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アリス・ウィズ・ラビットワークス  作者: 結城リノン
第1章 王都ラビティア編
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第12話 歌劇団とアリナの親

アリスを男性だと思っていたラヴィリナは、アリスに惚れ込んでしまう……

それは、ラヴィリナにとっての初恋で、言い知れない感情に戸惑いながらも、アリスの相手をする。

そんなラヴィリナに、ショックな事実を教えることになったが、ちっともショックを受けなかったのだった……

 裏庭で繰り広げられたラヴィリオとアリナの決闘は、ラヴィリナとアリスが仲裁に入る形で、引き分けという形で幕を下ろしていた……

 アリスに嫌われたと想い、ガックリと肩を落とすラヴィリオ。一方のラヴィリナはというと……


『アリス様……』


 ラビティア人からしたら、確かに長身でイケメンの部類に入るアリスに、ハートを撃ち抜かれた状態になっていたラヴィリナ。


「ラヴィリナさん……」

「ひゃい!」


「大丈夫だった? アリナに飛ばされちゃったけど。どこかぶつけてない?」


 王都の騎士として、慕われ・尊敬され・指針となるべく育ってきたラヴィリナにとって、恋愛の“恋”すら縁遠い存在。一方のアリスはというと、端正な顔立ちと、スラっとした長い手足。おまけにやさしいという、イケメン三拍子が揃っているのだから、惚れないはずがなかった……


『こ、恋なの? これ……』


 アリスの姿を見るたびに、胸が締め付けられるような感覚に初めて襲われた自身の感情に、思わず胸を押さえてしまう……

 そんなラヴィリナのしぐさに、アリスはどこか痛めたのかと、かえって心配になってしまった。ただ、居合わせたもう一人は全く違った見方をしていた……


『ラヴィリナ……好きになっちゃったのね……』


 ラヴィリナの乙女スイッチが入ってしまっていることに、ラフィアは当然気が付いた。ラヴィリナとラフィアは、幼少期からの知り合いで、ともに剣の鍛錬をする仲でもある。そんなこともあり、ラヴィリナの気持ちが手に取るように分かった。


『ラヴィリナ。アリス様は女性よ……』

『ラヴィリナのもやもやしている姿を見ていて楽しいけど……。教えてあげないとね……』


 そんなラフィアの想いとは裏腹に、ラヴィリオが口を出した……


「ラヴィリナ……アリス様は……おん……ふごっ!!」

「いいから、あなたは、寝てなさい。いい?」

「ラフィアさま?」

「い・い・わ・ね!」

「は、はい……」


 それからラフィアは、ラヴィリナとアリスのもとに行くと……


「アリス様にラヴィリナ。いい?」

「あっ、ラフィア。」

「ラフィア様。どうしました? ちょっと、何を?」

「えいっ!」


 ラヴィリナの後ろに回り込んだラフィアは、アリスに向けてラヴィリナを突き飛ばした。


ドン!


「おっと。」

「ちょっと、ラフィア様?」

「何してるの、ラフィア……」


 アリスの胸に抱かれる形で倒れこむラヴィリナ。当然、体を支えようとアリスの胸板のあたりに手をつく。


「す、すみません。アリスさ……ま?」


 二人の間にしばらくの沈黙が走った後、ラヴィリナの手には違和感があった。それは、男性なら本来あるはずのないものがそこにあった……


「えっ?! お、女の子?!」

「うん。そうよ。アリス様は、女性よ。ラヴィリナ。」


 抱き合った状態のまま、信じられない様子のラヴィリナは、自分の手とアリスの顔を交互に見ていた……


「えっ? だ、だって……えっ?!」


 あまりの衝撃に、理解が追い付いていないラヴィリナ。その様子に、アリスも上着を脱ぎ証明しようとする。


「ごめんなさい。ラヴィリナさん。僕……いや、あたし。女なんです……」


 さらしを巻くことで胸をつぶしていたアリス。そのため、直接的に肌が見えるというわけではなかったため、スルスルと上着を脱ぎワイシャツ一枚になる。その姿は、美男子のソレだった……


「おっ、おぉっ!!」


そんなアリスの様子に目を輝かせるラヴィリオ。当然、アリナの目つぶしがさく裂した。


ぷすっ!


