飯時論争、いただきます編
イケメンはじっと将太を見つめ続けていた。
何やらものすごい威圧感を将太は感じていた。が、その様子を見かねた玲は将太に助け舟を出した。
「兄貴、深呼吸」
「……俺に構うな」
兄貴と呼ばれたイケメンは玲に構うなと言い放ちつつも、しっかりと深呼吸を行った。素直な男である。
「……工藤、康永」
「……ハッ!? 自己紹介か! 俺は光根将太、よろしくお願いします」
「俺に構うな」
「どうしろってんだよ!」
折角意思疎通が出来たと思ったのに、その予想に反して康永はぶっきらぼうにそう言い放った。
が、肩を落とした将太に玲は再び苦笑いを浮かべながらもフォローを入れる。
「気にすんな。兄貴は孤高な人だからな。コミュ障ともいうが、まあ取りあえずあいつの俺に構うなは肯定的な意味で捉えとけ」
「そ、そうなのか……」
「それよりも大将、うちの妹もう手懐けたのか。すごいねえ」
そう言って玲は将太にはよく分からない理由で彼を褒めたたえた。すると将太の背中に皐がさっと隠れた。
「その子とまともに話が出来るの、康永兄貴と私、あとボビーだけだってのに」
「結構いるじゃねえか。俺なんかまともに会話できるの、家族と親戚くらいだぞ」
「ちなみに康永兄貴はその子が話しかけられる人物だけど会話出来ず、ボビーとは慣れただけで未だに自分から話しかけたりしないから実質私だけかな?」
「だめじゃねえか」
へらへらと玲が笑いながら話をし始めると、後ろに回り込んだ皐が将太の服を強く握りしめた。
「お姉ちゃんとの会話も、嫌」
「全滅したぞ! お前姉の貫禄ねえな」
自称姉は皐の言葉に凍り付いた。本人は妹の中に確固たる地位を築けていたと思っていたのだろう。その点は非常にうちの姉妹と似ているなと将太は感じた。
「お姉ちゃん、都合のいい時だけ姉面、だから嫌い」
実際に嫌っているわけではないのだろうが、今の言葉は玲の胸にえぐり込まれたようで彼女は真っ白になった。
「将太さん、あっちで食べよ?」
「そうだぁね。ボビー、お前の言う至宝とやらを味わうぞ」
「イエス? 忘れられてなかったゼイ!」
将太たちは魂の抜けた玲を無視して席に着いた。すると、次々と豪華な料理が目の前に運ばれてきた。
将太は宝石のようなその料理たちに唾をのんだ。
「ま、マジで旨そうだ!」
「イエス! グレートですよこいつぁ……」
どこかで聞いたようなセリフを呟いた後、ボビーはがつがつとご飯を食べ始めた。
皐も早速スープに口をつけ始めた。
「それじゃあ、いただきます」
将太は手を合わせて食事を開始した。そして早速ご飯に手を付けようとしたところで、全員の視線を浴びて手を止めた。
「……どったの?」
「……あなた、いただきますをする派なのね」
「へ?」
神妙な顔つきで時子はそう言い放った。
ここでその話題が出てくるのか? と将太は若干疑問に感じた。もしかして金持ちはいただきますという挨拶がばかばかしいからやらないとかいうのではないだろうかと将太は考えたが、少し違いようで全員が腕を組んで考え始めた。
「孤立していた幸作陣営が二人になったわね」
と時子はまだ将太の出会っていない住人の名前を挙げた。
一体このマンションに何が起こっているのか、彼には見当もつかなかった。