そして出陣
魔族の幹部や彼らとともにやってきた3000人の人間・亜人の部隊長達も加わった会議は無事に進行した。問題は、反乱軍である。反乱軍は、好戦派と言うか、国粋派と言うか、解放派と言うかである。魔族の中では、人間達に屈服して、従属しているわけであるから不満が大きいし、人間達に支配をまかされている和平派は裏切り者、傀儡として不満が大きい。それに乗る形で反乱軍は勢いを増している。それは魔界各地で、共通している現象だ。和平派の魔公国が全て崩壊すると、人間達はまた魔族の脅威と直面することになる。魔族和平派も、虐殺されることは確実であるから切実だった。
“人間・亜人と魔族の混血児の家系の者も多く居住する地域だから、見捨てる訳にはいかないだろうな。”とジャメロは思った。
情勢説明がなされ、今後の作戦が論議された。反乱軍が迫って来ている。先手を打って攻勢に出ることになった。時間がたてばたつほど、反乱軍の勢力が拡大してゆく、早く叩かなければならない。作戦方針が議論され、決まっていく。そして、最後は、
「勇者が誇る4戦姫と孤高の不敗の騎士が先頭に立つ、精鋭3000人が加わっている。我らの勝利は間違いない!」
“不敗の騎士?誰のことだ?”とジャメロは思ったが、魔大公は会議を終わらせた。
ジャメロにとっては、その後が難題だった。
「それで、エルフ女とはどうだったのですか?あなたの戦いの中では?」
マナイアが、大公に尋ねたのは、会議後、招かれた別室でであった。
「それがだ、実はな。」
マラニアはニヤニヤしながら、テーブルの上に身を乗り出さんばかりに話しだした。
「背中合わせになって、互いを思い合う恋人のように戦っておった。離れていても、こいつはエルフ女を気遣って、あやつが危なくなると、いても立っても居られないというように駆けつけてな。助けられたあやつは、ひどく色っぽい目を向けてな、こいつはというと、顔を赤らめて、鼻の下を伸ばしてな、見ているこちらが恥ずかしくなったくらいだったし、くやしくなった。吾と此奴が組んずほぐれつして激しく営んでいる間は、心配そうに見つめておったな。最後はな、吾を動けなくなるほど責めるあげた攻後はだな、抱き合って、しかもだ、こやつは、あやつをお姫様抱っこして駆けだしておったが、二人の顔は上気しておったから、あの後、きっと激しく組んずほぐれつして、歓喜の交わりをしたのは確実であったろうな。それを考えると我はたまらなくなってしまう。本当に、こいつは、我というものがありながら、ひどい浮気者じゃ。」
「どうして、貴方に浮気者呼ばわりされなければならないのですか?」
と抗議すると、
「それ以外は、本当のところなのね。」
「ゆっくり弁明を聞きましょうね。」
「包み隠さずにね。」
「わかってますよね。」
翌日、
「あれからどうなったのだ?」
「まあ、色々ありましたよ。」
言葉を濁したが、後でまた煩そうなので、正直に語った。あの後、あまりにも追求が執拗だったので、つい彼も切れて、開き直ってしまった。
「ああ、寝たよ、激しく組んずほぐれつつしたよ、草の上で。姉さん達が、貴族の豪華な部屋で、勇者様の上になって下になって、涎を流して、励んで、楽しんでいる時にね!」
しまったと思った。4人は、うつむいて言葉を失っていた。彼女達も、しまったと思っていた。どうしようか迷ったが、このまま黙ってしまっては最悪だと思い、
「ごめん。」
頭を下げた。4人も、
「すまなかった。悪いのは私達だ。」
「ごめんなさいね。」
「許して、お兄ちゃん。」
「ごめんね。お兄ちゃん。」
その後、謝りながら、泣きながら抱き合った。
