第10話 不安の種
☆登場人物☆
『衛堂ミコト』
主人公。17歳。
黒のショートボブヘアで赤い瞳の少女。
至って普通の女子高生。頭は良くない。
育ての親を失い喪失感に駆られていた所、人外の化け物「マジン」に襲われる。
「死にたくない」という願いを抱き魔法少女として覚醒する。
魔法少女形態【命の魔法少女】
まるで医者の白衣のような衣装。グローブとブーツは白色だが、白衣の下は黒いタイツ。
頭には二本の丸っこい角が生えている。
白衣の裏から尻尾が伸びており、尻尾の先は注射器のようなデザインになっている。
白衣には緑色の線がデザインされている。それはサイリウムのように発光しており、ミコトの心臓の鼓動に合わせて心電図のように波を流す。
使用武器は「ミコトカリバー」
ミコトの身長ぐらいの大きさの剣であり、両手に持って戦う。
剣のグリップ真横には緑色の液体が入ったタンクがあり、タンクから伸びた管はミコトのグローブの中へと繋がっている。
使用魔法は「???」
黄金の光を纏い、対象の人物を蘇生させる。
また、自分に使うことで戦闘能力を大幅に上げることが出来る。が、それなりのリスクもあるらしい。
『奏美音』
もう一人の主人公。17歳。
地面擦れ擦れの長さの青いポニーテールと青い瞳の少女。
ミコトより色々とひと回り大きい。
ミコトの学校に転校してきたが、実は世界各地でコンサートを行う超有名ピアニスト。
「自分の両親に再び会いたい」という願いを抱き魔法少女として覚醒。
その後、同じく魔法少女であるミコトと意気投合する。
魔法少女形態【音の魔法少女】
黒の燕尾服のような衣装。ひらひらしておらず、すらっとしており男性的なデザイン。
ピアニストがモチーフにもかかわらず、黒色の手袋をしている。
使用武器は「メゾフォルテ」
右手に強弱記号のフォルテを模した剣、左手に「m」の形をした盾を持っている。鈍器。
使用魔法は「メロディボム」
音を爆弾に変える魔法。大きい音程威力も高くなる。
『ゆずりは』
ミコトの親友。茶色の髪で茶色の瞳。
ミコトとほぼ同じ体格。
最近、ミコトと仲良くしている美音に嫉妬気味。
『カミラ』
完璧主義の同級生。
だが、クラスメイトの美音に絡まれ敗北、不登校になっていた。
時が流れるのは早い。
あれから大きな問題もなく、学園祭当日を迎えた。
エントランスでは各クラスの出し物の宣伝をしたり、コスプレをしたり、用もないのに立ち止まったりしている人たちで大混雑していた。
「みこちゃん!美音ちゃん!こっちこっち。」
ゆずの呼ぶ声が聞こえる。
劇は昼からだが、着替える場所と時間がないので、私と美音はすでに衣装に着替えていた。
ただ、それだけだと寒いので上からマントを羽織っている。
私の分の衣装は先日無事届いた。
魔王の衣装は女性向けに作られており、とてもかわいいデザインだった。
私が魔法少女になったときの衣装より出来がいい。
着た当初は露出も多く、恥ずかしかったが、もう慣れた。大満足だ。
何ていうか、日常的に着ていきたい。
私たちは人混みを避け、ゆずの方へ向かった。
「おそいよー、もう人が並んじゃってる!」
エントランスを抜けると、屋台が至る所に並んでおり、いい匂いがあらゆる方向から飛んできた。
私たちは、いろいろな場所を回った。
射的、金魚すくい、からあげ、フランクフルト、たこ焼き、りんご飴……
「ミッコ…食べ過ぎじゃない?」
美音が私を心配してくれた。
「そう?」
自分からしたら、まだ満腹まで食べたとは言わないな。
私は、フライドポテトの屋台に並んだ。
「太るよ?」
その言葉は私の胸に突き刺さった。
私は魔法少女になってからろくな運動をしていない。
魔法少女の戦闘も一瞬で終わるので、運動にならないだろう。
その証拠に全然つかれていない。
私は自分の腹を見た。
若干大きくなった気がする。
「やめておきます。」
私はフライドポテトを断念することにした。
「なーんてね。魔法少女は成長しないから、身長も体重も増えませーん。」
美音は私の顔の前で両手を広げて、あおるように言った。
なんだ、体重は増えないのか、それなら安心して……
ん?
