表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシックガールズ  作者: まーだ
第一章 魔法少女という病
15/97

第13話 不穏な影

☆登場人物☆


『衛堂ミコト』

主人公。17歳。

黒のショートボブヘアで赤い瞳の少女。

至って普通の女子高生。頭は良くない。

育ての親を失い喪失感に駆られていた所、人外の化け物「マジン」に襲われる。

「死にたくない」という願いを抱き魔法少女として覚醒する。

魔法少女形態【命の魔法少女】

まるで医者の白衣のような衣装。グローブとブーツは白色だが、白衣の下は黒いタイツ。

頭には二本の丸っこい角が生えている。

白衣の裏から尻尾が伸びており、尻尾の先は注射器のようなデザインになっている。

白衣には緑色の線がデザインされている。それはサイリウムのように発光しており、ミコトの心臓の鼓動に合わせて心電図のように波を流す。

使用武器は「ミコトカリバー」

ミコトの身長ぐらいの大きさの剣であり、両手に持って戦う。

剣のグリップ真横には緑色の液体が入ったタンクがあり、タンクから伸びた管はミコトのグローブの中へと繋がっている。

使用魔法は「???」

黄金の光を纏い、対象の人物を蘇生させる。

また、自分に使うことで戦闘能力を大幅に上げることが出来る。が、それなりのリスクもあるらしい。



『奏美音』

もう一人の主人公。17歳。

地面擦れ擦れの長さの青いポニーテールと青い瞳の少女。

ミコトより色々とひと回り大きい。

ミコトの学校に転校してきたが、実は世界各地でコンサートを行う超有名ピアニスト。

「自分の両親に再び会いたい」という願いを抱き魔法少女として覚醒。

その後、同じく魔法少女であるミコトと意気投合する。

魔法少女形態【音の魔法少女】

黒の燕尾服のような衣装。ひらひらしておらず、すらっとしており男性的なデザイン。

ピアニストがモチーフにもかかわらず、黒色の手袋をしている。

使用武器は「メゾフォルテ」

右手に強弱記号のフォルテを模した剣、左手に「m」の形をした盾を持っている。鈍器。

使用魔法は「メロディボム」

音を爆弾に変える魔法。大きい音程威力も高くなる。



『オルカ』

今回の敵。【影の魔法少女】


翌日、私の声は出なくなっていた。叫びすぎたせいだろうか。

美音には病院を進められたが、声が出なくなったら、出なくなったで構わないと思っていた。


以前の美音だったら、無理やり病院に連れて行ったりしたのだろうが、今日は妙にやさしい。

だが、これはこれでやりづらい。


私は試しに、スケッチブックに文字を書いた。


『ケーキ買ってきて(はーと)』


私はそれを美音に見せ、にっこりと笑って見せた。


「ミッコ、頭の病院行こうか。」


これこそ、いつもの美音だ。戻ってよかった。

もしかしたら本気で心配されたのかもしれないけど。


今日は学校の授業日であったが、私たち二人は学校をサボっていた。

流石にこんな精神状態じゃ、学校に行く気すら起きない。

でも、家ですることも特になかった。


暫くテレビを見ていたが退屈だったのか美音が口を開いた。


「何か映画でも借りてこようか?」


私はスケッチブックに文字を書き答えた。


『私も行く』


「ミコトはゆっくり休んでいなさい。」


美音は私が傷心しているから気を使っているみたいだけど、できれば一緒にいて欲しいんだけどなぁ。

それに、美音は世間知らずだから、一人でDVDとか借りれるのか不安だ。


反論を書く間もなく、美音は外に行ってしまった。


……?


私は部屋の隅に何か輝くものを見つけた。

これは、ナイフだろうか?