魔大公は、大声で笑った。
「全く、我というものがありながら、困った奴だ、本当に。」
と彼女は腕を組んでくるので、“困った奴と言うのはどっちなんだよ?”と心の中で文句を言ったが、逆らうわけにはいかなかった。
戦闘は、魔族穏健派・人間亜人連合が有利に戦いを進めた。反乱軍は、人数は多かったが、4人の戦姫、魔族人間亜人100名を率いながら、先頭になって戦うジャメロ、陣頭指揮にたつ魔大公、統制の取れた魔大公の軍、人間亜人の部隊の前に連戦連敗だった。反乱軍は、少数の幹部とその周辺以外は、訓練も受けていない兵で、
「魔族はこんなに弱かったか?」
と人間の兵が呟くほどだった。手強い連中も、ジャメロとその兵に瞬く間に防御陣を破られ、躍り込んで来るマナイラ達に頼みとする連中が倒されてしまい、魔大公の手兵の攻撃に他愛もなく蹴散らされてしまった。そして、最後の拠点への攻撃となった。
「ウギャー!」
ドクロのような顔の巨体が、マナイラの蹴りとオブリナの矢で大きくよろめいたところを、ティティアの特大の火球が命中した。燃えながら、それを阻止する魔力も体力も、既に彼にはなかった。彼の側近達の半ば以上が、イメアとジャメロにより死体の山となっていて、残りの魔族は近づけなかった。
「何やってるんだ!話が違う!」
「俺達を見捨てたのか?最初からか?」
そんな叫び声が上がると流れを打って逃げだした。それを追おうとした部下達をジャメロが止めた。
「お兄ちゃん。やっぱりなんかあると思う?」
イメアが心配そうに尋ねた。ジャメロが小さく頷く。
「とにかく、敵の大将は撃ち取った。兵をまとめて、撤収して魔大公の軍に合流しよう。」
二人のところに戻ってきたマナイラが言った。ジャメロは直ぐに伝令を送って指示をだした。城内で略奪を働き始めた兵が出始めていたが、命令の大部分は素早く実行された。その時、異様なものを感じた。事前に周囲を見に行かせた連中が戻って来た。皆、動揺していた。魔大公の側近の男が駆け込んできた。西門から突入し、本丸の西側に進んでいた魔大公は、裏切りにあって孤立している、東門の外側に軍勢が迫っているということだった。西側の魔軍の一部がこちらに攻撃する構えのようだとも。
「どういうこと?とにかく、このままでは包囲されて危ないわ。固まって、素早く逃げないと。」
オブリナが言った。直ぐにジャメロは決断した。
「後ろに向かって突撃する。姉さん達は、先頭立って援護してやってくれ。お前らは、姉さん達を援護しろ。それから、お前らは。」
魔大公から派遣されていた兵を指さして、
「お前達は私と共に、魔大公を救いに行く。そこのお前は我が軍の、道案内をしろ。後で魔大公の助けになる兵力を失わせたくないだろうが!」
「姉上達に従ってまとまって、陣形を崩すことなく突撃しろ。そうすれば九分通り生きて帰れる!そうで無ければ、九分通り死ぬ、しかも恩賞も報酬もなしだ。分かっているなら、生きるために突撃しろ!」
と全軍の前で演説すると姉達に向かって、
「姉さん達もご無事に。私は、必ず後から追いつくから。」
魔大公を助けることが、彼女らと自分がともに無事に帰れる、勝利する条件だと必要性を納得させようとしたとき、思いがけない彼女らの反応で凍りつき、できなかった。
「勇者様からの使命を、命をかけて果たしなさい。」
4人の顔を見た時、“誰だ、こいつらは?”とぞっとするものを感じた。姿は変わっていなかったが、何故かそう感じて背筋が冷たくなった。
「もちろんです。」
そう言って背を向けて駆け出した。“とにかく、魔大公を助け出し、勝利を得ることだ!”と自分に何度も言い聞かせた。




