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アリス・ウィズ・ラビットワークス  作者: 結城リノン
第二章 ネザーラビティア編
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第十一話 再会と新たなスタート

ラフィラスがガイアス一行を連れ、応接間へ到着。手癖が悪かったガイアスとの再会に、一応に懐かしんでいた。そして、ちょっぴりのしつけと、ガイアスの顔がぼこぼこになったり治ったりと、忙しい一日が始まります。

 ラフィナに言われて応接間に通されたガイアス一家は、立派な王城の中の作りに、緊張しっぱなしだった。

 そんな中でも、ガイアスは緊張している素振りはなかった。そのことが、唯一父親らしく見えたのか……


「ぱ、パパ。すごいね。」

「ん? なんだ? フィナ。緊張してるのかな?

「ん。緊張してる……」


 父親のガイアスについてちょっぴり見直したフィナだったが、緊張していたのは、フィナだけではなく……


「あ、あなた……私も……」

「ええっ。ラフィナも? まったく、ドーンと構えてればいいんだよ。」

「でもですね。これから、クラリティア人の……」

「アリス様?」

「ええ。その方に会うんでしょ?」

「だな。それがどうかしたのか?」

「いや、あなたも鈍いわね。国賓級に扱われている人と会うのよ? 緊張するのも当たり前です!」

「そういうもんか。」

「そうです!」


 城に入って以来、王との縁もゆかりもなかったラフィナとフィナはどんな顔をしていいのかわからなくなっていた。そんなさなか、通路の扉を開けてアリスが顔をのぞかせる。


「ガイアス。元気だった?」

「アリス様。息災〈そくさい〉のようで。何よりです。」


 いつものようにガイアスとハグをして、あいさつを交わすと、隣にいたラフィナとフィナが、慌てて立ち上がる。


「あ、アリス様。初めまして!!」

「は、初めまして!!」

「え。えっと……」


 まるで背筋に針金でも入っているかのように、頭の先からつま先まで、ビシッとなっていたラフィナとフィナ。

 その姿に思わず笑ってしまうアリスだったが、自然に挨拶を交わす。


「初めまして、アリスです。えぇっと……」

「ええ。クラリティアの方というのは、知っております。お目にかかれるとは思ってもみませんでした。」


 緊張するラフィナをしり目に、トコトコとアリスの隣へと歩み寄るフィナ。

 あいさつ当初の緊張はどこへやら、トコトコとそばに駆け寄るとアリスの顔を覗き込むフィナ。


「これ、本当の耳なの?」

「えっ? これ? そうよ。耳の形もそうだし、場所も違うでしょ?」

「ほんとだぁ。」


 アリスの横に駆け寄ったフィナは、アリスの耳をちょんちょんと、興味津々で触っていた……


「こ、こらっ。フィナ! ダメでしょっ。」

「ええっ……」

「いいんですよ。ラフィナさん。このくらい興味がなきゃね。ねー」

「ねー」


 あっという間に意気投合するさまは、さすが子供といった具合だった。ラフィナもフィナのおかげか、緊張せずに会話を始めることができていた。


「えっと、うちの旦那が……」

「ええ。ガイアスさんを呼んだのは、地下資源についてです。」

「地下資源?」

「はい。私の知る限り、ガイアスさん以上に地下資源を知る人材を知りません。そして、この国の王女様。ミリアナ様が地下資源に興味を持たれまして。それで及びしたのです。」


 淡々と説明する中、フィナは何のことかさっぱりわからない様子だったが、アリスの隣に移動すると、人懐っこくアリスに身を委ねていた。

 一方のラフィナは、娘のフィナがズカズカと行くことで、気が気ではなかった。


『もし、あの子が粗相をしたら……』

『いけませんわ、アリス様から離さないと……フィナが何かしでかしたら……』


 確かに、国賓扱いのアリスにい粗相をしようものなら、一般庶民のラフィナとフィナは、風が吹けば消えてしまうほどに、あっけなく窮地になる。しかし、ラフィナのそれは杞憂に終わる。それは……