石器のような刃をしていて、黒く禍禍しい形をしていた。

こんなナイフ買った覚えはない。


美音の持ち物とも思えない。


ということは、これはゆずが自傷したときに持っていたナイフだろう。

実際に見たわけではないが、可能性は一番高い。


ゆずなら就学旅行中とかに買っていそうではあるが……


私はなんとなく、そのナイフで自分の指を切ってみた。


痛い。


スっと切っただけなのに、指先がズキズキと痛む。

血もドロドロとあふれ出してきた。


私は傷の再生を図った。

しかし、指先の傷は癒える気配がない。


どうやらこのナイフで傷を付けられると、魔法少女の能力が制限されるようだ。

不思議なナイフだ。


魔法少女を殺すためだけに作られたナイフ。


なんでゆずがそんなものを持っていたのか、嫌でも想像がついた。


しかし、今更そんなことを考えても仕方がない。

問題は、そのナイフをどこで手に入れたかだ。


ゆずは死んでいるから、このナイフはゆずの能力によって生み出されたものではない。

ということは、誰かがゆずにこのナイフを渡したということになる。


「だれか、いるの……?」


私は後ろを振り返った。

そこには誰もおらず、窓から朝の日差しが差し込んでいた。


私はそのナイフを引き出しにしまった。



----------



「レンタルビデオ屋ってどこだっけ……」


道に迷ってしまった。

決して方向音痴ではないのだが、如何せんまだこの町に慣れてない。


うーん、私が小さい頃はでっかくビデオって書いてあったような……


ミコトに早く元気になって欲しいのに、こんなんじゃ顔も合わせられない。


「お困りですか……?」


後ろに、女性が立っていた。

慎重は私と同じくらい。上下黒のジャージを着ている。

いったいいつのまに後ろに立っていたのか気になったが、とくに不思議に思わなかったので、私はその人に道を尋ねた。


「実はビデオ屋を探してまして……」


その人は笑顔で答えた。


「それならですね……、二つ目の信号を……いや、結構遠いので付いてきます?私も丁度そのあたりに用があるので……」


親切な人だ。


「ありがとうございます。」


私はお礼を言い、その人についていくことにした。


----------


町はずれの商店街らしきところに来た。


通りは寂れており、営業している店は1つもない。

シャッターは落書きだらけで、ゴミとタバコの匂いが充満している。

天井のアーチは汚れており、太陽の光は少ししか差し込んでいなかった。


「……」


私にとってはなじみ深い風景だったが、これってひょっとして騙されているのかな?


私は前を歩く女性に尋ねた。


「あの……すみません、ここって……」


彼女は足を止めこちらを振り返った。

その顔は笑っていた。


不気味なほど邪悪に……


そしてその女性は手に持っていた、何かを私に突き付けた。


「……!?」


私はすぐに彼女との距離を置いた。

しかし……


「ぐッ……」


私の脇腹から血があふれ出した。


やられた。

彼女は手に小刀を持っていた。

人間のスピードではない、だとすると。


「マジンか……」


彼女は手に持っていた小刀を捨て、言った。


「いいえ、私はオルカ。あなたと同じ、魔法少女よ。」


オルカと名乗る女性は、ジャージを脱ぎ捨てた。

そしてその体は漆黒の鎧に包まれた。


「……!」


マジンはこんな変身をしない。

間違いない、オルカが言った通り、彼女は魔法少女だ。

だとしたら……


「どうして、私に攻撃したの……同じ魔法少女なのに……」


私は腹の傷を癒し立ち上がった。

そして魔法少女に変身し、武器を構えた。


「私を殺せば、わかるかもな!」


オルカは突撃してきた。

私は、まだ頭が混乱していた。


魔法少女が魔法少女を襲う。どうして?

いや、そのことは後で考えればいい。

オルカの武器はなんだ。さっき小刀を持っていたが、それではない。

今、オルカは手に何も持っていない。いったいどんな攻撃をしてくるのか。


全て考える余裕はなかった。


私は咄嗟に盾を構えた。


しかし、オルカの姿は私の目の前で消えた。


「!?」


後ろ……!


