第12話 凛花
☆登場人物☆
『ゆずりは』
ミコトの親友。茶色の髪で茶色の瞳。
ミコトとほぼ同じ体格。
最近、ミコトと仲良くしている美音に嫉妬気味。
『衛堂ミコト』
主人公。17歳。
黒のショートボブヘアで赤い瞳の少女。
至って普通の女子高生。頭は良くない。
育ての親を失い喪失感に駆られていた所、人外の化け物「マジン」に襲われる。
「死にたくない」という願いを抱き魔法少女として覚醒する。
魔法少女形態【命の魔法少女】
まるで医者の白衣のような衣装。グローブとブーツは白色だが、白衣の下は黒いタイツ。
頭には二本の丸っこい角が生えている。
白衣の裏から尻尾が伸びており、尻尾の先は注射器のようなデザインになっている。
白衣には緑色の線がデザインされている。それはサイリウムのように発光しており、ミコトの心臓の鼓動に合わせて心電図のように波を流す。
使用武器は「ミコトカリバー」
ミコトの身長ぐらいの大きさの剣であり、両手に持って戦う。
剣のグリップ真横には緑色の液体が入ったタンクがあり、タンクから伸びた管はミコトのグローブの中へと繋がっている。
使用魔法は「???」
黄金の光を纏い、対象の人物を蘇生させる。
また、自分に使うことで戦闘能力を大幅に上げることが出来る。が、それなりのリスクもあるらしい。
『奏美音』
もう一人の主人公。17歳。
地面擦れ擦れの長さの青いポニーテールと青い瞳の少女。
ミコトより色々とひと回り大きい。
ミコトの学校に転校してきたが、実は世界各地でコンサートを行う超有名ピアニスト。
「自分の両親に再び会いたい」という願いを抱き魔法少女として覚醒。
その後、同じく魔法少女であるミコトと意気投合する。
魔法少女形態【音の魔法少女】
黒の燕尾服のような衣装。ひらひらしておらず、すらっとしており男性的なデザイン。
ピアニストがモチーフにもかかわらず、黒色の手袋をしている。
使用武器は「メゾフォルテ」
右手に強弱記号のフォルテを模した剣、左手に「m」の形をした盾を持っている。鈍器。
使用魔法は「メロディボム」
音を爆弾に変える魔法。大きい音程威力も高くなる。
『謎の声』
謎。
「凛花ー、朝ご飯よー。」
母が私を起こしに来た。
いつも通りの変わらない日常。
朝ご飯を食べる。
いつもよりすこしだけ美味しかった。
「ごちそうさま。」
自分の部屋に戻り、身支度をする。
机の上に置いてあったナイフを手に取る。
黒い光沢のナイフに反射して自分の顔が写っていた。
だけど杠凛花の姿ではない。
それは、形容しがたい醜い化け物の姿であった。
ナイフを鞄にしまい玄関へ駆ける。
「今、雨降ってるよ?どこかへ行くの?」
母が話しかけてきた。
私は玄関の扉を開けて言った。
「みこちゃんの家、行ってきます!」
私は精一杯笑って見せた。
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昨日の晩、夢を見た。
正確に言えば、それは夢ではなかったが。
『あなたはどうあがいても、ミコトには近づけない』
その声は私の脳に直接語りかけているようだった。
頭に響いて少し痛かった。
「どうして……」
私は一応尋ねた。
『ミコトは魔法少女だからだ』
「魔法……少女?」
この間、魔法少女がいるというニュースがやっていた。
彼女は不思議な力で化け物を倒していた。
すべてがつながった気がした。
学校が崩壊した時も、学園祭の時も、昨日の遊園地の時も。
ミコトは魔法少女として化け物と戦っていたのだ。
「美音といっしょに……」
『そう、だからミコトと美音の関係は崩せない』
全部、無駄だったんだ。
私はミコトと結ばれない。
きっと生まれた時からそういった運命だったのだ。
「私はどうすれば……」
『簡単なことだよ美音を殺せばいい』
「そんなことできない!」
『いや、あなたは何度も思っている、美音がいなくなればいいと心の中で何回も』
「……!」
『あなたの胸の痛みは美音に対する憎悪を押し殺した結果だ』
『あなた自身が、その憎悪で苦しむ必要はない』
『さあ手を伸ばせ、あなたの運命を変える力を授けよう』
「……」
どうせ死んでしまう命だ。
私は暗闇の中の希望に手を伸ばした。
そこから黒い水のようなものがあふれ出た。
水はあっというまに私の体を包み込んだ。
私はもがいたが、しばらくして抵抗するのを止めた。
黒い水は私の身体の至る所によく馴染んだ。
『あなたは私の言うとおりに行動すればいい』
『そうすれば、ミコトはあなたのものになる』
「うん……」
私は手にしたナイフを自分の胸に押し当てた。
すこしだけ、胸の痛みが軽くなった気がする。
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「もしもし、ミコト?」
「お、どうしたゆずりんー?電話なんてめずらしい。」
「ゆずりん言うな!ちょっと話したいことがあるんだけど。」
「何?」
「大事なことだから私の家に来てもらえる?」
「わかった、すぐ行く。」
ミコトが傘をさして家から出ていくのを確認してマンションに侵入する。
ミコトの部屋の前に立つ。
私は一回深呼吸をしてから、呼び出しベルを鳴らした。
「はーい、ってあれ?ゆずちゃん?」
美音は不思議に思っていたが、私は何食わぬ顔で言った。
「あー、間違えて伝えちゃったみたい。戻ってくるよう伝えておくよ。」
美音は私を家の中に入れてくれた。
家の中は何も変わっていないが、なぜかとても懐かしい香りがした。
「ゆずちゃん、昨日はごめんね。」
「いや、あれは勝手に先に行った私が悪かったし……」
私はミコトのソファに座った。
そして、特に見たい番組がある訳ではないが、テレビを付ける。
美音は台所で作業し始めた。