「ふふ。フィナちゃん。気に入ったのかな?」

「あ、アリス様? いいのですか?」

「えっ? あぁ、粗相をしないかって、心配だったんですね。大丈夫ですよ。そこまで私は、酷じゃないので……」

「ありがとうございます。」

「それに、こうして、眠るフィナちゃん。幸せそうじゃないですか。」


 アリスとラフィナの間で続けられる難しい話に、子供のフィナはどうしても眠くなったようで、アリスの膝に頭を乗せて、すやすやと寝息を立てていた。


「ほんとう、ですね。ふふ。」

「でしょ? どんな夢を見てるのかしら。」


 アリスは小さな体を丸め、アリスに身を委ねているフィナに向け、優しく囁く。それは、フィナが大人になるころの、アリスの描く展望だった。


「あなたが大人になるころには、このネザーラビティアは、もっと活気にあふれているわ。そして、のびのびとそこで暮らしてね。フィナちゃん。ふふっ。」

「アリス様……」


 まるで母親のようなアリスに、そばにいたガイアスは、胸がキュンとなったようで……


「アリス様。」

「えっ? どうしたのガイアス?」


 アリスの両手をギュッと握ったガイアスは、心を込めて……


「結婚してください!!」


 その瞬間。すやすやと眠るフィナを他所に、その場の空気が一気に凍り付いたのだった。


「は、はぁ? あなたには、ラフィナさんがいるでしょう?」

「い、いえっ。惚れ直しました。アリス様。これからは私と……」


 完全に目がハートマークになってしまっていたガイアス。当然……


「あなた。よくも嫁である私の前で、堂々と浮気をしますね。」

「いや、これは……そ、そう。条件反射というか……」

「ほ、ほう。言い残すことはそれだけですか?」

「いや、待てって、ラフィナ。じょ、冗談……」

「冗談で、すまされますかぁぁぁぁ!!」

「ぎゃぁぁぁ!!」


 すやすやと眠るフィナちゃんの耳を、さりげなく塞いだアリスの向こう側では、ガスガスと、夫婦漫才のような制裁が、繰り広げられていた。


「ふぉ、ふぉれで。ふぁりすさま。ふぁたくしの、ふぃふぃふぃとは?」

(それで、アリス様。わたくしの知識とは?)


 顔面中がはれ上がり、猛烈な制裁を受けたガイアスだったが、何とか会話は成立していた。


「ガイアス。この石、知ってるよね?」

「ほへ? ふぁぁ。ふぁいあですね。ふぉれが、ふぁにか?」

(えっ? あぁ、ダイアですね。これが何か?)

「これね。ミリアナ様に見せたら、知らなかったのよ。」

「えっ!」


 ネザーラビティアの王女のミリアナが、ダイアを知らないということに、さすがのラフィナも驚いた声を上げていた。


「そんなまさか。王女様でしょ? 宝石の一つや二つ……」

「それがね。ないのよ。王女様なのに……、あってもティアラくらい……」

「そんな。でも、そのティアラにダイアくらい……」


 アリスはかわいそうな表情で首を振る。それは、王女でありながら、その象徴とも思えるティアラにすら、ダイアがないことにアリスだけでなくガイアスとラフィナも驚いていた。


「どうもね、先の大戦のとき、その多くが流失したらしくて、財政がひっ迫したらしいの。」

「あぁ。」

「で、側近のギリアスが、宝石を売って、財政の足しにしたんでしょうね。」

「そんなにひっ迫して……」

「えぇ。だから……」


 アリスも状況を説明しつつ、悲しい気持ちになる。そして、ここからは、未来の話へとつながっていく……


「そこで貴方。ガイアスなの」

「私ですか……」


 制裁に慣れているのか、いつの間にか治っていたガイアスの顔の腫れ。くすっと笑いつつ、アリスは説明を続ける。


「ガイアス。貴方なら地下資源について、豊富な知識があるから、この都市の復興につながると思って……」

「えぇ。知識なら……でも、もう一つ問題があります。」

「ええ。物流ね。取引相手がいないとどうにもならないわね……」

「さすがアリス様です。私が惚れこんだだけのことは……」


 ボソッと、アリスに手を出そうとするガイアスに……


「ん! またやられたい? ガイアス?」

「じょ、冗談だよ。もう。」

「ふふっ。うまく手綱たづなを取っているようですね。」

「えぇ。この人、普段から手癖が悪くて……」

「えぇ。私も……その……おしり。触られましたし……」

「なっ?!」


 アリスにとっては、だいぶ昔の話で、もう時効のつもりで話したが、ラフィナにとっては時効ではなかったようで……


「あなた!? 後で、じっくりと聞かせてもらうわね?」

「あ、アリス様ぁ あれは、時効でしょう?」

「えーっと。触られたのは事実だし……」

「そんなぁ~」


 さりげなく、ガイアスの追加制裁が決まった会談だった。


 それから、ミリアナの準備が整ったようで、応接間にサフィリナとラフィラスが迎えにこようとしていた。二人とも、同じアリスを慕うということで意気投合し、道中の廊下では、そのことに花が咲いていた。