気付いた時には遅く、振り向く前に後頭部に強い打撃を受けた。

私はその勢いで吹き飛ばされたが、ゴミの山のクッションに助けられた。


私の頭の中ですでに結論は出ていた。

オルカとまともに勝負したところで、勝てはしないと。

そして、彼女は魔法少女でありながら、私に対して殺意を持っている。

はたして逃げられるかどうか……


私はゴミの山からゴミ袋を1つ取り出し、それをオルカに投げた。


この隙にどこかへ隠れないと……


オルカは全く動じなかった。

しかし、私も想定済みだ。魔法少女がゴミ袋ごときで怯むはずがない。

だから、ゴミ袋にちょっとだけ仕掛けをしておいた。

少しでも時間が稼げるよう。



ゴミ袋はオルカの目の前で大きな音を立てて弾けた。


「っ……」


袋の中に、音の爆弾を仕込んでおいたのだ。

ミコトには以前見せたことがあったが、実戦で使うのは初めてだ。


空中で散乱するゴミにオルカは戸惑っていた。


私は近くの路地裏に息をひそめた。


ひとまず逃げ切れた。

あとはオルカに気付かれないように、遠くに逃げるだけ。


「みつけた。」


私の耳元でオルカがささやいた。


「は!?」


やっぱりこいつの能力は、瞬間移動……!

私はオルカから距離を取った。


「ははは、何したか知らないけど、さっきはよくもゴミをぶっかけてくれたね。」


オルカの左腕にボウガンのような物が取り付いていた。

鎧のデザインとマッチした禍禍しいデザインだ。

あれがオルカの武器か……


「だから、仕返し。」


オルカの矢は発射された。矢は一瞬で私の右腕を貫いた。


盾のガードが間に合わなかった。

私は右手で持っていた武器を地面に落とした。


レベルが違う……


いくつのマジンを倒してきたが、私も結構強くなったと思っていた。

手も足も出ないとはこのことか。相手が魔法少女だから?

関係ない。オルカは強すぎる。


私はここで死ぬのか?


ミコト……あなたなら、どうする?


私はもう左手で持った盾を天井にぶん投げた。


「何を!?」


オルカは動揺した。


行き当たりばったりだ。

だけど、ただ一つの確信を得て行動にうつす。

きっと上手くいく。


「そうだろう、ミッコ!」


盾は天井に当たり、その衝撃で劣化していた天窓は次々と崩れ落ちた。


「チィ……」


オルカはすぐにその場を離れた。

私は落ちて来た盾を掴み、身を守る。


やがてすべての天窓が剥がれ落ちた。

建物の形こそ残っているものの、商店街は一瞬で廃墟となった。


砂埃が止み、オルカが姿を現した。

オルカの武具はアイスのように溶けだし、簡素なデザインになった。


「予想通りね。」


私はオルカに向かって言った。

本当に予想通りで、私自身も内心驚いていた。


「あなたは私をわざわざここへ誘導した。人通りが少ない場所だから?いいえ違うわ。私を殺すつもりならば、あの場所でできたはず。あなたはとある理由でこの場所に誘導してきたのよ。


「何……?」


「確信を得たのはあなたの武器、そんな高性能な武器、初めから使えばよかったのに。あなたは日の当たらない所で強くなる能力を持っている。影の魔法少女ってとこかしら、そうでしょ、オルカ?」


図星なのかオルカは怒りだした。


「むかつくなぁ、おまえ!でもよぉ、今の状況分かってんのか?お前の右腕は動かねえんだぜ?武器のない状態でどうやって戦うんだよ。威力はだいぶ落ちるが、どうせ一発だ。逃げ惑うお前の脳天をぶち抜いてやる……!」


オルカは私にボウガンを向けた。


相手の能力が分かったとはいえ形勢が逆転したわけではない。

蓄積したダメージは私の方が多い。


とりあえず逃げなければ。


オルカの矢は私の足を貫いた。


「痛ッ……!」


私は瓦礫の山を転がり落ちた。


足がやられた。

私はすぐに立ち上がり、片足を引きずりながら歩き出した。


「待てよぉー、遊ぼうぜぇー美音?」


だめだ、このまま逃げてもきっと追いつかれる。

一か八か……!


