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アリス・ウィズ・ラビットワークス  作者: 結城リノン
第二章 ネザーラビティア編
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第十話 アリスとロビティナのスパイ

ラフィラスがガイアスと話し込んでいたそのころ、王城に残ったアリスたちは、ミリアナとガイアスに連れられ、地下牢に投獄されていた囚人に会いに行く。

それは、男のような口調を話し、牙をむき出しにし、アリスに敵意を示す。

しかし、アリスはひるむことはなかった……

 ラフィラスを送り出した直後、城内ではネザーラビティアの復興に関して、花が咲いていた。そんな中、ミリアナは場の悪そうな顔をしながらアリスに告げる。それは、王城で唯一、投獄されているものがいること……


「アリス様。これだけはお伝えしておかなければいけません……」

「えっ?」

「それは……ギリアス。アリス様を案内してあげて……」

「はっ。ですが、連れて行くんですか? やつのもとに……」

「えぇ。ネザーラビティアの復興に尽力してもらうのですから。私たちの手の内を明らかにしなければ。」

「な、なるほど……」


 それからアリスが連れていかれたのは、王城のさらに下。多くの地下牢が並んだ一番奥。ひと気は大きな牢獄にとらわれていたのは、一人の獣人だった……

 みすぼらしい囚人の服を着ながらも、息巻いているその獣人は、ギリアスとミリアナの到来にゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。


「おうおう、姫様とギリアスじゃねぇか。なんだい? お払い箱か?」

「サリフィナ。相変わらずね。」

「だってそうだろ? 揃いも揃ってギリアスも来るとはねぇ。本国からの呼び出しでも……」


 ここぞとばかりに威勢を張っていたサリフィナは、今にもかかってくるくらいの勢いだった。そんなサリフィナは、見知ったギリアスとミリアナの後ろに見知らぬ人が立っていることに気が付いた。そのことで、なお威勢よくまくしたてる。


「おうおう、客人だって? ここに来るとは、いい身分だねぇ。」

「私は、見世物かなにかかよ。」

「サリフィナ。そこまでにして! アリス様。無粋な輩ですが……」

「この人が、アリス様よ……」


 アリスはゆっくりと牢屋の方へと歩み寄ると、サリフィナは飛び掛かるくらいの勢いで襲い掛かる。ビクッと反応するも、鉄格子があることで事なきを得た。鼻息の荒さは、まさに野獣で、近寄るものすべてに危害を及ぼすくらいの気迫を持っていた。

 クンクンと鼻を鳴らすと、サフィリナは何かに気が付いたようだった。それは、ニヤッと牙をむき出しにし、アリスを見つめる。


「なんだ? アリスといったか。お前、ラビティア人じゃないだろ。こんな匂い嗅いだことない……」

「わかる?」

「あぁ、ビクッと驚いた仕草といい、獣の匂いがしない。それに第一、うまそうだ。」


 サフィリナは口角を上げ牙をむき出しにする。普通の人間なら、怖がって近づこうとはしないが、アリスは違っていた。牙をむき出しにしているにもかかわらず、一歩ずつ近寄る。そして……


がぶっ!