「えっ。そんな前から知り合いなのか?」

「えぇ。坑道で拾ってもらい、今に至るんだけど。アリス様には先を見通す力? そんな力がある気がするの。」

「うんうん。わかる。俺を地下牢から出したときも、わざと俺に手を噛ませたりとか……」

「えっ?! 手を?」

「あぁ。俺たちにとって、手を怪我することなんて致命的なのに、あいつは、普通に噛ませたんだ。その上……」

「その上?」

「後ろに控えていた、ギリアスが俺を処理しようとした手すら、止めたんだ。」

「うそっ。」


 サフィリナは地下牢での出来事を、饒舌に話す。若干話を盛ってる節もあったが、そのまま話を続ける。


「当時。俺は、投獄が長くて、自暴自棄になっていてさ、姫様と一緒に来たアリスにけがをさせたら、一発で楽になれると思ったんだ。」

「ところが、アリスはそうさせてくれなかった。全て受け止めやがった……。俺様の苦労まですべて……」

「そんなことがあったのね。」

「だから、俺は言った。牢屋を出たときに。」

「なんて言ったの?」

「それはなっ。」


 精一杯含みを持たせたサフィリナは……


「子作りしようぜ。って……」

「ぶっ!! こ、子作り?!」


 ラフィラスは思いっきり吹き出してしまう。

 何しろ目の前にいるサフィリナはどう見ても、女性。一方のアリスも女性だから、子作りも何もあったもんじゃない。

 ところが、目の前のサフィリナは饒舌に話し続ける。その言葉は、聞いているラフィラスも耳まで真っ赤になりそうだった。


「その、手つきがやべぇんだよ。もう、体の芯から染まっていくっていうか……」

「や、やめっ……」

「俺も、幾度となく拷問を経験して、耐えれると思ったんだが、あのテクはには、さすがの俺も耐えきれなかった。もう骨抜きさ。」

「わ、わかったから……」

「あれがほんとの、足腰経たなくなるってことなんだなぁーってつくづく、思ったさぁ」

「だから、わかったってばぁ!!」


 耳まで真っ赤になりながら、サフィリナの饒舌ぶりを制止したラフィラスは、真っ赤になりながら応接間の扉を開ける。

 すると、ぼこぼこの顔になったガイアスと、鼻息を荒げたラフィナ。そして、アリスの膝の上ですやすやと眠るフィナの姿があった。


「あぁ。ラフィラスにサフィリナ。来たのね」

「えっ? な、なにがあったんですか?」

「えっ。ま、まぁ。いつものことよ。」

「え、あ。あぁ。概ね納得しました。やらかしたんですね。ガイアスが……」

「まぁ。そんなとこ。で、ずいぶん意気投合したのね、二人とも。」


 アリスが見たのは、まるで姉と妹のような立ち位置になったサフィリナとラフィラスだった。男勝りのサフィリナ、こう見えて結構、純真無垢なラフィラスと、いいコンビだった。

 そして、いつの間にかサフィリナの後ろに移動したガイアスは、おもむろにある一点を狙う。それは、やっぱり……


『ええ、尻しとる。』


 やっぱり。ガイアスだった、ただ、相手が悪かった……


「ん! お前。俺様の尻はそんなに安くねえんだ! わかったか。」

「は、はい。」


 胸首掴まれてつるし上げられたガイアスは、ぷらーんと完全にまな板の鯉状態だった。


「俺の尻はなぁ。アリス様のものなんだっ!!」


 甲高く、しかも、宣言するかのようにこだまするサフィリナの声に、アリスも恥ずかしくなる。


「サフィリナ。」

「な、なんです? アリス様?」


 誉め言葉が来ると思っているサフィリナ。満面の笑みでアリスの方を向くが、アリスから帰ってきた言葉は……


「いや、私はサフィリナのものじゃないからね?」


ガーン!!


 これほど見事に効くとは思ってもみなかったが、よほどショックだったのか、ガックリと肩を落としたサフィリナだった。


「う、うそだろ……」


 あきれるラフィラスと一緒に、ガイアスが部屋を後にする。一方で、よっぽどショックだったのか、ガックリと肩を落としたままのサフィリナは、一向に動きそうになかった。そのため……


