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冬の日の再会2

 レカルディーナやオートリエがアルデア領から帰宅した後もベリアナと手紙を交わしていたことは知っていた。

 滞在のお礼を贈ったり、近況を知らせたりしていたのだ。

 ディオニオも何か贈り物をしたかったし、妹を可愛がってくれてありがとう、などという手紙を送りたかった。

 しかし、どうやって文面をしたためていいのか分からなかった。お礼以上に、何か書きたいと思うのに、うまく言葉が見つからなかったからだ。

 ベリアナは、ディオニオが彼女に好意を抱いているなどとはまったく考えていないらしい。

 彼女から感じられるのはレカルディーナのお兄さん、というかなり線を引かれた友人未満の距離感だ。

 最初ベリアナもディオニオに対して委縮していた。初対面で顔を引きつられることには慣れている。ああまたか、と思うくらいで別段何も思わない。というか、レカルディーナの反応で慣れた。慣れたくはなかったが。

 それだけで終わらなかったのは、彼女がディオニオの行動をしっかり観察していて、レカルディーナを可愛がっている優しいお兄さん認定をしたからだ。

 なぜだか彼女はディオニオを怖がらなくなった。そればかりか、ディオニオの迷走っぷりを隣で見ては噴き出していた。

 嫌ではなかった。

 彼女なりに気遣う発言も聞いたが、両親が完全にディオニオの迷走っぷりを見守る体でいるのに、赤の他人のベリアナの助けを借りるのも癪に触って手出し無用と突き放した。

 その割に彼女はその後も気を使ってくれた。

 それよりもディオニオにとって新鮮だったのは、一人の少女が彼の隣で無邪気に笑っていることだった。

 何が彼女をそうさせたのか理解はできなかったが、彼女は完全にディオニオに心を開いてくれた。

 快活なベリアナはレカルディーナを連れてよく屋敷の外を走り回った。最初はレカルディーナが心配で見守っていたのに、いつのまにかベリアナのほうが気になるようになっていて驚いた。

 木登りが上手でよく果樹園の木に登っていたが、ディオニオにはあぶなかっしくみえて仕方ない。

 手を差し出せばベリアナは少し戸惑いを見せたもののディオニオの手を取ってくれた。ふわりと乗せられた手のひらはディオニオのそれよりも小さくて、やわらかかった。

 途中から近隣所領の令嬢などが日参するようになり、明らかにディオニオの妻の座を狙っており辟易した。

 オートリエを囲むお茶会には出席せずに相変わらずレカルディーナやエリセオと領内を駆けまわっており、傷ついた。

 彼女はディオニオにわかりやすく近寄ってこない。あくまで自分はレカルディーナのお兄さんなのだ。

 だからいつまでたっても『ディオニオ様』としか呼ばれない。レカルディーナのお兄さんでなければ、侯爵令息、未来の侯爵様というわけだ。

 自分はこんなにもベリアナのことが気になるのに、彼女はまったく自分のことを気にしていないのだから。

 それなのに、夏が終わって秋になってもベリアナの笑顔が忘れられない。

 あの夏の日、ディオニオは園遊会ではっきりとベリアナの手を取った。

 近隣の領主たちの娘たちが分かりやすい秋波を送ってきており、面倒になったディオニオはベリアナのエスコートを申し出た。

『今日はベリアナ、そなたの相手役を一日務めたい』

 他の令嬢たちの前でディオニオははっきりと言った。

 ベリアナは目をぱちくりとさせていた。

『はい。ありがとうございます』

 数拍後、ベリアナは平素通りの淡い笑みを浮かべた。

 エスコートといっても別に夜会などではない。ただ、隣にいるだけの話だ。腕を取るよう、促せば彼女はおっかなびっくりディオニオの腕にそっと手をかけた。

『すみません、なんだか気を使ってもらって。こういうの慣れてなくて粗相をしたらごめんなさい』

『いや、いい』

 ディオニオは精一杯柔らかな顔を作った。

 ベリアナは目を見張った。

『ディオニオ様の笑顔って貴重ですね。なんだか今日は得しちゃった気分』

 隣でそんな風に言われてディオニオは自分の胸が大きく脈打つのを感じた。

『でも、いくら主催者の娘だからって気を遣うことはないんですよ。わたし、本当にこういうの慣れていないし、ディオニオ様も田舎娘の相手は面倒でしょう』

 そんなことない、きみに隣にいてほしい、と素直に言うことができればよかったのに、あのときディオニオはベリアナは本当は自分のような不愛想な男の隣にいる羽目になって迷惑をしているのではないか、と決めつけて勝手に傷ついた。

 だから、何も言うことができなかった。

 そして、彼女自身ディオニオに何の感情も持っていないことがうかがい知れて悲しくなった。

 夏の休暇の思い出として、記憶が風化するのを待てばいいのに、淡い思い出は色あせるどころかディオニオの心の中にどっかりと居座った。

 手紙を書きたい、いや書けないなどと自分の中で悶々としているうちに冬になり、そして今。

 まさか再び彼女が目の前に現れるとは。

 もしかしたら自分はいつの間にか夢の中に入り込んでしまったのかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ベリアナがディオニオ様を好きになるのかと思ったら自覚するのはディオニオ様が先でしたか!ベリアナ嬢可愛いですもんね!!ディオニオ様を応援しながら続きを読ませていただきます(*>▽<*)
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