第13話 不穏な影
☆登場人物☆
『衛堂ミコト』
主人公。17歳。
黒のショートボブヘアで赤い瞳の少女。
至って普通の女子高生。頭は良くない。
育ての親を失い喪失感に駆られていた所、人外の化け物「マジン」に襲われる。
「死にたくない」という願いを抱き魔法少女として覚醒する。
魔法少女形態【命の魔法少女】
まるで医者の白衣のような衣装。グローブとブーツは白色だが、白衣の下は黒いタイツ。
頭には二本の丸っこい角が生えている。
白衣の裏から尻尾が伸びており、尻尾の先は注射器のようなデザインになっている。
白衣には緑色の線がデザインされている。それはサイリウムのように発光しており、ミコトの心臓の鼓動に合わせて心電図のように波を流す。
使用武器は「ミコトカリバー」
ミコトの身長ぐらいの大きさの剣であり、両手に持って戦う。
剣のグリップ真横には緑色の液体が入ったタンクがあり、タンクから伸びた管はミコトのグローブの中へと繋がっている。
使用魔法は「???」
黄金の光を纏い、対象の人物を蘇生させる。
また、自分に使うことで戦闘能力を大幅に上げることが出来る。が、それなりのリスクもあるらしい。
『奏美音』
もう一人の主人公。17歳。
地面擦れ擦れの長さの青いポニーテールと青い瞳の少女。
ミコトより色々とひと回り大きい。
ミコトの学校に転校してきたが、実は世界各地でコンサートを行う超有名ピアニスト。
「自分の両親に再び会いたい」という願いを抱き魔法少女として覚醒。
その後、同じく魔法少女であるミコトと意気投合する。
魔法少女形態【音の魔法少女】
黒の燕尾服のような衣装。ひらひらしておらず、すらっとしており男性的なデザイン。
ピアニストがモチーフにもかかわらず、黒色の手袋をしている。
使用武器は「メゾフォルテ」
右手に強弱記号のフォルテを模した剣、左手に「m」の形をした盾を持っている。鈍器。
使用魔法は「メロディボム」
音を爆弾に変える魔法。大きい音程威力も高くなる。
『オルカ』
今回の敵。【影の魔法少女】
翌日、私の声は出なくなっていた。叫びすぎたせいだろうか。
美音には病院を進められたが、声が出なくなったら、出なくなったで構わないと思っていた。
以前の美音だったら、無理やり病院に連れて行ったりしたのだろうが、今日は妙にやさしい。
だが、これはこれでやりづらい。
私は試しに、スケッチブックに文字を書いた。
『ケーキ買ってきて(はーと)』
私はそれを美音に見せ、にっこりと笑って見せた。
「ミッコ、頭の病院行こうか。」
これこそ、いつもの美音だ。戻ってよかった。
もしかしたら本気で心配されたのかもしれないけど。
今日は学校の授業日であったが、私たち二人は学校をサボっていた。
流石にこんな精神状態じゃ、学校に行く気すら起きない。
でも、家ですることも特になかった。
暫くテレビを見ていたが退屈だったのか美音が口を開いた。
「何か映画でも借りてこようか?」
私はスケッチブックに文字を書き答えた。
『私も行く』
「ミコトはゆっくり休んでいなさい。」
美音は私が傷心しているから気を使っているみたいだけど、できれば一緒にいて欲しいんだけどなぁ。
それに、美音は世間知らずだから、一人でDVDとか借りれるのか不安だ。
反論を書く間もなく、美音は外に行ってしまった。
……?
私は部屋の隅に何か輝くものを見つけた。
これは、ナイフだろうか?