「成長、しない?」
私は体重が増えないというより、成長しないという点に疑問を持った。
「そう、魔法少女は再生能力が作用して、成長しないようになるの。老化もしない。17歳だからちょうどいいでしょ?」
17歳、確かにちょうどいい若さだ。だが、問題はそこではない。
私はゆっくりと自分の胸に手を置いた。
次に美音の胸を見た。なんというか包容力のある胸をしていた。
別に、気にしてないからいいのだが……
「あっ……」
美音は私の胸を見て目をそらした。
別に、気にしてないからいいのだが…!!
「みこー!みおんー!時間だよー!」
トイレに行っていたゆずが戻ってきた。
どうやら劇が始まるらしい。
美音が時計を確認した。
「やば!あと10分!急がなきゃ!」
全然気づかなかった。
それほどお祭りの雰囲気にのまれていたのだ。
私たちはダッシュで劇場へと向かった。
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私たちの劇が始まった。
ナレーションのゆずが台本を流暢に読み上げる。
「それじゃあ、行ってくるね。」
美音がそう言い、舞台に出ると、劇場は大歓声に包まれた。
……
劇は終盤に差し掛かった。
私の迫真の演技には笑うものはおらず、小さい子供は泣き出す者までいた。
ここまで完成度を高めると、悪役でもむしろ清々しい気持ちになった。
レンにはもう一度感謝の言葉を言うべきだなと思った。
私は練習でしてきたことの全てを出し切った。
魔法少女の攻撃で魔王が倒されて劇は終了。
会場は拍手と喝采で満ち溢れた。
私は倒れたままなので、よく見えなかったが、
とにかく劇は大成功だった。
美音は舞台の真ん中で歓声をあてられており、とても嬉しそうだった。
「みこちゃん!おつかれ!すごくよかったよ!」
隣でナレーションをしていた、ゆずに褒められた。
最初はあんなに馬鹿にしていたのに。都合のいいやつ。
だけど普通にうれしかった。
バンッ
突然の大きな音に会場はどよめいた。
何事かと、私も地面に伏せながら様子を見た。
舞台とは正反対の扉が開いていた。
一人の影が立っているのが見えた。
美音の喜びの表情が消えた。
「カミラ……」
どうしてカミラが?
カミラと思しき人物は舞台に向かって歩を進めた。
「あなたのせいよ……」
カミラは劇場の丁度中間の位置に立ち止まった。
そして片手で頭をおさえ膝をついた。
「あなたのせいで私の人生は……!」
カミラが大声で叫んだ。
会場は静まり返った。
「あなたがどんな人生を歩もうが、私には関係ない。」
美音は冷酷に言い放った。
「ふふふ、ひどい人。やっぱりあなたは……」
カミラの声は途中で途切れた。
カミラは意識を失ったのかその場で倒れた。
近くにいた観客はカミラを心配して彼女に近寄った。
美音は何かを感じたのか突然叫んだ。
「危ない!そいつから離れろ!」
美音の忠告間もなく、カミラ周辺に巨大な影が出現した。
突如発生した突風に観客は吹き飛ばされた。
巨大な影はその全貌を明らかにした。
「あれは……マジン!」
倒れていながらも確認できた。体長は5mほど。
かろうじて人の形をしているが、体中からは鋭利な刃物が飛び出している。
最大の特徴は大きくて醜い翼。
鈍重そうな見た目の翼は飛ぶためのものでないことは理解できた。
ゆずは想定外の状況に戸惑い、ナレーションの台の後ろに身を隠した。
「まだ劇は終わっていない。魔法少女であるあなたの処刑で幕が下りるのよ!」
かつてカミラだったものは枯れた声で叫んだ。
そうか、そうだったんだな。
なんとなく分かっていた。
マジンも魔法少女と同じように人間が変容した怪物だってこと。
だから生きるため、魔力を得るために魔法少女を襲うし、悪だくみもする。
魔法少女との違いがあるとすれば、なんだろうか……
そんなことを考えている暇は無かった。
マジンの翼がゆっくりと羽ばたき、数千本の針が美音に襲い掛かる。
私は美音の心配はしていなかった。
あの程度の攻撃、美音に対しては通用しないからだ。
美音は武器を取り出し、飛んできた針を全て防いだ。
