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47.友

『前代未聞! 1分間のパフォーマンスで女性審査員がもらい泣き!』

誌面に躍る文字と俺の写真とを見比べて、無邪気に喜んでいる「親友」が何を考えているのかは理解できない。


だが、わかっていることもある。

手抜きの一発芸でグランプリを獲得した俺は、あり得ないことに、審査会場に来ていたほとんど全てのプロダクションからオファーを受けた。


「彼女には?」

「話した」

「で、どうだって?」

興味津々の瞳を向けられて、俺は相手から目を逸らした。


「おめでとうって言われた」

「それだけ?」

「それだけ」

「東京に行くんだろ? 遠恋は続かないからな」


しれっとした顔でそんなことを言う。

自分の部屋の中でさえ、ボールをもてあそんでいるサッカー馬鹿を、一発殴ってやろうとこぶしを固めた時、軽やかなノックの音がした。

俺はあわてて座りなおした。

ケーキと紅茶を載せたお盆を手に、にこやかに部屋に入ってきたのは如月の母親だった。


「カズ君、お父さんから言付かったものがあるでしょう? ちゃんとお渡ししなさいね」

「人前でカズ君って呼ぶな」

「はいはい、そうだったわね」

息子の言葉をさらりと聞き流し、母親はこちらに向き直った。


「柳瀬君、元気になって良かったわね。それから、グランプリおめでとう。家族みんなで応援しているから、がんばってね」

そんなことを言われたのは初めてだった。

「ありがとうございます」の「ござ」まで言い終えた所で、イチゴを突き刺したフォークが、ぬっと目の前に伸びてきた。


「お前が美形だから、おふくろ、猫かぶってるんだよ。他の友達を呼んでも、こんな上等なケーキなんか、絶対に出てこない」

すました顔でイチゴを頬張っている息子の頭を、カラになったお盆で最後にポカリと殴った母親は、何事もなかったように、上品な微笑を残して部屋を出て行った。


「さすがはお前の母親だな」

「それって、ほめてんの、けなしてんの?」

「もちろん、ほめてんだよ。俺なんか自分の母親から無視されまくりだ。一度ぐらい殴られてみたいかも」


ぽろりと漏れた本音に、如月がきゅっと眉を寄せた。

俺の母親は結局一度も見舞いに来なかった。

そのことは、病院関係者の間でも、入院患者の間でも、ずっと話題になっていた。


「で、言付かったものって、何?」

うつむいたまま、巨大なイチゴを頬張っていた如月は、俺の言葉に救われたように立ち上がり、部屋の隅っこに何となく置いてあった紙袋の中身を、俺の目の前にぶちまけた。


それは、様々なプロダクションから送られてきた手紙だった。

病院宛のものだけでなく、直接、俺に宛てたものもあったけど、患者に精神的な負担をかけてはいけないということで、病院側が保管していたのだという。


「ほとんどがスカウト目的だ。あの事件が報道されて、あちこちのブログに写真が掲載され出した時から、お前は目を付けられていたんだよ。体育教師に嫉妬されて、殺されかかった美少年なんて、芸能界が放っておくものか。でも、どうせなら、コンテストで選ばれて華々しくデビューを飾った方がおもしろいだろ? あっ、でも、八百長はやってないぜ。お前をグランプリに選んだのは、スカウトマンじゃないんだからな」


俺は思わず頭をかかえた。

「お前はいつから、俺のプロモーターになったんだ?」

髪の間から相手を救い見ると、如月はにっと笑ってみせた。

「隣りの病室に間違えて入って、寝ているお前の顔を見た時からだ。男にときめいたのは、きっとあれが最初で最後だな」


呆れて相手の顔を見た。

それにしても、サッカー少年らしからぬ策士ぶりだ。

加えて言えば嘘つきだ。

如月の父親は、雇われ医者なんかじゃなく、俺が入院していた総合病院の医院長だった。


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