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虜になった姉妹達

 その後、勇者と彼のチームが加わっての周辺の魔族や魔獣、さらには野盗、魔界系の凶悪な亜人集団(主にゴブリンなど)の討伐が始まった。勇者達が加わったことによる圧倒的な力で瞬く間に一掃してしまった。その中にあってさえ、確かに以前からの勇者の一行も精鋭揃いだったが、兄弟のひいき目が入っていたかもしれないが、ジャメロの目には姉妹達は勝るとも劣らないように見えたし、場数、経験を踏めば彼女達のほうが確実に上だと思った。

 しかし、勇者は別格だった。比較にならない、愕然とする思いでそれを感じた。彼等は気がつかなかったが、勇者も彼等を観察していた。回復魔法を含め広く後方に役立つ魔法が優れているだけでなく、多くの戦闘力で姉妹達に次ぐ二番目、必要な戦力のラインに残ると判断したいたのだ、その戦いの中で。

 勇者のチームに、加わってから三日目、姉のマナイアが勇者に腰を抱かれて、しかも下着姿で、頭を彼に預けて、幸福そうにしているのを見て唖然とした。

「姉さんたら、焦っていたからって。」

 確かに21歳、大抵の女は結婚して子供を産んでいる。焦っている感じはあったが、母親達の結婚した年齢には、まだ数年ある。

「私がいるから大丈夫よ。」

「オブリナ姉さん。それは、あたしのセリフよ!」

「ティティア姉さん!どさくさに紛れて、兄さんに抱きつかないで!」

 3人の言い争いの中で、”いつかは、姉さんは…。“と思う気持ちがあった。”それで自分を誤魔化そうとしていた、動揺を取り繕うとしていたんだ。“

 その二日後、下の姉、次女のオブリナが、人目も憚らず、勇者と濃厚な口づけを延々としているのを目撃した。

「何?おかしいよ。」

 四女のイメアが震える声で、兄にしがみついた。三女のティティアも怯えるように、兄にしがみつくのに文句も言わず。

 そのイメアが、二日後には、勇者にお姫様抱っこされて、彼の寝室に消えていくのに出くわした。

「本当に、本当に何かおかしいよ、これって。」

 ティティアが、恐怖に怯えるように、彼の背中に隠れるように体を密着させた。それで、少しでも安心出来そうだと思ったからだ。ジャメロも、そうしてもらえることで、動揺が少し収まるように感じた。

「魔法か、呪いかだと思うか?」

「多分そうだと思うけど、よく分からないよ。私は、魔力が強いし、多分こうした魔法に負けないと思うから、安心して…多分。」

 ジャメロが振り返って見ると、彼女の表情は怯えてはいたが、負けまいという強い意志が感じられた。

 しかし、その三日後、ベットの上で裸身のティティアが、やはり裸身の勇者の上であえぎ声を出して激しく動いているのを目撃してしまった。

 そして、姉達、妹達はひたすら勇者オラホのために戦い、愛情を捧げ、ジャメロには他人を見るような視線を向け、扱うようになった。いや、赤の他人より酷い扱いを受けるようになった。彼に、勇者オラホにひたすら尽くすように命じ、要求するようになり、優しい言葉の一つもかけようとしなくなった。今までとの落差、何をやっても報われない、優しい言葉一つかけてもらえないことに打ちのめされた。

 それでも、そのまま流されるように、勇者達と姉妹達について、魔王との戦いに従っていった。

”何故、すぐ助けだそうとしなかったのか?“彼は何度も何度も、自問した。

 半分は、勇者が恐かったからだ。彼の圧倒的な力を現実に見たからである。そんな奴に逆らう勇気がなかった。

 半分は、似たようことかもしれないが、どんな魔法なのか、呪いなのか全く見当もつかなかったからだ。知識も人一倍ある、魔法や呪いを見抜く能力は誰にも負けない自信はあった。その自分が全くわからないのだ。彼に姉妹達に恋慕していた、する男達は数多い、何人かが勇者から彼女らを解放しようと魔法薬を飲ませるなどを試みて失敗した。

「止めてくれ!」

「お離し!」

 目の前の男を、今にも殺そうと目を血走らせている姉を、妹を後ろから押さえて、

「ここは私に任せて、逃げろ!早く!」

と叫んだことは何度あったろうか。魅惑、精神支配の魔法や呪いを解除する魔法や薬をかけよう、飲まそうとしただけで彼女達は反応して、拒否し、それを試みた連中を許そうとしなかった。彼が止めていなかったら、確実に“犯人”を殺していたろう。その後常に、彼は彼女達から、

「邪魔しないでよ!」

と力一杯殴られたものだった。

 また、半分は彼の周囲に誰もいなくなったからだった。彼の周囲には幼馴染みなど何人かの女達が常にいた。姉達や妹達が離れようとしなかったから、友達どころか単なる知り合い段階から進展していなかったが、姉妹達が勇者の虜となった途端に、彼の周りからその女達が消えた。彼のチームの男達の多くが彼の姉妹達に恋慕していたが、チームの女達の中には、その彼らに恋慕していたのが数多くいた。ジャメロは、本命が奪われてしまったいるからの二番目、あるいは強力過ぎて勝てない恋敵へのさや当てだったのである。それがなくなった。彼女らは、傷心の恋人を慰め、勝ち取った、そしてチームから去って行った。誰かがいて、話ができたら、なにかしたかもしれない。

 さらに半分は、彼はあまりにも冷静だったからだ。姉妹達は、姉妹である。離れていかなければならない。どんなに好きでも、愛していても、恋人にも、それ以上にもなれないのだ、なってはいけないのだ。自分のそれがわかっていた。何の魔法か、呪いなのか見定めなければならない。じっと従いながら考えていこうと、冷静に考えた、考えてしまった。

“それを言い訳にしていた。” 

 最後に、姉妹達への感情が怖かったのだ。彼女達が纏わり付くのを窘めながら、自分が彼女達へ抱く感情が異性に対する恋愛感情であることを感じて、悩みかつ恐れたからである。

 彼は、最初の宿に着いた時に、彼あてに届いていた小さな木箱を寝床の藁の上で顔の上に差し上げて思った。荷は、彼の母親からだった。

「これを使えるだろう。ようやくここまで来たか。その後…どうする?」

 急に不安になった。母親の言葉を思いだした。

「4人が元に戻ったら、帰ってきたら、どうするのかえ?何もかも、かつてのようにはいかないぞ。お前は、そうしたことを全て、引き受ける心構えはあるのかえ?」

“兎に角、まず救うことだ。その後は、その時になって考えるしかないじゃないか。”

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