あれは、変身しているのかな。衣装はそのままだけど……
そういったこともできるのか、後で真似してみよう。
その様子にマジンは一瞬だけ驚いた。
「へぇ、あなた本当に魔法少女だったんだ。どおりでねぇ……」
美音とマジンはしばらくにらみ合った。
「どうしよう、避難指示出した方がいいよね……?」
美音が怯えた声で私に聞いた。
ゆずの言うとおりにした方がいいだろう。
だが、この学校の生徒はバカが多い。
この惨状を前にしても、なぜか盛り上がっている。
避難指示を出しても、聞くかどうか。
「……」
いいことを思いついた。
「ゆず、あれは舞台装置だ。台本にはないが、うまくナレーションをあててくれ。」
「無茶ぶりがすぎるよ!」
当然の反応だ。
だが、私がゆずの目を真剣な眼差しで見つめると、ゆずは仕方なさそうにナレーションを始めた。
美音にも大勢の観客を守りながら戦わせるという無茶ぶりを与えてしまった。
「私も行かないとな……」
私は静かに立ち上がり、魔法少女の剣を握った。
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『さて、突然現れた謎の巨大生物。この巨大生物こそが人々を恐怖に陥れる真のラスボスであったのだ。』
剣と盾を持った魔法少女は、マジンの攻撃をかわしながら、敵に打撃を与えた。
しかし、マジンはびくともせず、攻撃の手を緩めることはなかった。
「まるで、鉄みたいだな。いや、鉄なんて簡単に壊せるから、それ以上の硬さか……」
美音はマジンの硬さに戸惑った。
ミコトは美音の後ろに立った。
「やあ、苦戦しているようだな、魔法少女よ…」
「みっ、いや魔王……!」
「手を貸すぞ、魔法少女!」
ミコトが針の雨を掻い潜り前に出た。
美音もその後に続いた。
『かつて、敵同士であった魔法少女と魔王は協力し、ラスボスの強靭な装甲を崩していった。』
ミコトは飛び上がり、頭に剣を振り下ろした。
手ごたえはあったが、マジンは怯まず、攻撃を続けた。
すかさず美音が足に打撃を入れる。
マジンはようやくバランスを崩し、膝をついた。
「今だ!」
ミコトは剣を縦に構え、マジンに突貫した。
マジンは起き上がり、腹を大きく開いた。
腹の中は空洞で、赤色の棘がびっしり詰まっていた。
ミコトはそこへ突入し、それと同時にマジンの腹は閉じた。
マジンの身体から血が噴き出した。
「魔王!」
ミコトは返事をしなかった。
『魔王はラスボスの体内に侵入し、致命的な攻撃を与えた。』
「あなたもすぐにこうなる、そしてあなたの首を大衆に晒してあげる。」
マジンは美音を挑発すると、再び腹を開き美音を飲み込もうとした。
美音は地面を蹴って飛び上がり、マジンの顔に打撃を加えた。
マジンは天井に吹き飛ばされた。
マジンは再び体制を立て直し、美音に突撃した。
しかしその瞬間、マジンの体内から光があふれた。
「何、何が起こっているの!?」
マジンは状況を理解できぬまま爆発した。
『魔法少女の攻撃でラスボスは倒された。再び世界に平和が戻ったのであった』
ゆずは自分で語った若干無理やりな展開に苦笑いした。
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「ミッコ!」
美音が駆け寄ってきた。
「おつかれ、ミオ。なかなかいい演技だったよ。」
マジンに飲まれたときは死ぬかと思った。
だが、棘の山は奇跡的に急所から外れた。
とても硬いマジンだったが、内部から攻撃することで楽に倒すことができた。
「まったく、無理しないでね。」
美音はあきれながらも、称賛してくれた。
ゆずもナイス。と遠くから舞台に向かって親指を立てたサインを送った。
ゆずも私たちに親指を立ててサインを送ってきた。
「ウゥ……」
沈黙したはずのマジンが動き出した。
まだ生きていたのか……
私は剣を構えた。
しかし、美音は私の前に立ち、武器をしまった。
「マジンは崩壊を始めている。あと少しの命だ。」
美音はマジンに寄って行った。
「美音、私にとどめを刺さないのか。」
マジンはカミラの声でそう言った。
