しかし、シロは母のことが心配で仕方なかった。
それでも母がシロに転入を強く勧めると、シロはその通りにした。
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その学校はとても広かった。
小中一貫校とはいえ、シロが元居た学校の十数倍の大きさだった。
シロはどこに何があるか分からず、周辺をうろうろしていた。
その時、後ろから声が聞こえた。
「ん、もしかして君、転入生?」
シロが声の方を振り返ると、高貴な服を着た赤い髪の可愛らしい女の子がいた。
彼女の名はリンネ。シロと同じクラスにいる優等生だった。
勉強を教え合うなどして、二人はすぐに友達になった。
暫く経った時だった。
リンネはシロが富裕層ではないという噂を聞く。
子供は残酷だ。誰かがそういえば、みんなそう思う。
シロはクラスから浮いた。
リンネは、親や他の友達からはシロと関わるのを止めるように言われた。
理由が分からず、リンネは疑問に思ったが、
大多数の意見には逆らえず、リンネはシロから距離を置いた。
シロはリンネが冷たくなって、最初は困惑したが、別によかった。
もともといた学校にも友達はいなかった。
それにシロにとって最も大切なものは自分の母であるからだ。
しかし、ある日。
シロはリンネからゴミをぶつけられた。
振り返ると、リンネは楽しそうに友達と笑っていた。
シロはその日から、リンネたちからいじめを受けた。
机や教科書に罵倒の落書きされたり、上から水をかけられたり、
「ねぇ、リンネ……、もうやめてよ。」
シロはリンネに直接そう言った。
リンネは何も言わずシロを突き飛ばした。
日に日にリンネたちのいじめはエスカレートしていった。
そして……
「リンネ!何それ?」
リンネに元気よく話しかけた少女の名前はヒマリ。
シロが来る前からリンネの友達だった。
派手な服を着ていて、とても明るい子だ。
「これは私が研究している新薬だよ。」
リンネは医者である父に憧れて、新薬の研究員を目指している。
この学校の理科室は研究にはうってつけだったので、リンネは休み時間ここによく籠っていた。
もちろん、家にもそういった場所はあるが、時間がもったいないので、研究中の薬を持ち運んでいるのだ。
「新薬とは名ばかりで、マウス実験もまだ成功してないけどね。」
「ふーん、そうなんだ……」
ヒマリはリンネの持っている薬に興味があるのか、じっと見つめた。
そしてこう言った。
「いいこと思いついた。次の休み時間、ここで待ってて!」
「う、うん?」
リンネは一応了解した。
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「ねーシロ?無視すんな?」
シロはヒマリから声をかけられたが無視して早歩きで逃げようとした。
シロにとってヒマリは一番嫌いな存在であった。
リンネがいじめを始めたきっかけはおそらくヒマリであると思っていた。
そして、ヒマリはよく暴力を振るう。
「逃げんなって!」
シロはヒマリからドロップキックを受け、地面に倒れた。
「うぅ……」
シロが起き上がる間もなく、ヒマリはシロの髪を掴んだ。
「やめて、離して……!」
シロは抵抗したが、ヒマリの手からは逃れられなかった。
「やーだ。」
ヒマリの拳がシロのお腹に刺さった。
「うぐっ……だれか……」
シロは助けを呼んだが、誰も助けようとはしなかった。
周りの生徒は見て見ぬふりをして通り過ぎて行く。
それはシロ自身も理解していた。
この学校にシロの味方はいない。
シロはヒマリに髪を引っ張られ、そのままどこかへ連れて行かれた。
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ヒマリはとても明るい子だ。残酷なほどに。
リンネは約束通り、理科室に待機していた。
そこにヒマリがやってきた。
ボロボロになったシロを連れて……
リンネは困惑した。
そして理解した、ヒマリが何をしようとしているのかを。
「コレで人体実験してみようよ。」
ヒマリはリンネのように特別に賢い小学生ではない。
新薬のリスクなど理解していなかった。
ただの好奇心だ。
一方、リンネはこの薬の効果を理解していた。
死ぬ可能性だって十分にある。
リンネは言葉に詰まった。
「ねぇ、やらないの?」
しかし、リンネはヒマリを裏切ることはできなかった。
リンネは新薬の蓋を開けた。
本来その薬は、飲み薬であったが、
少しでもリスクを減らすため、リンネはその薬をシロの頭にかけた。
リンネはシロの身の安全を祈った。
しかし、その祈りは通じることはなく、シロは悲痛な叫びを上げた。
ヒマリの拘束を解き、暴れるようにもがいた。
「やば、逃げよう、リンネ。」
リンネはシロの状態が気になったが、ヒマリに手を引かれ、理科室を後にした。
この事件が大事に発展することはなかったが、
それ以来、シロが学校に来ることはなかった。
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「あなたは最低な人ですね。リンネ博士。」
リンネはレイスにそう言われ、アルバムを閉じた。
そして次に、本棚から大きめの茶封筒を取り出し、資料を探した。
「ここで、終わらせとけばよかったのにな。」
そう言いながら、1つの写真を取り出した。
そこに映っていたのは、髪や瞳が真っ白に染まったシロであった。
アルバムに写っていた少女とはまるで別人。
白黒写真の彼女だけが、カラー写真に張り付けられたような、異常な違和感があった。
おそらく薬品の影響だろうと、レイスは想像した。
そして、博士の言葉に反応する。
「まだ……彼女に何かしたのですか?」
レイスは頭を抱えた。
失望。
これまで、尊敬してきた博士が、まさかこんなことをする人だと思いたくなかった。
「私が後悔する権利なんてないけどね。それでも、自分のしたことを忘れたことなんてない。」
リンネは話をつづけた。
……
リンネが自分が過去にしたことを話すと、レイスは言葉を失った。
「本題だが、彼女がもし、今生きていたら何をするだろうか……」
リンネは顔を伏せながら言った。
レイスは答えを嫌でも想像することができた。
それは……
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深夜の林の中
男が必死で草をかきわけ、駆ける。
肩からは血を流しており、もう片方の手で痛みを抑えながら走っていた。
しかし、運悪く木の根に躓き転んでしまった。
男が振り返ると、一人の少女が立っていた。
月が逆光になり顔はよく見えない。
その少女は血まみれだった。
だが、元気よくステップを踏み、無邪気に笑っていた。
「はぁはぁ、なんだよ、一体……!」
男が叫ぶ。
シロは男に近づきながら答えた。
「復讐」
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「とにかく、シロが魔法少女になっている可能性が高い。一刻も早く特効薬を作る必要がある。」
リンネはコーヒーを一気に飲み干し、実験室に向かった。
レイスはリンネに質問をした。
「特効薬を作ったところで、あの子は許してくれるのでしょうか。」
リンネは不安そうなレイスを見て答えた。
「許してくれないだろうな。何故、薬を開発するかは後々話そう。」
リンネは笑っていた。
レイスはその笑顔が理解できなかった。