石器のような刃をしていて、黒く禍禍しい形をしていた。
こんなナイフ買った覚えはない。
美音の持ち物とも思えない。
ということは、これはゆずが自傷したときに持っていたナイフだろう。
実際に見たわけではないが、可能性は一番高い。
ゆずなら就学旅行中とかに買っていそうではあるが……
私はなんとなく、そのナイフで自分の指を切ってみた。
痛い。
スっと切っただけなのに、指先がズキズキと痛む。
血もドロドロとあふれ出してきた。
私は傷の再生を図った。
しかし、指先の傷は癒える気配がない。
どうやらこのナイフで傷を付けられると、魔法少女の能力が制限されるようだ。
不思議なナイフだ。
魔法少女を殺すためだけに作られたナイフ。
なんでゆずがそんなものを持っていたのか、嫌でも想像がついた。
しかし、今更そんなことを考えても仕方がない。
問題は、そのナイフをどこで手に入れたかだ。
ゆずは死んでいるから、このナイフはゆずの能力によって生み出されたものではない。
ということは、誰かがゆずにこのナイフを渡したということになる。
「だれか、いるの……?」
私は後ろを振り返った。
そこには誰もおらず、窓から朝の日差しが差し込んでいた。
私はそのナイフを引き出しにしまった。
----------
「レンタルビデオ屋ってどこだっけ……」
道に迷ってしまった。
決して方向音痴ではないのだが、如何せんまだこの町に慣れてない。
うーん、私が小さい頃はでっかくビデオって書いてあったような……
ミコトに早く元気になって欲しいのに、こんなんじゃ顔も合わせられない。
「お困りですか……?」
後ろに、女性が立っていた。
慎重は私と同じくらい。上下黒のジャージを着ている。
いったいいつのまに後ろに立っていたのか気になったが、とくに不思議に思わなかったので、私はその人に道を尋ねた。
「実はビデオ屋を探してまして……」
その人は笑顔で答えた。
「それならですね……、二つ目の信号を……いや、結構遠いので付いてきます?私も丁度そのあたりに用があるので……」
親切な人だ。
「ありがとうございます。」
私はお礼を言い、その人についていくことにした。
----------
町はずれの商店街らしきところに来た。
通りは寂れており、営業している店は1つもない。
シャッターは落書きだらけで、ゴミとタバコの匂いが充満している。
天井のアーチは汚れており、太陽の光は少ししか差し込んでいなかった。
「……」
私にとってはなじみ深い風景だったが、これってひょっとして騙されているのかな?
私は前を歩く女性に尋ねた。
「あの……すみません、ここって……」
彼女は足を止めこちらを振り返った。
その顔は笑っていた。
不気味なほど邪悪に……
そしてその女性は手に持っていた、何かを私に突き付けた。
「……!?」
私はすぐに彼女との距離を置いた。
しかし……
「ぐッ……」
私の脇腹から血があふれ出した。
やられた。
彼女は手に小刀を持っていた。
人間のスピードではない、だとすると。
「マジンか……」
彼女は手に持っていた小刀を捨て、言った。
「いいえ、私はオルカ。あなたと同じ、魔法少女よ。」
オルカと名乗る女性は、ジャージを脱ぎ捨てた。
そしてその体は漆黒の鎧に包まれた。
「……!」
マジンはこんな変身をしない。
間違いない、オルカが言った通り、彼女は魔法少女だ。
だとしたら……
「どうして、私に攻撃したの……同じ魔法少女なのに……」
私は腹の傷を癒し立ち上がった。
そして魔法少女に変身し、武器を構えた。
「私を殺せば、わかるかもな!」
オルカは突撃してきた。
私は、まだ頭が混乱していた。
魔法少女が魔法少女を襲う。どうして?
いや、そのことは後で考えればいい。
オルカの武器はなんだ。さっき小刀を持っていたが、それではない。
今、オルカは手に何も持っていない。いったいどんな攻撃をしてくるのか。
全て考える余裕はなかった。
私は咄嗟に盾を構えた。
しかし、オルカの姿は私の目の前で消えた。
「!?」
後ろ……!