「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ラフィアとアリナは、ラヴィリオに見えないように慌てて薄着になったアリスを隠したのだった。そして、女性であることを確認したラヴィリナは、うつむいてしまった……


『当然ショックよね。あなたにとっては、初恋みたいなものだし……』

『そんな初恋の相手が、女性なんて。ショックよね……』


 ラフィアの想いは当然だった。現に、最初のころは恋心を抱きかけていた自分もいたのだから……ただ、ラフィアの想像とは裏腹に、ラヴィリナの判断は予想の斜め上を言っていた……


「アリス様……」

「ごめんね。ラヴィリナさん。」

「好きです!!」

「嫌いになったよね……えっ?! す、好き?!」

「はい。好きになってしまいました。アリス様のこと。」


 ラフィアはすっかりと失念していた……

 ラヴィリナは極度のストレスがかかると、そのストレスを発散するために、王都を中心に活動する劇団「王都歌劇団」を見に行き、ストレス発散をするのが日課になっていた。

 中でも、メインキャストのルナティアは、アリスのようにラビティア人には珍しい端正な顔立ちと長身、それにくびれた腰というモデル体型。


『そうだったわね、あなた……女の子同士のそういう関係……好きだったわね……』


 ラヴィリナは、男女のそういう恋愛が皆無ということもあり、女性同士の恋愛。俗にいう“百合”にドはまりしていた。

 中でも、アリスに激似のルナティアは、そのモデル体型を生かして男装の麗人を地で行くような役回りをしていた。

 そのことから、女性でありながら同姓からのファンが多く、ファンレターは山ほど送られていた。

 ラヴィリナの趣味に関しては、弟のラヴィリオは知っていたものの、そこまで公にはしていないものの、旧友のラフィアは知っていた。そんなラヴィリナの前に、まさに理想的な男装の麗人のアリナが現れたのだから願ってもなかった。

 騎士という職業柄か、お堅い仕事の多い騎士。恋愛をこじらせたラヴィリナは、そのストレスのはけ口として歌劇団の講演を見に行くことだった……

 中でも、男装の麗人にあこがれを抱いていたラヴィリナは、ファンクラブにすら加入していた。

 そこまで表立って公言はしていなかったものの、旧友でもあるラフィアは、当然知っていた。まさに、ラヴィリナにとって願ってもない相手が目の前にいるのだから……

 王都歌劇団は一般市民にも開放はされていたが、メインキャストとなるルナティアが登場する演目は、チケットの料金も高いために一般の目に触れることはなかった。

 そのため、アリスを目撃した近隣住民がパニックになることは、間一髪で回避されていた。


「アリス様ぁ~」

「あ、あの。ラヴィリナさん?」


 それ以来。アリスの腕を取り離したくなくなってしまったラヴィリナ。一方で、クラリティアでは自分がアリスのとなりにいることが多かったアリナにとっては、モヤモヤする毎日の始まりでもあった。



 それから、しばらくしてラヴィリオは首をかしげていた……

 大の大人くらいの身長のあるラヴィリナを、片手で吹き飛ばしていたアリナが不思議で仕方がなかった……


『あんなちっちゃい体に、どんだけ力持ちなんだ?!』


 こぶしで語り合ったような仲になっていたラヴィリオとアリナ。あれほど徹底的にやられたにもかかわらず、ラヴィリオは相変わらずだった……


「なぁ、アリナ。」

「ん?」

「そんなちっこい体のどこにあんな力……」


ふごっ!


 些細なやり取りですら、口より手が先に出るアリナ。それも威力は大人。小さくラブリーな容姿の、どこにそんな力があるのか不思議だった……

 しかし、アリナはそれを自分からは決して語ろうとはしなかった。しかし、そのことが、ラヴィリオの興味を示していた……


「その力は、どこから……」

「アリティス……」

「へっ?」

「あたしの父。アリティス……」


 ボソッとアリナが放ったその言葉は、ラヴィリオの驚きの声と同時に、周囲に響き渡った。


「えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

「だから、うるさい。ラヴィリオ。」

「だって、伝説の英雄……」


 ラヴィリオの驚きと同じように、ラヴィリナも驚く内容がさらにあった。ラヴィリナは、頭脳系の戦闘を得意とするが、その指針となっているのが、アリティナだった。つまり……


