寂しくて、怖かった
ジャメロは嫌な予感がした。マナイアは、厳しい視線を向け、
「あのエルフ女とは、…」
一旦言葉にが途切れた。流石に、彼女もどう言ったら良いのが迷った。だが、聞かなければ納まらない、聞かずにはいられない、気持が。
「何回やったのだ?」
思わず、マナイアは、一番避けたかった露骨な表現が口に出てしまった。
「そうよ。ずっとあのエルフ女と一緒にいたもんね。公認の恋人顔してたわよね、あいつったら。」
とイメアが割って入れば、オブリナが、
「ジャメロも鼻の下を長くしていたわよ、本当に。」
と付け加えた。
“その時、皆は勇者とやりまくっていただろう”と叫びたい衝動をジャメロは押さえた。彼女らを傷つけても仕方がないと思った。
「戦いの中だよ、たまにだよ。10回かな…いや、もっとあったか…。」
ジャメロは、答えがまとまらないうちに、言葉が先に出てしまった。
「王侯貴族の館に泊まった時、二人仲良く同室になったよね。」
ティティアまで参戦してきた。
「そう言えば、勇者から、あまり頑張るなよ、なんて言われていたな、確か。」
マナイア姉の言葉に、皆の視線が更に痛く感じるようになった。イメアとティティアなどは、指をおって数え始めた。ジャメロは溜息をついた。いつかは言わなければならないと思っていたことを、今言わねばならない、急いで出発した方がいいが、区切りをつけなくてはと思った。彼も居ずまいを正して、4人を正面から見つめた。
「優しかったみんなが、勇者のことだけを考え、私には冷たくなった。冷たいというより、道具程度にしか見なくなった。寂しくかったし、苦しかった。どうすればいいか、混乱した。そして、恐ろしくて、怖かった。」
彼は話を続けた。
「あいつは、勇者が私の行動に不信感というか不安を感じて送った監視役だった。同時に、私への飴だったんだ。彼は、それなりに私を評価してくれたのだと思う。その後だって、功績に報いてくれた。そして、多分、私がみんなのために、我を忘れた行動をとらないようにするようにつけたんだと思う。実際、あいつが止めたお蔭で、冷静になってみんなを助けられた、自分も死なずにすんだことは何回もあったよ。あいつと勇者とはどのような関係だったかは分からないし、彼女が何歳かも知らない、当人は20歳くらいと言ったが、そうなのかもしれないし、60歳かもしれない。あの姿からは80歳以上だという可能性は、殆ど可能性はなかったろうが。あいつは、時折、嫌悪感に満ちた表情を見せた。当人は気が付かれていないと思っていたろうけどね。それでも、戦いの中、何度も死にかけ、助け合って切り抜ける間に、そういう表情は見せなくなったし、私も彼女に愛情を感じていたのは事実だよ。魔王が倒された、あの日、二人で魔族の足止めをして、もうこれまでと思った時に、二人でした、これからも共にいようという約束は、どちらもあの一瞬は本心だったと思う。でも、それが終わったら、その夢は直ぐ覚めた、二人のママゴトは終わったんだ。奴は、嫌悪感に満ちた本心に帰って、去っていった。勇者の指示がどこまでかは分からない。」
そして、彼は大きく溜息をつき、続いて小さく深呼吸した。そして、突然、土下座して、
「ごめん!」
4人は唖然とした。その中で彼は続けた。
「みんなを助けたかった。だから、魔法研究して、薬草を探し、薬を作った。でも、だんだん怖くなった。助けた後のことや本当に助けられるのかとかで。だから、あいつに逃げたくなった。もし、あいつが去らなかったら、みんなを捨てて、みんなが死のうと、自分だけ領主としてささやかな生活を選んだかもしれない。みんなを愛していると言いながら、裏切ろうとしていたんだ!」
彼は、涙が出てくるのを感じた。この時、許してもらえない、殺されると思った、何故か。
彼は頭が柔らかいもので包まれりのを感じた。
「いいんだ。お前は、悪くない。私こそ、お前に許しを乞いたい。」
ジャメロが頭をあげるとマナイアが涙を流していた。
「長女なのに、一番年上なのに、あんな勇者の虜にまっ先になって、お前に辛く当たって、苦労を、かけて、それだけでなく殺そうとして…許しておくれ。しかも、こんなに醜くなって。」
ジャメロは、首を横に振り、姉を抱きしめることしか出来なかった。
「ごめんね。」
「結局、何の力にもなれなかった。」
「ごめんなさい!」
3人も抱きしめてきた。
「出発の準備を始めよう。」
ジャメロがそういいだしたのは、それからしばらくたってからだった。
「確かに、ジャメロのいうとおりだ。」
長女のマナイアが賛成した。
「今思うと、兵達が一斉に逃亡したのは、糸をら引いていた奴がいたと思う。執事の連中だ。奴等も勇者の指図だろう。兵達に不満があるのはわかっていたが、一斉に逃げ出すような感じではなかった。ぐずぐずしていると、執事どもが、私の生死を確認を取りにやってくるといろいろ厄介だからな。」
ジャメロは大きく頷いた。姉の言うとおり、彼らがいなくなるのが早過ぎると感じていた。ここを出て、イメアのところに出発する時、兵達はひと月は持つだろうと見ていた。しかし、それよりかなり早く姉が一人になってしまっている。姉の言うとおりだと思った。“いや、妹達が死んだらしい、孤立無援になっている、ということで、早く全てを終わらせようとしたのかも。”
「なあ、ジャメロ。言っておきたいことがある。」
マナイアは、表情が変わった。彼の正面に座り、彼の目を真っ正面から見つめた。そして、両手で彼の両手を軽く握った。
「本当であれば、姉としてお前が嫁を迎えるのを喜ぶべきなのだ。あのエルフ女は、最初の経緯はともかく、お前の最後の、最後にお前と生涯を共にすることを選んでいたら、好ましい女、嫁だった、祝福してやるべきだったろう。しかしな、お前の不幸を、あいつがお前を捨てたことが嬉しくて仕方がないのだ。なあ、…私は、こんな醜い顔になってしまったが、お前が、本当に好きなのだ。異性として、愛しているのだ、本当なら許されないことだが、ずっと前から。交わったのは、成り行きではなく、本当に愛していたからだ。我慢できなくなったのだ。私と…いや私を…いや、お前は私のものだ。」
彼女は、彼の手を強く握りしめた。
「お姉ちゃん!ずるいわよ!自分だけ、抜け駆けして!」
3人が一斉に抗議の声をあげた。