「いっ!!」

「あ、アリス様?!」

「だ、大丈夫。手を噛まれただけだから。」


 その実、アリスの手からは鮮血が流れ落ちていた。

 そのことに、ギリアスが動かないはずがなかった。腰に携えた剣を抜くとサフィリナに突きつける。


「サフィリナ! お前!!」

「待って!!」

「!!!! しかし!」

「いいから。」


 アリスはギリアスを制止する。それは、サフィリナにとって意外過ぎる反応だった。

 ゆっくりと顎を緩めると、サフィリナはかぶりついた手を舐め始める。


「なんでだ。お前、なんでギリアスを止めたんだ!」

「あなたが本気で噛み切る気なら、こんなことしてないわ。」

「なんでだよ! ここでギリアスに仕留められれば、もっと楽に……」

「そんなこと、させないよ。」


 多少の痛みを伴ったものの、アリスはこの子がそこまで悪い子ではないことに、気が付く。かといって、投獄から無罪放免ということにはいかない。

 ギリアスの元に戻って手当を受けるアリスは、説教を受けていた。当然といえば当然だったが、アリスの思いは別にあった。


「何てことしてくれるんですか、アリス様。貴女は、国賓なんですよ? その点をわきまえてください!!」

「わかってますよ。ギリアスさん。」

「わかってません。もう! 今後はこういうことは……」

「ギリアスさん!」

「まだ、あるんですか?」


 手当を受けながら、説教を受けているアリスは、さらにギリアスに進言する。それは、ギリアスにとって、了承できるものではなかった。


「無理です。」

「そこを何とか。お願い。ギリアスさん……」

「ダメです。何かあったらどうするんですか?!」


 押し問答が続いていたその頃、牢屋では決して近寄らないようにと言われて、待機していたミリアナがいた。


「なぁ、姫さん。」

「何かしら。サフィリナ」

「あいつ、なんなんだ。」

「アリス様のこと?」

「あぁ、わざと手を噛ませたりとか……正気の沙汰じゃねぇ。うちらにとって、手の傷は致命的だ。」

「そうね。この手に傷を負っただけで、私たちはいろいろと制約を負うわね。」


 床に座り込み、頭を抱えるサフィリナは、ぶつぶつとミリアナと話をしている。それは、初めて出会う相手に困惑する。一人のラビティア人そのものだった。


「なぁ、あいつ。何者なんだよ。」

「それはね……」

「クラリティア人よ。」

「アリス様。」


 ミリアナたちが話を続けようとすると、その話の間に入るように、アリスが戻ってくる。後ろに続いて来たギリアスの頬がちょっぴり赤かった。

 そのことに気が付かないほど、鈍いミリアナではなかった……当然……


「ギリアス? なんで顔が赤いの?」

「い、いえっ! これは、何でもありません!!」

「ほんとに? んんー?」

「姫様。サフィリナを出しますよ。」

「えっ?」


 ギリアスの牢屋から出すという発言に、サフィリナ本人も驚いていた。それと同時に、納得といった表情をする。というのも、投獄も長いことから、牢屋から出るときは、死罪が確定した時だと思っていた。