『いまがチャンスだ』
脳裏に悪魔がささやいた。
私は鞄の中のナイフに手を伸ばす。
『早くしろ、後始末のことは考えなくていい』
こんな状況になっても、私から迷いは完全に消えていなかったのだ。
本当は美音のことを恨んでなんかいない、自分の不甲斐なさを……
『ならば、ミコトをあきらめるか?』
それもできない。あきらめるなんて絶対にできない。
私はナイフを構え、台所で炊事をしている美音に近づいた。
美音は背中を向けたまま、語りだした。
「そうだ!また今度、三人でどこか遠くへ行きましょう。映画見たり、キャンプでバーベキューしたりとか、来年は、海に行ったりして……それでね、みんなでいっぱい楽しい思い出作りたいなぁ。」
あぁ、そうだ、分かりきっていたことだ。
学園祭も、遊園地も、全部、楽しかった……
3人でも楽しかった。
私は幸せだったんだ。
たとえミコトと結ばれなくても。
この世界は何もおかしくない。
おかしいのは私、ただ一人。
美音を殺したところで、何も変わらない。
「ね、ゆずちゃん!」
私は持っていたナイフで自分自身の肩を裂いた。
「え……」
美音は手に持っていた包丁と野菜を地面に落とした。
そして私に駆け寄ってきた。
「ゆずちゃん!?何してるの!!」
私は美音を突き飛ばし、ナイフを捨て、ミコトの家を出た。
肩の深い傷は歩くたび、ずきずきと痛む。
血は雨によって永遠と流され続けた。
傘をさした少年が怯えた目で私を見た。
私は気にせず、そのまま歩いた。
『役立たずが』
悪魔の声がした。
だんだんと体の自由がきかなくなっているような気がする。
目標を達成できなかったとはいえ悪魔に魂を売ったのだ。
私は死よりも悲惨な目に合うことは分かっていた。
身元の整理はしてきた。
パソコンのデータは全部消したし、黒歴史のノートはシュレッダーにかけた。
でも、死ぬ直前になって1つだけ心残りができた。
やがて、わたしはとある場所にたどり着いた。
自然公園。
かつてあった巨大な滑り台は跡形もなくなっている。
なつかしいな。
ミコトは、この滑り台が取り壊されているとき、めちゃくちゃに泣いてたなぁ。
私も泣いてたっけ?まあいいや。
私は近くのベンチに腰を下ろした。
もう足は動かないだろう。
私は鞄の中からメモ帳とペンを取り出した。
それが雨に濡れないように、自分自身を傘にして手紙を書き上げた。
書き終えた時には私の意識はほとんどなかった。
「ゆず!」
最期に私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
私の大好きな人。ミコトの声。
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ゆずから電話で呼び出しがあって家から出た。
数分後、美音から電話がかかってきた。
「ミッコ……!ゆずが……ゆずが……!」
美音がこれまでにないほど取り乱している。
どうやらただならぬ状況のようだ。
「おちついて、ミオ。ゆずがどうしたの?」
「自分の腕をナイフで切り付けて、飛び出していったの!」
状況が全く読み込めない。
美音は嘘をついているようには見えない。
ゆずに何かが起きたのは確かだ。
私は急いで家に戻った。
「……!」
途中でやけに赤い色をしている道路を見つけた。
雨で滲んでいたが、地面に血の跡があった。
ゆずはケガをしているはず。
私は家とは反対方向に続く血の跡を追っていった。
そして、自然公園に着いた。
傘も差さず、ベンチで座っているゆずを発見した。
私は精一杯、彼女の名前を叫んだ。
「ゆず!」
ゆずは私に気付いたようでこちらを振り返った。
ゆずの顔は笑顔だった。
安堵したつかの間、ゆずの様子がおかしいことに気付いた。
「ゆず……」
もう一度彼女の名前を呼ぶ。
しかし、その声はゆずには届かなかった。
ゆずの体は変容し、異形の怪物に姿を変えていた。
ゆずはもう、どこにもいなかった。
『私たちが、魔法少女としてマジンを倒していけばいずれ、大切な人を斬る可能性があるってこと……』
美音の言葉を思い出した。
覚悟はしてきたつもりだったが、想像することから逃げていただけなのかもしれない。
残酷な現実に目をそむけたくなる。
私は剣を構えた。
戦っている最中に泣き出さないように、声が枯れるまで叫んだ。
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
迷いはない。絶望もしない。
私は世界を救う。
私の剣はマジンの体を貫いていた。
マジンは粉々になって消滅した。
「さようなら、ゆず……」
私は変身を解除した。
それと同時に大量の涙が溢れて来た。
「もう、泣いてもいいよね……」
ゆずは私の心の支えだった。
どんな時もいっしょに笑っていられる、本当の親友だった。
ベンチの上にあるゆずの鞄を見つけた。
鞄の隙間からびしょびしょに濡れた紙が飛び出していた。
不思議に思い、その紙を取り出す。
それは、ゆずが最期に残した手紙だった。
手紙には今まで見たことのないゆずの本当の気持ちが綴ってあった。
しかし、紛れもなくゆずの言葉だった。
私は、ゆずの気持ちに応えられなかったことを後悔した。
手紙をぎゅっと握りしめ、心臓の位置に寄せる。
私はそのまま蹲り、目を閉じた。
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「ミッコ……」
美音が到着したときには、私は平然を取り戻していた。
涙の跡は消せなかったのかもしれない。
美音はそれ以上何も言わないでいてくれた。
いつしか雨は止んでいた。
そして、かつて滑り台があった丘には、
無数の名前の知らない花が咲いていた。