「ええっ!! アリティナ様の娘さんなの?!」

「だから、そういってる……」


 そのことを知ったラヴィティナは、アリナの前にひざまずき始めた。


「いや、そこまでかしこまられても困るから……」

「だって、アリティナ様の娘様なら、あの強さの理由も……」


 興奮しすぎたラヴィティナは、“様”を多用しすぎて、何が何やらわからなくなってしまっていた……アリナの素性まで知ったのだからと、ラフィアはアリスの素性も打ち明けることにした。


「ラヴィリオ、ラヴィティナ……」

「なんでしょう、ラフィア様……」

「どうしました、ラフィア様……」

「この際だから言っておくけど……」

「ここまで来たら、驚きませんよ。ラフィア様。」

「そう? じゃぁ……」


 この時のラヴィティナとラヴィリオの姉弟は、まだ知らなかった……アリスの本当の秘密を……


「アリス様はね……」

「あぁ、女性なんでしょ? それなら、もう……」

「いや……」

「いや?」

「クラリティア人なのよ。」

「えっ?」

「まさか……」

「だって耳も……って、あれ?」


 戸惑っている二人を見たアリスは、付け耳を外して見せた。

 ラビティア人なら、外れるはずもないその耳は、しっかりと外れ髪の分け目からはちっちゃい耳がひょっこりと顔を出す。


「こっちが本物の耳なの……」


 ひょっこりと顔を出した小さな耳は、クラリティア人を象徴する耳の形だった……


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~」


 ラヴィリナとラヴィリオは、カフェに出入りすることも多くなることが想像できたラフィアは、アリスの正体を教えることにしたのだった……


「アリス様の美人っぷりも、アリナのバカ力っぷりも納得しました。」


 悪意はないんだろうけど、どこかひと言多い、ラヴィリオ。当然……


「誰が、バカ力じゃ!!」

「ああん?」


 売り言葉に買い言葉とは、まさにこのこと。先ほどで懲りたはずなのに、またケンカを始める二人。


「ははははは」


 そんな姿を見ているアリスは自然と、笑ってしまう……


「アリス様……ふふふっ。」


 アリスの笑顔は、その場にいたラフィアやラヴィリナも笑顔にする。ただ一人、アリスの笑顔をうがった見方をした者がいた……


「あ、アリス様が笑って……」


 そう、ラヴィリオだった。

 アリスの純真無垢な笑顔が、ラヴィリオにはほくそ笑んで、ラヴィリオを見下しているように見えていた……


『ふふっ。ラヴィリオったら、おかしい……』

『はうっ! アリス様のあの笑顔……』


 アリスの胸を触ってしまって以来、全くいいところのないラヴィリオ。ガックリと肩を落とす。

 さすがに効いたか?と想ったラフィアたちだったが、やっぱり斜め上のメンタルを持っていた……


「アリス様ぁ~~」

「ちょっ! ラヴィリオ? こ、怖い……」

「あぁ、その、さげすむような目……たまりません!!」

「えぇっ!!!!」

「あちゃぁ~~」


 局地に派遣されることも多かったラヴィリオ。敵軍に捕らえられれば、当然。拷問もされる。蔑みから痛みなど、拷問の種類に関しては一応に耐性はあった。

 ただ、程よいストレス下の環境と、逆らえない相手。アリスの美貌と女性のクラリティア人というレアケースが、ラヴィリオの変なスイッチを入れてしまっていた……


「ちょっ、こ、来ないで……」

「アリス様ぁ~~」


 アリスが拒否をすればするほど、ラヴィリオは喜んでしまうという、悪循環になってしまった。


「ひぃぃぃぃぃ!!」


 おびえるアリスに、ラヴィリナが前に立ちはだかり……


「アリス様、ここは私が……」

「ラヴィリナ?」

「やめんか! ラヴィリオ!!!!」


ドゴッ!


 ラヴィリオの体が浮くほどの見事な正拳突き。


「ふごっ!!」


しゅぅぅぅぅぅぅ!!


 ラヴィリナの鉄拳でおとなしくなったラヴィリオだった……


「あ、あはは。さすが……姉弟ね……」

「アリス様ぁ~~」

『むむっ!!』


 自分を守ってくれた形になったラヴィリナの頭をなでてあげたアリス。いつも以上に猫なで声になったラヴィリナと、自分の場所を取られた形になったアリナのもやもやが、さらに進行したのだった……

王都歌劇団のルナティアに瓜二つなことを知ったアリス。

アリスに恋心を抱いたラヴィリナと、変なスイッチの入ったラヴィリオとのちょっとだけずれた日常が進んでいきます。

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