「あぁ、来賓に傷をつけたのだからな……当然か。」

「いや、違う。サフィリナ。」

「何が違うんだよ。手をかけたのには変わりねぇだろ!」

「それでもだ! アリス様が特別に二人っきりになりたいといわれてな。」

「なっ、なんだよ。それ……。餌になるってのか? 笑わせてくれる……」

「大丈夫だ、その点はな。」


 ギリアスは牢屋を開けると、サフィリナを専用の部屋へと連れていく。そこは、拷問部屋というやつだった。


「へ、へぇ。ここなら、俺は逃げれねぇからな。よく考えたもんだ。で、どうするってんだ? 一応、いろいろ拷問対策は受けてるんだ。」

「大丈夫だ、普通の拷問じゃない。ここに残るのはアリス様だけだからな。」

「はぁ? あいつが拷問を? はは。笑わせてくれる。あんな優しい顔をしてるのにか。」

「私もよく知らないからな。せいぜい、威勢を張ってみるんだな。サフィリナ。」


 ギリアスがゆっくりと部屋をあとにし、扉を閉める……


『あ、当たり前だ! こんなの、威勢を張るぐらいしか、俺にできることはねぇからな』


 そんな思いを抱きながら、アリスの到着を待つサフィリナ。扉の外では、アリスがギリアスの説明を受けていた。


「いいですか! アリス様。何かあったら、呼んでくださいね!!」

「わ、わかったから……」

「それと、中には拷問器具があるので、危ないと思ったらそれで、仕留めていいですからね!!」

「わ、わかったから。それに……仕留めるなんてこと、しないから……」

「ほ、本当なんですね。はぁ。一応、アリス様が中に入った後、ここのカギは締めるので……」

「えぇ。それでいい。」

「本当にいいんですね? アリス様。」

「ええ。」


 それから重厚な扉の中に入ったアリスは、中の拷問器具の多さに驚きつつ、サフィリナの元へと近づく。その周りには、使い方すらわからない拷問器具が多くあった。


「さ、さっさとやれよ。俺は、もう決まってるんだ。」

「えっ? 殺したりしないよ?」

「は?」

「いや、なんで、ここに連れてきたんだよ。」

「それはね、じっくり聞かせてもらうため……」

「な、なんだ。その手は。やめっ……」


 一方そのころ。

 拷問部屋の外では、ギリアスとミリアナが聞き耳を立てていた。その耳には、めったに悲鳴も上げず、ギリアスの拷問にも耐えて見せたあのサリフィナが、悲鳴を上げていた。


「あ、あいつが悲鳴?!」

「き、きっと。クラリティアには別の拷問があるのよ。」


 扉の隙間からは、サフィリナの悲鳴とともに、ちょっぴり艶っぽい声が響いていた。そんな会話の中に……


『あなた、女の子なのね。へぇ~』

『だから、それがどうしたって……んあっ!!』


 扉の向こうで繰り広げられる拷問に、鼻息が荒くなり始めていたミリアナの耳を慌てて塞いだギリアスだった。そして間もなく……


『あっ♡』


 明らかに年端もいかない、ミリアナには刺激が強すぎる、声が聞こえてきたのだった。


「ぎ、ギリアスぅ~聞こえないよぉ~~」

「ひ、姫様には、まだ早いです……」

「ぶー。ギリアスの意地悪ぅ。」


 それからしばらくして……


 がちゃっ。


「ギリアスさん。もう大丈夫ですよ。」

「は、はい……。あっ。姫様。見ちゃいけません!!」

「んーーなんでよぉー」


 それから、ギリアスの指導の下、担架で運ばれたサフィリナは、完全に牙の抜かれたうさぎ状態になっていた。

 それからしばらくすると、事態はちょっぴりややこしいことになる。まして、アリナたちもいたことで、事態が悪化する。


「なぁ、アリス。小作りしようぜ。」

「はぁ? 何言ってんのよ。それに女の子同士でしょう。」


 アリスの拷問でいろいろ目覚めてしまったサフィリナは、見事に懐柔されたどころか、アリスにぞっこんになってしまった。


「はぁ? あんた、なに言ってんの? それに、あんた、アリスの手を噛んだっていうじゃない!!」

「あぁ、あんたが、アリナか。これまたかわいいなぁ。ちっこくて……」


イラッ!


 ポンポンと事情を知らないサフィリナは、アリナに手を握られた後、見事に体が宙を舞い、腕をきめられたのだった。


「ふごぉぉぉ!!」

「なんて口の利き方!」

「アリナ。その辺に……それに、アリナ。貴女もよっぽどよ? 女の子らしくないというか……」


ぎくっ!


 それは、アリナも思っていたが、アリスから言われると、衝撃が走る。

 どっと肩を落とし、いじけるアリナに、アリスがサポートする……


「アリスに言われた……女の子らしくないって……ううっ」

「と、時々よ? アリナ。落ち着いて。」


 これが、アリスとサフィリナの最初の出会いだった……


「なぁなぁ、小作りしようぜ。アリス~」

「だ・か・らっ、女の子同士でしょうがっ!!」

「ぐほっ!!


 アリスの回転を生かした、正拳付きがお見舞いされた、サフィリナだった。

アリスへの好意を通り越し、小作り発言まで飛び出すくらいに懐柔することに成功したアリス。

デカい態度と、なりふり構わないその様子は、男のそれだったが、しっかりと女。

その上、アリナも混ぜて、ちょっぴりにぎやかになったアリスの仲間たちに加わったのだった。

次回、第十一話は、ガイアスたちが王城で再開。そして、新たなネザーラビティアへと歩みを始める……

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