「ほらっ。サフィリナっ!」


ぺちっ。


「はうっ♡」

「いくわよ。」


 小気味よく、サフィリナの尻をペチンと叩いたのだった。


「も、もう。仕方ないなぁ。アリス様ったらぁ~」


 先ほどまでのガックリと肩を落としたサフィリナはどこへやら、スキップしながらアリスの後を追っていたのだった。その様子に……


「さすがアリス様ね。あんな騎士をいとも簡単に……」


 アリスの後を引き継ぐ形でフィナを膝の上に乗せたラフィナが、感心した表情でアリスを見送ったのだった。


 道中の廊下で……


「アリス様、相変わらず見事なお尻で……」


 デレデレと鼻の舌を伸ばし、いやらしい手つきでアリスの尻を触ろうとするガイアスを……


「てめぇ。またやられたいのか?」

「ひ、ひぇぇ。滅相もない。」

「わかりゃぁいいんだ、わかりゃぁ。」


 完全にアリスの護衛と化していたサフィリナ。あんまり賑やかなものだから、さすがのアリスも……


「サフィリナ?」

「何だい? アリス様?」

「あんまり騒がしいと、してあげないわよ?」

「えっ! そんなぁ~」

「だから、しっかり、護衛。頼むわねサフィリナ。」

「わ、わかった! 任せとけ! アリス様っ!」


 相変わらずちょろいサフィリナだった。そして、そのサフィリナの様子に呆れつつ、一緒についてくるラフィラスという、にぎやかな構図になっていたのだった。



 そして、アリスとガイアス、サフィリナとラフィラスは、王女のいる部屋へと入っていく。そこには、ギリアスをそばに控えさせミリアナが、小さなティアラを頭に乗せ玉座に鎮座していた。


「ミリアナ様。お初にお目にかかります。ガイアスと申します。」

「おぬしが、ガイアスか。地下資源に熟知しているという……」


 ミリアはは、対外的な態度で、凛とした姿をしていた。しかし、年相応の子供らしい姿を見ているアリスは、どうしてもクスクスと笑ってしまう。ギリギリ何とか堪えていたアリスだったが、やっぱり……


「ぷっ。み、ミリアナ様。」

「なっ、なにかな? アリス様?」


 精一杯、王女として、見本となるような姿を見せたかったようだった。しかしその見事な虚像はアリスの一言でもろくも崩れ去る。


「普段どおりでよろしいのでは?」

「えっ? で、でも……」


 場の悪そうな顔をしてギリアスを眺めた後……、あきれ顔でギリアスが……


「はぁ、仕方ないですね。」

「へっ?」


 当然、気さくなミリアナを知らないガイアスは、困惑するわけで……


「やっぱり疲れるよ~ 公務って大変……」

「えっ? ミリアナ様?」

「あぁ、いいの。ガイアス。」

「アリス様、あれって……」


 ことのすべてをアリスはガイアスに対して、すべて説明した。ミリアナは、どんな子で実は、とても気さくで親しみやすい子であることを……


「そうだったのですね。ミリアナ様。」

「えぇ。父の後を引き継いだからといって、そこまで硬くなる必要はないわ。ギリアス。」

「はっ。かしこまりました。」

「……ふ、ふふふふっ」


 うまく打ち解けたガイアスとミリアナは、地下資源について話始める。いくつか見本を持ってきていたガイアスは、その見本を見せながらミリアナに説明するが、初めて見る宝石の数々に……


「んんん~~~きれー」

「でしょう?」


 目を輝かせたミリアナは、目が零れ落ちるのではないかというほどに、目を見開きじっくりと眺めていた。


「これはあくまで見本です。これらの宝石を加工し、ジュエリーとして発売すればそれなりの財源にはなると思われます。」

「そうか、それならば……」

「ギリアス……。今は財務も兼務しているんだったか?」

「あぁ、そうだな。ギリアス。」


 固く握手したギリアスとガイアス。互いに譲らない目の攻防は、火花でも散りそうだった。


「ミリアナ様?」

「ん? なんです? アリス様。」

「あの二人って……」

「えっと。確か……」


 ミリアナが説明しようとしたところ、ギリアス自ら申し出る。


「姫様、そこはわたくしが……」

「そ、そう?」

「アリス様。この私ギリアスと、こいつ。今は炭鉱夫の親方となっていますガイアスですが、実は……」

「元役員だったんだ。アリス様。すまねぇ。秘密にしてて……」

「ええっ?!」


 ガイアスは、もともと元老院議員で、先王の急逝とともに一目散に逃げたらしい。その上、幾分持ち逃げしたようで……


「なぁ、ガイアス。いつ返すんだぁ?」

「わかったから、だから、こうして来てるんだろう……」


 完全に蛇ににらまれたカエル状態のガイアス。手癖が悪かったのは昔からのようだった。その姿に妙に合点がいったアリスは、思わず……


「あぁ、手癖が悪かったから……」

「えっ? アリス様。まさか、今。それ……い……」


 ガイアスの制止もむなしく……


「だから、私のお尻触ったのね。納得。」


 アリスの発言の後、しばしの沈黙の後……


「が、ガイアス!! お前! アリス様の尻を触ったんか!」

「だから、あれは、時効だって……」

「はぁ? 尻を触ったのは確かなんだろ?」

「あ、あぁ……」


 ブツブツとミリアナの前で口論を始めるギリアスとガイアスに、アリスとミリアナ。そしてラフィラスとサフィリナはあきれてしまっていた。ひとしきり口論した後、アリスは、ようやく本題を切り出す。