私は近くにあったマンホールを破壊し、下水道に逃げ込んだ。


----------


暫く地下を歩いた。しかし、オルカの足音はだんだんと近づいてくる。

私は静かに息を潜め、そして覚悟を決めた。


「よぉ、美音。」


下水道の通路からオルカが顔を覗かせた。

私の後ろには壁、もう逃げることはできない。


「お前の足から出た血の跡をたどったらすぐに見つけられたぜ。」


オルカはゆっくりと私の所へ歩いてきた。

鎧とボウガンはこれまでにないほど重装で禍禍しい形をしていた。

オルカは影の魔法使い。

日光が届かないこの場所では、オルカの強さは極限まで引き出されていそうだ。


「残念だったな。私の能力を暴いたものの、最悪な状況になってしまうとはな。」


オルカはボウガンを私の方へ向けた。


反応できない速度。

私は矢が発射されたことにすら気付かなかった。


矢は私の後ろの壁を破壊した。まるで、大砲だ。


「安心しな。こいつでは殺さねぇよ。

 お前にはもっと苦しんでもらいたいからな。」


オルカはボウガンを捨て、右手を構えた。

すると、オルカの右手から、槍のようなものが生えた。

あれもオルカの武器か。


「まず、目ぇ、えぐってやる!」


オルカが私に向かって、駆け出した。

距離は10メートル。攻撃範囲に入るまでコンマ数秒。

目視は、当然できない。

だから、私は目を閉じていた。


それでもよかった。


私は右手に持っている武器を振りかざした。


「何!?」


私の剣が、オルカの鎧を砕いた。

オルカは慌てて、私から距離を取る。


「右腕、貫かれたはずでは…」


オルカは冷静に私を観察した。

そして同時に鎧の再生を図った。鎧はすぐに元通りになった。


本当はこの一撃で決めたかった。しかし、現実はそんなには甘くないか。

私はゆっくりと立ち上がり、足を引きずりながらオルカの方へ歩いた。


「お前……なめやがって……殺してやる……!」


オルカは再び私の方へ突撃してきた。


しかし、オルカの攻撃は私には届かなかった。

直前でと大きな炸裂音と共にオルカが吹き飛んだ。


「はぁ!?お前!何しやがった!」


答えは音の爆弾。

私の能力、球体のそもそもの正体は音だ。

周りの音を吸収し、爆弾のようなものを生み出す。


音が大きければ大きいほど強力なものになる。


さっき、オルカが放ったボウガンの爆発音、それを利用させてもらった。


本来、音の爆弾は一回きり。

爆弾の破裂音から新たな爆弾を生み出すことはできない。

しかし、この場所なら破裂音は無限に反射し、別の音となる。

より強い爆弾を生み出すことができる。


念のため用意しておいた足音で作った爆弾も合わさり、ここはさながら地雷原と化していた。


そして、オルカは気づいていない。

閉所だと、自慢のスピードも存分に生かせないことに。

ここが自分の有利な環境だと信じてやまない。


勝機が……見えた。


「踊れ……弾けろ!ノイズボム!」


音の爆弾が一斉に破裂した。


「なんだよ、なんだよ、なんなんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」


オルカは何度も何度も吹き飛ばされる。

しかし、オルカの鎧は固く、砕ける気配すらない。


「クソがッ!」


オルカは体制を立て直し、上に逃げた。


「お前は絶対殺してやる……!覚えてろよ。」


捨て台詞のようなものを吐き捨て、

オルカはそのまま、マンホールを突き破り、外へ飛び出した。


「は……」


鈍い衝突音と共に、オルカの声は消えた。


私は別の出口のはしごをゆっくりと登り、外へ出た。


----------


オルカは道の脇で無惨な姿になっていた。


ここは車両通行帯。日中の交通量は多い。

オルカは外に出たとたん、自動車かトラックに轢かれたのだ。


上からの音を聞いて、ここが道路だということを知った。

音の爆弾で逃げ道を、上のマンホールだけにしていた。

つまり、これは全て計画の内だ。


オルカを轢いた犯人はすでに逃走しているようだ。

他の車も、オルカを避けながら走っているが、止まる気配はない。

自分の作戦とはいえ、あまりの残酷さに少し心が病んだ。


私はオルカを人の目につかない場所に運んだ。


「どうして、私を襲ったの?」