気付いた時には遅く、振り向く前に後頭部に強い打撃を受けた。
私はその勢いで吹き飛ばされたが、ゴミの山のクッションに助けられた。
私の頭の中ですでに結論は出ていた。
オルカとまともに勝負したところで、勝てはしないと。
そして、彼女は魔法少女でありながら、私に対して殺意を持っている。
はたして逃げられるかどうか……
私はゴミの山からゴミ袋を1つ取り出し、それをオルカに投げた。
この隙にどこかへ隠れないと……
オルカは全く動じなかった。
しかし、私も想定済みだ。魔法少女がゴミ袋ごときで怯むはずがない。
だから、ゴミ袋にちょっとだけ仕掛けをしておいた。
少しでも時間が稼げるよう。
ゴミ袋はオルカの目の前で大きな音を立てて弾けた。
「っ……」
袋の中に、音の爆弾を仕込んでおいたのだ。
ミコトには以前見せたことがあったが、実戦で使うのは初めてだ。
空中で散乱するゴミにオルカは戸惑っていた。
私は近くの路地裏に息をひそめた。
ひとまず逃げ切れた。
あとはオルカに気付かれないように、遠くに逃げるだけ。
「みつけた。」
私の耳元でオルカがささやいた。
「は!?」
やっぱりこいつの能力は、瞬間移動……!
私はオルカから距離を取った。
「ははは、何したか知らないけど、さっきはよくもゴミをぶっかけてくれたね。」
オルカの左腕にボウガンのような物が取り付いていた。
鎧のデザインとマッチした禍禍しいデザインだ。
あれがオルカの武器か……
「だから、仕返し。」
オルカの矢は発射された。矢は一瞬で私の右腕を貫いた。
盾のガードが間に合わなかった。
私は右手で持っていた武器を地面に落とした。
レベルが違う……
いくつのマジンを倒してきたが、私も結構強くなったと思っていた。
手も足も出ないとはこのことか。相手が魔法少女だから?
関係ない。オルカは強すぎる。
私はここで死ぬのか?
ミコト……あなたなら、どうする?
私はもう左手で持った盾を天井にぶん投げた。
「何を!?」
オルカは動揺した。
行き当たりばったりだ。
だけど、ただ一つの確信を得て行動にうつす。
きっと上手くいく。
「そうだろう、ミッコ!」
盾は天井に当たり、その衝撃で劣化していた天窓は次々と崩れ落ちた。
「チィ……」
オルカはすぐにその場を離れた。
私は落ちて来た盾を掴み、身を守る。
やがてすべての天窓が剥がれ落ちた。
建物の形こそ残っているものの、商店街は一瞬で廃墟となった。
砂埃が止み、オルカが姿を現した。
オルカの武具はアイスのように溶けだし、簡素なデザインになった。
「予想通りね。」
私はオルカに向かって言った。
本当に予想通りで、私自身も内心驚いていた。
「あなたは私をわざわざここへ誘導した。人通りが少ない場所だから?いいえ違うわ。私を殺すつもりならば、あの場所でできたはず。あなたはとある理由でこの場所に誘導してきたのよ。
「何……?」
「確信を得たのはあなたの武器、そんな高性能な武器、初めから使えばよかったのに。あなたは日の当たらない所で強くなる能力を持っている。影の魔法少女ってとこかしら、そうでしょ、オルカ?」
図星なのかオルカは怒りだした。
「むかつくなぁ、おまえ!でもよぉ、今の状況分かってんのか?お前の右腕は動かねえんだぜ?武器のない状態でどうやって戦うんだよ。威力はだいぶ落ちるが、どうせ一発だ。逃げ惑うお前の脳天をぶち抜いてやる……!」
オルカは私にボウガンを向けた。
相手の能力が分かったとはいえ形勢が逆転したわけではない。
蓄積したダメージは私の方が多い。
とりあえず逃げなければ。
オルカの矢は私の足を貫いた。
「痛ッ……!」
私は瓦礫の山を転がり落ちた。
足がやられた。
私はすぐに立ち上がり、片足を引きずりながら歩き出した。
「待てよぉー、遊ぼうぜぇー美音?」
だめだ、このまま逃げてもきっと追いつかれる。
一か八か……!
