憑依って意外と簡単
「ひっ」
花蓮の口から、ひきつったような悲鳴が漏れる。
仕方が無いだろう。誰が自分の血濡れの死体を見て、何の反応 も示さずにいられるだろうか。いたとしても、少数派だろう。
「どうしよう。」
漸く落ち着いてきた頭で考える。
多分、私は刺されて死んだんだろう。そして、幽霊になったってところかな?
この惨状から、あれが夢じゃ無かったことはわかる。もしかすると、これも夢かも知れないけれど、それならそれでやることは変わらない。と言うことで、その可能性は考えないことにする。今やるべきことは、自分の状態の確認かな?
まず、足は…うん、ある。自分の足(死体の方)、すり抜け貫通してるけど。
体は特に透けてたりはしてない。服も変わってなかった。
物に触れるかどうかは、とりあえず包丁ぐらいは持ち上げられる。すり抜けるのも実体化するのも自由自在。
息は、いくら止めても苦しくならなかった。多分限界はない。
後、なんか変な”靄“が出せた。使い道は、今のところわからない。
まあ、とりあえずこれで自分の体のことはだいたいわかったと思う。
後は、”これ“かな。
どうしよっか、この血濡れの死体。
放置するのもなんだかなぁ。
持ち上げるのは…あ、けっこう余裕だった。なにこの体。生きてた時より、絶対力強いよね!?
まあ、ひ弱なのよりは良いけど、なんか釈然としない。
とりあえず、持ち上げるのは簡単。後、何かできないかなぁ?
う~~ん。
そういえば、憑依ってできないかな?
ほら、よく幽霊とかって、人に取り憑いたりしてるし。
意識の無い死体、それも自分の体なら、けっこう簡単にできたりしないかな?やってみよう。
結論から言うと、出来た。
何て言うの?こう、入ろうと思ったら、つるんて。こう、つるんて入れたのよ。出るときも、出ようとしたら、にゅるんて。こう、にゅるんて出れたの。これも自由自在に出入りできる。
そして憑依状態だと、自分の体(死体)を生きてた時と同じくらい、いやもしかするとそれ以上に動かせる。
でもなぁ、私、お腹に穴空いちゃってるのよねぇ。
血もだばだば出てたし、服とか血まみれなのよね。
後、この地面の血溜り。これもどうにかしたい。絶対騒ぎになる。
これもどうにかできないかな?
あ、あの変なよくわからない”靄“って使えないかな?
念力みたいに。まあ、やってみようか。
えっと、とりあえず手から出して、これで血だけ掬うようにして……って意外と簡単にできるんだ。
じゃあ、次は一気に全部掬って、どうにかして体に入れられないかな?えっと、入れ~~ってできた!?
なんか拍子抜け。もっと難しいかと思った。
あっ、ついでにお腹の穴治らないかな?
こう、傷のところに靄を集めて……う~ん。なんか治りそうで治らない。何が足りないのかな?そうだ!靄を全身に満遍なく行き渡らせて、細胞とか色々動けーー!、そして治れーー!
お、今度は上手くいった。どんどん傷が塞がっていって…うわぁ。
もう治っちゃったよ。これで殆ど元通りじゃない?
あ、そうでもないや。服とか破れてるし、血が染み込んでるし。包丁もまだ血まみれでそこにあるし、よく見ると、そこらの草とか小石とかにも血がついてる。これもなんとかできないかな?
例えば、この靄をスポンジみたいにして吸収したり、とか。
…出来た。
なにこの靄!めちゃくちゃ万能じゃん!
血って、染み込んだら洗濯してもなかなか落ちないのに。
服の穴も、完全には塞がって無いけど、接着剤みたいにして、目立たなくは出来た。帰ったら縫おう。
さて、包丁はどうしよう。なんとなく、放置しときたく無いんだよなぁ。でも、家で使いたくもないし、適当に置いといたら危ないし、なんかいい収納場所、無いかな?
これ、靄に入ったりしないかな?靄に呑み込ませて…うわ、マジで消えた。取り出すのも…出来た。
この靄スッゴイ便利。なんか死んだこととか、どうでもよくなってくるぐらいこの靄便利。
これが何なのか、よくわからないのが少し怖いけど、まあ、便利だし、いいかな。危なくなったら、そのときはそのときだね。
よし、そろそろ帰ろうかな。