「カミラ、どうしてこんなこと……」
マジンは顔をゆっくりと美音の方へ向け語った。
「私は何事も一番でなければならなかった。ずっとそう言われてきたから。勉強も一番、スポーツも一番。もちろん人気も一番。だから、私を邪魔するあなたの存在が邪魔だった。何もしないでも、人をひきつけるあなたの才能に嫉妬した。」
マジンはその言葉のあとに続けて言った。
「でも、自由なあなたが羨ましかった。私はあなたのようになりたかったんだ……」
美音はマジンを憐れむような目で見つめた。
「もうおやすみ。」
美音はそう言い、マジンのそばを離れた。
マジンの体は粉々に崩れ去った。
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「カンパーイ!」
私たちは学校近くの料亭に来ていた。
学園祭の打ち上げだ。
「おつかれー!」
体育館を荒らしたことは怒られたけど、間違いなく私たちのクラスが一番盛り上がっていた。
最高に楽しかった。
「だよね?ミオ……」
美音は浮かない顔をしていた。
逆恨みで自業自得ではあるが、クラスメイトの命が失われたのだ。
クラスメイトはカミラが死んだことに気付いていないが、私と美音だけは真実を知っている。
楽しく打ち上げをしている私の方がおかしいのかもしれない。
「ところで、あんな大きな舞台装置いつのまに用意してたんだよ、みこちゃん?」
ゆずが抱き着いてきた。
おかしいな、お酒は飲んでないはずなのに、変なテンションになっている。
ゆずの頭をやさしくなでた。
マジンは人間が変貌した姿であることがわかった。
カミラは精神的に追い詰められていた、それが原因か。
しかし、よく考えるとそれって魔法少女と大差ないのでは……
マジンと魔法少女の違いは何なのか……
「ま、どうでもいいか……」
深く考えることはやめた。
私の頭では処理できない。
私は油っこいものをとにかくたくさん自分の皿に取った。
魔法少女は太らないから、いくらでも食べられる。
「ミッコ……」
美音が私に話しかけた。
美音は何も言わず、私を料亭の外に誘導した。
私は美音の指示通り、一旦みんなのもとから離れた。
「どうしたの?ミオ」
外に出て私は美音に話しかけた。
「ミッコはもう、覚悟してるんだよね?」
いまいち話が分からない。
だが、美音は真剣な表情をしていた。
「どういうこと?」
「私たちが、魔法少女としてマジンを倒していけば、いずれ、大切な人を斬る可能性があるってこと……」
マジンの変容は誰にでも起こりうる。
今回はあまりかかわりのないクラスメイトであったが……
美音の心配はもっともだ。
「そうだね……」
私はそんなことあまり考えていなかった。
だけど、私の答えは決まっている。
「私はだれであろうと、戦うよ。」
「じゃあ、私がマジンになったとして、あなたは私を斬れる?」
美音は私の両肩に手を置いて、私の目を見ていった。
斬れる訳がない。
「嫌な冗談はやめて、ミオ。」
「ごめん……」
美音は手を戻し、少し離れた。悲しそうな顔をしていた。
こんな冗談、美音は言いたくなかったのだろう。
だが、美音は混乱している。
心の中に迷いが生じている。
「私は守りたいんだ、ミオも、みんなも。守るべき命のために、私は戦う。」
私は心からそう思っていた。
「ミオもあるでしょう。戦う理由。」
理由は違えど、戦う理由は美音にもあるのだ。
魔法少女は戦いの果てに望みを叶えることができる。
マジンとなった人間を殺してもなお、叶えたい望みが。
「ふふ、迷ってた私がバカみたいね。ごめん、ミッコ。」
美音は軽く笑った。
美音に笑顔が戻ってよかった。
私もつられて少し笑った。
「料亭に戻りましょ、みんなが待ってる。」
「そうだね。」
私はそう答えると美音と共に歩き出した。
未来が不安なのは今に始まったことではない。
皆、不安の中で生きている。
大切なのは不安の種を取り除くことではない。
不安に打ち勝つ希望を持つことなんだ。
私が昔見ていたアニメの魔法少女のセリフだ。
もし、美音が不安に怯えていたら、
私が美音の希望になればいい。
そう思った。