私は近くにあったマンホールを破壊し、下水道に逃げ込んだ。
----------
暫く地下を歩いた。しかし、オルカの足音はだんだんと近づいてくる。
私は静かに息を潜め、そして覚悟を決めた。
「よぉ、美音。」
下水道の通路からオルカが顔を覗かせた。
私の後ろには壁、もう逃げることはできない。
「お前の足から出た血の跡をたどったらすぐに見つけられたぜ。」
オルカはゆっくりと私の所へ歩いてきた。
鎧とボウガンはこれまでにないほど重装で禍禍しい形をしていた。
オルカは影の魔法使い。
日光が届かないこの場所では、オルカの強さは極限まで引き出されていそうだ。
「残念だったな。私の能力を暴いたものの、最悪な状況になってしまうとはな。」
オルカはボウガンを私の方へ向けた。
反応できない速度。
私は矢が発射されたことにすら気付かなかった。
矢は私の後ろの壁を破壊した。まるで、大砲だ。
「安心しな。こいつでは殺さねぇよ。
お前にはもっと苦しんでもらいたいからな。」
オルカはボウガンを捨て、右手を構えた。
すると、オルカの右手から、槍のようなものが生えた。
あれもオルカの武器か。
「まず、目ぇ、えぐってやる!」
オルカが私に向かって、駆け出した。
距離は10メートル。攻撃範囲に入るまでコンマ数秒。
目視は、当然できない。
だから、私は目を閉じていた。
それでもよかった。
私は右手に持っている武器を振りかざした。
「何!?」
私の剣が、オルカの鎧を砕いた。
オルカは慌てて、私から距離を取る。
「右腕、貫かれたはずでは…」
オルカは冷静に私を観察した。
そして同時に鎧の再生を図った。鎧はすぐに元通りになった。
本当はこの一撃で決めたかった。しかし、現実はそんなには甘くないか。
私はゆっくりと立ち上がり、足を引きずりながらオルカの方へ歩いた。
「お前……なめやがって……殺してやる……!」
オルカは再び私の方へ突撃してきた。
しかし、オルカの攻撃は私には届かなかった。
直前でと大きな炸裂音と共にオルカが吹き飛んだ。
「はぁ!?お前!何しやがった!」
答えは音の爆弾。
私の能力、球体のそもそもの正体は音だ。
周りの音を吸収し、爆弾のようなものを生み出す。
音が大きければ大きいほど強力なものになる。
さっき、オルカが放ったボウガンの爆発音、それを利用させてもらった。
本来、音の爆弾は一回きり。
爆弾の破裂音から新たな爆弾を生み出すことはできない。
しかし、この場所なら破裂音は無限に反射し、別の音となる。
より強い爆弾を生み出すことができる。
念のため用意しておいた足音で作った爆弾も合わさり、ここはさながら地雷原と化していた。
そして、オルカは気づいていない。
閉所だと、自慢のスピードも存分に生かせないことに。
ここが自分の有利な環境だと信じてやまない。
勝機が……見えた。
「踊れ……弾けろ!ノイズボム!」
音の爆弾が一斉に破裂した。
「なんだよ、なんだよ、なんなんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
オルカは何度も何度も吹き飛ばされる。
しかし、オルカの鎧は固く、砕ける気配すらない。
「クソがッ!」
オルカは体制を立て直し、上に逃げた。
「お前は絶対殺してやる……!覚えてろよ。」
捨て台詞のようなものを吐き捨て、
オルカはそのまま、マンホールを突き破り、外へ飛び出した。
「は……」
鈍い衝突音と共に、オルカの声は消えた。
私は別の出口のはしごをゆっくりと登り、外へ出た。
----------
オルカは道の脇で無惨な姿になっていた。
ここは車両通行帯。日中の交通量は多い。
オルカは外に出たとたん、自動車かトラックに轢かれたのだ。
上からの音を聞いて、ここが道路だということを知った。
音の爆弾で逃げ道を、上のマンホールだけにしていた。
つまり、これは全て計画の内だ。
オルカを轢いた犯人はすでに逃走しているようだ。
他の車も、オルカを避けながら走っているが、止まる気配はない。
自分の作戦とはいえ、あまりの残酷さに少し心が病んだ。
私はオルカを人の目につかない場所に運んだ。
「どうして、私を襲ったの?」
私はボロボロの布切れみたいなオルカに聞いた。
「言った……だろ……、私を殺せば……わかるってな……」
オルカは苦しそうに笑いながら言った。
オルカは魔法少女だ。
私の敵になる理由がない。
もしかして、誰かに操られているのかもしれない。
私は彼女に剣を振ることができなかった。
「甘いな……、美音」
オルカは突然起き上がり、右手の槍を突き出した。
「あ゛ぁ!!」
槍は私の右目を貫いた。
想像を絶する痛みに私は冷静さを欠いた。
私はオルカの顔面に剣を振り下ろした。
直後、オルカは地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
右目の痛みを抑え、ゆっくりとオルカに近づく。
「オルカ?」
オルカは死んでいた。
殺した?