私はボロボロの布切れみたいなオルカに聞いた。


「言った……だろ……、私を殺せば……わかるってな……」


オルカは苦しそうに笑いながら言った。


オルカは魔法少女だ。

私の敵になる理由がない。

もしかして、誰かに操られているのかもしれない。


私は彼女に剣を振ることができなかった。


「甘いな……、美音」


オルカは突然起き上がり、右手の槍を突き出した。


「あ゛ぁ!!」


槍は私の右目を貫いた。


想像を絶する痛みに私は冷静さを欠いた。

私はオルカの顔面に剣を振り下ろした。


直後、オルカは地面に倒れ、そのまま動かなくなった。


右目の痛みを抑え、ゆっくりとオルカに近づく。


「オルカ?」


オルカは死んでいた。


殺した?

私が、魔法少女を……

でも、向こうから攻撃を……

マジンだって元は人間……

仕方ないことなの……これは仕方のないこと……


私はそう自分に言い聞かせた。


オルカの死体はしばらくして蒸発するように消えた。

普通の人間ではない、死に方。

あまりの衝撃に自分の死を想像してしまった。

急に吐き気を覚えた。


「う゛ぉぇ……」



そして



次の瞬間。私は理解した。


オルカの言葉を。


どうしてオルカが私を襲ったのか。


私は全て理解してしまった。


----------



「遅いな……ミオ」


美音が映画を借りに行くと言って数時間が立った。

日は落ちかけている。


私はその場をうろうろした。

一応、そろそろ帰るという連絡はもらっているのだが、それでも心配だ。

美音の携帯に位置情報システムを仕掛けておくか?


その時、玄関の扉があいた。


「ミオ!!」


私はすぐさま美音の元へ駆け寄った。


「ただいま、ミッコ、待たせてごめん。」


いつもの美音だ。何か特別にけがをしている訳でもない。

こんなにも遅くなったのは気になるが、それ以上に美音が無事に帰ってきたことが嬉しかった。


「おかえり、ミオ。」


私は美音に抱き着いた。


美音は右手に何か袋を持っている。


「じゃーん。」


美音が袋の中から箱を取り出した。


ケーキだ。

しかも、けっこう高級な店のやつ!


「うおおおおおお!!!ありがと!!!!!」


私は美音からケーキの箱を受け取ろうとした。

しかし、美音は私の手を躱し、ケーキの箱を持ち上げた。


なんでだろうと、美音の顔を見た。

美音は笑いながら怒っていた。


「声、だせるじゃん、ミッコ。」


あ、忘れてた。

本当は声は出せた。

美音に甘えたかったため、わざと声が出ないふりをしていたのだ。

スケッチブックはリビングの机の上だ。


「あはは……。今、治ったみたい……」


私は何とかごまかそうとした。

しかし、美音は私の嘘に気付いていた。


「よかったね。じゃあ、ケーキは私一人で食べるから。」


私は美音の足に縋りついた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ご゛め゛ん゛な゛さ゛い゛ぃぃぃ……」


美音は私を引きずりながら歩いた。

そしてそのまま、リビングの椅子に腰を下ろした。

ケーキの箱を開ける。


「嘘よ、ちゃんとミッコの分もあるわ。先に好きな方選んで。」


美音は私に笑って見せた。今度はちゃんと笑っていた。


「!!」


私は早速ケーキの箱を物色した。


ショートケーキとチョコケーキ。

当然ショートケーキ。


美音は私がケーキを食べている様子を見ていた。

何か考え事しているように見える。


「ミオ?もしかして、ショートケーキが良かった?」


「あぁ、いえ、大丈夫。ちょっと疲れてるみたい。」


疲れているか。

ゆずが死んで悲しんでいるのは私だけではない。

それに、美音は私のためにいろいろしてくれた。

落ち着いたら、お礼に何かしてあげるか。


「そうだ、映画借りてきたんでしょ?一緒に見ようよ。」


私は美音が持ってきた袋を漁った。

しかし、その中にはケーキの箱以外入っていない。


「あ……」


と、美音が声を漏らした。


「えぇ……」


どうやら、本来の目的は忘れていたようだ。

こりゃ、相当疲れてそうだ。

今日はもう寝よう。私は美音にそう提案した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