「では、今後の展望を申し上げます。ミリアナ様。」

「ええ。お願いするわ。」

「今後ですが、ガイアスにこのまま、採掘と宝石の加工を……」

「そうだな。俺にはそれしかできねぇし……」

「うん。で、それをこの、王城の城下町で市場を開きます。」


 アリスの展望を淡々と聞いていたギリアスだったが、ここまでの流れを聞いていたギリアスは、口をはさむ……


「アリス様。その程度であれば、私も思い描いていました。しかし、購入層が国内の富裕層だけでは、収益が限られます。」

「せいぜい、内需が高まったとしても、貧富の差が広がるばかりです。それはアリス様も……」

「えぇ。知ってるわ。」

「なら……」


 アリスにも当然この状況は、予想できた。

 ガイアスも、長年復興をしようと悶々と考え込んでいたのだから、当然。この案は出ても当たり前だった。しかし、アリスはこの案をさらに発展させる。それは、サフィリナの存在だった。


「そこで出るのが……ちょっと来て、サフィリナ。」

「ちょっ。アリス様? 俺に何か用か? 単なる護衛だろ?」

「いや、違うの。サフィリナだけにしかできないことがあるの。」


 アリスはサフィリナを引き寄せてきて一言。


「交易に関しては、サフィリナにお願いしようかと……」


 アリスの突飛な一言に。一同……


「えぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


 驚くのも当然である。

 何せ、数日前まで投獄されていた悪党なのだから、信用に足るとは思えなかった。そのため、ギリアスの思考にも、はたまたガイアスの考えにも浮かばなかった選択肢のひとつだった。


「ま、待ってください。百歩譲って、こいつ……サフィリナを交易にあたらせたとします。くすねるだけくすねて、消えるのが関の山……」

「ちょっ。お前……」

「いいからいいから……」

「んんっ。わかった。アリス様がそういうなら……」


 ブツブツとギリアスが一通り言った後、アリスは続きを説明する。それは、サフィリナの出身地に関することだった。


「アリス様がそんなにサフィリナを選定するのなら、それなりの理由を言ってもらわないと。」

「えぇ。これから説明します。まずは、サフィリナは隣国のロビティア出身ですよね。」

「あぁ。そうだ、ロビティアからスパイに来てた。それで捕まって……」

「そうね。それで地下牢で出会って……ね。」

「そうだ、それで俺は。アリス様の虜になったんだ♡」


 今にも抱き着いてきそうな勢いのサフィリナは、ほっておいて。アリスは話を続ける。


「サフィリナのスパイの目的……知ってますよね?」

「それは……地下資源……あっ!」


 察しのいいギリアスは、すべてを察したようだった。その様子に安心し、アリスは続けて説明を続ける。


「サフィリナは、ネザーラビティアの地下資源について、調べるためにスパイに入っていました。つまり……」

「その筋の交易にはたけていると……」

「ええ。おそらく、販売ルートも……ねっ。サフィリナ。」


 ニヤッとしながらサフィリナに目をやると、頭を掻きながら……


「あ、アリス様。俺の体だけじゃなくて、どこまで知ってんだよ。もう……そうだ。それなりの販売ルートは持ってる。まぁ、結果的にいいようにあしらわれたんだけど……」

「まぁ。その結果として、私が懐柔できたんだけどねっ。」


 サフィリナにニヤッとして見せたアリス。妙にサフィリナのハートわしづかみにしたのか……


「ううっ。これだから、アリス様はたまんねぇ。なぁなぁ。いつ子作りする? すぐしよう、今しよう」

「やめい!」

「はうっ!」


 覆いかぶさってき始めたサフィリナにデコピンを食らわせた後、アリスは実際に、行動計画を示す。それは、実にギリアスも考えつかなかったことだった……

サフィラスをまさかの交易に抜擢!

スパイを懐柔したうえでの、アリスの英断だった。

アリスたちのネザーラビティアの復興が少しづつ始まる。

次回、第十二話は、一応の第二章END。そして新たな土地、ロビティアの影がちらほらと……

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