私が、魔法少女を……
でも、向こうから攻撃を……
マジンだって元は人間……
仕方ないことなの……これは仕方のないこと……
私はそう自分に言い聞かせた。
オルカの死体はしばらくして蒸発するように消えた。
普通の人間ではない、死に方。
あまりの衝撃に自分の死を想像してしまった。
急に吐き気を覚えた。
「う゛ぉぇ……」
そして
次の瞬間。私は理解した。
オルカの言葉を。
どうしてオルカが私を襲ったのか。
私は全て理解してしまった。
----------
「遅いな……ミオ」
美音が映画を借りに行くと言って数時間が立った。
日は落ちかけている。
私はその場をうろうろした。
一応、そろそろ帰るという連絡はもらっているのだが、それでも心配だ。
美音の携帯に位置情報システムを仕掛けておくか?
その時、玄関の扉があいた。
「ミオ!!」
私はすぐさま美音の元へ駆け寄った。
「ただいま、ミッコ、待たせてごめん。」
いつもの美音だ。何か特別にけがをしている訳でもない。
こんなにも遅くなったのは気になるが、それ以上に美音が無事に帰ってきたことが嬉しかった。
「おかえり、ミオ。」
私は美音に抱き着いた。
美音は右手に何か袋を持っている。
「じゃーん。」
美音が袋の中から箱を取り出した。
ケーキだ。
しかも、けっこう高級な店のやつ!
「うおおおおおお!!!ありがと!!!!!」
私は美音からケーキの箱を受け取ろうとした。
しかし、美音は私の手を躱し、ケーキの箱を持ち上げた。
なんでだろうと、美音の顔を見た。
美音は笑いながら怒っていた。
「声、だせるじゃん、ミッコ。」
あ、忘れてた。
本当は声は出せた。
美音に甘えたかったため、わざと声が出ないふりをしていたのだ。
スケッチブックはリビングの机の上だ。
「あはは……。今、治ったみたい……」
私は何とかごまかそうとした。
しかし、美音は私の嘘に気付いていた。
「よかったね。じゃあ、ケーキは私一人で食べるから。」
私は美音の足に縋りついた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ご゛め゛ん゛な゛さ゛い゛ぃぃぃ……」
美音は私を引きずりながら歩いた。
そしてそのまま、リビングの椅子に腰を下ろした。
ケーキの箱を開ける。
「嘘よ、ちゃんとミッコの分もあるわ。先に好きな方選んで。」
美音は私に笑って見せた。今度はちゃんと笑っていた。
「!!」
私は早速ケーキの箱を物色した。
ショートケーキとチョコケーキ。
当然ショートケーキ。
美音は私がケーキを食べている様子を見ていた。
何か考え事しているように見える。
「ミオ?もしかして、ショートケーキが良かった?」
「あぁ、いえ、大丈夫。ちょっと疲れてるみたい。」
疲れているか。
ゆずが死んで悲しんでいるのは私だけではない。
それに、美音は私のためにいろいろしてくれた。
落ち着いたら、お礼に何かしてあげるか。
「そうだ、映画借りてきたんでしょ?一緒に見ようよ。」
私は美音が持ってきた袋を漁った。
しかし、その中にはケーキの箱以外入っていない。
「あ……」
と、美音が声を漏らした。
「えぇ……」
どうやら、本来の目的は忘れていたようだ。
こりゃ、相当疲れてそうだ。
今日はもう寝よう。私は美音にそう提案した。




