第1話 希望の剣
☆登場人物☆
『天道博士』
謎の人物。女性。
世界的に有名な研究者であり、魔法少女になってしまう病気「魔法少女病」の研究をしている。
「魔法少女病」の特効薬を開発するため、被験体として送られてきた魔法少女に対して、あらゆる実験を行っていた。謎の事件に巻き込まれて本編開始前に死亡。
『衛堂ミコト』
主人公。17歳。
黒のショートボブヘアで赤い瞳の少女。
至って普通の女子高生。頭は良くない。
『遺体は新薬開発などで世界的に功績を残した天道博士と見られており、警察は殺人事件として調べています。』
目の前のでっかいビルのモニターで訃報が流れた。
立ち止まった人々は驚いた声を上げている。
他人の死など微塵も興味が無いが、今日は特別、悲しい気持ちになった。
昨日、私も大切な人を亡くした。
孤児だった私を育ててくれた恩人だ。
しばらく会ってなかったとはいえ、その知らせを聞いて何とも言えない喪失感に襲われた。
「はぁ……」
歩道橋の上から上下に流れる車の波を見て、私はため息をついた。
ここから身を乗り出せば、楽に死ねるだろうか、そんなくだらないことを考えていた。
しかし、私には勇気がなかった。
天国というものの存在が確証できたのなら、喜んで飛び降りるだろう。
実際は、天国があるか分からない。加えて死ぬときの痛みは、想像を絶するほどだと容易に想像できてしまう。
私は、歩道橋にかけていた手を離した。
意気地なしと言われようが、自分のしていることは正しいと思っていた。
「帰ろう……」
次の瞬間、遠くのビルが爆発した。
比喩ではない。爆音と轟音が響き渡り、瓦礫による砂ぼこりが舞う。
車の流れが止まり、クラクションと鈍い衝突音が合わさって聞こえる。
私は咄嗟の出来事に伏せることしかできなかった。
顔を上げると、周辺のビルや道路は滅茶苦茶に崩壊していた。
目に映るあらゆる場所で、炎が立ち上がり、警報機と人々の阿鼻叫喚とした叫び声や鳴き声の音が聞こえる。
ゆっくりと立ち上がり、その地獄絵図を茫然と眺めた。
奇跡的に私の居た歩道橋は無事だったようだ。
「あぁ…」
しかし、私は確信してしまった。
今日、自分は死ぬ運命にあると。
瓦礫の埃の中から禍禍しい煙を纏った化け物が姿を現した。
あれはなんだろうか。
中学生ぐらいの頃、退屈な授業中に妄想したことがある。
突如グラウンドに現れて校舎を破壊する怪物のようだ。
他のみんなが逃げ惑う中、私は臨機応変に動き、怪物を仕留めるのだが……
実際に今、動けるのかというとそうではない。所詮妄想だ。
この惨状が怪物の絶望的な強さを表していた。
怪物はこちらに目を向けた。
正確に言うと、目のようなものは確認できなかったが、
確実にこちらの方を向いている。そう認識できた。
不自然に残っている歩道橋。
それは怪物にとって最も優先すべき破壊対称だったのかもしれない。
猛スピードで怪物が迫ってくる。
立ち上がろうとしたが、足がすくんで動けない。
恐怖からか、それとも逃げるという選択肢が無意味なことを悟ったからか。
とにかく私は動けなかった。
私はあきらめて目を閉じた。
「生きたいなぁ。」
今の人生が充実している訳ではない。
未来の人生に希望が持てる訳でもない。
ただ、生きたかった。それだけだ。
歩道橋の崩壊と共に、私の体は奈落へと落ちた。
数メートルの高さだが、頭から落ちれば死ぬだろう。
必死で何かにつかもうとしたが、腕は虚空を仰いだ。
「……」
感覚がおかしい。
私の体は、まだ地面に落ちていない。
私はゆっくりと目を開けると、私の身体は宙に浮いていた。
状況が読み込めない。私も怪物も困惑していた。
私の足はゆっくりと地面についた。
自分の体のあちこちを触り、夢でないことを確認する。
私が手を前に出すと、ホタルのような光の球が集まり、剣となった。
私はその剣の柄を右手でしっかりとつかむ。すると剣は暖かい光を放った。
大きさは私の身長と同じほどだ。
しかし軽い、まるで段ボールでできているかのように軽かった。
自分の体に不思議な変化が起きていたが、一度にすべて飲み込むことはできなかった。
私はただ、手に握った剣を胸に引き寄せ、自分の使命を感じ取った。
『世界を救い望みを叶えよ』
怪物が私に飛び掛かった、同時に私も地を蹴った。
私は重力に逆らい、怪物に一直線に向かってゆく。
怪物は強靭な腕を振り下ろした。
私は剣を縦に構える。
私の剣が怪物の体を腕ごと貫いた。
私が地面に着地すると同時に、怪物の身体は粉々に砕け散った。
しばらくして、爆発して崩れたビルに野次馬が集まってきた。
私は後ろの惨状を視界に入れないようにして歩き出した。




